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徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『わが名はオズヌ』(小学館文庫)&『ボーダーライト』

2022年10月23日 | 書評ー小説:作者カ行

警視庁捜査一課・碓氷弘一シリーズの『パラレル』で登場した修験道の開祖・役小角が降臨する高校生が気になって、オリジナルの『わが名はオズヌ』を読んでみました。
荒れた神奈川県立南浜高校に通う賀茂晶が自殺未遂をして以来、役小角が降臨するようになり、その法力により人を操ってしまう。
元暴走族リーダーで今は後鬼として小角に従う同級生・赤岩猛雄、美人担任教師・水越陽子たちとともに、建設推進派の自由民政党代議士・真鍋不二人と大手ゼネコン久保井建設社長の策謀に立ち向かっていくというのがメインストーリーです。
警視庁から賀茂についての調査要請を受けた神奈川県警生活安全部少年一課の高尾勇と丸木正太は、調査要請が取り下げられた後も調査し続け、賀茂晶の謎に迫ります。

役小角についての蘊蓄がやや冗長なきらいはありますが、『特殊防諜班』シリーズでも取り上げられていたユダヤ人が先史以前の日本に渡来していた説がここでも展開され、出雲族の宗教がユダヤ教のキリスト派であり、その血を引く賀茂氏に連なる役小角もその信仰を受け継いでいたという珍説が登場し、実に興味深い内容となっています。



オズヌシリーズの最新刊である『ボーダーライト』では、なぜか神奈川県内で薬物売買や売春などの少年犯罪が急増しはじめたことが問題となります。県警少年捜査課の高尾勇と部下の丸木正太が一連の事件を洗い始めると、彼らは「普通の高校生」で、いずれも人気バンド「スカG」のボーカル「ミサキ」の信奉者であることが判明します。「スカG」のミサキと高校生たちの犯罪に関係があるのか否か、あるのであれば、それはいったいどのような関係なのか、この謎に迫る際に、賀茂晶に役小角が再び降りてきて、捜査と根本的な問題解決に尽力します。
この巻は『わが名はオズヌ』のような情報過多な部分がなく、テンポよくストーリー展開します。


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書評:今野敏著、『警視庁捜査一課・碓氷弘一』シリーズ全6巻(中公文庫)

2022年10月15日 | 書評ー小説:作者カ行

警視庁捜査一課の中年刑事・碓氷弘一を主人公とする本シリーズは、最初からシリーズとしてコンセプトが練られたわけではなさそうな印象を受けました。
というのは、6冊全部一気に2日半かけて読んだせいで、作風や構成の違いを強く感じたからかもしれません。

『触発』と『アキハバラ』は構成が明らかに似ています。両作品とも犯人を含めた関係者の視点で語られる断片的なエピソードがパズルのように折り重なっていく手法です。それぞれ無関係に思われる人物たちがそれぞれの考え、行動していき、そうした話の糸が何本も絡み合ってやがて一つの大きな事件・事案(爆発テロと秋葉原のとある大きなショップでの爆弾予告と立てこもり事件)に収斂していきます。
このため、碓氷弘一は登場人物の1人に過ぎず、「主人公」というほどの比重がありません。事件解決にかなり決定的な役割を果たしていることは確かなのですが、そうかといって、他のストーリーストリングで語り手または視点を担っている人物たちの比重もかなり大きいのです。
この2作の特徴は、視点が固定されていないことですね。
これはこれで、パズルピースを少しずつ嵌めて行くような楽しみがあります。


第1巻『触発』

第2巻『アキハバラ』



第3巻の『パラレル』では、先行2作ほど視点が分散しておらず、『パラレル』のタイトルに相応しく、碓氷弘一側と『鬼龍』シリーズの白黒コンビ祈祷師+富田刑事側の2本立てでストーリーが進行します。途中から両方のストリングが合流して一気に事件の確信に迫るパターンは他の作品にもあったかな、という感じです。
非行少年たちが次々と見事な手際で殺されていく連続殺人事件で、鬼龍が登場する以上、犯人たちは「亡者」にされてしまっており、「親亡者」を探すことになるのが大筋パターンとなります。
そこに碓氷・高木コンビの武闘家の線からのアプローチが絡んでいきます。


第4巻『エチュード』から他の警察小説シリーズのように碓氷弘一に視点が固定されて物語が進行します。
渋谷の交差点、交番のすぐ近くで通り魔事件が起こり、善意の協力者によって現行犯逮捕されることから物語は始まります。それだけであれば、捜査一課が扱うような事案にはならないのですが、その二日後に新宿でそっくりな事件が起こり、碓氷はたまたま日曜日で家族サービスに勤めているときに現場のすぐ近くに居合わせたので臨場し、いわば「端緒」に触れたのでそのまま事件担当になる流れです。新宿でもやはり善意の協力者による現行犯逮捕だったのですが、どちらの場合もその協力者は姿を消してしまっており、逮捕に当たった警官が全員その協力者の人着を覚えておらず、思い出そうとすると逮捕した被疑者のことが思い浮かんでしまうという。
そこで心理調査官・藤森紗英が新たに登場し、碓氷とコンビを組み、この奇妙な共通性の謎を解きます。



第5巻『ペトロ』では考古学教授の妻兼教え子で教員していた女性が自宅で殺された事件から始まります。現場には謎めいた日本のペトログリフ・桃木文字が壁に残されていました。
さらに数日後、同教授の弟子が発掘現場で扼殺されてしまい、その現場にもヒッタイトのペトログリフ・楔形文字が残されていました。
これを受けて碓氷はこの両文字の調査の特命を受け、歴史学・言語学・象徴学研究者のアルトマン教授を相棒に連続殺人の真相を追うことになります。
これらのペトログリフは何を意味し、何の目的で誰が残したのか。
考古学的なシンボルが使用されるところは、ダン・ブラウンの「ダビンチコード」や「ロストシンボル」を連想させますが、学術的考証の深さはダン・ブラウンほどありません。
それでも十分に興味深いミステリーで楽しめます。


第6巻『マインド』では、タイトルですでに暗示されているようにマインドコントロールがカギです。
ある日の夜11時頃に一人の警官と一人の中学生が自殺を図ったというニュースを聞いた碓氷がそんな「偶然」があるのだろうかと疑問に思うのですが、さらに時間が経って、同じ日ほぼ同じ時間に2件の殺人があったことが判明します。そこで捜査一課の田端課長が不審に思い、それら4件の事件に何らかの関係性があるのかどうか、ただの偶然なのか調査するための特命班が作られます。
殺人犯の二人は程なく逮捕され、どちらも自分のしたことの記憶がないと供述したため、心理調査官・藤森紗英の再登場となります。
これが鬼龍シリーズでしたら、「親亡者はどこか?」になりますが、このシリーズでは、どこでどのようにマインドコントロールのようなものを受けたかが焦点となります。
私は最初、ネット経由のゲームか何かを介在して暗示のようなものを受けたのではないかと想像していたのですが、意外とオーソドックスな手段でした。



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書評:今野敏著、任侠シリーズ1~6巻(中公文庫)

2022年10月14日 | 書評ー小説:作者カ行

最近読んだ『マル暴甘糟』シリーズの甘糟がちょい役で登場しているという任侠シリーズ既刊6巻を一気読みしました。

語り手は日村誠二。30代半ばで、今時珍しい任侠道をわきまえたヤクザ・阿岐本組の代貸です。組は組長を含めて総勢6名ですが、阿岐本組長が異様に顔が広く、全国のヤクザの組長に収まっている人たちと若い時分に兄弟の盃を交わしているため、大きな指定暴力団の傘下に入らないまま独立で生き残っています。
甘糟はこの阿岐本組の様子見に来ており、時には阿岐本組に対する警察側の理不尽な扱いがあった際に助けてくれたりするので、「ちょい役」というほど小さな役割ではありません。

さて、甘糟刑事のことはともかく、この任侠シリーズの面白いところは、組長が損得ではなく人情で様々な面倒ごとの解決を引き受け、そのたびに振り回されている心配性の日村の人間性と、組長のヤクザらしからぬ行動の手伝いを嬉しそうにする若い衆の意外な可愛さでしょうか。

とにかく、阿岐本組長の弟分の神永が毎回処理に困った旨味のない債権などを持ち込み、阿岐本組長がお人よしなのか道楽なのか理由はともかく、それを引き受けるのがこのシリーズのお約束です。

最初に持ち込まれるのが、倒産寸前の出版社です。(任侠書房)

潰してしまえばそれなりに処分できる財産はなくはないものの、それそれで面倒なことも起こるということで、阿岐本組長が経営を引き受けて出版社を立て直すというストーリーです。
阿岐本組がどのように出版社の問題点を見極めて解決していくかが見ものです。
問題自体は極めて現実的で生臭いのですが、それらを阿岐本組長の体現する理想論でスカッと解決し、解決後は見事に身を引くところに大きなカタルシス効果があります。


次に持ち込まれるのは廃坑寸前の学校法人・井の頭学院高校で、絵に描いたような「荒れた学校」です。
窓ガラスは割れ放題、校庭も花壇も荒れ放題、生徒はやりたい放題という状態で、先生方はとにかく「生徒たちが卒業してくれさえすればいい」というスタンスで生徒を教育する気がなく、校長も生徒たちをお客さん扱いし、とにかく親から苦情が来るようなことをしないのが第一と考えているところに阿岐本組長たちが理事長と理事として乗り込んでいくわけです。
まずは掃除から、というのがとてもシンプルですが、効き目が絶大なのが読んでいて気持ちがいいです。
ロクに学校に通ったことがなく高校中退の日村が、花壇の手入れや割れたガラスの始末などをしながら、少しずつ生徒たちと交流して、彼らの心を掴んでいくのがいいですね。擦れて全然大人の言うことなんか聞かないような子たちでも、真剣に向き合ってくれる大人にはだんだん心を開くようになるというメッセージが強く込められているように感じました。
学校に対して発言力を持つモンスターペアレンツの問題にも切り込んでいて、本当にこんなふうにうまく解決出来たらどんなにいいだろうという夢が語られています。


3つ目のエピソードで持ち込まれるのは、倒産寸前の病院です。
こちらは「地域の病院を失くしてはいけない」という信念のもと、医療法人の理事として阿岐本組が乗り込むことになります。
この巻では最初から病院内の清掃を始めとするあらゆるサービスをまとめて受けている業者ときな臭いことになります。このサービス業者がヤクザのフロント企業で、割高な料金を請求し、病院の経営を悪化させてたので、あわや抗争か?という緊張があります。
ここでは病院が抱える人手不足や医療制度のしわ寄せなどの問題も扱われてはいますが、制度的なことはどうにもできないので、問題のサービス業者を切ることと、病院長を始めとするスタッフの気持ちを向上させることに尽力しています。

出版社、学校、病院と続けて見事に立て直した後、阿岐本組はその実績を見込まれて?今度は赤坂にある銭湯の立て直しの相談に乗ることになります。
現代の日本人にはゆっくり風呂に入ることが重要だ!という強いメッセージが込められているようです。
同時に、「子どもには子どもの人生がある」という建前の元に家業を手伝わせようとせず、話し合いも持たなかった経営者と家族の問題も描かれており、親に聞かれないから言わないだけで、子どもは子どもで結構自分なりに考えていることが明らかになるのがいいですね。


銭湯の次に持ち込まれたのは街の小さな映画館。娯楽が多様化し、映画も家で見れる時代、わざわざ映画館で映画を見る人たちは激減し、大きな映画館は次々閉館の憂き目にあっているものの、小さなミニシアターのような映画館は細々と生き残っています。「千住シネマ」もその一つで、閉鎖の噂に対して存続を願う「ファンの会」 がクラウドファンディングで資金を募ってなんとかしようという動きもあり、千住興行の社長も迷っている状態のところに阿岐本組が乗り込みます。
この「ファンの会」は嫌がらせを受けているため、最初阿岐本たちは嫌がらせの犯人と勘違いされるのですが、実は阿岐本組長自身も映画、特に任侠映画が好きで、高倉健のファンということで、本当に映画館存続の相談に乗るつもりであることが理解してもらえます。
この嫌がらせの犯人と、社長が悩む理由がこのエピソードのメインテーマです。


最新刊『任侠楽団』で持ち込まれる相談事は、タイトルの通りオーケストラなのですが、今回は経営危機ではなく、大切な公演を控えているのに内部対立が激化しているのをなんとかするという話です。
阿岐本組長たちはコンサルティング会社の人間として招待を隠して事態に当たることになります。
お門違いもいいところではないかと思わなくもないですが、その辺りが阿岐本組長のおおらかさというか、モノ好きというか、面白いところです。
ここでは乗り込んで早々に常任指揮者に任じられたばかりのエルンスト・ハーンがオーケストラ内でいきなり殴られて気絶させられるという事件が起き、所轄が事件で済ませたがっているのに、ハーンは「殴られたんだから絶対に犯人を見つけろ」と言ってきかなかったため、捜査一課の碓氷弘一が1人で捜査に乗り出してきます。
この碓氷という刑事は『警視庁捜査一課・碓氷弘一』というシリーズの主人公で、こちらに客演した形です。こちらのシリーズは読んだことがないので、次に読むものはこれで決まりましたね(笑)
ここで、ハーンを殴った犯人を捜すことは、オーケストラ内の対立問題を解決することに繋がるだろうということで、碓氷と阿岐本が手を組み協力するところが、また味があって面白いです。
またここで、阿岐本が実はジャズも好きという事実が判明します。
つくづく奥の深い人ですね。

このシリーズで阿岐本組が解決していく問題は、本当に現実にありそうなものでリアルである一方、そこに乗り込んでいく阿岐本組は「そんなヤクザが実際にいるのか?いや、いないでしょ」というようなフィクションが交錯しており、それでいて彼らはやはり蛇の道は蛇という彼らにしかできない解決の糸口を持っているところが妙に説得力があるのも魅力の一つだと思います。
また、「オヤジの言うことは絶対」とほぼ盲目的に従う心配性・苦労性の日村もいろんな事案に関わるうちに学んで成長して行く物語であることもシリーズの大事な要素ですね。
今野敏の作品はどれもそうですが、キャラクターたちが非常に魅力的です。


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書評:今野敏著、『特殊防諜班』全7巻(講談社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

『連続誘拐』に始まる『特殊防諜班』シリーズは1980年代の作品で、米ソ冷戦真っ最中の時代に始まり、最終巻でベルリンの壁崩壊に至り、ドイツ統一に対する恐怖が描かれているあたりにものすごく時代を感じさせますが、7巻一気に読み切ってしまうくらいには面白いです。

大きなテーマは、ユダヤ人の「失われた十支族」の1つの系譜が出雲の山奥に質素な神社を構える芳賀家の家系に伝えられており、この支族こそが黙示録で記されているところの人類滅亡の危機を生き延びる「新人類」と目されていることです。
そしてそれを何が何でも滅ぼしたい謎の団体「新人類委員会」がその財力・組織力を駆使して暗殺・テロ行為を仕掛けて来ます。
それを迎え撃つために「特殊防諜班」が試験的に結成され、自衛官の真田武男が引き抜かれて、緊急事態に限り総理大臣直属の捜査官となって巨大な権限を行使できるようになります。

最初の宗教者連続誘拐事件の時に真田が出会ったイスラエル大使館員兼モサドの調査員ザミルと狙われている芳賀家の当主代理である理恵(17)がその後ことあるごとに協力して戦う戦友となります。
芳賀理恵は超能力者なので、立派な戦力であるところがラノベ風の設定で興味深いですね。

主人公の真田武男は孤児として育っていますが、後に彼が芳賀一族を古代から守ってきた山の民の末裔だということが分かります。山の民には芳賀一族とは違う特殊能力が備わっているので、真田の並外れた能力はそのせいということのようです。

今野敏は警察小説の方が知られていますが、時にミステリアスなオカルト的な作品も書いており、この「新人類戦線」改め「特殊防諜班」もその系譜に属しています。

特殊能力を持つ主人公たちが巨大な敵組織と戦う図式や、話がだんだん大きくなり、敵組織の全貌が徐々に解明されていく展開、最後にラスボスと対峙して、闘い終結となるのはある意味お約束のストーリーラインである程度読ませてしまうような昨品のため、キャラクターたちの性格や思いの掘り下げがそれほど深くならず、味わい深さが足りないという印象を受けました。

シリーズ作品一覧:
  • 連続誘拐 
  • 組織報復 
  • 標的反撃 
  • 凶星降臨 
  • 諜報潜入 
  • 聖域炎上 
  • 最終特命


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書評:今野敏著、『マル暴甘糟』&『マル暴総監』(実業之日本社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

 
読書日から少々日にちが経ってしまいましたが、『マル暴ディーヴァ』を読んでからシリーズの1・2巻があることに気付いて読んだものです。
 
『マル暴甘糟』がマル暴に全然似合わないあまりやる気のない今風の刑事・甘糟を主人公とする最初の作品ですが、脇役としてはすでに任侠シリーズで登場していたということをこのあとがきで知り、今度はそっちを読んでみようと思うくらいには面白かったです。
多嘉原連合の構成員が撲殺された事件から始まる捜査で、反社会的勢力同士の抗争なのか、被害者の反グレ時代の怨恨なのかを巡って捜査一課と対立しつつ、マル暴独自の捜査をするというのが粗筋です。

このシリーズの面白さは、甘糟刑事の「あーいやだなあ、面倒くさい」という心の中が駄々洩れで、全然熱血・仕事熱心でないわりには、刑事を辞めてしまうほど仕事が嫌いというわけでもなくて、できれば定年まで勤めあげたいという動機からそれなりにまじめに仕事をするという主人公のスタンスと、意外に鋭い洞察力があって、捜査にきちんと貢献できてしまうところにあるように思います。
まあ、やる気もあんまりない上に無能だったら物語として成立しませんが。



第二巻『マル暴総監』では、謎の白いスーツの男が夜の街に徘徊し、チンピラにケンカを売って回っているらしい噂が話題になります。
この白スーツの男が割って入ったヤクザ同士のけんかを甘糟がたまたま呼び出されて目撃してしまい、後にケンカしていたヤクザの1人が殺されたので、「さては白スーツが犯人か?!」と捜査が進められるのですが、甘糟だけは捜査本部に顔を出した警視総監がその白スーツであることに気が付いてしまい、総監に呼び出されてきつく口止めされて、いろいろとめんどうを背負い込む羽目になります。
白スーツの正体を明かさずに、真犯人をあげなければならないのですが、捜査本部の捜査方針は総監の努力にもかかわらずなかなか変わらず、かなり気を揉むことになります。



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書評:今野敏著、『マル暴ディーヴァ』(実業之日本社)

2022年09月26日 | 書評ー小説:作者カ行

「お気に入り作家の最新刊」ということで自動的にお勧めされたので、そのままほいほい買って読んでしまった後に、これが『マル暴甘糟』シリーズの第3作であることに気が付きました(笑)

というわけで、次に読む本はシリーズの前作『マル暴甘糟』と『マル暴総監』に決定ですね。

ストーリーは住宅街の一角にあるひっそりとしたジャズクラブ「セブンス」に薬物取引関係の家宅捜査をすることに始まります。実はそのジャズクラブは警察OBの経営する店で、現役の管理官が歌姫として週2回出演しており、警視総監もお忍びで通っているといういわくつき。
家宅捜査の時も警視総監がお忍びで来ており、面識のある甘糟にそのジャズクラブに嫌がらせをしている者がいるらしいので捜査してほしいと依頼します。

主人公の甘糟は若手刑事で、なんで刑事になったのか、しかもよりによってマル暴に配属されたのか不思議でならないほど弱気でやる気にも欠け、そのせいか仕事の手際も悪く、よくペア長の郡原に叱られています。
けれども、推理力にはたまにそこそこ光るものがあるようです。

強行犯係・樋口顕シリーズの主人公も弱腰で、少々うじうじ悩むタイプですが、一本芯が通っていて、やるときはやる正義感と信念をもって仕事をしているのに対して、この甘糟達男はどうにもふにゃふにゃしていて捉えどころがないように感じます。「今時」の人なのでしょうか?

それでもストーリー展開は意外性に富んでいて面白く、あっという間に読み終わりました。


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書評:今野敏著、『レッド(新装版)』(ハルキ文庫)

2022年09月25日 | 書評ー小説:作者カ行

環境庁の外郭団体に出向させられた警視庁捜査四課の相馬春彦は、仕事への情熱を失った日々を送っていた。そんなある日、山形県にある「蛇姫沼」の環境調査を命じられた相馬は、陸上自衛官の斎木明とともに戸峰町に赴く。だが、町の様子がどこかおかしい。なにかを隠しているような町役場助役と纒わりつく新聞記者。そして、「蛇姫沼」からは、強い放射能が検出された――。相馬たちを待ち受けているものとはいったい何か? 傑作長篇小説、待望の新装版。(解説・細谷正充) 

『レッド』は1998年に発行された書下ろし長編で、ポリティカル・エンターテイメントに分類できる作品です。話が日本国内にとどまらず、アメリカの政府機関・諜報機関などが絡んでくるスケールの大きなドラマ展開です。

最初は地元の「蛇姫沼」の「蛇姫」伝説が出て来るので、何かそれにまつわる、またはそれにちなんだ事件の話なのかと思いましたが、全然違う展開になるので、楽しませてくれます。

はみ出し者の刑事とはみ出し者の自衛官が環境庁の天下り外殻団体に出向している身分でそれぞれの信念に基づいてなお行動していく様に感銘を覚えます。

この作品の特徴は、完全な悪役が描かれないところです。それぞれの立場でそれぞれの信念に基づき任務をこなしている人たちがおり、陣営が違えば、抜き差しならない形で対立してしまうこともあるという社会の仕組みが浮き彫りになります。
B級スパイ映画のような単純な勧善懲悪のヒーロー物にならず、登場人物たちのキャラクターがそれぞれ丁寧に描写され、物語に深みが出ています。


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読書メモ:今野敏著、『リオ』『朱夏』『ビート』『焦眉』『無明』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

2022年09月20日 | 書評ー小説:作者カ行

仕事のストレス解消のために立て続けに5冊も読んでしまったのはいいのですが、書評というか読書メモすら書く暇もなく1週間以上過ぎてしまいました。このため、それぞれの作品の読後感はだいぶ薄れてしまい、粗筋しか覚えてません。



『リオ』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第1作で、マンションで起きた殺人事件で現場から逃げて行くところを目撃されたらしい謎の美少女を追い求めるストーリーです。その後、もう1件、殺人事件が起き、そこでも同じ少女らしい人物の目撃情報があった。彼女が犯人なのか?
この美少女の正体を明らかにするまでにかなり時間が費やされます。
1996年の作品で、当時メディアを騒がせていた女子高生たちの「援助交際」をテーマにしています。
普段冷静で慎重な樋口顕もリオの美少女ぶりには冷静ではいられず、懸命に自省しようとしているところが味わい深いですね。「同じ年の娘がいる」が全然熱冷ましの効果を発揮しないあたり、リオの美少女ぶりが尋常でないことが伝わってきます。


『朱夏』(新潮文庫)は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第2作(1998)で、樋口顕の妻・恵子が断りもなく一晩中帰って来なかったことからまずは樋口が自分で彼女の足取りを追い始めますが、手掛かりが掴めず途方に暮れ、信頼する荻窪署の氏家に助けを求めます。
一方、恵子は見知らぬ男に誘拐され、部屋に監禁されていましたが、夫が優秀な警察官であり、きっと自分を探し出してくれると信じて仮面をかぶったままの誘拐犯となんとか交渉しようとします。
探す側と探される側の双方の視点で描かれた良作。夫婦間の信頼と絆があるとはいえ、意外にお互いの日常生活を知らない(特に樋口が妻のことを知らない)ことも浮き彫りになり、反省するきっかけにもなっています。


『ビート』は警視庁強行犯係・樋口顕シリーズの第3作(2000)で、日和銀行本店の家宅捜査の日に一人いたたまれない気持ちになっている警視庁捜査二課・島崎洋平警部補の描写から始まります。
いたたまれない気持ちになっていたのは、彼が大学柔道部に属していた関係で、日和銀行に勤務する後輩・富岡和夫に弱味を握られ、極秘でなければならない家宅捜査の日を教える羽目になってしまったからです。
島崎の長男がその後輩に柔道の指導を受けていることもあり、柔道部OBには絶対服従の慣習があることから、長男は父・洋平が日和銀行の捜査に関わっていることを漏らしてしまったのだ。
その息子をかばうため、さらに警察官として懲戒免職ものの情報漏洩をすることになってしまい、親子そろって苦悩します。そんな中、富岡和夫が殺されてしまいます。この殺人の捜査を警視庁強行犯係・樋口顕が担当します。
島崎にはもう一人息子がいて、彼は早くに柔道を辞めてしまい、以来問題児街道をまっしぐらに歩んで、引きこもりの無職だったが、最近ダンスに夢中になっている。この次男が殺人犯かも?!と島崎の苦悩はさらに深まっていきます。
一方で、次男のダンスについてもかなり詳細に描かれており、島崎親子の認識のずれが浮き彫りになります。

この作品は作者が担当編集者を介して電撃チョモランマ隊のQ-TAROの指導するスタジオを見学したことに着想を得ているそうで、ダンスを本格的にやっている若者たちがさらされている世間からの偏見を少しでも取り除く一助となることを願って小説を書いたというだけあって、島崎次男の更生と親子の和解のプロセスに事件とダンスが絶妙に絡めてあります。

同シリーズ第4作『廉恥』(幻冬舎文庫)と第5作『回帰』(幻冬舎文庫)は、シリーズ全貌を知らずに2018年に電子書籍化された時に買って読んでしまいました。😅 



第6作『焦眉』(幻冬舎)は2020年の作品で、つい最近文庫化されたばかりですが、私は文庫でない方をすでに買ってあったのでそちらで読みました。
『回帰』では公安部の人権くそくらえな強引な捜査方法が取り上げられていましたが、『焦眉』では検察の暴挙・暴走がテーマになっています。
警部となった氏家が二課の選挙係に異動になるという知らせから話が始まり、東京5区で当選した野党政治家・秋葉康一の選挙法違反捜査への前振りとなっています。
後に起きた殺人事件では、被害者が秋葉康一に資金提供をしていたということから殺人の嫌疑がかけられることに。検察主導の捜査の中で早くから秋葉康一を狙う強引さに違和感を抱く樋口たちが検察を捜査から締め出そうと画策し始めます。
警察vs.検察の対立構造が鮮烈になりますが、検察の強引さの裏には政治的意図が働いているのか否か、検察官の独断的暴走なのか、検察全体の問題なのかといった疑問に迫っていきます。



シリーズ第7作の『無明』は2022年3月16日に発売されたばかりの最新作です。男子高生が荒川の河川敷で死に、「自殺」と断定されたことに納得していない両親。そのことを女性記者が樋口に耳打ちすることで話が始まります。樋口は最初、千住署が「事件性なし」と片付けた問題なので捜査するのを躊躇しますが、上司の天童の後押しもあり、単独捜査に乗り出します。
ここで取り上げられるのは警視庁対所轄の対立構造です。真実究明とは関係のない警察内のマイクロポリティクスが蔓延し、 所轄の片付けた事件を再調査しようとする樋口に対して巡り巡って「懲戒免職」が言い渡される。それを言ったのは、千住署の誰かから連絡を受けたらしい理事官だった。
しかし、その時にはもう「事件性」に疑いを持っていなかった樋口は正式に懲戒免職になることを覚悟で捜査を継続します。
この理事官と樋口のやり取りはなかなか見もので、普段は発言に慎重な樋口が半ば投げやりに理事官に食って掛かるのが面白いです。



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書評:今野敏著、『波濤の牙 海上保安庁特殊救難隊 (新装版)』(ハルキ文庫)

2022年08月20日 | 書評ー小説:作者カ行

商品説明
台風が接近し、海が荒れる茅ヶ崎沖で、海難事故が発生した。海上保安庁特殊救難隊の惣領正らは、直ちに現場に急行。北朝鮮船籍らしき船から、三人の男を無事救出した。だが、救助した男たちが突如変貌し、惣領たちに銃口を向けてきた。男たちの要求は、沈みゆく船から“荷物”を取って来いというものだった。荷物とは一体何なのか? 彼らの目的は? 特救隊の男たちの決死の戦いが始まる――。傑作長篇小説、待望の新装版。(解説・関口苑生)

「新装版」というタイトルからも分かるように、この作品はかなり古いもので、1996年に祥伝社より発行。2004年に文庫・新装版として角川から発行され、今年8月16日に電子書籍版として発行された作者の76番目の作品。
海上保安庁特殊救難隊という特殊な組織を取り上げ、時化た海でのその活躍を描くというだけでもかなり特異な作品だと思います。

当時の最先端の技術や救難装備などなどかなり念入りに調査したのだろうなと言うのが分かる緻密な描写で、技術的なことにあまり興味を持っていない読者には少々読みづらいかもしれません。

登場している技術ばかりでなく、言葉遣いもやや年代を感じるところはありますが、ドラマ展開には力強い牽引力があります。
また、笑顔が安心感を醸し出すパワフルな海の男たちの魅力もたまりません。惣領正を中心とする救難隊の物語がシリーズ化してもおかしくなかったと思いますが、そうはならなかったのが残念ですね。

そして、ハラハラばかりでなく、惣領正と付き合いの長い恋人のエピソード、30歳を迎えたジャーナリストの彼女の将来の悩みや心の揺れの描写など事件以外の人間関係のドラマも丁寧に織り込まれているところが今野節ですね。




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書評:今野敏著、『呪護』(角川文庫)

2022年05月25日 | 書評ー小説:作者カ行

『呪護』は鬼龍光一シリーズの前作を含め第5作になります。
出雲族を祖とする鬼道衆に属する鬼龍光一は陰の気が凝り固まって怒りや性欲に憑りつかれたようになる「亡者」の退治を生業とする祓い師で、黒づくめの服装がトレードマーク。同じく出雲族のトミノアビヒコを先祖とする奥州勢の安倍孝景は白づくめの服装に銀髪がトレードマーク。この黒白コンビが怪奇の分野を担い、現実主義の極みと言える警察側に属する警視庁生活安全部・少年事件課・少年事件第三係の巡査部長、富野輝彦が主人公で、怪奇物語に警察小説という器を与える役割を果たしています。
しかし、この富野輝彦もトミノアビヒコの直系トミ氏に連なる者で、本人は自覚していないのですが、霊能系の能力を秘めているらしく、また、鬼龍と孝景と共に奇妙な体験を重ねるうちに、法律に基づく現実と霊能的観点から見た現実の狭間で悩み、だんだんと一般常識や警察などが見ているものだけが真実とは言えないことに気付いていきます。

本来がちがちの現実主義者である富野輝彦がだんだんと変化していく様がこのシリーズの味わい深さの1つです。富野の存在なくして警察と霊能系の接点はあり得ないので、要の存在であり、その点が単なる怪奇ものとは違う魅力でもあります。

さて、本作は都内の私立高校で、男子生徒が教師を刺すという傷害事件をめぐる物語です。警視庁少年事件課の富野が取り調べを行ったところ、加害少年は教師に教われていた女子生徒を助けようとしたと供述したのに対して、女子生徒の口からは全く異なる事実が語られる。その学校で「適合者」であるその教師と性交する儀式によって法力を得るために必要だったという。

天台宗系の密教・台密に連なるセクトと真言密教・東密の系譜を引き継ぐセクトが東京守護のための結界を巡って攻防を繰り広げていることが傷害事件の背景だった可能性があり、富野は鬼龍たちと真実を探る捜査を始める---。

なかなかスケールの大きい呪術的仕掛や結界の話が非常に面白いです。
その一方で、刺された教師は強制性交等罪で起訴されるのか、淫行条例違反で罰せられるのか、議論され、「被害者」がいないケースで十把一絡げに「淫行」と決めつけ裁くことの意味に疑問が投げかけられ、警察小説らしい現実感ががっちり組み込まれているその絶妙な怪奇と警察のバランスがすばらしいです。
ぜひご一読あれ。





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