みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0125「恋がたき」

2017-12-22 18:48:49 | ブログ短編

 俊夫(としお)は友だちの紹介(しょうかい)で彼女ができた。まだ付き合い始めて日も浅(あさ)いので、彼女とのデートはドキドキで、自分でもワケがわからずハイテンションになっていた。逢(あ)えない日には、電話でおしゃべりをした。おもに、彼の方が聞き役(やく)に回るのだが…。
 今日も、俊夫は彼女と楽しそうに電話をしていた。いつも膝(ひざ)の上で喉(のど)を鳴(な)らしている飼(か)い猫(ねこ)が、いつになく電話を気にしているようだ。おもむろに膝の上で立ち上がると――。
「ねえ、誰(だれ)と話してるのよ」
 女の甘(あま)くささやくような声がした。その声は、電話の向(む)こうまで聞こえていたようで、
「俊夫さん、誰かそこにいるの?」
 彼女が不審(ふしん)がるのは当然(とうぜん)の反応(はんのう)だ。でも、いちばん驚(おどろ)いていたのは俊夫の方だ。誰もいるはずがないのに、女性の声が聞こえたのだから。また、声がした。
「あたし、もう待(ま)てないわ。早くしてよ」さらに甘える声で、「お・ね・が・い」
「ねえ、聞いてるの俊夫さん。今の声は誰よ。まさか、私の他に…。もう、信じられない!」
「ちょ、待ってよ」俊夫は慌(あわ)てて言った。「誰もいるはずないだろ。僕(ぼく)は君(きみ)だけ――」
「じゃ、今のは? 女の声がしたじゃない。私、あなたがそんな人だとは思わなかったわ」
 彼女は泣(な)きながら電話を切った。俊夫の頭の中では、〈なんで、なんで〉がぐるぐると駆(か)けめぐった。飼い猫はそれを見て膝の上で寝(ね)そべり、満足(まんぞく)そうに喉を鳴らし始めた。
<つぶやき>この後、どうなったんでしょ。猫がしゃべるなんて信じてもらえないよね。
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0124「謎の女」

2017-12-21 18:45:38 | ブログ短編

 香苗(かなえ)は二泊(はく)三日の旅(たび)に出た。結婚(けっこん)してから女友だちと旅行(りょこう)に出るのは始めてだ。でも、ちょっと心配(しんぱい)もあった。夫(おっと)ひとりで家のこと大丈夫(だいじょうぶ)かしら?
 ――家に帰った香苗は、恐(おそ)る恐る玄関(げんかん)を開けた。夫は出かけているのか、声をかけても返事(へんじ)がなかった。彼女はキッチンから居間(いま)と部屋を見回(みまわ)した。意外(いがい)ときれいに片付(かたづ)いている。いや…、前よりきれいになっているかもしれない。彼女は、そう思った。
「へえ、やるときはやるんだ」香苗は感心(かんしん)したようにつぶやいた。
 その時、後ろから声がした。彼女が振(ふ)り返ると、そこには夫が驚(おどろ)いた顔で立っていた。
「なんだ、いたの?」
「ああ…」夫は妙(みょう)な作(つく)り笑(わら)いをしながら、「おかえり…。早かったね」
 夫の反応(はんのう)は明(あき)らかにおかしい。香苗はソファの上に見馴(みな)れないものがかけてあるのに目がとまった。手に取ってみると、それはエプロン。夫にどういうことか訊(き)こうとしたとき、玄関のチャイムが鳴(な)った。夫は玄関に走る。玄関で女の声が聞こえたかと思うと、ずかずかと若(わか)い女が上がり込んできた。その女は、香苗が持っていたエプロンを見つけると、
「それ、私のです。忘(わす)れちゃって。もうほんと、私ってそそっかしくって」
 若い女は香苗からエプロンを受(う)け取ると、そのまま出て行ってしまった。
<つぶやき>彼女はいったい誰(だれ)だったんでしょう。夫が雇(やと)った家政婦(かせいふ)さん? それとも…。
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0123「あこがれの人」

2017-12-19 18:37:40 | ブログ短編

 あたしには、あこがれの先輩(せんぱい)がいる。同じ会社(かいしゃ)の人で、そんなにハンサムとかじゃないけど、真面目(まじめ)でとっても優(やさ)しいの。でも、無駄口(むだぐち)を言う人じゃないから、会社では仕事(しごと)の話しかしたことがない。
 この間、二人だけになった時があったの。あたしが残業(ざんぎょう)してるとき、彼が外回(そとまわ)りから帰って来て…。彼が、ただいま戻(もど)りましたって言ったとき、なんかドキドキしちゃった。だって、あたしだけに言ってくれたのよ。他に誰(だれ)もいないんだから…。
 でも、ダメ。あたし、なに話したらいいのか分からなくて…。お疲(つか)れさまですって、言っただけで後(あと)が続(つづ)かない。彼は自分の机(つくえ)のところに座(すわ)って、書類(しょるい)の整理(せいり)をはじめたの。仕方(しかた)ないから、あたしも仕事してるふりをして…。そんな時よ、彼の方から話しかけてきたの。
「山田(やまだ)さんは、料理(りょうり)とか、得意(とくい)ですか?」
 あたし突然(とつぜん)のとこで動揺(どうよう)しちゃって、
「えっ、あの…。得意というほどでは…。でも、料理するのは嫌(きら)いじゃないです」
 ああ…。なんで得意です、好きですって言わなかったんだろ。もう、バカバカバカ…。
 彼は、そうなんだって言ったきり…。えっ、今のは何だったの? そこで終わりってどういうことよ。何でそんなこと訊(き)いたの? あたしの頭(あたま)の中は??????だらけになって…。彼に聞き返したいのに――。ああっ、そんなこと訊けないよぉ……。
<つぶやき>憧(あこが)れの人の前だと、何も言えなくなるよね。彼の方もそうかもしれませんよ。
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0122「二人で一人」

2017-12-18 18:42:00 | ブログ短編

 とある会社(かいしゃ)の面接会場(めんせつかいじょう)。就職(しゅうしょく)氷河期(ひょうがき)と言われる昨今(さつこん)、大勢(おおぜい)の若者(わかもの)であふれていた。一人ずつ名前(なまえ)を呼ばれて部屋へ入って行くのだが――。
「あの、立花薫(たちばなかおる)さんは?」
 面接官(めんせつかん)は二人で入って来た若い男女に訊(たず)ねた。
「はい、私です」二人同時(どうじ)に答える。
「いや、あの…」面接官は履歴書(りれきしょ)を見て、「えっと、男性の方(かた)…」
「あの」女は微笑(ほほえ)みながら優(やさ)しそうな声で言った。「私たち、二人で一人なんです」
「はい? それはどういう…」
「ですから、私たち、お互(たが)いに欠点(けってん)を補(おぎな)いながら暮(く)らしているんです」
「それは…、ご夫婦(ふうふ)という…」
「夫婦じゃありません。ご説明(せつめい)しますと、私はおもにコミュニケーション担当(たんとう)で、この人は事務全般(じむぜんぱん)と理数系(りすうけい)が得意(とくい)なんです。それに、力仕事(ちからしごと)も担当しています」
 面接官はあきれ顔で言った。「あの、うちではそういう採用(さいよう)はしてませんので…」
「でも、御社(おんしゃ)の募集要項(ぼしゅうようこう)にある資格(しかく)も、すべて取得(しゅとく)していますし…」
「でしたら、お一人ずつ面接を受(う)けていただけませんか。そうでないと…」
「でも、二人でないと困(こま)るんです。あの、お給料(きゅうりょう)の方は、一人分でかまいません。私たち、二人で一人なんですから」女は得意(とくい)の笑顔(えがお)を面接官にふりまいた。
<つぶやき>欠点を補い合うのはいいことです。でも、欠点も個性(こせい)なんじゃないのかな。
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0121「妻の独立宣言」

2017-12-16 18:40:35 | ブログ短編

 結婚(けっこん)して一ヵ月。新婚(しんこん)の甘(あま)い生活(せいかつ)を夢見(ゆめみ)ていた私は、夫(おっと)のわがまま放題(ほうだい)にぶち切れてしまいました。結婚前にそういう人だと分かってたら、結婚なんて――。
 まず驚(おどろ)いたのが、朝は俺(おれ)より先に起(お)きるなってこと。朝は私の寝顔(ねがお)を見ていたいからって、なに甘いこと言ってるのよ。じゃあ、朝食(ちょうしょく)は誰(だれ)が作るのよって話よね。それによ、朝食はしっかり食べたいから、三品(さんぴん)以上おかずを作ってくれって。そんなの無理(むり)でしょ。そこまで私に要求(ようきゅう)するなら、もっと朝早く起きればいいじゃない。私はあなたが起きるのを、寝(ね)たふりをしてずっと待(ま)ってるのよ。
 まだあるわ。食べるの遅(おそ)すぎ。よく噛(か)んで食べなきゃいけないのは分かるわよ。でも、朝は忙(いそが)しいんだから。今まで会社(かいしゃ)に遅刻(ちこく)したことないのかなぁ。それに、私が先に食べ終わると怒(おこ)るんだから。私だって、仕事があるんだから付き合ってられないわよ。
 私は夫が望(のぞ)む良(よ)き妻(つま)になることをやめました。対等(たいとう)な立場(たちば)で、共(とも)に生きることを望(のぞ)みます。私は、夫にそう宣言(せんげん)しました。夫は私の言うことを黙(だま)って聞いてたけど…。私は、張(は)り詰(つ)めていたものがスッと取れて、何だか晴(は)れやかな気分(きぶん)になっちゃった。
 その日から、二人の関係(かんけい)も変わった気がします。私が口うるさくなっただけかもしれませんが。夫婦(ふうふ)なんて、思ってることは何でも言わないと、いけないのかもしれません。
<つぶやき>良き夫、良き妻になる。簡単(かんたん)なことじゃないですよね。思いやりを忘(わす)れずに。
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