報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤絵恋と再会」

2022-02-09 21:33:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日14:15.天候:晴 東京都千代田区丸の内 東京駅丸の内北口→都営バス東20系統車内]

 高橋:「先生、あのバスです!急いで!」
 愛原:「ま、待て……!食ったばかりでキツいぞ……!」

 ラーメン食べた後で、バスの発車時間がギリギリだったことに気づいたのが運のツキだった!

〔「14時15分発、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行き、発車致します」〕

 リサ:「待ってーっ!」
 高橋:「でっ!?」

 リサ、高橋の肩を跳び箱のように手を付いて高く跳び、1回転して見事にバスの乗車口前に着地する。

 リサ:「あと2人、乗ってきます!」
 運転手:「は、はい」

 そして、リサのおかげで私達はバスに間に合ったのだった。

〔発車致します。お掴まりください〕

 こうして、バスは発車した。
 運賃前払いなので、先にICカードで運賃を払い、それから空いている席に座る。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは日本橋、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きです。次は呉服橋、呉服橋でございます。……〕

 リサと高橋には2人席に座ってもらい、私はその前の1人席に座った。

 愛原:「あー、疲れた……」
 高橋:「先生、お疲れ様っした」

 高橋も少し息が上がっているが、気持ちの良い運動をしたといった感じである。
 それに引き換え私は……。
 歳は取りたくないものだな。

 高橋:「帰ったら、ゆっくり休んでください」
 愛原:「いや、そうもイカンよ。明日、善場主任に提出する報告書を作成しなくては……」
 高橋:「でもそれは、午後でいいってことになったんじゃ?」
 愛原:「時間的余裕を持たせる為の口実だよ。お役所ってな、時間に厳しい所だからな」
 高橋:「それもそうっスね。このバスだって、リサが止めてくれなきゃ、さっさと出発してましたし……。さすが東京都交通局」
 愛原:「いや、それに関しては民営のバスも同じだと思うぞ?」

 書類提出の期日の事を言っているのだが、私は。
 と、そこにどうやらリサのスマホに着信があったようだ。

 リサ:「フム……」
 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「サイトーが遊びに行きたいだって」
 愛原:「いいんじゃない?このバスが菊川に到着するのは……」
 リサ:「……『今、東京駅からバスに乗ったとこ』って返信したら、すぐに既読が付いた上、『それなら、菊川駅前に到着するのは14時46分ね。15時に遊びに行くってことで、どうかしら?』って来たんだけど?」
 愛原:「何でこのバスのダイヤ、熟知してるんだ、この御嬢様は?!」
 高橋:「ストーカーキモレズが……!」
 リサ:「ど、どうする?断る?」

 さすがのリサも、少し顔が青くなっていた。

 高橋:「お、おう、そうだそうだ。断っとけ。だいたい、先生の仕事の邪魔になるだろうが」
 愛原:「い、いや、いいよいいよ。こういうのは逆に断ったりすると、却って面倒なことになる」
 リサ:「本当に大丈夫?」
 愛原:「どうせ夕食まで、俺は自分の部屋で報告書作りをしているから、うるさくしなければそれでいいよ」
 リサ:「分かった。それなら……」

 リサは、『まだ宿題終わってない。一緒にやらない?』と、返したそうだ。
 確かに、勉強なら静かだろう。
 だがそれでも、斉藤さんは大喜びだったそうである。

[同日14:46.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前停留所→愛原のマンション]

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線、都営バス、とうきょうスカイツリー駅前方面と築地駅方面はお乗り換えです。次は、菊川駅前でございます〕

 リサ:「あ、降りる」

 リサは降車ボタンを押した。

〔次、止まります。お降りの際はバスが停車し、扉が開いてから席をお立ち下さい〕

 こうして、私達は最寄りのバス停まで着いたのだが……。

〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です」〕

 愛原:「あっ」
 リサ:「ん?」
 高橋:「あぁ?」

 バス停には、斉藤さんがいた。

 絵恋:「お迎えに参上!」
 高橋:「何でいるんだよ!?」
 絵恋:「いちゃ悪いの!?」

 バスを降りた高橋が、真っ先に立ち向かっていく。

 愛原:「まあまあ。待ちきれずに、バス停まで来たんだね?」
 絵恋:「そうなんですぅ!さすが愛原先生!」
 リサ:「その通りだ、サイトー。愛原先生は名探偵。見くびってもらっては困る」
 愛原:「こんなもの推理でも何でも無いよ。まあ、いいや。とにかく、一緒に行こうや」
 絵恋:「はぁーい!お供しまーす!」
 愛原:「きび団子は無いけどね」

 途中、菊川駅前の交差点に差し掛かる。

 リサ:「先生、ちょっとジュースとお菓子買って行きたい」

 その交差点にはコンビニがある。

 愛原:「ああ、分かった。買い過ぎるなよ」
 高橋:「先生。俺は夕飯の支度があるんで……」
 愛原:「分かった。先に帰ってていいぞ」
 高橋:「サーセン」

 私達はコンビニに立ち寄ってから帰宅した。

 高橋:「先生、お土産の相模ビールは冷蔵庫に入れといたんで」
 愛原:「悪いな。早速、夕食の時に飲もう」
 高橋:「了解っス!」
 リサ:「サイトー、お土産。藤野行ってきたの」
 絵恋:「わ、私に?!萌えぇぇぇぇっ!」
 リサ:「北海道のお土産もらったから、お返し」
 絵恋:「そ、そうだったわね」
 リサ:「網走番外地は寒かった?」
 絵恋:「網走じゃないから!」
 高橋:「舎弟の竜二は年内に出られそうですか、組長?」
 愛原:「うむ。今年の暮れには仮釈になる……って、コラ!昭和の任侠映画か!」
 リサ:「可愛いお友達の所に高飛びしたんでしょ?」
 絵恋:「高飛びなんかしてないわよ!全部、新幹線と電車だったもの!」
 愛原:「いや、高飛びって、何も飛行機だけじゃないからね」
 絵恋:「ていうか、可愛いお友達ってなに!?」
 高橋:「ヒグマに知り合いでもいんのか?」
 絵恋:「いません!」
 リサ:「だって、『くっちゃんちにいる』って言ってたじゃん。くっちゃんって誰?」
 絵恋:「違うわよ!『倶知安の町にいる』って言ったの!」
 愛原:「北海道はアイヌ語発祥の珍しい地名が多いからね。てか、網走よりは札幌に近いんじゃない?」
 絵恋:「そ、そうですね」
 愛原:「まあ、いいや。俺は自分の部屋で仕事してるから、なるべく静かにしてくれな?」
 リサ:「分かった。サイトー、宿題やろ」
 絵恋:「待ってました!こんなこともあろうかと、一切手は付けてなかったのよ!」
 リサ:「いや、私はもう半分くらい終わってるからな?少しは手を付けろよ……」

 何だか、勉強中も賑やかになりそうな予感がするのは私だけだろうか?
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“愛原リサの日常” 「鬼とBOW」

2022-02-09 14:12:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日11:30.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場優菜:「…………」

 善場は自分のデスクに座っていた。
 愛原からの定時連絡メールが、業務用のスマホに届く。

 善場:(帰りは中央特快ですか。乗り換えの手間は確かに無いですね)

 善場はPCでリサの位置情報を確認した。
 愛原の報告と、リサの位置情報に食い違いは無かった。
 愛原達が乗った電車の時刻表を見ると、昼過ぎに東京駅に着くという。
 予定では、東京駅から東北新幹線に乗り換える上野凛を見送り、帰宅するようだ。
 もっとも、昼食時で空腹のリサを宥める為、途中で昼食は取るだろう。

 所長:「善場さん」

 そこへ所長がやってきた。

 所長:「私はそろそろ帰りますが、あなたはまだ残りますか?」
 善場:「所長。委託先の探偵業者が、いま業務に当たっています。それが終了するまでは、ここにいようかと思います」
 所長:「そうですか。あなたの残業時間は、まもなく既定の上限に達しようとしています。それだけは気を付けてください」
 善場:「分かりました」
 所長:「……『鬼』を人工的に造り出そうとは……。全く、とんでもない話です」
 善場:「所長。白井伝三郎の情報につきましては、公安調査庁との連携もあり……」
 所長:「分かっています。しかし、これ以上『鬼』を増やされても困りますし、その材料として、善良な市民が犠牲になるのは阻止したいですね」
 善場:「無論です」
 所長:「あなたみたいに、国家の役に立てるようなら申し分ないのですが……。では、お先に」
 善場:「お疲れ様でした」

 善場は上司を見送った。
 そして、再び机に向き直ると、引き出しを開けた。
 その中から爪切りを取り出す。
 それで、自分の伸びた爪を切り始めた。

 善場:(私は……本当に人間に戻れたんでしょうか……)

 未だ後遺症は残っており、その1つが、毎日切らなければならないほどに伸びが早い爪である。
 また、傷の回復速度にあっては、今だに人外である。
 爪の伸びは早いのに、髪の伸びは人並みである。
 このアンバランスさは、正にGウィルスの後遺症と言える。
 そして、この後遺症を治す手段は未だに見つかっていない。
 遺伝子に深く食い込んだGウィルスを、完全に除去するのは容易ではない。
 それは、特異菌も同じである。
 Gウィルスでさえ、殺せば死ぬのというのに、100%適合すれば死んだ人間が生き返るほどの特異菌は……恐ろしいとGウィルス保菌者の善場は思う。

 善場:(幸いあの母親は収容できたし、特異菌について調査するチャンスだわ)

[同日12:42.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔まもなく終点、東京、東京。お出口は、右側です。新幹線、東海道本線、上野東京ライン、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 リサ達を乗せた中央特快は、無事に東京駅に到着しようとしていた。

 愛原:「やっと着くか。遠かったなぁ……」
 高橋:「案外、距離ありますよね」
 愛原:「この電車、大月始発なんだよ。さすがにキツいなぁ。クロスシート大好きの18きっぱー涙目だよ」

 ロングシート車を長距離運用させる考え、JR西日本や九州には無いであろう。

〔とうきょう~、東京~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 東京駅に着いて、電車を降りるリサ達。
 凛が乗り換える新幹線の発車まで、残り30分である。

 愛原:「キップは買ってあるの?」
 凛:「あ、はい。自由席ですけど……」

 “なすの”はそんなに混まないだろうから、自由席で十分であろう。
 リサ達は一旦、改札口を出た。
 凛を見送る為に、今度は入場券を買わないといけない。
 これは愛原が券売機で3枚分買って来た。
 尚、入場券の料金は、場所によっても違う。
 多くは、その駅が所属する線区の初乗り運賃に合せていることが多い。
 入場券を設定していない鉄道会社にあっては、初乗り運賃の乗車券を入場券代わりに使用させる所もあるようだ。
 JR東京駅の場合、140円である。
 これは東日本・東海共通である。
 却って鉄道の知識があると陥りやすい罠があるのだが、JR東日本の券売機で買った入場券は、東海道新幹線の改札口でも使用できる(鉄道の知識が中途半端にあると、『JRが違うのだから使えないのでは?』なんて考えてしまう)。
 もっとも、今回は東北新幹線なので、そもそも憂慮自体発生しない。

 愛原:「お昼時だから、駅弁買って食べるだろ?」
 凛:「あ、はい」
 リサ:「わたしもお腹空いた」
 愛原:「凛さんを見送ったら、帰る前にお昼食べよう」
 リサ:「おー!」
 高橋:「ヤエチカの旭川ラーメンにします?」
 愛原:「おっ、いいね。八王子ラーメンの次は旭川ラーメンってか。リサもそれでいいか?」
 リサ:「大盛りチャーシュー麺頼んでいい?」
 愛原:「いいよ」
 リサ:「おー!」

 東北新幹線のコンコースに移動した後、愛原は凛に駅弁を買い与えた。

 愛原:「肉系の弁当がいいでしょ?紐を引っ張ると温かくなる“牛タン弁当”」
 凛:「あ、ありがとうございます」
 リサ:「いいなぁ……」
 愛原:「大盛りチャーシュー麺食べさせてやるから」
 リサ:「ゴクッ……!」

 尚、この牛タン弁当、JR東海側でも売られているという(ソースは作者。御登山の際、東京駅東海道新幹線ラチ内コンコースで発見した)。
 そして、ホームに移動する。

〔「今度の20番線の電車は、13時12分発、“なすの”259号、郡山行きです。10両編成で参ります。足元、10両編成乗車位置でお待ちください」〕

 最高尾となる1号車に引率する愛原。

 高橋:「先生、一服してきます」
 愛原:「行ってらっしゃい」

 ホームの先端部分には、喫煙所がある。
 東北新幹線ホームには喫煙所が2ヶ所ずつあり、1ヶ所は1号車の前。
 もう1ヶ所は、山形新幹線や秋田新幹線が停車する辺りにある。

〔20番線に、13時12分発、“なすの”259号、郡山行きが10両編成で参ります。この電車は、各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 高橋が喫煙所でのんびりタバコを吸っている間、接近放送がホームに鳴り響いた。

〔「20番線、ご注意ください。当駅始発、“なすの”259号、郡山行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側をお歩きください」〕

 JR東日本の新幹線ホームには、それぞれ規格の違う車両が発着する為、それが統一されている東海道新幹線ホームと違い、ホームドアが設置されていない。
 なので、列車発着時、立ち番の駅員は気を使うのだろう。
 しかしその割には、東海道新幹線ホームの方が賑やかのような……?

 リサ:「来た来た」

 E5系電車がやってきた。
 既に座席は下り方向向きになっており、どうやらそのまますぐに乗れそうだ。

 愛原:「凛さん、座席を確保したら、一旦降りてきてくれない?」
 凛:「分かりました」

 案の定、ホームで待機していた車掌が乗り込むと、すぐにドアが開いた。
 凛は車内に入ると、2人席の窓側を確保した。
 それから降りて来る。

 愛原:「ちょっと写真撮るから、凛さんそこに立って」
 凛:「はい」

 凛はE2系よりも大きく、かつフルカラーLEDの行き先表示板の前に立った。
 愛原はそのLED表示板が、『なすの259号 郡山』という表示になるのを見計らってシャッターを切った。

 凛:「ありがとうございました」
 愛原:「ああ。合格しているといいな」

 合格発表は明日。
 学園の公式サイトで確認できるし、郵送で合格通知も来る(不合格者には通知は来ない)。

 凛:「はい!」
 愛原:「合格通知が来たら、教えてね。教えてあげたメールアドレスに」
 凛:「分かりました」

[同日13:12.天候:晴 JR東京駅]

 発車の時間になり、ホームに発車ベルが鳴り響く。
 東海道新幹線ホームでは、かつて“のぞみ”の車内チャイムで使用されたものを発車メロディに使用しているが、東日本の方では未だにベルである。

〔20番線から、“なすの”259号、郡山行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「20番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り響き、ドアが閉まった。
 リサと高橋は軽く凛に手を振り、愛原は挙手をした。
 凛は手を振ったり、愛原に御辞儀をしたり。
 そして、列車は発車していった。

 愛原:「これで、業務終了だな」
 高橋:「お疲れ様でした!」

 凛は那須塩原駅から、路線バスに乗って家まで帰る。
 とても本数が少なく、土休日ダイヤにあっては、今の新幹線が最終バスに接続するのである。
 なので、面会時間も開始時間すぐだったり、帰るのも昼過ぎの早い時間だったりしたのだ。

 愛原:「どれ、善場主任に終了の報告をして……と」
 リサ:「お昼お昼!ラーメンラーメン!」
 愛原:「分かった分かった。……メール送信、と。よし、それじゃ行こう」

 3人は新幹線乗り場をあとにし、八重洲地下街へと向かった。
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“私立探偵 愛原学” 「面会終了後」

2022-02-09 11:19:02 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月22日11:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター]

 高橋:「先生、取りあえず、これがメモです」
 愛原:「ありがとう」

 元ヤンだった割には、随分とメモ魔な高橋。
 私が渡したメモ帳1冊だけでは足りず、もう1冊自分のメモ帳を取り出してメモしてくれた。
 それどころか……。

 愛原:「法廷のイラストかいw」

 面会室でやり取りする母娘の様子を描いたスケッチまで。

 高橋:「アウトでしたか?」
 愛原:「全然セーフ。セーフ過ぎて、ランニングホームランだ、こりゃ」

 イラストによれば、凛さんの母親は囚人服を着ていたとされる。
 まるで本当の刑務所や拘置所の面会室のような造りになっており、向こう側には銃で武装した警備員が1人立ち会っている。
 こちら側は、普通の警備服を着て警棒だけ持った守衛さんが立っていた。

 高橋:「先生に謝りたいと言ってましたよ?」
 愛原:「まあ、今さらいいんだけどね」

 私だけなら面会してもいいのだが、リサがいるからな。
 リサには言い聞かせているが、顔を合わせたら暴れるかもしれない。

 愛原:「差し入れは渡したの?」
 凛:「はい」

 どうも品目は拘置所や刑務所の差入品と同じらしい。
 まあ、会えなくても手紙のやり取りや差入品のやり取りはできるらしいから、それで何とか……といったところか。
 人間の刑務所の場合、優遇されると電話面会も可能になるらしいが、ここではどうなのだろう?

 守衛:「お疲れ様でした」
 愛原:「ありがとうございました」

 エレベーターで地上に上がると、まるで別世界のようである。

 高橋:「裁判でも執行猶予が付くと、階段を昇るので、『天国の階段』って言うんスよねぇ……」

 高橋がポツリと言った。
 『階段を昇る』とは具体的に、どこの裁判所のことを言っているのか分からない。
 どこかの家庭裁判所辺りだろうか?

 守衛:「どうでした?地下の方は……」
 愛原:「仕事ですらキツそうなのに、あんな所に収監はされたくないですねぇ……」
 守衛:「でしょうな。人間の刑務所ですら地上にあって、日の当たる場所だというのに、こちらは地下なんですから」

 リサみたいなのが暴れ出した時、地下であれば、まだ地上に出てくるまで時間稼ぎができるというのと、大騒ぎになってもバレにくいというのがあるからだな。

 愛原:「そうですね」

 入館証を守衛所に返却し、それから閉じられた門扉を少し開けてもらって外に出る。

 高橋:「何か、自分が出所したみたいっス」
 愛原:「ハハハ。出所の場合は裏から出るんじゃなかったっけ?」
 高橋:「まあ、そうっスね」

 外に出ると、往路の時に乗ったタクシーが『迎車』表示をして待っていた。
 再び、タクシーに乗り込む。

 愛原:「それじゃ、藤野駅までお願いします」
 運転手:「分かりました」

 タクシーが走り出す。
 車内では終始無言の凛さんだったが、車が相模川の橋を渡ると、センターのある方を振り返った。
 ここからセンターの建物が見えるのかどうかは分からない。
 いずれにせよ、しばらく面会に来れないのだから、凛さんにとっては良い思い出になったのだろう。

[同日11:10.天候:晴 同区内小渕 JR藤野駅]

 再び藤野駅に戻る。
 まだ少し時間があったので、駅の横にある観光案内所に入ってみた。
 ここでは、お土産も売っている。

 愛原:「ほっほー……相模ビールねぇ……」
 高橋:「先生、買っちゃいますか?」
 リサ:「ほっほー……ビーフジャーキーねぇ……」
 高橋:「コンビニでも買えんだろ」
 凛:「絵葉書……」
 愛原:「相模ビールで今夜は一杯やるぞ」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します!」
 高橋:「オマエは飲めねーだろ!」

 まあ、私が買うだけではアレなので、リサや凛さんにもお土産を買ってあげた。

 愛原:「ちょうど中央特快があるから、それに乗ろう。これなら、乗り換え無しで行ける」
 高橋:「はい!」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の2番線の列車は、11時31分発、中央特快、東京行きです。この列車は、4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります。……〕

 ホームは高台に位置しており、そこから研修センターを見ることができる。
 凛さんは電車が来るまで、ずっとそっちの方を見ていた。

[同日11:31.天候:晴 JR藤野駅→中央本線1122M列車(高尾以東は1122T電車)10号車内]

〔まもなく2番線に、中央特快、東京行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、4つドア、10両です。次は、相模湖に止まります〕

 接近放送が鳴って、電車がやってくる。
 何か、こういうローカルチックな場所に、長編成の通勤電車が来るのはミスマッチだ。
 もっとも、こういう光景は田園地帯を走る川越線の10両編成でも見られる。
 これが211系とか、ボックスシートの付いた車両であるのなら、何ら違和感は無いのだが……。

〔ふじの~、藤野~。ご乗車、ありがとうございます〕

 1番後ろの車両に乗り込む。
 休日の昼間の電車は空いているもので、ちょうど乗務員室前の4人席がまるっと空いていたので、そこに並んで腰かけた。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 首都圏ではだいたい一般的な発車メロディが流れた後、電車のドアはすぐに閉まった。
 この通勤電車にも、半自動ドアボタンは付いており、この辺りでは使用されていたのだろうが、やっぱりコロナ対策の為にそれは中止され、自動ドアとなっている。
 電車が走り出し、トンネルに入るまで凛さんは席を立ち、センターの方を見ていた。
 後ろ髪を引かれているのだろう。

〔次は、相模湖です〕
〔The next station is Sagamiko.JC25.〕

 自動放送は中央快速線内だけでなく、中央本線内でも流れる。
 往路の211系よりも旅情は無いが、乗り換え無しの特快なら1時間ちょっとで東京駅まで行ける。

 リサ:「しばらく会えなくなるな」
 凛:「また……春休みにでも会いに行きます」
 愛原:「なるほど。ちょうど、上京する辺りだな」
 凛:「はい」
 愛原:「その頃には、感染者もだいぶ減っているといいんだが……」
 高橋:「何ですか、先生?」
 愛原:「いや……。もう一度、あのやまなみ温泉に行ってみたいなぁと……」
 高橋:「ああ、そういうことっスか。いいんじゃないスか。今度、行きましょう」
 愛原:「交通の便が悪いから、車になるかな……」
 高橋:「そん時は俺が運転しますから」
 愛原:「悪いな」

 10両編成の特別快速は、一路東京へ向かう。
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