報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「栗原重蔵の依頼」

2023-08-07 20:27:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月5日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家(新居)]

 パール「明日、急に御出張ですか?」
 愛原「そうなんだ」

 私は大きく頷いた。
 あの後、私は栗原重蔵氏から、日光の民泊施設について、もっとよく調べて欲しいと依頼された。
 2階はもう無いから、実質的に地下室跡を調べることになる。

 愛原「もう1回、日光に行くことになるよ。今度は車でな」
 パール「そうですか」

 何だか事件の匂いがするので、色々と準備していった方がいいだろう。
 そんな時、電車で行くよりは車で行った方が良い。
 そう思った。

 愛原「高橋、さすがにもう免停は解除になってるだろ?また運転頼むな?」
 高橋「も、もちろん。任せてください」
 リサ「わたしも行く!」
 愛原「そうだな。よろしく頼む。パールは事務所にいてくれ」
 パール「かしこまりました。その為に雇われたわけですものね。御掃除なら任せてください」
 高橋「こいつ、事務所荒らしも『掃除』する気ですよ?」
 愛原「は、はは……。この事務所に現れないことを祈るよ」

 こんな感じで、最近の夕食は進む。

 パール「明日は何時に出発されますか?」
 愛原「なるべく早い方がいいな。ほら、まだ冬休み期間中だから、観光地の日光は混むだろう。渋滞にハマらないように注意する必要がある」
 高橋「そうっスね」
 愛原「ここから車で日光まで、どのくらいだろう?」
 高橋「高速飛ばせば、2時間で着けそうな気がしますね」
 愛原「安全運転で行ってもらう。2時間半と見るか」
 高橋「へーい……」
 愛原「リースのバネットで行くんだから、そんな飛ばせないだろ」
 高橋「まあ、そうなんスけどね……」
 愛原「というわけだ、リサ。明日は朝早く出発するから、早く寝ろよ?」
 リサ「はーい」

[同日21時00分 天候:晴 愛原家(新居)]

 その夜、善場主任から私のスマホに電話が掛かって来た。

 善場「夜分遅くに申し訳ありません」
 愛原「いえ、とんでもないです。大丈夫ですよ」
 善場「メールを拝見しました。明日、日光へ行かれるそうですね?」
 愛原「はい。栗原さんの依頼で。少々危険かもしれないので、それなりに装備をさせて頂きます」
 善場「承知しました。栗原さんというのは、栗原蓮華の関係者ですね?」
 愛原「その祖父の方からです」
 善場「なるほど。何か情報を言ってましたか?」
 愛原「大江山の鬼のことです。鬼狩りの家系である栗原家は、関西の方も警戒しているようで、そこの情報でした。正直、善場主任の方と被る恐れがありますが」
 善場「ということは、あの鬼の兄妹の事ですね?」
 愛原「そうです。源頼光に退治されたということから、それは酒呑童子のことだと思いますが、その末裔が今でも生きていると。ただ、それから何百年も経っているから、殆どは人間と変わらないと。それでも中には、先祖返りを起こす者がいると。そういう話でした」
 善場「さすがは鬼狩りの家系です。かなり真実に近いところまで知っているようですね」
 愛原「やはりそうですか?白井は“彼岸島”の五十嵐中佐みたいなことをしようとしたんですか?」
 善場「何を仰っておられるのかは分かりませんが、ロクでもない理由であったことは確かです」
 愛原「失礼しました」
 善場「それと、“鬼ころし”の件ですが……」
 愛原「あの、酒の?」
 善場「はい。もしも、リサに暴走の恐れがある時は飲用させて結構です」
 愛原「ええっ!?」
 善場「本来は未成年飲酒となり、違法ですが、調査の結果、有用であることが分かりましたので、それに関してだけは特例で認めます。後ほど正式に認められる見込みですので、先にお伝えしておきます」
 愛原「あ、ありがとうございます」
 善場「あくまでも、“鬼ころし”だけですよ?他の酒はダメですよ?」
 愛原「わ、分かってますよ」

 実はこの前、天長園に泊まった時、上野利恵から渡されたお土産がそれであった。
 牛乳パックのような容器に入ったものではなく、ちゃんと酒瓶に入ったものである。
 一応、保険としてウィスキーボトルに移し替えておこうかな。

 善場「満月の夜は暴走しやすい傾向がありますので、その時は保険として飲ませておくという手はありです」

 とのことだった。
 それは一考の価値ありだな。
 どうやら、京都で主任は色々と情報を仕入れたようである。

[1月6日06時30分 天候:晴 愛原家(新居)]

 それから翌朝。

 愛原「それじゃ、行ってくるよ」
 パール「お気を付けて」

 車の後ろに荷物を乗せ、私は助手席に。
 リサは助手席の後ろに座った。

 愛原「じゃあ、出してくれ」
 高橋「了解っス」

 高橋は車を出した。
 まずは、事務所前の細い道に出て、それから都道の三ツ目通りに出る。

 リサ「先生、朝はどこで食べるの?」

 リサが聞いてきた。
 今日のリサは、ショーパンではなく、黒いスカートを穿いていた。
 太ももが見えるほどのミニである。
 そういえばリサ、学校のジャージ以外で、太ももが隠れる服を着たことがあまり無いような気がする。
 スキーに行った時のウェアとか、着物や浴衣を着る時くらいか。

 愛原「高速のサービスエリアで食うさ。高橋、東北道経由で行くだろ?」
 高橋「まあ、ベタな法則ですね」
 愛原「そうなると、最初のサービスエリアは蓮田か」
 高橋「そうなります」
 愛原「ここから蓮田まで、どのくらいだ?」
 高橋「まあ、およそ1時間弱ってとこっスね」
 愛原「ということは、だいたい7時半くらいか」
 高橋「そういうことになります」
 愛原「ちょうどいい時間じゃないか。リサ、そこで食うよ」
 リサ「分かった。7時半くらいね」

 リサは頷くと、グレーのパーカーのフードを被り、座席をリクライニングした。
 どうやら、少し寝るつもりであるようだ。

 高橋「着くまで寝てるとは、いい身分ですね」
 愛原「別にいいだろ。どうせやることないんだから」

 リアシートから後ろの窓ガラスにはスモークが貼られているので、外からリサの様子は見えないはずだ。

 愛原「今回は仕事なんだから、お前のタバコ代とジュース代以外は俺が面倒看てやる」
 高橋「あざざーっす!」
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“私立探偵 愛原学” 「栗原家からの情報」

2023-08-07 11:43:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月5日13時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所(新事務所)]

 事務所に入ると、やはり来訪者は栗原重蔵氏だった。
 栗原重蔵氏と、黒服の付き人である。
 重蔵氏は、紋付き袴を着用していた。
 蓮華の祖父で、道場師範ということもあり、その風格は凄まじい。

 栗原重蔵「早い時間に来てしまって、申し訳ないですな」
 愛原「いえ。こちらこそ、御足労ありがとうございます」

 前の事務所と違い、応接室は無いので、パーテーションで仕切っている。
 既にパールは、ちゃんと重蔵氏にお茶を出していたようだ。
 そこの抜かり無さは、元メイドである。
 私は向かいのソファに座った。

 愛原「それで本日、お話というのは何でしょう?」
 重蔵「まず、蓮華のことですが……。今朝方……」
 愛原「け、今朝方……」
 重蔵「目を覚ましました」
 愛原「おおっ!」

 一瞬、亡くなったのかと思った。
 重蔵氏の間は、嬉し泣きによるものだった。

 重蔵「ですが、まだ油断はできません。全身火傷ですから、更に孫にとっては、過酷な治療が待っていることでしょう」
 愛原「は、はい。でしょうね」

 皮膚移植とかあるだろうし、他にも感染症とかにも気を付けないといけないんだっけか。
 確か、京都アニメーション放火殺人事件の犯人も、全身火傷を負って治療中だ。
 あれと同じ治療法をするのだろうか。

 重蔵「より高度な治療を受けさせる為、都内の大学病院に転院させることが決まりました。那須赤十字病院に搬送されてましたが、その関連病院である慶應義塾の病院に転院することになりましてな」
 愛原「大学病院ですか。それはいいかもしれませんね。京都アニメーション放火事件の犯人も、1度は赤十字病院に運ばれたものの、その後、大学病院に転院したという話ですから」
 重蔵「うむ。ドクターヘリで搬送するのは、少し大変でしたがな」
 愛原「あー、でしょうねぇ……」

 慶應義塾大学病院の最寄り駅は創価学会の本部の最寄り駅でもあるJR信濃町駅だが、都営大江戸線の国立競技場駅からでも徒歩圏内であるからして、保護者からしてもそちらの方がいいだろう。

 重蔵「今はまだ面会謝絶の状態だが、彼女はまだ若い。きっと、驚異的な回復をしてくれると信じています。面会できるとなったらば、必ず面会して頂きたいのです」
 愛原「分かりました」
 重蔵「以前、区内の病院に入院していた時、愛原さんの見舞いがよほど嬉しかったようで、今でもその時の見舞いの品を大事にしているほどです」

 それ、電マじゃね?

 愛原「仕事の依頼は、それだけですか?」
 重蔵「いえいえ。まさか、そんな。今のはほんの前座でして……。真打は、これからです。おい」
 付き人「はっ」

 重蔵氏は傍らに立つ付き人に合図を送ると、彼が持っている書類を受け取った。
 そして、それをテーブルの上に出す。

 重蔵「これは日光の家の間取り図です」
 愛原「これは、私達が以前泊まった民泊施設ですね?」
 重蔵「そうです。不動産関係を当たりまして、ようやく当初の間取り図を手に入れることができました。愛原さん、あなたの推理は正しかった。あの家は、確かに2階建てだったのです。そして、地下室付きだった」
 愛原「地下室!?」

 そんな痕跡なんかあっただろうか?
 まずは、2階の間取りを見て見る。
 やはり、玄関横の物置部屋は階段室になっていた。
 あの物置部屋には、かつて階段があったのだ。
 その階段を上り、2階に行くと……。

 愛原「仏間!?」

 間取り図には確かに10畳間があり、そこには『仏間』と書かれていた。
 つまり、仏壇を安置しておく部屋である。
 階段を上って、すぐの所に引き戸の表示がある。
 和室だったので、襖か何かだろう。
 それを開けると10畳間があり、そこは仏間だったというのだ。
 もちろん、あくまでも部屋の用途が表向きそれになっていたというだけで、本当に仏壇が置かれていたかどうかまでは分からない。
 とにかく、天長会の集会施設だった頃は、ここで『鬼になる儀式』が行われていた。
 上野利恵も、『鬼の男』大江山鬼之助もここでその儀式を受け、鬼となった。
 尚、妹の大江山殺鬼は那須塩原の天長会施設で受けている。

 愛原「下に下りる階段なんて……」

 物置部屋の床には、フローリングが敷かれていた。

 重蔵「地下に下りる階段を撤去した後、その穴を塞いだのでしょうな」
 愛原「なるほど……」

 間取り図を見ると、いくつか部屋が分かれており、『事務室』や『仮眠室』、『トイレ』や『倉庫』といった物に分かれていたようだ。

 愛原「! この梯子は……」

 私は地下室の間取りを見ていたが、もう1つ、階段とは別の物を見つけた。
 それは玄関横の階段よりもう少し小さい階段の表記。
 まるで、梯子に見えた。
 『非常はしご』と書かれている。
 地下室は逃げ場が少ない為、もしも火災などで通常の階段から逃げられない場合、この梯子から逃げられるようにしたのだろう。
 問題は、その梯子が地上のどこに通じているかというと……。

 愛原「あのマンホールだ……」

 家の中庭にあった汚水のマンホールであった。
 あれは下水道に通じるマンホールではなく、地下室に通じるマンホールだったのだ。
 すると、あれを開けた時に臭った血の臭いとは……?

 愛原「知らず知らずのうちに、あそこで寝泊まりしてしまったということですか……」
 重蔵「とんでもない話です。すぐに不動産事業部に言って、あの民泊施設は廃止にするようにします。他にもありまして……」
 愛原「えっ?」

 重蔵氏が更に紙をめくると、それは京都の大江山のことだった。

 愛原「確か、NPO法人デイライトの職員も調査に向かっているはずです」
 重蔵「こちらでも、色々と調査をしましてですな。調査といっても、こちらで既に分かっていることのおさらいですが」
 愛原「あの鬼の兄妹のことについてですか……」
 重蔵「はい。源頼光公やその家臣達によって、大江山の鬼達は成敗されたはずですが、その生き残り達の末裔は今もいます。もちろん数百年に渡り、人間と交わることで、その血はとても薄いものとなっており、今では人間と何ら変わらぬ状態となっています」
 愛原「はあ……」
 重蔵「だが、中には『先祖返り』を起こす者がいて、うちの一族の中でも京都に住む者が監視に当たっているのです。蓮華が成敗したのも、そこからの情報によるものでした」

 西日本に潜んでいた日本版リサ・トレヴァーの『3番』と『5番』は、蓮華が退治した。
 重蔵氏の見立てでは、先祖返りを起こした例の兄妹が暴れているものだというが、私はそんな単純なものではないと思った。
 確かに、先祖返り自体は起きたのだろう。
 それでも、何百年と経って鬼の血が薄まっている現代だ。
 大したものではないだろう。
 ましてや、火を吹いたり、氷の息を吹いたりまではできないはず。
 それに目を付けたのが、白井伝三郎ではないだろうか。

 重蔵「私共の力では、もはや数百年も前の妖術を自由に操る鬼の調伏は難しいと思われます。どうか、鬼を飼い馴らせている愛原さんのお力をお借りしたい」

 栗原家から見れば、私とリサの関係はそのように見えるらしい。
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