ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

バイオミメティクスの実用化について学びました

2010年11月17日 | イノベーション
 「バイオミメティックス」(Bio mimetics)の講演会に行ってきました。「生体模倣技術」などと翻訳されているバイオミメティスの実用化での最新動向を知るためです。

 11月17日午後に開催された「生物多様性に学ぶ、次世代ものづくり技術」シンポジウムを拝聴しました。東京都江東区有明の東京ビックサイトで開催された展示会と同時に開催された講演会です。バイオミメティクスは現在の人工物社会から自然と共有する社会にパラダイム変換する重要な科学・技術であると訴えます。

 基調講演は、バイオミメティクスの日本の中心人物である東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授の下村政嗣さんです。「生物の多様性に学ぶ次世代バイオミメティク材料技術の動向」というタイトルで、日本の研究開発が欧米に比べて遅れつつあると警告しました。その対策として、「日本にもバイオミメティクスの研究開発拠点を築く必要がある」と訴えます。下村さんはバイオミメティクス研究会の中心人物です(7月30日のブログで解説しています)。

 生物多様性から学んだ具体例は、ハス(蓮)の葉の超撥水(はっすい)構造から汚れの付きにくい塗料、カワセミのくちばしから空気抵抗の小さい新幹線の先頭車の形状などと、バイオミメティクスの重要性を訴えました。

 特別講演を話された東京農業大学の農学部教授の長島孝行さんは「自然との共生的社会を築かないと、1000年後に人類は地球の再生不可能資源を使い尽くす」と警告します。「再生不可能資源である石油や石炭を使い尽くすと、人類は現在の社会システムを維持できず、人類は行き詰まる」と解説する。「多様な生物との再生可能資源に依存する循環型社会システムに移行することで、人類は生き延びられるのでは」と解説されました。

 長島さんは、「地球上で最も多い種である昆虫との共生が重要」と指摘します。カ(蚊)から脳梗塞の新薬、ガンを眠らせる昆虫休眠ペプチドを応用した新薬などの実用化が近いといいます。


  そして、日本はカイコ(蚕)の育成とクワ(桑)の管理技術は世界一の技術を持っているので、これを基に新技術を開発すると訴えます。シルク製の日傘は紫外線カット性能を持ち、シルク製のマフラーは汗をかかないなどの特徴を伝えます。カイコガ科以外の“シルク”をつくる他の野生のガの繭(まゆ)として、緑色や金色の繭の実物を見せます。長島さんはシルクの成分を含む美容液などの実用化を図っているそうです。

 日本ペイントの子会社の日本ペイントマリンは、マグロやイルカの皮膚を模倣した船底塗料の実用化を解説しました。マグロは皮膚表面を粘膜で覆って海水との摩擦低減を図り、イルカは平滑で弾性力のある皮膚で摩擦低減を図っていることから学んだという。三菱レイヨンは、ガの眼の微細構造を模倣した反射防止フォルムを開発していることを解説した。ガは夜間に眼に入った光の反射光で存在位置が知られないように、光を反射しない微細構造を眼に持っている。この仕組みを模倣して「液晶テレビの表面に貼る無反射フィルムを開発し、2010年内にサンプル供給したい」と説明します。

 興味を持ったのは日産自動車が目指す、自動車同士がお互いに通信し合いながら位置などの情報を共有し、走行中の自動車群の最適化を図る基礎技術の発表でした。




  魚群の魚がお互いにぶつからないようにしながら群れで移動することを模倣し、「衝突回避しながら並走する自動車群を実現したい」といいます。「EPORO」という自走の小形ロボットを自動車に見立てて基礎実験をしているとのことです。未来の衝突しない自動車の実現に役立てたいそうです。

 その実現を支えるのは、UWB(Ultra Wide Band-Implse Radio)という通信規格の通信装置です。EPOROにUWB通信装置をそれぞれ3台装備し、その通信時間でお互いの距離や位置を推定して群走行するものだ。障害物を回避しながら、群走行する際には、まだ課題が残っているという。

 さまざまな生物模倣のバイオミメティクスが実用化されつつあり、多様な生物を利用する再生可能資源に依存する循環型社会システムの実現を図っていることが分かった。特に、昆虫が持つ高機能性や高性能の奥深さはまだ知らないことが多いようです。