徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:恩田陸著『ライオンハート』(新潮文庫)

2018年02月03日 | 書評ー小説:作者ア行

『ライオンハート』はケート・ブッシュの「わたしのライオンハート」というアルバム(1978)からインスピレーションを得て書かれた作品だそうです。もう一つのインスピレーション元は「エアハート嬢の到着」という一幅の絵だそうで。

そこで早速YouTubeで検索して、ケート・ブッシュの「Oh England, my Lionheart」の歌詞付きの素敵なビデオを見つけました。ある程度歌詞の内容に沿って次々と変わるシーンは、時代を前後して、時を超えて盛大にすれ違いながらも、短い出会いに無上の喜びを感じる運命の二人エリザベスとエドワードのメロドラマのイメージにぴったりだと思いました。

「エアハート嬢の到着」の絵はこちら:

この小説は1978年のロンドンで始まり、1978年のロンドンで終わります。1978年11月27日、ロンドン大学法学部名誉教授エドワード・ネイサンの失踪が確認されます。彼の書斎に残っていたのは「from E. to E. with love」と優雅な飾り文字の縫い取りが入っている白いレースのハンカチーフと盾を挟んで一角獣と女が対になっているらしい小さな紋章の入った便せんに書かれた「LIONHEART」の文字。

この問題となっている紋章には謎めいたモットーが刻まれています:

魂はすべてを凌駕する

時は内側にある

これが、この小説を貫くモットーと言えます。

魂に刻まれた記憶があり、ある日それを夢や白昼夢を通じて思い出し、エドワードはエリザベス、エリザベスはエドワードとの過去と未来における幾度もの出会いを思い出し、「自分の」エリザベスに、または「自分の」エドワードに会うことを楽しみにし、出会ったら、すぐに訪れる別れに心を傷める。その繰り返しが何によるもので、どこから来たのか、どこへたどり着くのかという謎が徐々に解き明かされて行きます。切なくも幸せなラブロマンスです。

あまり深く考えると訳が分からなくなって混乱するかもしれませんが、感覚的に、そう映画ではなく、イメージだけのビデオのシーンを次々見るような感じで読み進むのがいいのではないかと思います。

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