[8月3日08:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]
イリーナ:「今日も美味しい朝食だったわ。ごちそうさま」
マリア:「大変恐れ入ります」
稲生:「マリアさんの人形達、どんどん人間に近くなっていきますね。昔はホラーそのものだったのに」
屋敷の侵入者に対し、“サイレントヒル”並みの恐怖を与えていた人形。
しかし今では“メタルギアソリッド”並みの……ゲフンゲフン。
イリーナ:「そうねぇ。血のついたナイフとかで侵入者を襲っていたのに、今ではグレネードランチャーやガトリング砲まで装備するまでになっちゃって、屋敷の中が違った意味で大変なことになりそうよ。勇太君も脱走しようものなら、【お察しください】だからね?」
稲生:「そんなことしませんよ」
稲生の屋敷からの外出は許可されていない。
無断外出は即ち脱走を意味する。
基本的に見習は全てにおいて師匠に付くことになっているので。
それでも普通に許可が取れるイリーナ組は、それだけ緩いということだ。
もっとも、稲生自身が真面目な性格で、そもそも脱走など企む者ではないということを知っているというのもあるが。
稲生が使い走りに出される時に、ダニエラという名のメイド人形が付くのも監視の為である。
形式上、そうしなければならない為。
イリーナ:「それじゃ、今日は図書室の蔵書整理をしてもらおうかな。午前中いっぱいでできるでしょ?」
稲生:「え……あの魔道書の山を……?」
マリア:「ああ、あれですね。分かりました。やっておきます」
稲生:「マリアさん?」
マリア:「いや、大丈夫だよ。あれくらい」
ところで<1階西側食堂にはテレビが導入された。
〔「……それでは今日の運勢です。今日のラッキー星座は獅子座。何をやっても上手く行くでしょう」〕
稲生:「この、よくテレビでやっている運勢というのは当たるんですか?」
イリーナ:「私だったらテレビ局に頼まれてもやらないよ。もしどうしてもって言うんなら、マリアにやってもらう」
マリア:「え?私ですか?」
蔵書の山の整理を頼まれた際には何てことない顔をしていたマリアも、何故か運勢の占いについては嫌そうな顔をした。
稲生:(つまり、弟子に投げる程度の仕事ってことか……)
稲生もマリアの占いについては、後輩として口には出せないが、あまり信用していない。
よく当たる時と当たらない時の波が激しい為である。
当たる時は、それこそ宝くじに高額当選できるくらいの勢いであるのだが。
イリーナ:「それじゃ、お願いね」
マリア:「はい」
稲生:「はい」
朝食を終えると、稲生とマリアは連れ立って西側の奥にある図書室に向かった。
屋敷の図書室は1階と2階にあり、吹き抜けの二層構造になっている。
この図書室にも様々な仕掛けが施されており、侵入者がこの屋敷から脱出しようとしたい場合には、そこの仕掛けを解かなくてはならない。
イリーナ:「ふむ……」
イリーナは2階西側の貴賓室に向かった。
ダンテがこの屋敷に滞在する際の部屋であるが、滅多に来ないこともあり、今ではイリーナが『留守を預かる』目的で使っている。
前は1階西側のマリアの部屋で寝起きしていたのだが……。
さっきから東側が出てこないが、東側を定期的に使っているのは稲生だけである。
東側はゲストルームなどが集中しており、この屋敷に泊まりに来る者しか使用しない。
稲生が寝起きしている部屋も、元はゲストルームだった。
イリーナ:「そういえばここ最近、自分達の運勢は占っていなかったねぇ……。どれどれ……」
イリーナは貴賓室に入り、机の前に座ると、バレーボールくらいの大きさの水晶球に手を翳した。
イリーナ:「パペ、サタン、ハペ、サタン、アレッペ。……ふむ。しばらくは“魔の者”も大人しくしてるか。ベイカーさんが動いたみたいね。さすがは、私の大先輩」
イリーナをして齢1000年強の大魔道師であるが、その中ではヒヨッコであるという。
そもそもイリーナ自身が見習時代に脱走し、しかも自ら出戻りをしたというエピソードがある。
ようやく弟子が取れるハイマスター(ベテラン魔道士)になっても、のんびりと何となく一人で過ごし、むしろ弟子を取らねばならないグランドマスター(大魔道師)になっても弟子を取ろうとしなかった為、これはさすがに師匠ダンテに注意された。
イリーナ:「マリアの運勢は平和……ああ、そろそろ多い日が来るのね。勇太君は……あれ?……んん?……大凶?初めて見た。……あー……何か知らんが、確かに大凶っぽい……。えーと……先生として、生徒が大凶を迎えることが分かってて何もしないというのは最悪ね。何とか回避しないと。イジメの被害で自殺しちゃったコがいたのに、『イジメは無かった』と言い張るくらい最悪だわ。せめて、『イジメはあったかもしれないが、それが直接自殺の原因となったかどうかは不明な今日この頃です』くらいにしとかないと」
そっちの方がよっぽど最悪である。
と、そこへ水晶球に着信があった。
イリーナ:「おっ、仕事の依頼かな」
イリーナはローブを羽織り、フードを被って黒いマスクまでした。
イリーナ:「……なるほど。分かったわ。それで報酬は……?」
[同日12:00.天候:晴 マリアの屋敷1F大食堂]
マリア:「どう?意外とあっさり終わったでしょ?」
稲生:「なるほど。マリアさんの人形を駆使して手伝わせればOKだったんですね」
マリア:「そういうこと」
見習魔法使いに扮するミッキーマウスが、師匠の留守の間に水汲み役を言い付けられたという物語がある。
その言い付けを楽に行う為に、ミッキーは魔法でホウキを擬人化し、代わりにやらせるのだが、後で痛い目を見るという話だ。
マリアのやったことはそれに似ているのだが、しかしそれでイリーナに怒られることはない。
ミッキーは何が悪かったのか?
それは習ってもいない魔法を勝手に使ったことであり、何も水汲みで楽したことではない。
子供が読んだら後者を戒める為の道徳的な話になっているのだが、大人になってから読み返してみると実は前者だったことが分かる。
マリアの場合はちゃんと自分で会得した魔法の範囲内で楽している為、これは許容範囲である。
床掃除をするのにルンバを使って何が悪い?的な。
稲生:「午後はどうなるんですかね?」
マリア:「師匠のことだから、『自習』じゃないの?」
稲生:「なるほど……」
大食堂に行くと、イリーナはそこにはいなかった。
マリア:「部屋で寝てるか、仕事に行ったかってところかな」
稲生:「弟子は仕事場に連れて行かないんですねぇ……」
マリア:「私が見習だった頃はよく連れて行ってくれたものだけど、今はね」
マリア自身も現在は一人前。
但し、仮免許が取れたというだけで、まだまだ若葉マークという所は変わらない。
その為か、ローブに付けるブローチも、見習は白なのに対して、ローマスターは緑である。
クラリス:「マスター。イリーナ様から言伝です」
マリアの人形の中で古参のクラリスがマリアに封筒を渡して来た。
今は人間態だが、人形形態になるとコミカルな動きをしてくれる。
緑色の長いツインテールである為、稲生は『ミク人形』と呼んでいる。
マリア:「ほお……」
マリアは手紙を読んだ。
達筆な筆記体で書かれている。
マリア:「ボケてキリル文字(ロシア語)で書いてあるかと思ったら、ちゃんと英文だ。……あ、やっぱり師匠は仕事に行ったみたい」
稲生:「そうですか」
マリア:「で、何でも勇太にこれから試練が来るんだって」
稲生:「え?僕に?」
マリア:「手段は何でもいいから、とにかく落ち着いて対応すれば何も問題は無いと書いてある」
稲生:「そ、そうですか」
と、そこへ稲生のスマホに着信が入った。
早くも、試練の到来か!?
イリーナ:「今日も美味しい朝食だったわ。ごちそうさま」
マリア:「大変恐れ入ります」
稲生:「マリアさんの人形達、どんどん人間に近くなっていきますね。昔はホラーそのものだったのに」
屋敷の侵入者に対し、“サイレントヒル”並みの恐怖を与えていた人形。
しかし今では“メタルギアソリッド”並みの……ゲフンゲフン。
イリーナ:「そうねぇ。血のついたナイフとかで侵入者を襲っていたのに、今ではグレネードランチャーやガトリング砲まで装備するまでになっちゃって、屋敷の中が違った意味で大変なことになりそうよ。勇太君も脱走しようものなら、【お察しください】だからね?」
稲生:「そんなことしませんよ」
稲生の屋敷からの外出は許可されていない。
無断外出は即ち脱走を意味する。
基本的に見習は全てにおいて師匠に付くことになっているので。
それでも普通に許可が取れるイリーナ組は、それだけ緩いということだ。
もっとも、稲生自身が真面目な性格で、そもそも脱走など企む者ではないということを知っているというのもあるが。
稲生が使い走りに出される時に、ダニエラという名のメイド人形が付くのも監視の為である。
形式上、そうしなければならない為。
イリーナ:「それじゃ、今日は図書室の蔵書整理をしてもらおうかな。午前中いっぱいでできるでしょ?」
稲生:「え……あの魔道書の山を……?」
マリア:「ああ、あれですね。分かりました。やっておきます」
稲生:「マリアさん?」
マリア:「いや、大丈夫だよ。あれくらい」
ところで<1階西側食堂にはテレビが導入された。
〔「……それでは今日の運勢です。今日のラッキー星座は獅子座。何をやっても上手く行くでしょう」〕
稲生:「この、よくテレビでやっている運勢というのは当たるんですか?」
イリーナ:「私だったらテレビ局に頼まれてもやらないよ。もしどうしてもって言うんなら、マリアにやってもらう」
マリア:「え?私ですか?」
蔵書の山の整理を頼まれた際には何てことない顔をしていたマリアも、何故か運勢の占いについては嫌そうな顔をした。
稲生:(つまり、弟子に投げる程度の仕事ってことか……)
稲生もマリアの占いについては、後輩として口には出せないが、あまり信用していない。
よく当たる時と当たらない時の波が激しい為である。
当たる時は、それこそ宝くじに高額当選できるくらいの勢いであるのだが。
イリーナ:「それじゃ、お願いね」
マリア:「はい」
稲生:「はい」
朝食を終えると、稲生とマリアは連れ立って西側の奥にある図書室に向かった。
屋敷の図書室は1階と2階にあり、吹き抜けの二層構造になっている。
この図書室にも様々な仕掛けが施されており、侵入者がこの屋敷から脱出しようとしたい場合には、そこの仕掛けを解かなくてはならない。
イリーナ:「ふむ……」
イリーナは2階西側の貴賓室に向かった。
ダンテがこの屋敷に滞在する際の部屋であるが、滅多に来ないこともあり、今ではイリーナが『留守を預かる』目的で使っている。
前は1階西側のマリアの部屋で寝起きしていたのだが……。
さっきから東側が出てこないが、東側を定期的に使っているのは稲生だけである。
東側はゲストルームなどが集中しており、この屋敷に泊まりに来る者しか使用しない。
稲生が寝起きしている部屋も、元はゲストルームだった。
イリーナ:「そういえばここ最近、自分達の運勢は占っていなかったねぇ……。どれどれ……」
イリーナは貴賓室に入り、机の前に座ると、バレーボールくらいの大きさの水晶球に手を翳した。
イリーナ:「パペ、サタン、ハペ、サタン、アレッペ。……ふむ。しばらくは“魔の者”も大人しくしてるか。ベイカーさんが動いたみたいね。さすがは、私の大先輩」
イリーナをして齢1000年強の大魔道師であるが、その中ではヒヨッコであるという。
そもそもイリーナ自身が見習時代に脱走し、しかも自ら出戻りをしたというエピソードがある。
ようやく弟子が取れるハイマスター(ベテラン魔道士)になっても、のんびりと何となく一人で過ごし、むしろ弟子を取らねばならないグランドマスター(大魔道師)になっても弟子を取ろうとしなかった為、これはさすがに師匠ダンテに注意された。
イリーナ:「マリアの運勢は平和……ああ、そろそろ多い日が来るのね。勇太君は……あれ?……んん?……大凶?初めて見た。……あー……何か知らんが、確かに大凶っぽい……。えーと……先生として、生徒が大凶を迎えることが分かってて何もしないというのは最悪ね。何とか回避しないと。イジメの被害で自殺しちゃったコがいたのに、『イジメは無かった』と言い張るくらい最悪だわ。せめて、『イジメはあったかもしれないが、それが直接自殺の原因となったかどうかは不明な今日この頃です』くらいにしとかないと」
そっちの方がよっぽど最悪である。
と、そこへ水晶球に着信があった。
イリーナ:「おっ、仕事の依頼かな」
イリーナはローブを羽織り、フードを被って黒いマスクまでした。
イリーナ:「……なるほど。分かったわ。それで報酬は……?」
[同日12:00.天候:晴 マリアの屋敷1F大食堂]
マリア:「どう?意外とあっさり終わったでしょ?」
稲生:「なるほど。マリアさんの人形を駆使して手伝わせればOKだったんですね」
マリア:「そういうこと」
見習魔法使いに扮するミッキーマウスが、師匠の留守の間に水汲み役を言い付けられたという物語がある。
その言い付けを楽に行う為に、ミッキーは魔法でホウキを擬人化し、代わりにやらせるのだが、後で痛い目を見るという話だ。
マリアのやったことはそれに似ているのだが、しかしそれでイリーナに怒られることはない。
ミッキーは何が悪かったのか?
それは習ってもいない魔法を勝手に使ったことであり、何も水汲みで楽したことではない。
子供が読んだら後者を戒める為の道徳的な話になっているのだが、大人になってから読み返してみると実は前者だったことが分かる。
マリアの場合はちゃんと自分で会得した魔法の範囲内で楽している為、これは許容範囲である。
床掃除をするのにルンバを使って何が悪い?的な。
稲生:「午後はどうなるんですかね?」
マリア:「師匠のことだから、『自習』じゃないの?」
稲生:「なるほど……」
大食堂に行くと、イリーナはそこにはいなかった。
マリア:「部屋で寝てるか、仕事に行ったかってところかな」
稲生:「弟子は仕事場に連れて行かないんですねぇ……」
マリア:「私が見習だった頃はよく連れて行ってくれたものだけど、今はね」
マリア自身も現在は一人前。
但し、仮免許が取れたというだけで、まだまだ若葉マークという所は変わらない。
その為か、ローブに付けるブローチも、見習は白なのに対して、ローマスターは緑である。
クラリス:「マスター。イリーナ様から言伝です」
マリアの人形の中で古参のクラリスがマリアに封筒を渡して来た。
今は人間態だが、人形形態になるとコミカルな動きをしてくれる。
緑色の長いツインテールである為、稲生は『ミク人形』と呼んでいる。
マリア:「ほお……」
マリアは手紙を読んだ。
達筆な筆記体で書かれている。
マリア:「ボケてキリル文字(ロシア語)で書いてあるかと思ったら、ちゃんと英文だ。……あ、やっぱり師匠は仕事に行ったみたい」
稲生:「そうですか」
マリア:「で、何でも勇太にこれから試練が来るんだって」
稲生:「え?僕に?」
マリア:「手段は何でもいいから、とにかく落ち着いて対応すれば何も問題は無いと書いてある」
稲生:「そ、そうですか」
と、そこへ稲生のスマホに着信が入った。
早くも、試練の到来か!?
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