人はときに、人生(じんせい)を賭(か)けた大一番(おおいちばん)に挑(いど)まなければならないことがある。彼女も、その局面(きょくめん)に立つことになった。彼女は緊張(きんちょう)を解(と)きほぐすように身体(からだ)をほぐした。
「さあ、どっちがやるんだい?」彼女の前にいた男が訊(き)いた。
「もちろん、あたしが…」彼女は前に出た。でも、それを止(と)めるように、
「姉(ねえ)ちゃんはダメだよ。くじ運(うん)ないんだから。僕(ぼく)にやらせてよ」
「弟(おとうと)のくせに、姉ちゃんに指図(さしず)するなんて十年早い。あたしに任(まか)せなさい。絶対(ぜったい)に、特賞(とくしょう)のハワイ旅行(りょこう)を当(あ)ててあげるから」
弟は仕方(しかた)なく引(ひ)き下がった。彼女は、ガラガラを勢(いきお)いよく回した。そして、ガラガラから出てきた球(たま)は……白だった。すかさず男が言った。
「残念(ざんねん)だったねぇ。残念賞はティッシュ一箱(はこ)だよ」
彼女は、思いっ切り口惜(くや)しがった。男は彼女に言った。
「もう一回やれるけど、どうする?」
「えっ、いいんですか? やったーっ。じゃあ、あたしが…」
彼女はガラガラの前に立った。手を伸(の)ばそうとして、思い止(とど)まった。そして弟に、
「あんたが、やって…。あたし、自信(じしん)ないから…。絶対に当てるのよ。分かった?」
弟は期待(きたい)どおりに、二等(にとう)の松阪牛(まつさかぎゅう)すき焼きセットを当ててしまった。
<つぶやき>商店街(しょうてんがい)の福引(ふくび)きですか。これは、姉(あね)としての面子(めんつ)が丸(まる)つぶれってことですね。
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