「何だよ、どうしてついて来るんだ? もう、どっかへ行ってくれよ」
女の子は息(いき)を弾(はず)ませて、「だって、縛(しば)られてたあたしを助(たす)けてくれたじゃない」
「俺(おれ)は、別に助けたわけじゃ…。たまたま、入った倉庫(そうこ)にお前がいただけで…」
「でも、あそこの扉(とびら)には鍵(かぎ)がかかってたはずよ。よく入れたわね。あなた、泥棒(どろぼう)さん?」
「俺は……。もう…、そうだよ。俺は、ただのこそ泥(どろ)だ。もう、あっち行けよ」
女の子はにっこり微笑(ほほえ)んで、「何を狙(ねら)ってたの? 倉庫の中は空(から)っぽだったのに…」
男は苛(いら)つきながら、「だから、たまたま入ったって言っただろ。いい加減(かげん)に…」
「あの部屋(へや)にあった金庫(きんこ)でしょ? それ以外(いがい)に金目(かねめ)のものってないもの。ねぇ、あたしに協力(きょうりょく)してくれない? 金庫を開けて欲(ほ)しいの。あの中には犯罪(はんざい)の証拠(しょうこ)があるはずよ」
「ちょっと待ってくれよ。俺は、ただのこそ泥だ。警察(けいさつ)みたいな真似(まね)ができるかよ」
――男は、女の子とともに倉庫に戻(もど)っていた。こそ泥とはいっても、気のいい男のようだ。金庫のまえにつくと、手際(てぎわ)よくダイヤルを回して簡単(かんたん)に開けてしまった。
女の子は思わず、「わぁ、すごい。あなたって、凄腕(すごうで)のこそ泥なのね」
その時、大勢(おおぜい)の足音(あしおと)が聞こえてきて、部屋の中になだれ込んできた。
先頭(せんとう)の男が言った。「警察だ。そこを動くな!」
女の子は手を合わせて、「ごめんなさい。あたし、これでも刑事(けいじ)なんだ」
<つぶやき>この男、たまたま入ったわけじゃないかもね。同じ目的(もくてき)だったとしたら…。
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