報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「卯酉東海道・再び」

2023-08-20 23:13:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月8日11時27分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東海道新幹線721A列車1号車内]

 自由席の少ない“のぞみ”や“ひかり”は先頭車まで席が埋まるほどであったが、“こだま”はまだ空いていた。

〔「レピーター点灯です」〕

 発車の時間になり、ホームから発車メロディが聞こえて来る。
 JR東日本の新幹線ホームは未だにベルだが、東海道新幹線ホームは、かつて“のぞみ”の車内チャイムで使用されていた物が転用されている。

〔17番線、“こだま”721号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「17番線から、“こだま”721号、名古屋行きが発車致します。まもなくドアが閉まります。3号車付近のお客様、安全柵から離れてください。ドアぁ、閉まりまーす!」〕

 駅員の放送がJR東日本側よりも賑やかなのは、それだけ利用者が多いということなのだろうか。
 そういえば、JR東日本側にはまだ安全柵が付いていない。
 そして、けたたましい客扱い終了合図のブザーが鳴り響くと同時に、“乙女の祈り”のチャイムと共に安全柵が閉まる。
 車両のドアも閉まって、ようやく列車は走り出した。
 私達は2人席に前後して座っている。
 東京出発の“こだま”が賑わうのは、三島まで。
 名古屋止まりの“こだま”だと、また静岡辺りから客が増えて来る。
 新大阪行きだと、もっと乗って来るという。

〔♪♪(車内チャイム。“いい日旅立ち・西へ”イントロ)♪♪。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 窓側に座っているリサは、座席のテーブルを出して、そこにジュースのペットボトルと、ポッキーの箱を置いて、それをポリポリ齧っていた。
 フード付きのパーカーを羽織っているが、フードは被っておらず、姿も人間形態である。
 下は丈の短い、黒いプリーツスカートを穿いていた。
 その下に穿いているのは何なのかは不明だ。
 リサに頼めば、私にだけは見せてくれるらしいが、後で金品以外の見返りを求められると困るので、黙っている。
 こんな真冬でも太ももを出して寒く無いのかと思ったが、リサに限らず、BOWは概して体温が高く、この辺りの冬はそんなに寒さを感じないらしい。
 真夏なんか、ほとんど下着姿だったくらいだ。
 さすがにもう1枚着るようにと注意したら、体操服にブルマという……。

 リサ「ポッキー、無くなっちゃうなぁ……。車内販売で買おうかな……」
 愛原「“こだま”には無いっつーの」
 リサ「そうだった」
 高橋「無い方がいいさ。新幹線の車内販売なんて、大抵は美人の姉ちゃんだから。ですよね、先生?」
 愛原「JR東海パッセンジャーズも、きれい所を使うからなぁ……」
 リサ「ナンパしたら、この新幹線、途中で止まるよ?」

 リサは軽く右手からパチッと強めの静電気を放出した。

 リサ「私の電撃、電車まで動かせるみたいだから……」
 愛原「分かった分かった。取りあえず、“こだま”には車内販売は無いから」
 リサ「それなら安心だね」

 私のミスで、この列車のダイヤが乱れることの無いようにせねば……。

[同日12時31分 天候:晴 静岡県富士市川成島 JR新富士駅]

 列車は待避線のある駅では、必ず後続列車の追い抜き待ちをした。
 そのせいで、本来なら新富士駅まで1時間足らずで行けるのだろうが、実際には1時間以上掛かった。
 車内は観光地の最寄り駅である熱海駅、三島駅で乗客がぞろぞろ降りて行ったこともあり、車内は空いていた。

〔♪♪(車内チャイム“いい日旅立ち・西へ”サビ)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は、静岡に止まります〕
〔「停車の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがございます。お立ちのお客様は、お気を付けください。新富士駅では、6分ほど停車致します。発車は12時37分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 幸い、私が大人しくしていたからか、リサも特に暴れるようなこともなく、ジュースとお菓子を飲み食いした後は、車内のWi-Fiに接続し、それでスマホを弄っていた。

 愛原「さーて、降りるぞ」
 リサ「んー」

 私が席を立つと、リサも立った。
 網棚に置いた荷物を下ろす。
 因みに荷物の中には、断熱バッグもある。
 これは公一伯父さんから薬品サンプルを回収した後、外気温や衝撃からそれを守る為だ。
 以前も何かの運び屋をやらされた時は、東京駅のコインロッカーに入れて、鍵を善場主任に渡したりしていたが、今回はまだそのような指示は来ていない。
 一応、サンプルを回収したら、その時に指示が来る手筈になっている。

 

〔しんふじ、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 列車が下り副線ホームに停車すると、ドアチャイムと共にドアが開いた。
 因みに、新富士駅には安全柵は無い。
 また、E5系と比べるとN700系のドアの開く速度が速いのは、せっかちな関西人に合わせてのことだろうか。
 列車を降りると、すぐに通過線を通過列車が轟音を立てて通過して行った。
 新富士駅の前後は線形が良いので、ダイヤが乱れていなければ、通過列車は最高速度の時速285kmで当駅を通過する。

 高橋「先生、ここからどうするんですか?レンタカーっスか?」
 愛原「いや、バスで行くよ。ちょうど富士宮市まで行くバスが出てる。これなら、富士駅で身延線に乗り換える手間も無い。ただ、普通の路線バスだから、トイレに行きたかったら、今のうちに行っといて」
 高橋「分かりました」
 リサ「富士宮焼きそば……」
 愛原「富士宮市に着いたら食べような」
 リサ「分かった」

 私達は改札口を出ると、富士山口(北口)に向かった。
コメント
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