報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「緊急事態発生」

2019-08-03 13:22:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月3日12:30.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 稲生:「マリアさん、準備ができました!」
 マリア:「こっちもできた!早く魔法陣の中へ!」
 稲生:「はい!」

 マリアの屋敷の中庭。
 マリアは魔法陣を描いた。
 そして、稲生と2人で入る。

 稲生:「まさか父さんが突然倒れるなんて……」
 マリア:「人は誰でも死ぬ。ましてや私達は、何度もそれを目の当たりにする。『涙を枯らしてこそ一人前』なんて言う魔道師もいるけれど……」

 そこでマリアは考えた。

 マリア:(師匠にとっても勇太のダディはパトロンの1人だと思うが、置き手紙1つであっさりしているということは……どういうことだ?)
 稲生:「マリアさん、僕は準備OKです!」
 マリア:「ああ、分かった。じゃあ行くよ。……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 マリアは呪文を唱えながら魔法陣に聖水を振り掛けた。
 キリスト教会から忌み嫌われる魔女が聖水を使うとはこれ如何に?と思うかもしれない。
 本来、聖水はそういう風に使うわけではなく、そんな用途外に平気で使うところも嫌われる原因の1つなのである。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!我らを稲生勇太の実家へと誘え!Lu.La!」

 ホウキに乗らない魔道士は、長距離を一瞬で移動したい場合にこうした魔法を使う。
 エレーナのような上級者ともなると、ホウキに乗りながらワープを行えるようになる(ルゥ・ラと似ているが、違うらしい)。
 魔法陣から放たれた白い光に2人は包まれ、そしてその姿を消した。

[同日13:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家裏庭]

 ルゥ・ラという魔法は長距離であればあるほど、しかし短距離であればあるほどピンポイントでの到着が難しい。
 時空を移動する魔法である為、時間のブランクまで発生させてしまう。
 最悪、移動したい先に上手く着けても、そしたら何年も経っていたなんてこともあり得るのだ。

 稲生:「着いたー!」
 マリア:「時間と日にちは!?」
 稲生:「今日の13時です。30分しか経ってません!さすがはマリアさん!」
 マリア:「屋敷からちょうどいい距離だからね、何とかなった」

 ルゥ・ラという魔法は万能ではない。
 まず、移動したい先を頭の中に思い描く必要がある。
 なので基本的には、一度でも行ったことが無いとダメである。
 今ではグーグルマップのストリートビューなんかで、実際行ったことが無くても行った気になれるようになっているが、成功率はやっぱり低い。
 マリアは稲生の実家には何度もお邪魔している。
 つまり、記憶に強く残っている。
 イメージが強ければ強いほど、成功率は高くなる。
 なので、実際にルゥ・ラを使う理由は『帰還』であることが多い。

 稲生:「急いで家の中に!……ていうか暑い!」

 本日のさいたま市の気温は【お察しください】。
 長野県北部山中より明らかに気温は高い。
 家の中に入ろうとすると、誰もいなかった。
 稲生の実家には警備会社による機械警備が導入されていて、留守中はそれが張り巡らされることになる。

 マリア:「恐らく勇太のダディの病院に向かっているんじゃ?」
 稲生:「そ、それもそうか。せめて荷物置いて行きたかったんだけど……」
 マリア:「しょうがない。私達も病院に向かおう。どこの病院?」
 稲生:「えっと……。き、聞いてなかった!どうしよう!?」
 マリア:「勇太のママに電話して場所聞いて!」
 稲生:「そ、そうでした!」

 稲生は自分のスマホを出すと、それで母親の佳子に電話した。

 稲生:「あ、もしもし?母さん?今、家に着いたんだけど……」

 という電話で驚いていた佳子だったが、それは当たり前だ。
 長野から埼玉まで30分で移動したなんて……。

 稲生:「家に入れないんだ……あ、そうか!」

 稲生は自分の財布を取り出した。
 その中には色々とカードが入っているが、その中に警備会社から発行されたセキュリティカードがあった。

 稲生:「この前もらってた!」
 マリア:「勇太、落ち着いて」
 稲生:「それで、どこの病院?……自治医大!?栃木まで行くの!?……あ、ああ……じゃなくて、埼玉のね」

 マジで落ち着け、稲生。

 稲生:「……分かった。僕達も行くよ。……うん、そう。マリアさんも一緒。……うん、それじゃあ」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「母さんも今、病院に着いたみたい」
 マリア:「ダディと一緒じゃなかったのか」
 稲生:「母さんも母さんで仕事が忙しいからね。父さんはゴルフに行く途中、急に胸に痛みを覚えて倒れて、救急車で運ばれたらしいんだ」
 マリア:「急に胸に痛みを……?」

 マリアはその言葉を聞いて、『呪い』という言葉を思い出した。

 マリア:(まさか、“魔の者”の揺さぶりか?今度は勇太にターゲットを当てた?)

 ターゲットを直接攻撃する前に、家族などの血縁者を狙うというのは“魔の者”の常套手段であるという。

 マリア:「(師匠は何も言ってなかったぞ?)それで、その病院には?電車か何かで行くの?」
 稲生:「いえ、さいたま市内です。バスで行けるんですが、ちょっと急ぎなのでタクシーで行きましょう。取りあえず、荷物を置いてタクシーを呼びます」
 マリア:「ああ、分かった」

 稲生は機械警備を解除すると、持っていた鍵で玄関のドアを開けた。
 誰もいない家は暑く、稲生は急いでリビングのエアコンを入れた。
 そして、家の固定電話でタクシー会社に電話した。

 稲生:「もしもし?至急、タクシーを1台お願いします。……はい。住所はさいたま市中央区……。名前は稲生です。5〜6分ですね。よろしくお願いします」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「5〜6分で来るそうです」
 マリア:「ああ、分かった。取りあえず、大きな荷物だけ置かせてもらう」
 稲生:「どうぞどうぞ」

 しばらくして、家の前にタクシーが1台停車する。
 ルーシーとベイカーが深夜、羽田空港まで定額料金サービスで乗った会社だ。
 今現在、病院に担ぎ込まれている父親の宗一郎が利用している役員用ハイヤーの契約をしている縁で、タクシーもその会社を利用することになった。
 それに乗り込む。

 稲生:「自治医大さいたま医療センターまでお願いします」
 運転手:「はい、かしこまりました」

 さすがに車内はクーラーが効いて涼しい。

 稲生:「父さん、心臓とかは丈夫だったはずなのに……」
 マリア:「そうなのか。(私も初めて聞いた。やはり、“魔の者”か。勇太の血縁者と師匠のパトロン1人を潰せて一石二鳥作戦に出たか?)」

 タクシーは病院へと向かった。

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