ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

産学官連携による地域興しの交流会に参加しました

2010年11月06日 | 汗をかく実務者
 埼玉県の中堅・中小企業などを中心とする異業種交流会に参加しました。
 「新都心イブニングサロン」という交流会は、埼玉県の広域的産官学ネットワーキングです。11月5日の夕方に、さいたま新都心に近い北与野駅前の「新都心ビジネス交流プラザ」で第28回目が開催されました。200人ぐらいの中堅・中小企業の経営者などの方々を中心に、中堅・中小企業を支援する財団などの行政系やNPO、金融機関などのさまざまな方々が参加されているようでした。

 この交流会は参加回数が多い方々がボランティアとして自主運営しているとのことです。その中心人物は山形大学大学院教授の野長瀬祐二さんです。


 「山形大教授が、何でこの交流会の中心人物を務めているの」と、浮かんだ素朴な疑問に対して「野長瀬さんが埼玉大学の地域共同センターの教員だった時に、産学官連携の集まりを企画し、この交流会が誕生したから」と、ボランティアをお務めのお一人が教えてくれました。野長瀬さんは埼玉大の知的財産部などを立ち上げ、山形大ではMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー、技術経営)を教えている方です。野長瀬さんは自分がしたい仕事をするために、企業、行政、大学と異動する人材流動のお手本のような方です。そして中堅・中小企業の現場を多数訪問する、汗をかく実務者です。

 交流会の前に、中堅・中小企業の経営者の方々が10分ずつ、自社の経営内容を簡潔に講演されました。さいたま市の有力中堅企業の部品メーカーの社長は粉末冶金(焼結)法を基にした精密部品の製造事業を解説しました。ミクロンレベルの寸法精度で粉末冶金によって部品をつくるポイントは一般論でしたが、精密部品をあるコストで量産する技術を確立してることが分かり、感心しました。一番感心したのは、かなり早期から台湾に生産工場を設け、現在は中国に主力工場を持っているほど、早くから海外進出したことでした。グローバル化を早く決断し実行した経営判断に驚きました。「一番の悩みは進出した国の方々を経営幹部に登用する人材教育の仕方だ」そうです。日本の製造業のグローバル化の実態を知ることができました。

 福島県郡山市の中堅企業の経営者は「特殊設備の少量生産事業から、FA(ファクトリー・オートメーション)化と呼ばれた時代から生産管理技術を自社で磨き上げ、その管理システムの外販に踏み切っている」と説明しました。さらに、特殊設備のパンフレットなどは数量が少ないので、「自社でDTP(デスク・トップ・パブリッシング)して少量のパンフレットを制作する体制を築いた」と説明されました。この結果、こうした少量のパンフレットを引き受ける事業を始めたそうです。現在は、Webページの制作事業も関連会社が手がけているとのことです。自社に必要なニーズを基に、それに応える新規事業を起こす点に、優れた経営視点を感じました。他社よりいち早くニーズを見極め、事業化できるかどうかを検討し、決断することが経営者には必要な資質だからです。

 今回、一番興味を持ったのは埼玉県蓮田市の神亀酒造(しんかめしゅぞう)のお話でした。日本の酒造業は、第二次大戦中につくれば売れる時代があったために、アルコール添加の“普通酒”日本酒を量産することを覚えて堕落したそうです。神亀酒造は日本酒本来のおいしさを消費者に届けたいと、“普通酒”をつくることを止め、原料が米、米麹(こうじ)、水だけの“純米酒”の日本酒をつくることに原点復帰しました。昔ながらのつくり方の問題点は、日本酒本来のうまみを出すには、最低でも2年、実際には4年ほど熟成する期間が必要なことでした。つまり、日本酒を仕込んでから数年間は売上げが立たないため、事業の資金繰りに困ることでした。このため、熟成期間中の“在庫”を担保に融資を受けるなどの工夫をしているようです。

 日本酒の仕込み作業は当然、寒い冬の仕事です。麹が雑菌に負けない寒さが必要だからです。このため、杜氏(とうじ)として働く従業員には、11月から3月までの冬期を含む前後は滅茶苦茶働いてもらうそうです。その代わりに、夏場を含む4月から10月はあまり仕事がなく、遊んでもらうそうです。この点が、機械・部品などをつくる工場とは異なる、勤務態勢になっているようでした。

 飲み方は「純米酒は最近流行の冷酒ではなく、ぬる燗が美味しい」とのことでした。純米酒をつくる酒造所とネットワークを組んで、純米酒のおいしさを訴えているそうです。

 この交流会に誘ってくれた方は「この交流会の良さは、本当に実績を持っている、めったに会えない経営者と話ができる点にあるのでは」といいます。交流会のあちこちで名刺交換するシーンが見られました。


  こうした場で、名刺交換し、中堅企業・中小企業の実力者に自分の企画を話す機会が得られる点に、この交流会に参加する価値があるようです。もちろん、そんなに簡単には話は進まないでしょうが、機会を活用することもある種の才能ですから。異業種交流によって、シナジー効果が生まれることが産業振興につながると実感を持てた交流会でした。