報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「東海道本線1640E列車の旅」

2022-04-18 12:30:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日16:06.天候:晴 静岡県熱海市 JR熱海駅→東海道本線1640E列車5号車内]

〔「5番線に停車中の電車は、16時6分発、東海道本線、上野東京ライン回り、宇都宮線直通の普通列車、小金井行きです。まもなく発車致します。ご利用のお客様は、車内でお待ちください」〕

 私達はグリーン券を手に、5号車のグリーン車に乗り込んだ。
 荷物もあったので、帰りは2階席では無く、連結器に近い平屋席に乗り込んだ(2階席と1階席には荷棚が無いが、平屋席には荷棚がある)。

〔この電車は東海道本線、上野東京ライン、宇都宮線直通、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください〕

 ホームから発車メロディが微かに聞こえてくる。
 メロディは他の駅でも聴ける汎用的なものであった。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 合成の、発音が少しおかしい自動放送が流れる。
 それでも電車は、定刻通りに発車した。
 グリーン車に乗っていると気付かないが、実はこの電車、たったの10両である。
 平日ダイヤは15両で運転するのかもしれないが、三連休でも乗客の多い線区でこれは混みやすいと思う。
 多分、普通車は混んでいるはずだ。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東海道本線、上野東京ライン、宇都宮線直通、普通電車、小金井行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、ご了承ください。次は、湯河原です〕

 車内の自動放送は合成ではなく、ちゃんとした声優さんを使っているので、発音もイントネーションも不自然な所は無い(が、山手線では外国語の音声が何回も交換されていることは【禁則事項です】。明らかに一時期は外国人声優がテンション低い喋りだったり、駅名の部分の発音がおかしかったりと【禁則事項です】)。
 英語放送の後は、車掌の肉声放送が流れる。

〔「……電車は短い10両編成です。【中略】座席は譲り合ってお掛けくださいますよう、御協力をお願い致します。次は湯河原、湯河原です」〕

 湯河原も温泉地だし、途中に小田原という箱根への入口があることから、もっと混むんじゃないか、この電車。
 グリーン車は、まだそこまでではないが、多分途中でグリーン車すらも満席になると思われる。
 まあ、これが本来のコロナ前の姿ではあったのだが(但し、やっぱり外国人観光客の姿が少ないという点は高評【バキューン】)。

 アテンダント:「失礼致します。グリーン券はお持ちでいらっしゃいますか?」
 高橋:「あ、はい。あります」

 グリーンアテンダントというと、女性を思い浮かべるが、中には男性アテンダントもいる。
 それは新幹線や特急の車販も同じ。
 で、今回は男性だった。

 高橋:「先生、キップですって」
 愛原:「あ、そう」

 私はがっかりしたように、高橋に自分のグリーン券を渡した。

 高橋:「2人分っス」
 アテンダント:「ありがとうございます」

 高橋と大して歳の変わらぬ男性アテンダントは、青い検札印を押して高橋に返した。

 リサ:「にひひ」

 リサは私が女性アテンダントに目や気を取られる心配が無くなったと、ニヤリと笑った。
 因みに、いつもはリサが窓側に座っているが、今回は通路側に座っている。

 リサ:「サイトー、グリーン券」
 絵恋:「あ、はい」

 リサは絵恋さんからグリーン券を受け取ると、男性アテンダントに渡した。

 アテンダント:「ありがとうございます」

 まあ、男嫌いの絵恋さんとしては、この方が良かったか。

 リサ:「これは記念になる。サイトーと最後の旅行をした記念」
 絵恋:「うん……。そうだね」

 その時、私のスマホにメールが着信した。
 それは善場主任からだった。

 善場:「今、東海道本線の電車内ですね。列車番号と乗車車両を送信してください」

 とのことだった。
 しまった!
 リサを中間車に乗せる場合、善場主任にその旨、送信しないといけないんだった。

 愛原:「すいません。この電車の列車番号は何番ですか?」
 アテンダント:「は?1640Eです」
 愛原:「あ、すいませんね。ありがとう」

 まさか列車番号を乗客に聞かれると思っていなかったのか、アテンダントも少し驚いたようだった。
 いつもなら事前に調べるか、電車のフロント部分に列車番号が表示されているので、それを入力するのだが。

 愛原:「列車番号は1640E。乗車車両は5号車です」

 と、送信すると、

 善場:「了解です。ありがとうございます」

 という返信が来た。
 それにしても、中距離電車の列車番号はMだったと思うが、いつの間に他のアルファベットを使うようになったのだろう?
 上野東京ラインが開通してからか?
 他のアルファベットはD以外、いわゆる『国電』や『ゲタ電』に付けるイメージだったのだが、もしかして中距離電車もそれ扱いになったのだろうか。
 一応、Mは『電車を使用した列車(汽車)』という意味だったはずだが……。
 鉄ヲタでもない人から見れば、何のこっちゃ?と思うかもしれないな。

[同日17:46.天候:曇 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔次は東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです〕

 この時間辺りから、外は薄暗くなり始める。
 晴れていれば西日が眩しいのかもしれないが、都内に入ったら曇って来たので、そんなことはない。
 西日が眩しくない代わりに、薄暗い。
 夜は一雨でも来るのだろうか。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京です。到着ホームは7番線。お出口は、右側です。この電車は上野東京ライン、宇都宮線直通の普通列車、小金井行きです。東京で5分ほど停車致します。発車は、17時51分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 電車は軽やかに有楽町駅を通過すると、カーブを曲がって東京駅のホームに入線した。
 かつては東海道本線の普通列車が発車するホームであったが、今は東海道本線からの上野東京ライン下りホームとなっている。

 愛原:「大宮からはどうするの?」
 絵恋:「タクシーで帰ります。母からタクシーチケット、もらってますので」
 愛原:「そうか」

 恐らく斉藤元社長の末路からして、斉藤家は今後、没落する運命にあるだろう。
 金のある今のうちということか。
 そして、そんな絵恋さんも……。

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、上野に止まります〕

 電車がホームに停車する。
 私達は先に電車を降りた。
 東京駅での下車は多かったが、その分乗車も多く、大して空いたわけではない。
 が、それでも高崎線より空いている宇都宮線ということもあり、東海道線内よりは乗客が減っただろうか。
 リサと絵恋さんが残り少ない時間で、別れを告げている。
 本当の最後というわけではないだろうが、残りの時間を大切にしてもらいたい。
 因みに私はというと、善場主任からのメールのやり取りをしなくてはならなかった。
 話があるので、連休明けの火曜日に事務所に来たいということだった。
 私から伺おうと思っていたのだが、主任の方から来てくださるとは助かる。
 そんなやり取りをしているうちに、停車時間の5分はあっという間に過ぎた。
 ホームにけたたましい発車ベルが流れる。
 東海道本線下りホームは発車メロディだが、上野東京ライン下りのホームはベルである。

 高橋:「おい、さっさと戻れ」

 高橋が絵恋さんを車内に促す。
 そして、電車は定刻通りにドアを閉めた。
 まるで機関車牽引の客車列車よろしく、ゆっくりとした発進だったが、その後はスーッと加速していった。

 愛原:「本当の最後というわけではないだろうから、また会えるさ」
 リサ:「そうだね」

 リサは寂しそうな顔はしていたが、特に泣いているという感じはなかった。
 高橋に言わせると、泣きそうな顔をしていたのは絵恋さんの方だった。
 まあ、そうだろう。

 愛原:「よし。ちょうど夕食時だ。何か食べて帰ろうか」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します!」

 私達はコンコースへの階段を下りて、一先ずは改札口へと向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「最後の温泉」 2

2022-04-17 20:07:30 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日13:00.天候:晴 静岡県熱海市 マリンスパあたみ]

 午前中、プールで遊んだ私達は館内のレストランで昼食を取った。
 東京方面から見て静岡県に入ったばかりの町だというのに、ここで富士宮焼きそばが売られているのにはびっくりした。
 肉好きのリサは、カツカレーを注文している。
 私は普通のビーフカレーを注文した。

 愛原:「食べ終わったら、今度は温泉に行こう。今度は水着無しの全裸入浴だ」

 もちろん、水着着用エリアの健康温浴室もあった。
 それらは水着で入る健康ランド的な感じであった。
 午後は、大浴場に入ろうと思う。

 高橋:「帰りはどのタイミングにしますか?」
 愛原:「そうだな……。各駅停車の鈍行で帰りたいから、あんまり遅くなるのもな……。あと、まだ土産買ってないだろ。その時間も考慮しないといけない」
 高橋:「そうですね」

 昼食を食べ終わった後は、予定通り、大浴場に入る。

 愛原:「ここからも海が見えるのか。ホテルの大浴場とはまた違った風景だな。さすが、海の見える大浴場だ」
 高橋:「俺は先生の勇姿が絶景です」
 愛原:「え?」
 高橋:「あれ?違った意味で、大欲情っスか?」
 愛原:「やかましいわ!何が違った意味で大欲情だ!ここでゲイ出すんじゃねぇ!」
 高橋:「それよさっき、電話あったじゃないスか?姉ちゃんですか?」
 愛原:「きっと斉藤元社長が見つかるまで、休み返上なんだろうなぁ……」
 高橋:「見つからないんスか?」
 愛原:「見つからないらしい。目撃情報によれば、怪しい救急車が港の方に走って行ったらしいが、それだけだ」
 高橋:「怪しい救急車?それは黄色い救急車、通称イエローピーポーとか……」
 愛原:「なワケあるか!見た目は普通の救急車だったそうだ。てか、何でオマエの歳で黄色い救急車知ってるんだ?」

 私の歳なら子供の頃、奇人変人を見たら、『ヤベッ!イエローピーポーだ!w』と囃してたものだ。

 愛原:「多分、港から船に乗ったんだろうなぁ……」
 高橋:「船。それは顕正号とか正信号、あるいはクイーン・ゼノビア号みたいな……」
 愛原:「そんな大きな船だったら目立つだろう。多分、目立たない小型の船だろうな。漁船とかクルーザーとかだったら目立たないんじゃないか?」
 高橋:「それでどこ行ったんスかね?」
 愛原:「日本の領海ではないだろうな。そしたらいくら何でも拿捕される。ロシア船籍の船なら、ロシア近海を航行していても、別にロシア側からは拿捕されないからな。俺が思うに、樺太周辺とか、北方四島付近とかじゃないか?」

 日本領でありながら、日本政府が手出しできない場所。
 犬鳴村の伝説にある『この先、日本国憲法は無効です』が本当に通用する所。
 そういう所を航行しているのだろう。
 ……航行して、その後は?

 愛原:「本当に“青いアンブレラ”も分からんな」
 高橋:「善場の姉ちゃんが警戒するのも、何だか分かる気がします」
 愛原:「お役人として、一民間企業が世界の役所を差し置いて活躍するのが気に入らないだけかもな」
 高橋:「あ、なるほど」

[同日15:00.天候:晴 同市内 マリンスパあたみ→送迎バス車内]

 帰りは施設が運行している送迎バスに乗った。
 これなら駅まで無料で、しかも直行で戻れる。
 もう一度あの奇抜なバスに乗りたいと思ったが、あまり遅くなるわけにもいかない。

 運転手:「お待たせしました。では、発車します」

 マイクロバスは、ほぼ満席の状態で発車した。
 私達は1番後ろの席に並んで座った。

 愛原:「やー、随分と堪能したな。リサ達はどうだった?」
 絵恋:「楽しかったです」
 リサ:「またお腹空きそう」
 愛原:「食べた後、温泉しか入ってないが?」
 リサ:「サウナも行ったよ?新陳代謝が上がり過ぎて、汗が止まらなかったの。そしたら、またお腹空いて来た」
 愛原:「マジかよ……」
 高橋:「食う事ばっかかよ」

[同日15:15.天候:晴 同市内 JR熱海駅]

 バスは多少道路混雑に巻き込まれたものの、無事に熱海駅前に到着した。

 愛原:「それじゃ、帰る前に土産を買うか」
 高橋:「先生、何にしますか?」
 愛原:「熱海の地ビールかな?」
 高橋:「それはいいですね」

 駅ビルの“ラスカ”に入り、そこで土産物を物色する。
 善場主任には菓子折りを購入したが、私達はというと……。

 愛原:「これ、小田原の蒲鉾じゃね?」
 高橋:「つまみにはいいですよね?」
 愛原:「あー、まあ確かにな」

 酒関係になり、リサ達は……。

 リサ:「湯のたまご?これ、美味しそう」
 絵恋:「じゃあ、これにする?」

 お菓子関係になった。
 因みに熱海は伊豆半島への入口にもなっているせいか、伊豆のお土産も混じって売られていた。

 愛原:「これは明後日、善場主任に持って行く」
 リサ:「わたしも挨拶に行った方がいい?」
 愛原:「あー、そうだな……。いや、別にいいよ。何なら、俺1人で行ってもいいし」
 高橋:「え、マジっスか?」
 愛原:「だって土産渡してくるだけだし。あとはせいぜい、情報交換くらいだろう」
 高橋:「俺は何をすれば……?」
 愛原:「事務所で留守番しててくれよ?リサと一緒に」
 高橋:「はあ……そうですか」

 高橋はガックリと頭を垂れた。
 駅の方に移動し、自動券売機に向かう。

 愛原:「さすがに普通車ではキツいので、グリーン車に乗ろう。東京駅までと……」
 絵恋:「あ、私、大宮の実家に帰るので……」
 愛原:「分かった。それじゃ、絵恋さんは大宮までだな」

 私は券売機で東京までのグリーン券3枚と、大宮までのグリーン券1枚を購入した。

 愛原:「じゃあ、これは絵恋さんの分」
 絵恋:「ありがとうございます」

 乗車券はSuicaやPasmoを使う。
 駅構内に入ると、すぐにホームには行かず、トイレに行ったり、ジュースを買ったりした。
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“私立探偵 愛原学” 「マリンスパあたみ」

2022-04-17 15:56:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月20日10:13.天候:晴 静岡県熱海市 大学病院前バス停→東海バス“湯~遊~バス”車内]

 ホテルをチェックアウトした私達は、最寄りのバス停に向かった。
 そこでバスを待っていると、奇抜なデザインのバスがやってきた。
 明らかに観光客向けの市内循環バスである。
 似たような物は仙台でも“るーぷる仙台”として運行されているし、横浜では“赤いくつ”が有名だろう。
 鎌倉でも似たような物が運行されていなかったか。
 そしてそれは、熱海でも同様であるようだ。
 バスは私達の前で停車した。
 そして、前扉を開ける。

 運転手:「1回乗車ですか?」
 愛原:「はい」
 運転手:「先払いで250円です」

 このバス会社の市内路線のみ有効の1日乗車券が売られているが、そこまでバスに乗る予定の無かった私は1回乗車を選択した。
 運賃は均一性で、どこまで乗っても同じ。
 熱海駅始発ということもあり、既に先客が座席を専有していた。
 私達は海側に向かって、吊り革に掴まる。
 バスは私達を乗せると、すぐに発車した。

〔次はお宮の松、お宮の松でございます。……〕

 他の観光客向けの循環バスでは、次停車停留所の名前だけでなく、その周辺の観光案内も流れる。
 それは何も、“湯~遊~バス”に限ったことではない。
 バスは海沿いの道を進む。
 途中のバス停にもあるように、海水浴場の前も通る。
 この為、海水浴シーズンは観光の車でよく渋滞するのだと、高橋が言った。
 このバスも、その時はもっと混むのだろう。
 また、国道135号線を走行しているのだが、途中で一方通行になる区間がある。
 渋滞対策でそのようにしたようだ。

[同日10:23.天候:晴 同市内 マリンスパあたみバス停→マリンスパあたみ]

 海水浴シーズンではないとはいえ、さすがに三連休中で尚且つ蔓延防止解除直前ということもあり、観光客の車で混雑している所があった。
 そういう所があった為に、バスも定刻より遅れたことだろう。
 しかし、そんなことは気にする必要は無い。
 こっちは、時間はたっぷりあるのだから。

〔「ご乗車ありがとうございました。マリンスパあたみです」〕

 降りる時は、中扉から。
 私達以外にも下車する乗客がいた。

 愛原:「さあ、着いた」
 リサ:「む、色々着込まないといけないスキーよりも、殆ど裸でいいプールの方がいい」
 愛原:「水着着用できない所もあるみたいだからな」
 リサ:「全裸ゾーン!」

 リサは鼻息を荒くして反応した。

 愛原:「その表現は正しいけど、オマエが言うと何だかなぁ……」
 高橋:「じゃあ、俺が言います!全裸ゾーン!」
 愛原:「いや、何だかなぁ……」

 人外と人外同様の性癖を持った者が言うから、モヤモヤするのかもしれない。

 愛原:「それじゃ、俺達はこっちだから」
 リサ:「また後で」

 料金を払って、それから更衣室へ。

 高橋:「先生、先にプールっスか?」
 愛原:「午前中、思いっ切り泳いで、午後は温泉にゆっくり浸かって帰るのがいいだろうと思ってね」
 高橋:「さすが名探偵です」
 愛原:「いや、探偵関係無いだろ」

 水着に着替えてプールに向かう。
 さすがに季節柄、屋外のプールはまだ使えないようだ。
 しかし、ウォータースライダーは使える。

 リサ:「サイトー、あれ!あの滑り台行こ!」
 高橋:「ウォータースライダーって言えよ……」

 高橋は苦笑した。
 私は手持ちのカメラを用意する。

 リサ:「先生、わたしとサイトーが滑り台から下りて来る所、撮って!」
 愛原:「ああ、分かった」
 高橋:「だから、ウォータースライダー」

 リサと絵恋さんは、ウォータースライダーのスタート地点に向かった。

 愛原:「距離は普通か」
 高橋:「全長73メーターってありますね」
 愛原:「だいたいフル規格の新幹線車両3両分か。まあまあの長さだな」
 高橋:「は、はあ……。あ、そうだ、先生」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「あのウォータースライダーなんスけど、ああいうヤツってたまに変なハプニングが発生したりするんスよ?」
 愛原:「ハプニング?何だ?1人ずつ滑るから、ぶつかるなんてことはないだろ?」
 高橋:「いや、そういうことじゃないっス。リサの奴はいいんですけど、あのレズガキの方はハプニングが発生しやすいかなぁ……と」
 愛原:「何のこっちゃ???」

 私は首を傾げながらカメラをスライダーの出口に向けた。
 先にリサが滑り下りて来る。
 しかも着水の際、わざわざ1回転するパフォーマンスぶり。
 これをやりたかったのか?

 リサ:「華麗」
 愛原:「あ、ああ!上手いぞ!」
 高橋:「ああ、今日の昼飯はカレーな」
 愛原:「そっちのカレーじゃない!」

 次は絵恋さんの番だが……。

 絵恋:「きゃーっ!見ないでぇーっ!」

 着水する時に、既に両手で胸を隠していた。
 どうやら、途中でビキニブラが取れたらしい。

 リサ:「ちょっと行って来る」
 愛原:「あ、ああ、頼む」

 高橋は右手で頭をかいた。

 高橋:「たまーにあるんスよねぇ、こういうこと……」
 愛原:「そうなのか!?」
 高橋:「リサのはピッタリしたスポブラタイプなんで、ああいうハプニングはまず発生しないんスけど、タートルネックのブラって、結び方が緩いと滑ってる最中にああなるんスよ」
 愛原:「随分詳しいけど、過去にもそういう経験あるのかい?」
 高橋:「まあ、無いって言ったらウソになります」
 愛原:「あるんじゃねぇかよ!なにウソつこうとしてんだよ!?」

 尚、この時、私はカメラを止めるのを失念していた。
 その為、このカメラが見た決定的瞬間は、お宝映像として保存されることになった。

 リサ:「はい、サイトー」

 リサは後で流れて来た絵恋さんのビキニブラを回収すると、それで着け直してあげた。
 その際、外れないようにキュッとキツめに結んであげたようだ。

 絵恋:「うう……リサさん、ありがとう……。でも……恥ずかし過ぎる……」
 リサ:「今度はキツく締めたから大丈夫」
 絵恋:「ありがとう……。最近、胸がキツくて緩めてたから、まさかこんなことになるなんて……」
 リサ:「ほお……

 リサ、絵恋さんのブラを緩める。

 リサ:「サイトー、もう一回滑りに行く。異論は認めない」

 リサ、絵恋さんの手を握ると引っ張った。
 あれだけ緩いと、また外れてしまうだろう。
 いや、さっきよりも緩いせいで、胸がブラからはみ出そうだ。

 絵恋:「あっ、ごめんなさい!許してください!謝罪!」
 リサ:「滑り台の上から、直接プールまで自由落下の刑に処す!」
 絵恋:「やめてください!死にます!」

 リサ、ロリ体型貧乳を気にする。
 あれだけバクバク食べているのに体が大きくならないのは、変化の時の際のエネルギーに費やされているからだという。
 GウィルスとTウィルスの混合に感染した者に見られる傾向なのだそうだ。
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“私立探偵 愛原学” 「熱海温泉」 4

2022-04-14 20:17:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月19日21:00.天候:曇 場所不明(とある会場) とある船舶(医療船?)]
(ここの項目は三人称です)

 高野:「斉藤さん、消灯の時間ですよ」

 まるで病院の処置室のような場所に斉藤秀樹はいた。

 秀樹:「まるで入院患者だな」
 高野:「そうですよ。斉藤さんは、御自分で『全治1ヶ月だ』と仰ったではありませんか。“青いアンブレラ”も鬼ではありませんから、病院から連れ出して『ハイ、さようなら』なんてマネはしませんよ」
 秀樹:「救急車のような物に乗せられて、また別の病院に行くかと思ったら、まさか船とはな。これは病院船かね?」
 高野:「そうですね。似たようなものです」
 秀樹:「私はケガが治るまで、ここにいなくてはならないのだね?」
 高野:「はい、そうしてください。ここにいる限り、斉藤さんの安全は保障します。ですが、私達の指示に従えない場合は【お察しください】」
 秀樹:「分かった。これから消灯時刻のようだが、明日の起床時刻は?」
 高野:「6時半となっております」
 秀樹:「6時半か。……壁に時計はあるな」
 高野:「はい」
 秀樹:「トイレは自由に行っていいんだろ?」
 高野:「そうですね。廊下を出てすぐの所にありますから。ただ、みだりに船内を歩かないでください。警備兵も乗船してますので……」
 秀樹:「分かった。気を付けよう」

 秀樹は先にトイレに行くことにした。
 まるで、船内は海に浮かぶ診療所といった感じだった。
 そりゃ病院船なんだから、当たり前と思うだろう。
 しかし、傷病兵を輸送する為の軍艦としての病院船とは違うような気がした。
 受付や待合室ロビーの造りを見ると、離島を回る巡回診療船のような気がした。
 これが日本の船なのか、或いはロシアの船なのかは分からない。
 船内にあるはずの案内板は全て取り外され、非常口や身障者マークのピクトグラムしか無かったからだ。
 トイレの丸窓から外を見ると、真っ暗であったが、少なくとも海の上であることは分かった。

 秀樹:「これからどうなるのやら……」

 トイレから出て廊下を歩くと、高野の言う通り、武装した警備兵と出くわした。

 警備兵:「!」

 警備兵は持っていたショットガンを秀樹に向ける。
 秀樹は両手を挙げた。

 秀樹:「トイレに行ってただけだ。すぐに戻るよ」

 どうやら日本語が通じるのか、或いは両手を挙げたのが功を奏したのか、警備兵は銃を下ろした。
 そして、松葉杖で歩きながらも処置室に戻った。

 秀樹:「なるほど。警戒は厳重のようだ」

 室内の洗面所で水を飲む。
 コップもあったから、飲用可能だろう。
 実際飲んでみたが、変な味はしなかった。

 秀樹:「まあいい」

 秀樹はベッドに横になると、布団に潜り込んだ。
 少なくとも、ケガが治るまでは、すぐに殺すわけではないらしい。

[3月20日07:00.天候:晴 静岡県熱海市 KKRホテル熱海・客室フロア→レストラン]
(ここから愛原視点の一人称です)

 枕元のスマホがアラームを鳴らす。

 愛原:「もう朝か……。高橋、起きろ」
 高橋:「うっス……」

 私はアラームを止めて起き上がった。

 高橋:「朝風呂行くんスか?」
 愛原:「今日は昼風呂に入るんだから、朝はいいだろう。それより顔を洗って、朝飯食いに行くぞ」
 高橋:「うス」

 私はテレビを点けた。
 朝の情報番組では、相変わらずロシアのウクライナ侵攻について報道していた。
 たまに全国のニュースが流れるが、どうもウラジオストクに連れて行かれた日本人達の今後の雲行きが怪しいらしい。
 ロシア政府が非友好国に指定した日本にそっぽを向いているせいで、日本人乗客達のケガが治っても、本当に帰国できるかどうか不明とのことだ。
 このまま日本人達が人質に取られる恐れがあると、評論家が言っている。
 で、斉藤元社長の行方については、未だに不明のままだ。
 “青いアンブレラ”も、知らぬ存ぜぬを繰り返しているらしい。
 どうやらBSAAもそうだが、“青いアンブレラ”も一枚岩ではないようだ。

 高橋:「先生、浴衣のままでいいんでしたっけ?」
 愛原:「どっちでもいいと思うよ。まあ、どうせここではもう風呂には入らないから、俺は私服に着替えるけど」
 高橋:「じゃあ、俺もそうします」

 朝の支度が変わる頃、7時半くらいになる。
 私は隣の部屋に内線電話を掛けてみた。

 リサ:「もしもし?」
 愛原:「おはよう、リサ。どうだ?もう準備はできたか?」
 リサ:「今、準備してるとこ」
 愛原:「絵恋さんの具合、どうだ?もう落ち着いたか?」
 リサ:「うん。昨夜思いっ切り泣いたら、少しスッキリしたみたい」
 愛原:「そうか。それじゃ、朝食、一緒に行くか?」
 リサ:「うん、もうすぐ終わるから待ってて」

 電話の後でリサ達の方から部屋にやってきた。

 愛原:「おはよう。絵恋さん、昨日は悪かったな?」
 絵恋:「いえ、何も無かったですから」
 愛原:「そうか」
 リサ:(『それなら今日は、お詫びに先生が……オマエに浣腸してやろう!』『きゃあーっ!』『いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか』)( ̄m ̄〃)
 高橋:「リサ、オマエなにニヤニヤしてんだ?」
 リサ:「何でもなーい!」

 エレベーターに乗り込み、1階のレストランに向かう。

 スタッフ:「いらっしゃいませ。おはようございます」
 愛原:「4名です」
 スタッフ:「4名様ですね。こちらへどうぞ」

 席に案内された後、朝食券をスタッフに渡した。

 リサ:「食べ放題じゃないの?」
 愛原:「コロナ対策で、バイキング形式じゃなく、定食形式らしいな」
 リサ:「うう……マジか」
 愛原:「これから行くスパは、10時にオープンだから、それに合わせて着くように行こう。最寄りのバス停からバスに乗れば、そこに行けるから」
 リサ:「分かった」
 愛原:「土産は……駅前とかで見繕えるだろう」
 高橋:「誰に買って行くんスか?」
 愛原:「善場主任に決まってるだろ!誰のおかげで、こんなリゾートホテルに泊まれたと思ってんだ!」
 高橋:「さ、サーセン」

 高橋もたまに間の抜けることがあるな……と、私もかw
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“私立探偵 愛原学” 「熱海温泉」 3

2022-04-14 14:40:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月19日20:00.天候:晴 静岡県熱海市 KKRホテル熱海・客室フロア(愛原と高橋の部屋)]

 部屋に戻ってまったり過ごしていた私達に、電話が掛かって来た。
 私のスマホで、それは善場主任からだった。

 愛原:「はい、もしもし?」
 善場:「お疲れ様です。善場です。今、熱海のホテルですね?」
 愛原:「そうです」

 私はテレビの音量を下げると、窓際の椅子に移動した。

 善場:「どうですか、熱海は?楽しんで頂けてますか?」
 愛原:「はい、おかげさまで」
 善場:「今日はこのままホテルに宿泊ですね?」
 愛原:「そうです。明日は市内の別の所を回って、温泉に入ろうかと思います」
 善場:「さすが愛原所長は温泉好きですね」
 愛原:「いや、ハハハ……」
 善場:「面白い所に連れて行ってあげるといいですよ」
 愛原:「この時期にプールに入って泳げるなんて、なかなか無いことだと思うので、明日は温泉とプール施設が一緒になっている所へ行こうと思います」
 善場:「なるほど。レジャー重視といったところでしょうか」
 愛原:「2人もアクティブに動くことが好きですから、そういう所の方がいいんじゃないかと」
 善場:「それはいいですね。帰京は夕方といったところでしょうか」
 愛原:「その予定です。各駅停車の鈍行で、ゆっくり帰ろうかと。熱海始発なので、余裕で着席できますし」
 善場:「そうですか。分かりました」
 愛原:「斉藤元社長の情報、あれから無いですか?」
 善場:「無いですね。情報筋の話では、“青いアンブレラ”の医療施設で療養中と言われていますが、それがどこなのかは分かりません」
 愛原:「そうなんですか」

 “青いアンブレラ”は民間軍事会社。
 さしものBSAAも、民間施設まで全て網羅しているわけではないらしい。
 それでもバイオテロの鎮圧に特化した組織なのだから、医療関係には詳しいと思ったが……。

 善場:「愛原所長も、“青いアンブレラ”からの連絡は無いのでしょうか?」
 愛原:「高野君ですか?無いですね」
 善場:「“青いアンブレラ”は、BSAAとは敵対関係には無いですが、協力関係にあるわけでもありません。いえ、ルーマニアの一件で、敵対関係に傾いたかも……といったところです」
 愛原:「それは欧州本部との軋轢であって、こっちのアジア側は違うでしょう?」
 善場:「……と、言われていますけどね。私は信じていません。特に、拘置所から脱獄してそのままという高野がいる所は……」
 愛原:「善場主任は高野君の事が嫌いなんですね」
 善場:「ストレートに仰いますね」
 愛原:「すいません」
 善場:「いえ、いいんですよ。エイダ・ウォンに似ているような気がして仕方が無いのです」
 愛原:「本人もそれを気にしていて、否定はしていますね」
 善場:「私は関係があるように思います」
 愛原:「血縁か何か?」
 善場:「……かもしれませんし」
 愛原:「いずれまた、彼女とどこかで会うのかもしれませんね。その時に話してくれれば良いと思います」
 善場:「その展開はとても期待できそうにないですね。あ、そうそう。それと、もう1つ」
 愛原:「何ですか?」
 善場:「“青いアンブレラ”が、日本にも進出しようとしているんですよ」
 愛原:「でも、日本じゃ軍事会社なんて認められないでしょ?」
 善場:「警備業法に基づく警備会社としての事業申請です」
 愛原:「警備会社を作るの!?」
 善場:「もちろん、公安委としては却下するようですが……」
 愛原:「でもまあ、欠格事由にはならないんじゃないですか?民間軍事会社は、別に反社組織でも半グレでもないんだし」
 善場:「私は公安委の人間ではないので、どういう判断をしたのかは分かりません。が、私が公安委の人間であっても却下するでしょうね」

 何か、感情論のような気がする。
 高野君の逮捕だって、あんまり大した理由じゃないんだよ。
 善場主任の機関が、“青いアンブレラ”を嫌ったが故の行動ではなかったのかと思う。
 ま、外国もそうだけど、日本でもお上に逆らうとどうなるかの見せしめは行われているので、その一環だろう。

 電話を切った私は、隣のリサ達の部屋に向かった。

 愛原:「ちょっといいかな?」
 リサ:「はい、どうぞー」

 浴衣姿のリサがドアを開けてくれた。
 中に入ると、ベッドの上に上半身だけ起こすような形で乗っている絵恋さんもいた。
 彼女もまた浴衣姿だった。

 愛原:「明日のことなんだけど、もう一回プールに入る気はないか?といってもこのホテルじゃなく、温泉も一緒になっている所へ行こうって話なんだけど……」

 よく見ると、室内には昼間彼女達が着た水着が干されていた。
 このホテルにはコインランドリーは無いので、室内の洗面所かシャワーで洗ったのだろう。

 愛原:「この市内にあって、ここからバスで行ける所だよ」
 リサ:「わたしは行く。先生が連れて行ってくれる所なら、どこでも」
 絵恋:「私もリサさんとなら、どこにでも行きます」
 愛原:「そうか。2人でプールで遊べる機会、今日で最後だなんて寂しいもんな。明日、もう一回楽しもう。何なら、一日中遊んでたっていいぞ」
 リサ:「なるほど。それは……」
 絵恋:「うぅぅ……」

 すると、何と絵恋さんが泣き出してしまった。

 愛原:「うおっ!?わ、悪い!ゴメン!!」
 リサ:「大丈夫。先生は悪くない」

 リサは絵恋さんのベッドの上に乗ると、肩を叩いて慰めた。

 絵恋:「ひっく……うう……」
 リサ:「先生。ここは、わたしに任せて」
 愛原:「わ、悪いな!ホント、泣かせるつもりはなかったんだ!」
 リサ:「分かってるよ」
 愛原:「明日は7時半から、同じレストランで朝食だから」
 リサ:「分かった」

 私は急いでリサ達の部屋を出た。
 気丈に振る舞っていた絵恋さんだったが、さすがに別れの感情は時折抑えられなくなるようだ。
 慌てて戻って来た私に、高橋は茶を入れてくれていた。

 高橋:「お帰りなさい。どうしました?まさかリサ達、また体操服にブルマで迫って来たんじゃ?」
 愛原:「いや、その方がまだ良かったよ」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「明日で最後って言ったら、絵恋さんに泣かれちゃって……」
 高橋:「あー、それは大変でしたねぇ……。どうぞ、お茶入れたんで」
 愛原:「ああ、悪いな」

 私がアツアツの湯呑みを持って、お茶を一口飲んだ時だった。
 また、私のスマホが着信音を鳴らす。
 また、善場主任だろうか。
 しかし、画面を見ると、善場主任でもリサでもなかった。

 愛原:「上野凛さんだよ」
 高橋:「ええ?」
 愛原:「もしもし?」
 上野凛:「愛原先生、こんばんは」
 愛原:「ああ、こんばんは。どうしたの?」
 凛:「私と妹の卒業旅行で、都内を案内して下さるそうで、ありがとうございます」
 愛原:「えっ?俺、何も聞いてないぞ!?何だ?善場主任から聞いたのか?」
 凛:「いえ。“青いアンブレラ”の人からですけど……」
 愛原:「“青いアンブレラ”!?」
 凛:「はい。そこの女の人からの電話です」
 愛原:「その女の人、高野って名乗ってなかったか?」
 凛:「あ、はい。そうです。昔、愛原先生と一緒にお仕事をなさっていた方だそうですね。愛原先生なら、喜んで引き受けて下さるので、期待していいということでした」
 愛原:「あ、そうなの……」

 高野くーーーーーーん!!

 高橋:「アネゴは一体、何考えてんスかねぇ……」

 高橋も火の点いていないタバコを咥えながら、ポカーンとしていた。
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