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報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「満月の夜」

2023-08-18 20:18:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月7日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 夕食はローストンカツ定食だった。
 パール曰く、近所のスーパーで豚肉の特売をやっていたという。
 リサはいつに無く、ロース豚肉をガツガツ食べていた。
 目の色は赤く、『鬼の目』である。
 狼男がそうであるように、鬼もまた満月の夜は気が昂ぶるという。
 狼男の場合はどうするのかは不明だが、鬼の場合は鎮める方法がある。
 それは、日本酒の“鬼ころし”。
 人間にとってはただの普通酒だが、鬼にとっては力が封じられる薬酒である。

 愛原「リサ、食べたら、これを飲め」

 私は上野利恵からお土産としてもらったパック入りの“鬼ころし”から、リサ用にグラスになみなみと注いだ。

 リサ「!」

 リサはガッとグラスを掴むと、それを一気に口に運んだ。

 愛原「おい!食ってからでいいのに……」

 だが、“鬼ころし”の効果はすぐに現れた。

 リサ「はにゃ……?」

 リサは顔を赤らめた。
 酔いが回っているのだ。
 鬼の目は人間の目に戻ったが、別の意味で充血していた。

 愛原「だから言ったのに……。まあ、これで暴走の心配は無いな。さすがは“鬼ころし”」

 本来は酒である為、未成年のリサが飲むのは違法であるが、こういう特別な事情に限り、例外が認められるようになった。

 愛原「あとは水でも飲んでろ」
 リサ「あーつーいーよー」

 リサは体中が赤くなって、まるで赤鬼のようになっていた。
 “鬼ころし”のパッケージに、赤鬼の絵が描かれているのは、『鬼のように酒に強い男でも、この赤鬼のように赤くなって酔い潰れる』という意味らしい。
 リサは元々体操服にブルマという姿という姿だった。
 真冬に半袖の体操服だけだったのだが、それでもリサは暑がって、上を脱いでしまった。
 体操服の下は、白いブラジャーを着けている。

 愛原「こらこら!ここで脱ぐな!」
 リサ「だって暑いんだもん!」
 パール「リサ様、冷たい麦茶をどうぞ」
 リサ「ん!」

 パールが冷蔵庫から出した冷たい麦茶を取ると、リサはそれを一気飲みした。
 それだけですぐに体が冷えるとは思えないが、それ以上は騒がず、ブラジャー姿のまま残りの食事に手を付けたのだった。

[同日21時00分 天候:晴 愛原家3階ダイニング]

 リサが風呂に入っている間、私は2人に明日の予定について話した。

 愛原「というわけで、またうちの親戚の民宿に泊まることになる」
 高橋「了解です」
 パール「本当に私も同行させて頂いて、よろしいのですか?」
 愛原「あくまでも明日は、うちの事務所の慰安旅行というテイで行くから。伯父さんの薬品サンプルの奪還が目的だけど、映画みたいに特殊部隊がいきなり突入して……なんてマネはせずに、穏やかに譲り受けたいと思っている」
 パール「御親戚なら、可能な話ですね」
 愛原「無関係のパールも一緒に来ることで、逆に手荒な真似をしに来たわけではないというアピールだな」
 高橋「パールを連れて行くと、却って逆効果のような……」
 パール「こんな感じですか?」

 パールは足元から、サバイバルナイフを取り出した。

 愛原「うん、それだよ、それ。部屋割りは伯母さんに頼んで、8畳2部屋にしてもらったから」
 高橋「えっ、それって……?」
 愛原「高橋とパール、俺とリサで泊まるさ」
 高橋「マジっスか!?いいんスか!?」
 愛原「お前らの場合、もう既に同じ部屋に同衾してるだろ?」

 私はリビングの隣の部屋を指さした。
 そこは本来、客間としての用途だが、高橋とパールの寮にしている。
 廊下からのみ出入りできるようにし、リビング側からは出入りできないように仕切り扉を閉め切りにし、その前にテレビを置いている。

 高橋「た、確かに……」
 愛原「だから今更、同じ部屋でも問題無いわけだ」
 パール「まあ、そうですね。私達はそれで全く問題無いわけですが、先生とリサ様は大丈夫ですか?」
 愛原「まあ、何とかするさ。俺は、リサの保護者であり、監視者なんだから。しっかり、首輪とリードを付けておくさ」
 リサ「えっ、先生!わたしにワンワンプレイしろって!?」

 そこへ風呂から上がって来たリサが、鼻息を荒くして私の所にやってきた。

 リサ「先生の為なら、雌犬になるよ!」
 パール「素晴らしい心掛けですね。私もマサにしてやりたいわ」
 高橋「俺が犬かよ!?」
 パール「他に誰がいるのよ?」
 愛原「まあ、そっちはそっちで好きにやってくれ。リサ、そういう意味じゃないからな?」
 リサ「え、違うの?」

 “鬼ころし”を飲んだことで、ステータス異常は解消され、元の状態に戻っているようだ。
 だが、まだ油断はできない。
 満月が空からいなくなるまで、リサ達、鬼型BOWは影響を受け続けるのだ。
 但し、太陽が出てしまうと、どうしても紫外線や明るさは太陽の方が勝る為、事実上は夜間だけ警戒すれば良い。
 少しでも月が欠ければ、それでもある程度は影響はあるが、暴走の危険性は弱くなる。

 愛原「違う違う。それと、寝る前に“鬼ころし”をもう一杯飲んでおくように。予防策としてな。今度はさっきみたいに、一気飲みするなよ?」
 リサ「分かったよ」

[同日23時00分 天候:晴 愛原家4階・愛原の部屋]

 明日の準備をして、私はそろそろ寝ようと思った。
 出張の時は、少し早めに休むことにしている。

 愛原「……?」

 旧居と違い、大通りに面したマンションではなく、そこから一本路地裏に行った所にある建物なので、驚くほど静かである。
 菊川地区は高層建築物が無い為、4階くらいでも、そこそこの高さになる。
 もちろん、中には10階建てくらいのマンションがちらほら建ってたりはするのだが、高くてもその程度である。
 だから、窓からの景色は比較的良い。
 まあ、周りは家だらけだが。
 私がふと首を傾げたのは、犬とも違う遠吠えのような声が聞こえたような気がしたからだ。
 発情期の雄犬が雌犬を求めて遠吠えをするような……?
 でも、それとも違うような……?
 私はカーテンを開け、窓の外を見て見ることにした。
 和室である為、元は障子であったが、遮光カーテンにリフォームした。
 これなら、夜通し仕事をして帰ってきたとしても、カーテンを閉めて外の光を遮れば、仮眠しやすくなる。
 一応、リサの部屋にもそのようにしてある。

 愛原「!」

 その時、私の部屋の扉がノックされた。

 愛原「はい?」
 リサ「わたしだけど、ちょっといい?」
 愛原「何だ?」

 私は鍵を開け、引き戸を開けた。
 そこには通常状態のリサがいた。
 即ち、人間の姿をしている第0形態だ。
 体操服に、下は紺色のブルマを穿いている。

 リサ「鬼の気配がするんだよね」
 愛原「何だって!?鬼の兄妹は、首を刎ねられて死んだはずじゃ?」
 リサ「うん。だから、そいつらとはまた違うと思う」
 愛原「ええっ?」

 リサは窓を開けた。
 1月の冷たい空気が、部屋の中に入ってくる。
 それに混じって、遠吠えみたいな声も聞こえて来た。
 どうやら、男の声のようだ。

 リサ「……もしかして、鬼って女が少ないのかな?あのクソ野郎も、わたしにそんなこと言ってたけど……」
 愛原「そうなのか?」

 その声は遠ざかって行った。

 愛原「あっ、あれは!」

 その時、数台の車が家の前を通り過ぎて行った。
 住宅地の狭い一通路だというのに、結構なスピードだ。
 しかし、その車達に見覚えがあった。

 愛原「栗原家の鬼狩り隊だ!」
 リサ「鬼狩り隊が動いてるから、そのうち退治されるだろうね」
 愛原「うーん……そうか」

 それはそれで安心なのだが……。

 愛原「なあ。鬼って、こんな気軽に現れるほど数が多いのか?」
 リサ「どうだろうね……」

 リサは首を傾げた。
 とにかく今夜はもう寝ることにし、私はリサに絶対に外を見ないように言った。
 外を見て、まかり間違って満月を見てしまったら、また暴走の危機が訪れるからである。
コメント
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