ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

炭素原子が平面上に並んだグラフェンの話を聞きました

2010年11月13日 | イノベーション
 今年のノーベル物理学賞は、炭素化合物の研究者が受賞しました。
  英マンチェスター大学(University of Manchester)のアンドレ・ゲイム(Andre Geim)さんとコンスタンチン・ノボスロフ(Konstantin Novoselov)さんのお二人です。そして、その炭素化合物とは、グラフェンと呼ばれる不思議な化合物です。グラフェンは、炭素原子が6角形状に並んだものが規則正しく並んだ構造の炭素化合物です。




 そのグラフェンなどの炭素材料の研究開発の現状を語るワークショップ「ナノカーボン材料によるレアメタル対策技術の新展開」が東京都千代田区外神田で開催されました。11月13日午後に、JR秋葉原駅前のビル内部の会場で開催されました。主催者は産業技術総合研究所です。今、旬の話題の“レアメタル”対策とのタイトルがついたワークショップであるため、参加希望者が殺到したようです。すぐに満員で参加受け付けが締め切られたことからも人気の高さが分かります。

 “グラフェン”というと、あまり馴染みが無く難しそうな感じですが、そのグラフェンが積層した化合物である黒鉛は、例えば鉛筆やシャープペンシルの芯(しん)として使っています。あの黒い物質です。この黒鉛はありふれた材料ですが、炭素が平面上に1層並んだグラフェンは、いろいろと不思議な性質を持っています。例えば、電気をよく通す性質があるため、液晶(LCD)や太陽電池などの透明電極に使えるのではないかと考えられています。このほかにもいろいろな電子材料として使えると予想されています。この未来の可能性を聞くために、多くの方がワークショップに参加しました。

 グラフェンは、韓国のサムソン電子が液晶パネル向けの透明電極を試作したことから話題を集めました。現在は、ITO(アイティーオーと呼びます)というインジウム・スズ酸化物(In・Snの酸化物)を液晶パネルの透明電極に用いてます。このインジウム(In)原料の主要輸出国は中国です。日本は液晶テレビを多数生産していることから、液晶パネル向けのITOを多く利用しています。このため、インジウムのリサイクルは日本ではかなり進んでいて、スクラップからインジウムを回収した2次地金が多数つくられているそうです。このため、日本国内では、すぐにはインジウム不足は起こらないとの予測です。

 韓国や台湾が現在、液晶パネルを量産し、いずれ中国もつくり始めれば、ITOが不足する事態も考えられない訳ではありません。このため、ITOの代替材料として炭素原子というありふれた元素で構成されるグラフェンをITOの代わりに使うための研究開発が始まっています。そのグラフェンの研究開発の日本での拠点の一つが、産業技術総合研究所のナノチューブ応用研究センターです。そのセンター長を務める飯島澄男さんは、カーボン・ナノ・チューブ(CNT)の発見者として知られています。


 飯島さんは「韓国や中国は、米国の大学院などで研究している優秀な研究者を自国に戻してグラフェンやカーボン・ナノ・チューブなどの新しい炭素材料の研究開発に専念させている」といいます。特に「韓国のサムソン電子は、カーボン・ナノ・チューブをバックライトという部品に応用する開発を集中的に進めている」と説明します。「数年後に、サムソン電子は“ナノTV”と名付けた液晶テレビを発売する」ので、これに対抗する研究開発拠点を日本の中に築きたいとのことでした。

 最先端の研究開発テーマの一つである、グラフェンやカーボン・ナノ・チューブなどの新炭素材料の研究開発が国際的に激化していることがよく分かるワークショップでした。そして、日本が中国などからレアアースなどの輸出規制を受けている対策として、レアメタルの使用量を削減する研究開発や代替材料の研究開発が今後重要になってくると感じる講演会でした。