報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの体質変化」

2022-06-28 20:29:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月9日13:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は午前中に報告書を纏め、午後になってそれをデイライトに持って行った。
 因みにデイライトとは『日光』のことであり、『日光が照らすほど晴れていれば、アンブレラ(雨傘)は要らないよね』という、悪の製薬企業アンブレラに対する嫌味が含まれている。
 もしも白井本人がいたら、『愚か者。ゲリラ豪雨を知らんのか?そうやってタカをくくって傘を持たぬ者が、ゲリラ豪雨に遭って泣くのだよ』と、反論しそうだがな。
 まあ、屁理屈の応酬である。

 愛原:「晴れていて、尚且つ風が強いかどうかを確認すれば大丈夫だよ」
 高橋:「えっ、何がです?」
 愛原:「ゲリラ豪雨の予想」
 高橋:「今日、降るんですか?」
 愛原:「今日は……そんなに風が強くないから大丈夫だろう」
 高橋:「天気まで予想されるとは、さすが名探偵です!」

 私と高橋は、応接会議室へ通されている。

 善場:「お待たせしました」

 そこへ、善場主任が入って来た。

 愛原:「善場主任、お疲れさまです。こちら、昨日までの旅行に関する報告書です。写真も添付してあります」
 善場:「ありがとうございます。多くは、リサの体調変化の事が過半数でしょうか?」
 愛原:「そういうことになります」
 善場:「リサの体調はどうですか?GPSによると、学校に行っているようですが……」
 愛原:「ええ。学校を休むほど体調は悪化していないので、学校には行かせました。で、今のところ体調不良の連絡は来ていないので、今は大丈夫かと」
 善場:「なるほど」
 愛原:「まさか酒を飲んだ私の血を吸ったリサが、酔っ払うとは思いもしませんでした」
 善場:「一部のメディアでは、それを描写した物があったりするのですが、所長は御存知無かったようですね」
 愛原:「はあ……どうも……」
 高橋:「おい、姉ちゃん、そりゃあ無ェだろ。いちいちラノベの設定なんて覚えてられっかよ」
 善場:「ラノベ?何の話ですか?」
 愛原:「連れの上野凛さんが、吸血鬼が登場するライトノベル作品に、酔っ払った人間の血を吸った吸血鬼が酔っ払うといった描写があったそうです」
 善場:「ああ、そうなんですね。それが現実に起こり得てしまったということなので、次は気をつけてください」
 愛原:「申し訳ありません」
 善場:「今後、所長方に注意して頂きたいのは、リサの変化です。大量のアルコールを一気に摂取したことにより、彼女の体質に影響が及んだ可能性があります。幸いにして今のところ暴走に繋がってはいないようですが、少しでもいつもより違う点を見つけたら報告して頂きたいのです」
 愛原:「分かりました」
 善場:「直近ですと……食欲不振のようですね」
 愛原:「普通の人並みの食欲はあるんですよ。ただ、今までの大食と比べれば、明らかに食事量は減りましたね」
 善場:「今朝の食事は……和食だったのですね」
 高橋:「それでもリサには、何らかの肉系を用意しないとうるさかったんだがよ、今日は何も言ってなかったな」
 善場:「そうですか。昼食は何を食べたか聞きましたか?」
 愛原:「あ、はい」

 私は自分のスマホを取り出した。
 LINEを開いて、そこでリサとのやり取りを主任に見せる。

 愛原:「B定食だそうです。まあ、定食をまるっと食べられる食欲はあるようですね。で、B定食というのは、主に魚系です。A定食が肉系で」
 善場:「ではリサは、昼食も肉を食べなかったと?」
 愛原:「そういうことになります」

 今まで肉を食べ過ぎている感はあったので、それが魚にシフトしただけなのならまだ良いのだが。

 愛原:「それでですね……ん?」

 その時、またリサからLINEが来た。

 愛原:「リサからのLINEです。えーと……『夕食はサッパリしたものがいい』ですって!?」
 善場:「どうやら食事の嗜好が変わったようですね。それが一過性のものなのかといったところですが……」
 愛原:「ということは、また魚系とかになるのかな……」
 高橋:「夕食のメニュー、考えておきます」
 愛原:「頼むぞ」
 善場:「もう一度、リサの検査がしたいところですね」
 愛原:「ドクターカーとか検診車が来ますか?それとも、もう一度、藤野に行きますか?」
 善場:「いえ。今すぐは大変なので、また次回に。栃木で行った緊急検査の結果も、まだ全ては出ていませんので」
 愛原:「そうですか」

[同日14:03.天候:晴 同地区内 新橋バス停→都営バス業10系統車内]

 帰りは都営バスに乗ることにした。
 これなら乗り換え無しで、菊川に帰ることができる。
 行きは基本的には乗らない。
 もしも渋滞にハマって遅れたりしたら大変だからだ。
 オーソドックスなノンステップバスに乗り込み、後ろの席に高橋と隣同士で座る。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは満席状態で、新橋バス停を出発した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りください。次は、銀座西六丁目でございます〕

 高橋:「先生。菊川に着いたら、夕食の買い出しに行ってきていいっスか?」
 愛原:「いいよ。それで、リサの言うサッパリした料理で思い付いたんだけど……」
 高橋:「何スか?」
 愛原:「湯豆腐と寿司が食いたいなと思って」
 高橋:「湯豆腐っスか!?」
 愛原:「いや、真冬でもないのに何だか変な話なんだけど、何かそういう気分になっちゃってさ」
 高橋:「分かりました。先生がそう仰るのなら、そうします」
 愛原:「悪いな。作れるか?」
 高橋:「ええ、まあ、一応ムショで作ったことあるんで、大丈夫です」
 愛原:「そうか」
 高橋:「でも、さすがに寿司は握れないっスよ?」
 愛原:「分かってる。スーパーに買い出しに行くんだろ?そこで売ってるパック詰めのヤツでいいからさ」
 高橋:「分かりました」

 尚、湯豆腐といったら冬の食べ物というイメージが一般的だと思うが、もっと後の季節に食べる鍋とする向きもある。
 例えば、かの有名な文豪、池波正太郎先生は作品の登場人物に、『梅雨寒の時に食べる鍋』とさせており、“梅雨の湯豆腐”という短編作品もある。
 もうすぐ梅雨ということで、それを思い出した次第だ。
 寿司と湯豆腐、どちらもサッパリした料理だから、リサの口に合うだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「夜の帰京」

2022-06-28 14:53:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月8日19:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 JR那須塩原駅→東北新幹線282B列車1号車内]

 新幹線ホームに行くと、始発ホームには10両編成の列車が発車を待っていた。
 往路と違い、秋田新幹線の車両は連結されていない。
 ホームの喫煙所にタバコを吸いに行った高橋を残し、先に列車に乗り込む。
 号数と時刻表を見るに、この列車は徐行区間外を運転する為か、暫定ダイヤ実施期間中であっても、数少ない通常ダイヤで運転される列車のようだ。
 BSAAとの取り決めに従い、先頭車に乗り込む。
 ここは自由席であり、車内は空いていた。
 3人席と2人席、横並びで座るのは往路と一緒。

〔「ご案内致します。この電車は19時3分発、東北新幹線“なすの”282号、東京行きです。終点の東京まで、各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から6号車です。尚、この列車では車内販売の営業はございません。予め、ご了承ください。……」〕

 座席に座ると、私達はテーブルを出して、NEWDAYSで買った弁当を広げた。

 高橋:「ただいま、戻りました」
 愛原:「おう。ちゃんと肺の中の煙も出してきたか?」
 高橋:「もちろんです」
 愛原:「よし」

 腹が減ったリサは、弁当を凄い勢いでガツガツと食べ……るわけではなかった。
 それでも常人よりは速いペースで食べているのだろうが、しかし、いつもの空腹時のリサと比べてはペースが遅かった。
 腹が減ったとは言いつつ、あまり食欲が無い状態なのだろうか。

〔「お待たせ致しました。19時3分発、東北新幹線“なすの”282号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 ホームからは発車ベルの音が聞こえてくる。
 在来線ホームは発車メロディだそうだが、新幹線ホームでは電子ベルだ。

〔1番線から、“なすの”282号、東京行きが発車致します。次は、宇都宮に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 発車ベルが鳴り終わると、甲高い客終合図のブザーが聞こえてくる。
 立ち番の駅員が車掌に対し、ドアを閉めても良いという合図だ。
 在来線ホームでも、ターミナル駅ではこういう形式を取っているが、昨今の省人化でそれも少なくなりつつある。
 列車はドアを閉めると、定刻通りに発車した。
 副線ホームから上り本線に出る為、何回かポイントを通過する。
 その際、一瞬だけ下り本線を支障する形となるので、本数の多い東海道新幹線ではこういう形は取られない(車両基地のある三島駅においては、ホームとそれに接する副線を上下本線で挟み込む形にすることにより、上り始発列車が下り線を支障することのないような配置になっている)。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“なすの”号、東京行きです。次は、宇都宮に止まります。……〕

 凛:「御馳走さま」
 理子:「まだ、足りないね」
 凛:「食べ過ぎはダメだよ。でも……食後のデザート、あるから」
 理子:「それ!」

 2人席に座る上野姉妹は、もう弁当を食べ終わったようだ。

〔「……上野には20時14分、終点東京には20時20分の到着です。……」〕

 対してリサは、まだ食べ終わっていない。

 愛原:「どうした、リサ?あんまり食欲無いか?」
 リサ:「何だろう?お腹は空いてるんだけど、いつもの調子で肉入りの弁当を買ってみたら、実は今日は肉の気分じゃなかったって感じ」

 それもそれで珍しいことだ。
 人間なら、まあ、たまにあることではあるが……。
 一応それでもリサは、何とか弁当を食べ切った。
 その後、デザートと称して一緒に買ったスイーツを口にしていたが……。

 リサ:「……ゴメン、ちょっとトイレ」
 愛原:「ああ。行ってこい」

 リサはお腹を抱えて、トイレに向かった。
 私の前を通り過ぎる時、ゴロゴロと腹が鳴っていたほどだ。
 肉の気分ではないのに、肉を無理に食べたことで、体が受け付けなかったのだろうか。

 愛原:「大丈夫かな?」
 高橋:「さあ……どうすっかねぇ……」

 リサがトイレから戻って来た時には、宇都宮駅を出発していた。

 リサ:「お腹の虫、一杯出ちゃった……」
 高橋:「おい、大丈夫なのか!?」

 リサの体内で実質的に『飼育』されている寄生虫。
 リサのウィルスに感染した寄生虫は、リサの体内で飼育されているような状態となり、故意に体の外に出して、相手に寄生されることができる。
 リサの意思で自由に活動できる寄生虫は、相手の体内に入ると……リサの意思決定如何では、腹を食い破って殺すくらいのことはできるのだそうだ。
 過去にも外国で、寄生虫を利用したBOW(プラーガという)は存在しており、リサもそれと似たことができるのだと判明した。

 リサ:「大丈夫。殆ど死んでたし、弱ってたから……」

 尚、リサの寄生虫は下水処理場などで使用される消毒薬で普通に死滅する為、トイレで排泄して下水道に流しても大丈夫だとされる。
 列車のトイレは一度床下のタンクに溜める形になっているが、そこでも消毒薬は使われているので、使用しても大丈夫だろう(但し、今はもう存在していないだろうが、旧型客車などにあった垂れ流し式のトイレは無理だろう)。
 もちろん、高速バスのトイレもだ。

[同日20:20.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 上野姉妹は1つ手前の上野駅で降りて行った。
 寮の最寄り駅は地下鉄銀座線の稲荷町駅だが、一駅しか無いので、恐らく彼女らは歩いて帰るだろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、総武快速線、横須賀線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「東京駅到着ホームは22番線、お出口は同じく左側です。……」〕

 尚、リサはトイレには1度だけしか行かなかった。
 一応、トイレで全部出し切れたらしい。
 それでも、スイーツ以外の物を食べようとはしなかった。

 愛原:「明日から学校だけど、具合は大丈夫か?」
 リサ:「うん。それは大丈夫……だと思う」

 少し歯切れの悪い回答である。

 愛原:「本当に大丈夫か?」
 リサ:「うん。大丈夫……」

 一応、翌日まで様子を見たが、リサの具合が悪くなることはなかったが、かといっていつものテンションを取り戻すということもなかった。
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