報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「民宿さのや」

2023-08-23 15:59:19 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日18時00分 天候:雪 静岡県富士宮市下条 民宿さのや]

 リサ「雪が降って来たよ」

 私達の部屋は県道に面した部屋である。
 そこからリサは顔を覗かせていた。

 愛原「ああ。今夜は雪が降るらしいからな。また積もるらしい。……帰りの交通機関に、影響が無いといいがな……」

 私達は風呂に入り、既に浴衣に着替えていた。
 また高橋のヤツ、私の背中を流すことに躍起になり、他の宿泊客から奇異の目で見られてしまったが……。
 高橋と一緒の時は、なるべくビジホにしようと思う。

 リサ「そろそろ夕食の時間だよ。食堂行こう!」
 愛原「ああ、そうだな」

 私は隣の部屋の高橋とパールにも声を掛け、食堂に向かうことにした。
 食堂というか、大広間だな。
 団体客が宿泊する時は、宴会場としても使えるタイプだ。
 しかしながら、今回は団体客は無かった。
 まあ、この時期ではさすがにいないか。

 愛原「ビール1瓶くらい、飲んじゃってもいいかな……」
 高橋「お注ぎします!」
 リサ「わたしも!」
 愛原「ああ、それはありがとう」

 食堂兼大広間に行くと、既に食事は用意されていた。
 メインディッシュは豚肉ロースのしょうがやき。
 それと、マグロやサーモンの刺身や煮物があった。
 どれも、民宿ならではの素朴な料理だろう。
 あとこれに、漬物とサラダ、御飯と吸い物がついた。

 スタッフ「お飲み物は何になさいますか?」

 アルバイトの兄ちゃんが飲み物を聞いてくる。

 愛原「ビール中瓶を」
 高橋「同じく」
 パール「同じく」
 リサ「同じく」
 愛原&高橋「くぉら!」
 リサ「……ウーロン茶で」
 スタッフ「分かりました」

 それからビールとウーロン茶が運ばれてくる。

 高橋「先生、どうぞ」
 リサ「先生、どうぞ」
 パール「先生、どうぞ」
 愛原「お前らなァ……w」

 私はリサのウーロン茶の瓶を持った。

 愛原「ほら、リサ」
 リサ「わぁ!」
 高橋「愛原先生の計らいだ。感謝の気持ちを忘れんなよ?」
 愛原「何でオマエが偉そうに言うんだよ?」
 パール「先生、この飲み物代は……」
 愛原「さすがにこれはデイライトさんには請求できないだろうから、俺の奢りでいいよ」
 パール「ありがとうございます」
 愛原「あとはお茶にしてくれな」

 乾杯をした後で、ビールを口に運ぶ。

 愛原「長旅の後はこれだな!」
 リサ「わたしは、あと1年だっけ?」
 愛原「3年だよ」
 リサ「結婚は?」
 愛原「あと1年……」
 リサ「おー!」
 愛原「大学行かねーのかよ?」
 リサ「大学は……行く。東京中央学園大」
 高橋「エスカレーターで上がるタイプですか?」
 愛原「いや、そりゃもちろん、高校での成績がモノを言うだろう」
 高橋「何だぁ?東大いかねーのか?」
 愛原「東大卒は、エージェントを動かす側だろう。リサにはエージェントになってもらいたいというのが政府の考えだから、むしろ高卒でもいいくらいに思ってるんじゃないか?」

 リサの希望を聞いてくれるそうなので、リサが大学に行きたいとなったら、叶えてくれるだろう。
 だが、もう1度言うように、東大卒のエリートにまでなってほしいとは思っていないようだ。
 そもそも、善場主任だって、そんなに有名な大学を出ているわけではない。
 だからこそ、白井のような奴でも、客員教授として潜り込めたのだろう。

 リサ「……エレンと約束したもん。あと、鬼斬りセンパイ」
 愛原「幸い、栗原蓮華の意識は戻ったそうだ。だけど、全身火傷だから、これから厳しいぞ」
 リサ「うん」
 愛原公一「そこで、ワシの研究が役に立ちそうなんじゃがね……」
 愛原学「伯父さん」
 公一「ワシの逮捕と引き換えに、研究成果を渡せと政府が言ってきた。全く。ごうつくな連中ぢゃ」

 公一は、リサの茶碗にご飯のおかわりをよそおいながら言った。

 リサ「おー、山盛り。ありがとう」
 公一「何の何の……」

 一応はスタッフとして働いているからか、『民宿さのや』と書かれた紺色の法被を着ている。

 学「一体、何の話?」
 公一「Tウィルスはな、本来、バイオテロ目的に研究されたのではない。アメリカのアンブレラの研究者、アッシュフォード博士は本来、筋ジストロフィーの治療薬として研究しておったのじゃ。それを、会社幹部が悪用しただけのことじゃ。実際、筋ジストロフィーが遺伝してしまった博士の娘、アンジェラ・アッシュフォードを治験者にしたところ、見事症状を抑え込むことに成功した」
 学「伯父さん、筋ジストロフィーと火傷と、どう違うの?」
 公一「Tウィルスとは本来、細胞を活性化させるもの。制御せんと、それこそ死滅した細胞まで復活させるほどである」
 リサ「わたしのTウィルスもそうだったね。でも、その細胞を結局Gウィルスが食べちゃうんだけど……」
 公一「さすがにGウィルスは危険過ぎるので、アンブレラからは見放されてしまったが、Tウィルスは細胞の治療薬としても研究価値はある。火傷によって焼失してしまった細胞を復活させるのじゃ」
 学「つまり、筋ジストロフィーだけじゃなく、火傷の治療薬としても効果があるというわけか……」
 公一「うむ。その通りじゃ。何せ、アメリカのアンブレラ本社は、ラクーンシティが崩壊する前、Tウィルスを材料にした『皺取りクリーム』を販売しておったくらいじゃからな。で、別にそれはゾンビ化の原因には当然なっとらん。老化した細胞を若返らせる効果があったということじゃ」
 学「で、蓮華さんには治験者になってもらうと」
 公一「ワシが決めたのではないぞ。政府の関係者がそう言っとった。そして、エージェントとして来たのが学達じゃったというわけじゃ」
 学「そういうことか……」
 公一「どうせエージェント、つまり『代理人』じゃな。その分際では、詳しいことは何も聞かされておらんのじゃろう」
 学「仰る通りで……」
 公一「学。夕食が終わったら、ワシの部屋まで来い。話を聞かせてやる。そこのお嬢ちゃんも一緒に来い」
 リサ「は、はい」
 公一「そこの若者達は……」
 高橋「【イチャイチャ】【ラブラブ】」
 パール「【イチャイチャ】【ラブラブ】」
 公一「あー……うむ。部屋でゆっくり過ごすと良い。夜は長いでな」
 愛原「お前らなぁ……」

 私は呆れた。
 まあ、表向きは慰安旅行ではあるのだが……。
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“私立探偵 愛原学” 「民宿に到着」

2023-08-23 11:20:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日15時56分 天候:曇 静岡県富士宮市下条 富士急静岡バス『大石寺入口』停留所→民宿さのや]

〔「大石寺入口です」〕

 バスは民宿の最寄りのバス停に到着した。
 あとは、民宿まで徒歩で向かうだけ。

 高橋「バスで通ると、狭く感じますね」

 高橋は県道を見て言った。
 バスは県道184号線を北上したが、郊外に入ると、その道幅は狭い。
 1車線~1.5車線の幅しか無い所が殆ど。

 愛原「そうだな。だから、中型バスなんだろう」

 輸送量は中型バスで十分なほど。
 それ以前に、道が狭いので、大型車は走れないのだろう。
 バス停も私達が降りた下り線側にはポールが設置されておらず、上り線側に錆び付いたのがポツンと立っているだけ。
 帰りはそこからまたバスに乗るというわけだ。

 愛原「それじゃ行こうか」
 リサ「先生、待って。その前に、コンビニに寄ろうよ」

 リサはバス停の目の前にあるコンビニを指さした。
 県道と国道469号線との交差点にあるコンビニ。
 国道沿いにあるということもあり、駐車場付きである。
 町の中心部からだいぶ離れ、高台にある場所のせいか、雪がだいぶ積もっていた。
 もちろん、除雪はされている。
 尚、バスはチェーンを巻いていた。
 まあ、途中通った青木平団地辺りは結構坂が急だったから、そういう所で必要だったのだろう。
 実際、日陰の部分など、凍結していそうな所もあったし。

 愛原「ああ、分かったよ」

 私達はコンビニに立ち寄った。
 そこでリサは、お菓子やらジュースやらを買い込んでいた。
 民宿にはビジネスホテルと違い、客が自由に使える冷蔵庫や自販機は無い。
 自販機自体は建物の外にはあるのだが……。
 私もおつまみくらいは買って、それから改めて民宿に向かった。

 伯母「あらぁ~、いらっしゃい」
 愛原学「伯母さん、こんにちは。今日だけお世話になります」
 伯母「いいのよ。そんな遠慮しなくても……」

 私はフロントで宿帳を記入した。

 学「料金は前払いだったね」

 というか、どの宿泊施設も同じか。

 伯母「そうよ。それじゃ、これが鍵ね」

 客室は基本、2階にしか無い。

 愛原「じゃあ、こっちの部屋は高橋とパールで」
 高橋「あざっス!」
 愛原「こっちは、俺とリサにしよう」
 リサ「わぁー!」
 伯母「夕食は夕方6時からだからね?」
 愛原「あいよ。……伯父さんはいる?」
 伯母「いるけど、なーんかね、地下室に閉じ籠って、変な研究をしているのよ。これからお客様が来るってのに、とんだ役立たずだよ」
 愛原公一「そう言いなさんな。飯炊きなら、ワシも手伝っておろうが」

 すると、奥の厨房から公一伯父さん登場。

 公一「ずっと独り暮らしが長かったで、飯炊きくらいは任せておけ」

 確かにこの伯父さん、小牛田に住んでいた時は、私達にすき焼きを振る舞ってくれたっけなぁ……。
 で、確かに美味かった。

 伯母「そりゃ、アタシと離婚してから、もう何年経つのよ?」
 公一「いい加減、ワシとヨリを戻してくれよぉ~。ほれ、ここに婚姻届」
 高橋「あっ、俺達のもお願いできますか?先生には保証人の所にサインしてくれたんスけど、もう1人の斉藤社長が国外逃亡中なもんで……。何かの犯罪の容疑者は、保証人として成り立たないとか聞いたんで」
 公一「おー、いいとも。ワシがサインしたる」
 伯母「ちょっと、アンタ!そんな軽々しく……」
 リサ「わたしと先生の婚姻届にも、サインお願いします!」
 学「オマエはまだ17だろうが!」
 リサ「来年の分……」
 公一「いいともいいとも!どんどんサインしたる!」
 伯母「アンタ!そんなんだから、悪い組織に唆されるんじゃないの!……とにかく、早いとこ部屋に行って!」
 学「はーい」
 公一「話は夜にでもしようの」
 学「よろしくお願いします」

 私達は階段を上がって、2階に向かった。
 やや急な階段である為、リサが先に向かうと、スカートの中が見えそうになった。

 学「もう、風呂には入れるみたいだな」
 高橋「入って来ますか」
 学「こういう時は、旅行気分でもいいよな」

 民宿である為、風呂はいつでも入れるわけではない。
 チェックインの15時から深夜までは入れるようだ。
 人工鉱石温泉とか謳っているのだが、本当だろうか。
 尚、大浴場は男女入替制である。
 一部のホテルにも、そういう大浴場はあるのだが、24時間体制で、何時間かおきに入れ替わるのに対し、こっちはそんなに大人数が泊まるホテルではない為、入浴状況に応じて変わるようである。
 部屋に入ると、8畳間になっていた。
 2人で泊まるには、十分な広さである。
 隣の高橋達の部屋も同じだろう。
 ホテルと違って、ユニットバスは付いておらず、トイレも共同である。
 室内に付いている水回りは、洗面台しか無い。
 コップも付いていて、この洗面台の水は飲めるようである。
 あとはエアコンが付いていて、暖房を入れておく。
 他にもテレビやWi-Fiがあった。

 学「ん?」

 その時、室内の電話が掛かって来た。
 内線電話なのか、それとも別料金で外線も掛けられるものなのかは分からない。
 古式ゆかしい黒電話だった。

 学「もしもし?」
 公一「おー、学。わしぢゃ」
 学「伯父さん、どうしたの?」
 公一「これから風呂に入るんじゃろ?ところがどっこい。今は既に女性のお客さんが入っているので、今は女湯ぢゃ」
 学「何だ、そうなのか。じゃあ、リサ達を先に入らせよう。教えてくれてありがとう」

 私は電話を切った。
 しかし、古式ゆかしい黒電話というのは、いきなりジリジリベルが鳴るからビックリするもんだな。

 学「リサ、今、1階の大浴場は女湯らしいから、先にお前達が入ってこいよ」
 リサ「分かった。ちょっと浴衣に着替えるね」

 リサはそう言って、私の前で何の恥じらいも無く、服を脱いだ。
 私はあまり見ないように、同じ電話で、隣の客室に内線電話を掛けた。
 ダイヤルをジーコジーコ回すのは、一体何年ぶりだろう?

 学「あー、もしもし?俺だけど、これから風呂入るだろ?でさ、さっき伯父さんから電話が掛かって来たんだけど、今は別の女性客が入ってるから女湯なんだってさ。……そう。だから、先にリサとパールに入ってもらおうと思うんだが、それでいいな?……ああ。パールにもそう伝えておいてくれ。それじゃ」

 私は電話を切った。

 リサ「ねえ、先生。わたしのバッグの中から、わたしの着て欲しい下着、取ってきて?」
 愛原「自分で取って来い!てか、全部脱ぐな!」
 リサ「サツキがね、こうやって、『人間の男を誘き寄せて食べる』って言ってた」
 愛原「本当かぁ?いいから、さっさと着ろ!」
 リサ「だから、わたしの下着、取ってきて?」
 愛原「ったくもう!」

 私はリサのバッグを開けると、そこから白いスポプラとショーツを取り出した。

 愛原「どうせ寝る時は、スポブラと、同じメーカーのパンツだろ?」
 リサ「さすが先生、分かってるねぇ……」

 リサは牙を剥き出してニッと笑った。
 ……今晩、食い散らかされないようにしないと。
 “鬼ころし”のストックは、もちろんある。
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“私立探偵 愛原学” 「蓬莱伝説」

2023-08-21 20:39:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日14時30分 天候:晴 静岡県富士宮市宮町 富士山本宮浅間大社]

 昼食はお目当て通り、富士宮焼きそばを食べた。
 普通の焼きそばよりも、麺がもちもちしているのが特徴のようだ。
 私とパールは焼きそばを単品で注文したが、リサと高橋はそれの定食を注文した。
 昼時を過ぎていたからか、店は比較的空いていた。
 真冬だと登山客もいないから、空いているのかもしれない。
 それでも浅間大社への参拝客はいるようで、食事を食べ終わった後は、まだ少し時間があったので浅間大社へ立ち寄ってみた。

 高橋「先生、ヨコシマな鬼がレーゲンアラタカな神社に入ってもいいんスか?」
 愛原「BOWの中には、宗教を運営していたのもいたって言うから大丈夫だろう」

 2004年、スペインの片田舎でバイオハザードを引き起こしたロス・イルミナドス教団とか、2005年に地中海でバイオテロを起こした宗教テロ組織ヴェルトロとか……。
 そういえば、結局ヴェルトロはどうしたのだろう?

 リサ「邪な鬼で悪かったね!」

 リサは頬を膨らませると、パーカーのフードを被った。
 ムカついたので、第1形態に戻ったのかもしれない。

 愛原「富士宮駅の前の駅名は大宮町。大宮とは、この浅間大社の事を指す。埼玉の大宮も、東口にある氷川神社のことを指すので、鉄道の駅名とは切っても切れないわけだ」
 高橋「探偵の知識っスね!メモっておきます!」
 愛原「いや、どちらかというと、鉄道の知識だからメモらなくてもいいよ」

 社務所にて……。

 パール「マサ、お守り買って行こう」
 高橋「今さら『交通安全』かぁ?」
 パール「いいじゃない」
 愛原「そうだぞ、高橋。お前の場合、そろそろ免取が近づいてるんだからな?気持ちの問題だぞ?」
 高橋「は、はい」
 パール「あとは『縁結び』と『安産祈願』」
 愛原「ええっ!?」
 高橋「中田氏してねーだろ!?」
 パール「……将来に備えてダヨ?」 
 リサ「わたしも買っとこうかなぁ……?」
 愛原「何が欲しいんだ?」
 リサ「『縁結び』」
 愛原「絵恋さんと買っただろうが。別の神社だけど」
 リサ「ううん。先生と」
 愛原「俺かよ!」
 高橋「くぉらっ!先生を食う気か!」
 リサ「別の意味で」
 愛原「オイオイ……」

 中学生みたいな見た目でも、もう高校2年生。
 いや、まもなく3年生になろうとしているのだから、大人びてきて当然か。
 ……ん、そういえばリサ、少し背が伸びたような?
 Gウィルスの影響で体の成長が阻害されているにしても、少しは成長するのだろうか。
 今なら高校1年生くらいとしても、普通に通じそうだ。

 リサ「あと、『安産祈願』」
 愛原「まだ早い!そういうのは妊娠してからにしなさい!」
 高橋「……だってよ、パール?」
 パール「……先生の仰る事は絶対ですからね」
 愛原「それにリサ、肝心なことを忘れてるぞ?」
 リサ「えっ?」

 私はリサに学業御守を見せた。

 愛原「オマエは学生なんだから、これだろうが」
 リサ「わたし、今のところ成績はいいけど?」
 愛原「だから、高橋の『交通安全』と同じだ。気持ちの問題なんだよ。しかるに……」
 巫女「お決まりになりましたか?」
 愛原「いやあ、霊験あらたかな神社に美人の巫女さん!来て良かったですなぁ!作者も『日都連正宗には美人の尼さんがいなくて寂しい』とか言ってるくらいなんです!どうです?是非ともあなたのご案内で、この神社の境内を……おおおおおっ!」

 バリバリバリバリバリバリ

 リサ「先生!

 リサの電撃が炸裂する。

 巫女「だ、大丈夫ですか?!」
 愛原「な、何のそのこれしき……」
 リサ「じゃあ、もう一回食らわせるっちゃ!」
 高橋「さ、サーセン!邪な鬼を境内に入れちゃって……。この御守、もらえますか?」

 高橋、キラキラしたホスト系イケメン顔を巫女に見せる。

 巫女「は、はい……
 高橋「先生の分も買っときますよ?」
 愛原「す、すまん……」
 パール「先生、取りあえずこちらに……」

 せっかくロックオンした巫女さんを、高橋に取られてしまった。
 くそっ、イケメンは得だな。

 リサ「パールさんは、お兄ちゃんが巫女さんと楽し気に話してるの、悔しくないの?」
 パール「あれくらいで、マサが逃げるわけないでしょ?」
 リサ「……!」

 愛原を介抱するメイドの目付きから、急に殺人鬼の目付きになったことで、リサは息を呑んだ。

 高橋「お待たせしました。御守、買ってきましたよ。あと、LINEも交換してきましたー」
 愛原「早っ!これだからイケメンは……。御両親に感謝しな」
 高橋「はい。さすがに邪な鬼がいちゃマズいみたいなんで、さっさとずらかりましょう」
 愛原「そうだな。バスの時間までに、リサのPasmoをチャージしておかないと……」

 私達がこれから乗るバスは浅間大社の前も通るので、効率的にはそこから乗った方が良いのだが、駅に立ち寄る必要があったので、私達は徒歩で富士宮駅に向かったのだった。

[同日15時20分 天候:曇 同市内中央町 JR富士宮駅→富士急静岡バスS121系統車内]

 案の定、駅の券売機でPasmoのチャージができた。
 その後で、バスプールに向かう。
 まだバスの発車まで時間があったので、ベンチに座ったり、トイレに行きたいリサはトイレに行ったり……。

 リサ「さっきは無駄に電撃を使ったり、大腸の中身いっぱい出したら、またお腹空いて来ちゃった……」

 バスプール内の公衆トイレから出て来たリサがそう言った。

 愛原「あのなぁ……。民宿の夕食は18時からだから、それまで我慢しろ」
 リサ「ええ~……」

 しばらくすると、5番乗り場にバスがやってきた。
 平日ダイヤでも本数の少ない路線であるが、土休日ダイヤはもっと少なくなる。
 新富士駅から乗ったバスと違い、こちらは中型の路線バスだった。
 乗り方は同じであるが。
 これは乗客が少ないということも去ることながら、郊外では道の狭い所を走るからである。
 再びバスに乗り込んだ私達は、また後ろの席に陣取ったのだった。

 愛原「さて、いよいよ民宿さのやへゴーだな」
 リサ「うん」
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“私立探偵 愛原学” 「蓬莱人形」

2023-08-21 15:42:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日12時45分 天候:晴 静岡県富士市川成島 JR新富士駅→富士急静岡バスS7系統車内]

 トイレやら一服やらを済ませ、私達はバス乗り場に向かった。
 富士宮市まで行くバスは、普通の一般路線用の大型バスである。
 終点が富士山世界遺産センターという、いかにも観光客向けの場所なのだが、乗客は少なかった。

 愛原「乗り方は埼玉のバスと同じだよ」
 リサ「すると、後ろから乗るわけだね」
 愛原「そう」

 たまに都営バスのように、前から乗る方式とごっちゃになることがある。
 埼玉のバスに乗ったことがあって正解だった。
 乗り込むと、後ろの席に向かった。

 愛原「民宿の近くまで行くバスは、富士宮駅から出てるんだ。だから、富士宮駅で降りた方が、乗り換えは楽だ」
 高橋「でしょうね」
 愛原「ところが、駅の周辺は意外と食べる所が無い。特に富士宮焼きそばに限定すると、片手で数えるほどしかない」
 高橋「そこでも別にいいのでは?」
 愛原「ただ、少し時間もある。どうせ、このバスの終点ってのは、富士宮駅の次なんだよ。場所柄、浅間大社の前でもあるから、そっちの方が店はある」
 高橋「すると、終点まで乗って行った方がいいわけですね?」
 愛原「そういうことだ」
 高橋「分かりました」

〔「お待たせ致しました。吉原中央駅、富士宮駅経由、富士山世界遺産センター行き、発車致します」〕

 バスには他に数人の乗客が乗っている。
 途中のバス停から乗り降りがあるのだろうが、それにしても空いていた。

〔発車します。お掴まりください〕

 発車の時間になり、引き戸式の中扉が閉まった。

〔「発車します。ご注意ください」〕

 バスは定刻通りに新富士駅前を発車した。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ ご乗車、ありがとうございます。このバスはロゼシアター前、吉原中央駅、富士宮駅経由、静岡県富士山世界遺産センター行きです。【中略】次は塔の木、塔の木でございます〕

 バスは新富士駅前のロータリーを出ると、県道174号線に出た。
 名前を富士見大通りという。
 国道並みの幹線道路だが、県道である。
 その時、地元の県警のパトカーがバスを追い抜いて行った。
 別にサイレンを鳴らしているわけではなく、赤色灯も点けていない。

 リサ「おー、パトカーが護衛してくれてる」
 愛原「まさか。ただのパトロールだろう」

 確かに私達の動きは、GPSでデイライトやBSAAによって監視されているだろう。
 ただそれは、敵か味方か分からない“青いアンブレラ”にも監視されているということになる。
 それに、パトカーの護衛を付けるくらいだったら、普通の路線バスに乗せないで、このままタクシーか何かで直接向かわせようとするだろう。
 だから、ただの偶然だと思う。

 パール「この前、東名高速で高速隊を撒いたからじゃない?」
 高橋「それか!静岡県警だもんな!」
 愛原「お前ら、今すぐ出頭しろ。おまわりさーん」
 高橋「先生、冗談です!」
 パール「そもそも、高速隊と地元のパトカーじゃ、管轄が違いますし……」
 愛原「そういう問題じゃねぇ」

 高橋達にとってラッキーだったのは、最近のバスの窓は開口部が少ないことだ。
 ましてや、1番後ろの席の窓は開かなかった。

 愛原「残念だ。窓が開かないんじゃ、お巡りさんを呼ぶことはできないな」
 高橋「ホッ……」
 リサ「普通に通報すれば?」

 リサは自分のスマホを取り出した。

 高橋「くぉらっ!」
 愛原「楽しいバス旅になりそうだね」
 パール「全くで……」

[同日13時30分 天候:晴 静岡県富士宮市大宮町 静岡県富士山世界遺産センターバス停]

 バスは富士宮市内に向かうルートとして、基本的に県道414号線(富士富士宮線)を走行した。
 国道139号線の旧道のような感じもしたが、ちょっとそこはよく分からない。
 尚、途中に吉原中央駅というバス停があるが、別に鉄道の駅ではない。
 かといって、かつては鉄道の駅だったということもなく、いわゆる『バス駅』(バスターミナル)である。
 それがどうして駅を名乗っているのかというと、かつては鉄道のキップも取り扱っていたからだという。
 尚、この駅の前の交差点には、『宙に浮く信号機』がある。
 作者の実家の近所にもある古めかしいUFO型の信号機がアームで固定され……ではなく、本当に電線の途中にぶら下がっているという状況がシュールの普通の信号機である。
 ウィキペディアにもその写真は載っていて、その画像から見ると、結構昔からその信号機は存在しているようである。
 また、他にも『厚原東』というバス停があり、日蓮宗系の宗派で語り継がれている『熱原三烈士』の熱原とは、この厚原のことである。
 時代が変わって、地名の漢字も変わったようだ。
 乗客は観光客よりも、地元民の利用が多く、私達の他に7~8人ほどが乗っていたが、全員が富士宮駅のバスプールで降りて行った。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、富士山世界遺産センターです。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください」〕

 バスは浅間大社前の交差点を右折し、県道76号線上のバス停に停車した。
 尚、バス停名の頭に『静岡県』と付いているのは、山梨県にも同じ名前のセンターがあり、それと区別する為である。

 愛原「ちょうどあそこに、食堂がある。あそこでも、富士宮焼きそばは食べれそうだ。あそこに行ってみよう」

 私はバスを降りて、そう言った。

 パール「愛原先生。このバス代も、支給されるのでしょうか?」
 愛原「あー、そうだな。これも請求するから、取りあえず、次のバスと含めて皆、手持ちのICカードで乗ってくれ」
 高橋「分かりました」
 リサ「先生。わたし、残額残り少ない……」
 愛原「マジかよ」
 高橋「あーあ。オメーだけ、足りない分は自腹な?」
 リサ「むー!」
 愛原「まあまあ。富士宮駅の券売機で、チャージくらいできるだろ。そこでチャージしてやるよ」
 リサ「さすが先生!」
 愛原「それより俺も腹減った。早いとこ、昼飯にしよう」
 高橋「分かりました」

 私達はバス停のすぐ近くにある食堂に向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「卯酉東海道・再び」

2023-08-20 23:13:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日11時27分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東海道新幹線721A列車1号車内]

 自由席の少ない“のぞみ”や“ひかり”は先頭車まで席が埋まるほどであったが、“こだま”はまだ空いていた。

〔「レピーター点灯です」〕

 発車の時間になり、ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 JR東日本の新幹線ホームは未だにベルだが、東海道新幹線ホームは、かつて“のぞみ”の車内チャイムで使用されていた物が転用されている。

〔17番線、“こだま”721号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「17番線から、“こだま”721号、名古屋行きが発車致します。まもなくドアが閉まります。3号車付近のお客様、安全柵から離れてください。ドアぁ、閉まりまーす!」〕

 駅員の放送がJR東日本側よりも賑やかなのは、それだけ利用者が多いということなのだろうか。
 そういえば、JR東日本側にはまだ安全柵が付いていない。
 そして、けたたましい客扱い終了合図のブザーが鳴り響くと同時に、“乙女の祈り”のチャイムと共に安全柵が閉まる。
 車両のドアも閉まって、ようやく列車は走り出した。
 私達は2人席に前後して座っている。
 東京出発の“こだま”が賑わうのは、三島まで。
 名古屋止まりの“こだま”だと、また静岡辺りから客が増えて来る。
 新大阪行きだと、もっと乗って来るという。

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”イントロ)♪♪。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 窓側に座っているリサは、座席のテーブルを出して、そこにジュースのペットボトルと、ポッキーの箱を置いて、それをポリポリ齧っていた。
 フード付きのパーカーを羽織っているが、フードは被っておらず、姿も人間形態である。
 下は丈の短い、黒いプリーツスカートを穿いていた。
 その下に穿いているのは何なのかは不明だ。
 リサに頼めば、私にだけは見せてくれるらしいが、後で金品以外の見返りを求められると困るので、黙っている。
 こんな真冬でも太ももを出して寒く無いのかと思ったが、リサに限らず、BOWは概して体温が高く、この辺りの冬はそんなに寒さを感じないらしい。
 真夏なんか、ほとんど下着姿だったくらいだ。
 さすがにもう1枚着るようにと注意したら、体操服にブルマという……。

 リサ「ポッキー、無くなっちゃうなぁ……。車内販売で買おうかな……」
 愛原「“こだま”には無いっつーの」
 リサ「そうだった」
 高橋「無い方がいいさ。新幹線の車内販売なんて、大抵は美人の姉ちゃんだから。ですよね、先生?」
 愛原「JR東海パッセンジャーズも、きれい所を使うからなぁ……」
 リサ「ナンパしたら、この新幹線、途中で止まるよ?」

 リサは軽く右手からパチッと強めの静電気を放出した。

 リサ「私の電撃、電車まで動かせるみたいだから……」
 愛原「分かった分かった。取りあえず、“こだま”には車内販売は無いから」
 リサ「それなら安心だね」

 私のミスで、この列車のダイヤが乱れることの無いようにせねば……。

[同日12時31分 天候:晴 静岡県富士市川成島 JR新富士駅]

 列車は待避線のある駅では、必ず後続列車の追い抜き待ちをした。
 そのせいで、本来なら新富士駅まで1時間足らずで行けるのだろうが、実際には1時間以上掛かった。
 車内は観光地の最寄り駅である熱海駅、三島駅で乗客がぞろぞろ降りて行ったこともあり、車内は空いていた。

〔♪♪(車内チャイム“いい日旅立ち・西へ”サビ)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は、静岡に止まります〕
〔「停車の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがございます。お立ちのお客様は、お気を付けください。新富士駅では、6分ほど停車致します。発車は12時37分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 幸い、私が大人しくしていたからか、リサも特に暴れるようなこともなく、ジュースとお菓子を飲み食いした後は、車内のWi-Fiに接続し、それでスマホを弄っていた。

 愛原「さーて、降りるぞ」
 リサ「んー」

 私が席を立つと、リサも立った。
 網棚に置いた荷物を下ろす。
 因みに荷物の中には、断熱バッグもある。
 これは公一伯父さんから薬品サンプルを回収した後、外気温や衝撃からそれを守る為だ。
 以前も何かの運び屋をやらされた時は、東京駅のコインロッカーに入れて、鍵を善場主任に渡したりしていたが、今回はまだそのような指示は来ていない。
 一応、サンプルを回収したら、その時に指示が来る手筈になっている。

 

〔しんふじ、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 列車が下り副線ホームに停車すると、ドアチャイムと共にドアが開いた。
 因みに、新富士駅には安全柵は無い。
 また、E5系と比べるとN700系のドアの開く速度が速いのは、せっかちな関西人に合わせてのことだろうか。
 列車を降りると、すぐに通過線を通過列車が轟音を立てて通過して行った。
 新富士駅の前後は線形が良いので、ダイヤが乱れていなければ、通過列車は最高速度の時速285kmで当駅を通過する。

 高橋「先生、ここからどうするんですか?レンタカーっスか?」
 愛原「いや、バスで行くよ。ちょうど富士宮市まで行くバスが出てる。これなら、富士駅で身延線に乗り換える手間も無い。ただ、普通の路線バスだから、トイレに行きたかったら、今のうちに行っといて」
 高橋「分かりました」
 リサ「富士宮焼きそば……」
 愛原「富士宮市に着いたら食べような」
 リサ「分かった」

 私達は改札口を出ると、富士山口(北口)に向かった。
コメント
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