[1月7日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]
夕食はローストンカツ定食だった。
パール曰く、近所のスーパーで豚肉の特売をやっていたという。
リサはいつに無く、ロース豚肉をガツガツ食べていた。
目の色は赤く、『鬼の目』である。
狼男がそうであるように、鬼もまた満月の夜は気が昂ぶるという。
狼男の場合はどうするのかは不明だが、鬼の場合は鎮める方法がある。
それは、日本酒の“鬼ころし”。
人間にとってはただの普通酒だが、鬼にとっては力が封じられる薬酒である。
愛原「リサ、食べたら、これを飲め」
私は上野利恵からお土産としてもらったパック入りの“鬼ころし”から、リサ用にグラスになみなみと注いだ。
リサ「!」
リサはガッとグラスを掴むと、それを一気に口に運んだ。
愛原「おい!食ってからでいいのに……」
だが、“鬼ころし”の効果はすぐに現れた。
リサ「はにゃ……?」
リサは顔を赤らめた。
酔いが回っているのだ。
鬼の目は人間の目に戻ったが、別の意味で充血していた。
愛原「だから言ったのに……。まあ、これで暴走の心配は無いな。さすがは“鬼ころし”」
本来は酒である為、未成年のリサが飲むのは違法であるが、こういう特別な事情に限り、例外が認められるようになった。
愛原「あとは水でも飲んでろ」
リサ「あーつーいーよー」
リサは体中が赤くなって、まるで赤鬼のようになっていた。
“鬼ころし”のパッケージに、赤鬼の絵が描かれているのは、『鬼のように酒に強い男でも、この赤鬼のように赤くなって酔い潰れる』という意味らしい。
リサは元々体操服にブルマという姿という姿だった。
真冬に半袖の体操服だけだったのだが、それでもリサは暑がって、上を脱いでしまった。
体操服の下は、白いブラジャーを着けている。
愛原「こらこら!ここで脱ぐな!」
リサ「だって暑いんだもん!」
パール「リサ様、冷たい麦茶をどうぞ」
リサ「ん!」
パールが冷蔵庫から出した冷たい麦茶を取ると、リサはそれを一気飲みした。
それだけですぐに体が冷えるとは思えないが、それ以上は騒がず、ブラジャー姿のまま残りの食事に手を付けたのだった。
[同日21時00分 天候:晴 愛原家3階ダイニング]
リサが風呂に入っている間、私は2人に明日の予定について話した。
愛原「というわけで、またうちの親戚の民宿に泊まることになる」
高橋「了解です」
パール「本当に私も同行させて頂いて、よろしいのですか?」
愛原「あくまでも明日は、うちの事務所の慰安旅行というテイで行くから。伯父さんの薬品サンプルの奪還が目的だけど、映画みたいに特殊部隊がいきなり突入して……なんてマネはせずに、穏やかに譲り受けたいと思っている」
パール「御親戚なら、可能な話ですね」
愛原「無関係のパールも一緒に来ることで、逆に手荒な真似をしに来たわけではないというアピールだな」
高橋「パールを連れて行くと、却って逆効果のような……」
パール「こんな感じですか?」
パールは足元から、サバイバルナイフを取り出した。
愛原「うん、それだよ、それ。部屋割りは伯母さんに頼んで、8畳2部屋にしてもらったから」
高橋「えっ、それって……?」
愛原「高橋とパール、俺とリサで泊まるさ」
高橋「マジっスか!?いいんスか!?」
愛原「お前らの場合、もう既に同じ部屋に同衾してるだろ?」
私はリビングの隣の部屋を指さした。
そこは本来、客間としての用途だが、高橋とパールの寮にしている。
廊下からのみ出入りできるようにし、リビング側からは出入りできないように仕切り扉を閉め切りにし、その前にテレビを置いている。
高橋「た、確かに……」
愛原「だから今更、同じ部屋でも問題無いわけだ」
パール「まあ、そうですね。私達はそれで全く問題無いわけですが、先生とリサ様は大丈夫ですか?」
愛原「まあ、何とかするさ。俺は、リサの保護者であり、監視者なんだから。しっかり、首輪とリードを付けておくさ」
リサ「えっ、先生!わたしにワンワンプレイしろって!?」
そこへ風呂から上がって来たリサが、鼻息を荒くして私の所にやってきた。
リサ「先生の為なら、雌犬になるよ!」
パール「素晴らしい心掛けですね。私もマサにしてやりたいわ」
高橋「俺が犬かよ!?」
パール「他に誰がいるのよ?」
愛原「まあ、そっちはそっちで好きにやってくれ。リサ、そういう意味じゃないからな?」
リサ「え、違うの?」
“鬼ころし”を飲んだことで、ステータス異常は解消され、元の状態に戻っているようだ。
だが、まだ油断はできない。
満月が空からいなくなるまで、リサ達、鬼型BOWは影響を受け続けるのだ。
但し、太陽が出てしまうと、どうしても紫外線や明るさは太陽の方が勝る為、事実上は夜間だけ警戒すれば良い。
少しでも月が欠ければ、それでもある程度は影響はあるが、暴走の危険性は弱くなる。
愛原「違う違う。それと、寝る前に“鬼ころし”をもう一杯飲んでおくように。予防策としてな。今度はさっきみたいに、一気飲みするなよ?」
リサ「分かったよ」
[同日23時00分 天候:晴 愛原家4階・愛原の部屋]
明日の準備をして、私はそろそろ寝ようと思った。
出張の時は、少し早めに休むことにしている。
愛原「……?」
旧居と違い、大通りに面したマンションではなく、そこから一本路地裏に行った所にある建物なので、驚くほど静かである。
菊川地区は高層建築物が無い為、4階くらいでも、そこそこの高さになる。
もちろん、中には10階建てくらいのマンションがちらほら建ってたりはするのだが、高くてもその程度である。
だから、窓からの景色は比較的良い。
まあ、周りは家だらけだが。
私がふと首を傾げたのは、犬とも違う遠吠えのような声が聞こえたような気がしたからだ。
発情期の雄犬が雌犬を求めて遠吠えをするような……?
でも、それとも違うような……?
私はカーテンを開け、窓の外を見て見ることにした。
和室である為、元は障子であったが、遮光カーテンにリフォームした。
これなら、夜通し仕事をして帰ってきたとしても、カーテンを閉めて外の光を遮れば、仮眠しやすくなる。
一応、リサの部屋にもそのようにしてある。
愛原「!」
その時、私の部屋の扉がノックされた。
愛原「はい?」
リサ「わたしだけど、ちょっといい?」
愛原「何だ?」
私は鍵を開け、引き戸を開けた。
そこには通常状態のリサがいた。
即ち、人間の姿をしている第0形態だ。
体操服に、下は紺色のブルマを穿いている。
リサ「鬼の気配がするんだよね」
愛原「何だって!?鬼の兄妹は、首を刎ねられて死んだはずじゃ?」
リサ「うん。だから、そいつらとはまた違うと思う」
愛原「ええっ?」
リサは窓を開けた。
1月の冷たい空気が、部屋の中に入ってくる。
それに混じって、遠吠えみたいな声も聞こえて来た。
どうやら、男の声のようだ。
リサ「……もしかして、鬼って女が少ないのかな?あのクソ野郎も、わたしにそんなこと言ってたけど……」
愛原「そうなのか?」
その声は遠ざかって行った。
愛原「あっ、あれは!」
その時、数台の車が家の前を通り過ぎて行った。
住宅地の狭い一通路だというのに、結構なスピードだ。
しかし、その車達に見覚えがあった。
愛原「栗原家の鬼狩り隊だ!」
リサ「鬼狩り隊が動いてるから、そのうち退治されるだろうね」
愛原「うーん……そうか」
それはそれで安心なのだが……。
愛原「なあ。鬼って、こんな気軽に現れるほど数が多いのか?」
リサ「どうだろうね……」
リサは首を傾げた。
とにかく今夜はもう寝ることにし、私はリサに絶対に外を見ないように言った。
外を見て、まかり間違って満月を見てしまったら、また暴走の危機が訪れるからである。
夕食はローストンカツ定食だった。
パール曰く、近所のスーパーで豚肉の特売をやっていたという。
リサはいつに無く、ロース豚肉をガツガツ食べていた。
目の色は赤く、『鬼の目』である。
狼男がそうであるように、鬼もまた満月の夜は気が昂ぶるという。
狼男の場合はどうするのかは不明だが、鬼の場合は鎮める方法がある。
それは、日本酒の“鬼ころし”。
人間にとってはただの普通酒だが、鬼にとっては力が封じられる薬酒である。
愛原「リサ、食べたら、これを飲め」
私は上野利恵からお土産としてもらったパック入りの“鬼ころし”から、リサ用にグラスになみなみと注いだ。
リサ「!」
リサはガッとグラスを掴むと、それを一気に口に運んだ。
愛原「おい!食ってからでいいのに……」
だが、“鬼ころし”の効果はすぐに現れた。
リサ「はにゃ……?」
リサは顔を赤らめた。
酔いが回っているのだ。
鬼の目は人間の目に戻ったが、別の意味で充血していた。
愛原「だから言ったのに……。まあ、これで暴走の心配は無いな。さすがは“鬼ころし”」
本来は酒である為、未成年のリサが飲むのは違法であるが、こういう特別な事情に限り、例外が認められるようになった。
愛原「あとは水でも飲んでろ」
リサ「あーつーいーよー」
リサは体中が赤くなって、まるで赤鬼のようになっていた。
“鬼ころし”のパッケージに、赤鬼の絵が描かれているのは、『鬼のように酒に強い男でも、この赤鬼のように赤くなって酔い潰れる』という意味らしい。
リサは元々体操服にブルマという姿という姿だった。
真冬に半袖の体操服だけだったのだが、それでもリサは暑がって、上を脱いでしまった。
体操服の下は、白いブラジャーを着けている。
愛原「こらこら!ここで脱ぐな!」
リサ「だって暑いんだもん!」
パール「リサ様、冷たい麦茶をどうぞ」
リサ「ん!」
パールが冷蔵庫から出した冷たい麦茶を取ると、リサはそれを一気飲みした。
それだけですぐに体が冷えるとは思えないが、それ以上は騒がず、ブラジャー姿のまま残りの食事に手を付けたのだった。
[同日21時00分 天候:晴 愛原家3階ダイニング]
リサが風呂に入っている間、私は2人に明日の予定について話した。
愛原「というわけで、またうちの親戚の民宿に泊まることになる」
高橋「了解です」
パール「本当に私も同行させて頂いて、よろしいのですか?」
愛原「あくまでも明日は、うちの事務所の慰安旅行というテイで行くから。伯父さんの薬品サンプルの奪還が目的だけど、映画みたいに特殊部隊がいきなり突入して……なんてマネはせずに、穏やかに譲り受けたいと思っている」
パール「御親戚なら、可能な話ですね」
愛原「無関係のパールも一緒に来ることで、逆に手荒な真似をしに来たわけではないというアピールだな」
高橋「パールを連れて行くと、却って逆効果のような……」
パール「こんな感じですか?」
パールは足元から、サバイバルナイフを取り出した。
愛原「うん、それだよ、それ。部屋割りは伯母さんに頼んで、8畳2部屋にしてもらったから」
高橋「えっ、それって……?」
愛原「高橋とパール、俺とリサで泊まるさ」
高橋「マジっスか!?いいんスか!?」
愛原「お前らの場合、もう既に同じ部屋に同衾してるだろ?」
私はリビングの隣の部屋を指さした。
そこは本来、客間としての用途だが、高橋とパールの寮にしている。
廊下からのみ出入りできるようにし、リビング側からは出入りできないように仕切り扉を閉め切りにし、その前にテレビを置いている。
高橋「た、確かに……」
愛原「だから今更、同じ部屋でも問題無いわけだ」
パール「まあ、そうですね。私達はそれで全く問題無いわけですが、先生とリサ様は大丈夫ですか?」
愛原「まあ、何とかするさ。俺は、リサの保護者であり、監視者なんだから。しっかり、首輪とリードを付けておくさ」
リサ「えっ、先生!わたしにワンワンプレイしろって!?」
そこへ風呂から上がって来たリサが、鼻息を荒くして私の所にやってきた。
リサ「先生の為なら、雌犬になるよ!」
パール「素晴らしい心掛けですね。私もマサにしてやりたいわ」
高橋「俺が犬かよ!?」
パール「他に誰がいるのよ?」
愛原「まあ、そっちはそっちで好きにやってくれ。リサ、そういう意味じゃないからな?」
リサ「え、違うの?」
“鬼ころし”を飲んだことで、ステータス異常は解消され、元の状態に戻っているようだ。
だが、まだ油断はできない。
満月が空からいなくなるまで、リサ達、鬼型BOWは影響を受け続けるのだ。
但し、太陽が出てしまうと、どうしても紫外線や明るさは太陽の方が勝る為、事実上は夜間だけ警戒すれば良い。
少しでも月が欠ければ、それでもある程度は影響はあるが、暴走の危険性は弱くなる。
愛原「違う違う。それと、寝る前に“鬼ころし”をもう一杯飲んでおくように。予防策としてな。今度はさっきみたいに、一気飲みするなよ?」
リサ「分かったよ」
[同日23時00分 天候:晴 愛原家4階・愛原の部屋]
明日の準備をして、私はそろそろ寝ようと思った。
出張の時は、少し早めに休むことにしている。
愛原「……?」
旧居と違い、大通りに面したマンションではなく、そこから一本路地裏に行った所にある建物なので、驚くほど静かである。
菊川地区は高層建築物が無い為、4階くらいでも、そこそこの高さになる。
もちろん、中には10階建てくらいのマンションがちらほら建ってたりはするのだが、高くてもその程度である。
だから、窓からの景色は比較的良い。
まあ、周りは家だらけだが。
私がふと首を傾げたのは、犬とも違う遠吠えのような声が聞こえたような気がしたからだ。
発情期の雄犬が雌犬を求めて遠吠えをするような……?
でも、それとも違うような……?
私はカーテンを開け、窓の外を見て見ることにした。
和室である為、元は障子であったが、遮光カーテンにリフォームした。
これなら、夜通し仕事をして帰ってきたとしても、カーテンを閉めて外の光を遮れば、仮眠しやすくなる。
一応、リサの部屋にもそのようにしてある。
愛原「!」
その時、私の部屋の扉がノックされた。
愛原「はい?」
リサ「わたしだけど、ちょっといい?」
愛原「何だ?」
私は鍵を開け、引き戸を開けた。
そこには通常状態のリサがいた。
即ち、人間の姿をしている第0形態だ。
体操服に、下は紺色のブルマを穿いている。
リサ「鬼の気配がするんだよね」
愛原「何だって!?鬼の兄妹は、首を刎ねられて死んだはずじゃ?」
リサ「うん。だから、そいつらとはまた違うと思う」
愛原「ええっ?」
リサは窓を開けた。
1月の冷たい空気が、部屋の中に入ってくる。
それに混じって、遠吠えみたいな声も聞こえて来た。
どうやら、男の声のようだ。
リサ「……もしかして、鬼って女が少ないのかな?あのクソ野郎も、わたしにそんなこと言ってたけど……」
愛原「そうなのか?」
その声は遠ざかって行った。
愛原「あっ、あれは!」
その時、数台の車が家の前を通り過ぎて行った。
住宅地の狭い一通路だというのに、結構なスピードだ。
しかし、その車達に見覚えがあった。
愛原「栗原家の鬼狩り隊だ!」
リサ「鬼狩り隊が動いてるから、そのうち退治されるだろうね」
愛原「うーん……そうか」
それはそれで安心なのだが……。
愛原「なあ。鬼って、こんな気軽に現れるほど数が多いのか?」
リサ「どうだろうね……」
リサは首を傾げた。
とにかく今夜はもう寝ることにし、私はリサに絶対に外を見ないように言った。
外を見て、まかり間違って満月を見てしまったら、また暴走の危機が訪れるからである。