ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

慶応大学主催「イノベーション創出セミナー」で、知財戦争について拝聴しました

2012年12月20日 | イノベーション
 慶応義塾大学のSFC研究所プラットフォームデザインラボが主催した「イノベーション創出セミナー」を拝聴しました。

 今年第3回目となる今回のテーマは、「グローバル知財戦争」です。米国のアップル社とグーグル社のアンドロイド陣営がスマートフォン(高機能携帯電話機)を巡って、国際的な特許係争を続けていることを、日本としてはどう考えるのかを議論したいという趣旨のようです。



 知的財産に詳しい米国弁護士の方が「スマートフォン特許戦争」の経緯を解説し、ここ数年間に米国を中心とした知的財産戦略がどう動いているかを解析しました。



 スマートフォンは現在、アップル社の「iPhone」とグーグル社のOSであるアンドロイドOSを搭載したアンドロイド陣営のスマートフォンが、各国の市場で激しい競合を繰り広げています。

 2009年10月にフィンランドの携帯電話機大手のノキア社が米国でアップル社に対して特許訴訟を起こしたのが戦いの始まりです。その後、ノキア社は同様の訴訟をドイツや英国、オランダでも起こしました。ノキア社はアンドロイド陣営の1社です。この結果は、2011年6月に両社が和解し、アップル社がノキアに一時金(たぶん和解金)として6億米ドルを支払い、対象となった特許の使用権としてライセンス料を継続的に支払うことで合意したと伝えられています(和解内容は非公開です)。

 さらに2010年10月に、アンドロイド陣営の1社である米国モトローラ・モビリティ社はアップ社を特許訴訟しました。その上に、2011年8月にグーグル社がモトローラ・モビリティ社を125億米ドルで買収したために、複雑化しています。

 アップル社はiPhoneを、まず2007年6月29日に米国で発売しました。5年前と最近のことです。当然、スマートフォンを販売する会社としては後発です。このため、他社からスマートフォンの要素技術に関係する特許群を購入しています。

 一番有名なのは、2009年1月に破綻したカナダの携帯電話機メーカーのノーテル・ネットワーク社が保有していた特許群(出願中を含む)約6000件がオークションにかけられたことです。この約6000件の特許群(日本では意匠権に分類されるものなどを含んでいます)を、アップル社と米国のマイクロソフト社、日本のソニーなどの企業連合が45億米ドルで落札しました。単純計算では特許1件当たりの値段は75万米ドル(約6000万円)になります。

 このオークションには、グーグルや米国インテル社も参加し入札しましたが、競い負けたといわれています。

 ソフトウエア・ネットワーク会社のグーグル社もスマートフォンを販売する会社としては後発です。独自のWindowsスマートフォンを出したマイクロソフト社も、この世界では新参者です。

 さて、アップル社とアンドロイド陣営との特許係争は拡大し、2010年3月には台湾の携帯電話機大手のHTC社がアップル社を米国で特許訴訟しました。そして、2011年4月にはアップル社が、韓国の携帯電話機大手のサムソン電子を特許訴訟しました。アンドロイド陣営最大手のサムソン電子に対する、アップル社の特許提訴は10カ国で約50件に及んでいるそうです。

 アップル社とサムソン電子は現在、スマートフォン市場でのビック2です。その2強の戦いです。

 この注目される判決は、米国ではサムソン電子が10.5億米ドルをアップル社に支払うとの損害賠償評決になり、注目を集めました。

 アンドロイドOSを搭載した、グーグル陣営のスマートフォンとアップル社のiPhoneも、最初から国際市場向けの標準品であり、世界中の大市場で争う製品になっています。

 今回のセミナーを主催した慶応大教授の国領(こくりょう)二郎さんは「こうした巨額の知財売買事例では、日本は原則かやの外になっている」といいます(ソニーはスマートフォンの国際市場でのシュアはあまり高くないと仮定して)。

 日本の電機メーカーはスマートフォンの製品事業に踏みとどまるのかどか不透明です。2010年ぐらいから、スマートフォン事業を続ける企業は数10億米ドル程度(数1000億円)の特許購入費をいざとなれば負担できる財務力が不可欠です。そして、国際的な特許紛争の裁判費用に耐えられる財務力も不可欠です。

 原則、地球上の数10億人をユーザーとするスマートフォン事業は巨大企業同士の争いになっています。大部分が米国の新興企業同士の争いです。日本の電機メーカーは、スマートフォン以外の独自の製品事業を展開する“ブルーオーシャン”戦略を目指すのかどうか議論は尽きません。