報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「出発の前」

2022-02-18 20:03:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月18日14:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 それからおよそ1ヶ月が経過した。
 リサが代替修学旅行に行くことは、善場主任も知っていた。
 数日後出発する前に、私と高橋は最終的な打ち合わせに入った。

 善場:「リサの修学旅行参加には、否定的な意見を出す者も、関係者にいるのは事実です」
 愛原:「えっ、そうなんですか?今まで旅行してきて、大丈夫だったのに?」
 善場:「それまではあくまでも、個人旅行というカテゴリーでしたから。今回は団体旅行ですので、もしも仮にリサが攻撃されるようなことがあれば、無関係の学校関係者が巻き込まれる恐れがあるということを危惧してのことです」
 愛原:「しかし、それまでもリサは学校行事で校外学習に行ったことはありますよ?中等部1年生の時のスキー合宿とか、他にも日帰りでの社会科見学とか……」
 善場:「そうですね。なので容認派の私達は、それを持って反論しました」
 愛原:「では……?」
 善場:「今のところ、上からは許可は出ています」
 愛原:「それは良かった。リサも喜びますよ」
 善場:「愛原所長方が同行されるというのが大きいですね。仮に斉藤社長が依頼しなければ、私共が依頼したかもしれません」
 高橋:「凄い信頼ですね!先生!?」
 愛原:「全幅の信頼、身に余る光栄です」
 善場:「まあ、斉藤社長がそれを見越して依頼したなら、別の懸念も出てくるのですが……」
 愛原:「別の懸念?」
 善場:「現段階では、愛原所長方はお気になさらなくて結構です。ただ、あの社長もかなり強かですので、ご注意ください」
 愛原:「分かってますよ」

 コングロマリット企業を経営するほどの人だ。
 強かで当然だろう。
 いや、むしろ強かではなかったのかもしれない。
 そのせいでデイライトに足元を掬われ、親会社の社長の椅子から落ちてしまうことになったのだから。

 善場:「それともう1つ。行き先は福島県の会津地方ということで、注意して頂きたいことがあります」
 愛原:「霧生市が近いということですね」
 善場:「はい」

 あれだけ自衛隊やBSAA、更には在日米軍まで出動した霧生市に、今さらゾンビやBOWが潜んでいるとは思えないが、未だ安全宣言が出されず、廃墟のままであることから、デイライトとしても警戒を続けているのだろう。

 善場:「リサの存在に気づいたタイラントやネメシスがやってくるかもしれません」
 愛原:「その時はマグナムの所持と使用を許可して頂けますか?」
 善場:「これがその許可証です」
 高橋:「既に想定してるんかい!」

 さすがはデイライトさんだ。

 善場:「あと、それと……これは一応、お伝えしておきたいことなのですが……」
 愛原:「何でしょう?」
 善場:「出発は22日の夜でしたね?」
 愛原:「そうです。そして23日にスキー場に到着して、その日1日スキーやスノボーを楽しみます。それがどうかしましたか?」
 善場:「聖クラリス女学院は御存知ですよね?」
 愛原:「確か、六本木だか白金高輪だかにあるミッション系の御嬢様学校で、かつてリサ・トレヴァー『1番』に蹂躙された学校ですね」

 見た目はうちの『2番』リサよりも清楚な御嬢様といった感じだったが、『2番』のリサよりも我が強く、『2番』が絵恋さんなどの友人を通して、さりげなく東京中央学園を支配しようとしたのに対し、『1番』は直接ウィルスをばら撒いて支配しようとした。
 もっとも、それは『2番』のリサの方が悪知恵が働きやすいということだが、さすがに元リサ・トレヴァー『12番』だった善場主任には誤魔化せず、思いっ切り怒られて失敗した。
 『1番』の方の聖クラリス女学院も、BSAAが出動する騒ぎになっている。
 幸いワクチン投与は早かった上に、実はAワクチンという、ゾンビ化しても治療できるワクチンが開発された為、多くの学校関係者を人間に戻すことができている。
 それまでのTウィルスやCウィルスでは、一度ゾンビ化してしまうと手遅れであり、殺処分しなくてはならなかった。
 しかし、Aウィルスという、また別のゾンビウィルスが存在するのだが、そのワクチンはAウィルスにしか効かないとされていたが、強かに大日本製薬がTウィルスやCウィルスにも効くよう改良した。

 善場:「そうです。実はそこの学校も、例の列車に乗ることが分かっています」
 愛原:「えっ、あれ!?どういうことだろう?」
 善場:「今、東武鉄道に確認を取っていますが、もしかしたら22日は2本立て運行なのかもしれません」

 つまり、通常ダイヤの列車の後に続行便を運行するというものだ。
 路線バスなどではたまに行われていることだが、鉄道でも行われるのだろうか。

 愛原:「なるほど。いくらツアー専用の団体列車といっても、一般の利用者もいるでしょうからね」

 かつては時刻表に記載された一般の臨時列車であったが、今では団臨扱いとなり、時刻表には掲載されなくなった。

 善場:「分かりましたら、またお知らせ致します」
 愛原:「了解しました。よろしくお願いします」

[同日14:30.天候:晴 同地区内 都営バス新橋停留所→都営バス業10系統車内]

 善場主任との打ち合わせが終わった私達は、近くのバス停に向かった。
 そこからバスに乗れば、菊川まで乗り換え無しで安く行ける。
 新橋駅前という名前ではないのは、駅からは少し離れているからだろう(歩いて行けない距離ではない)。
 ごく普通のノンステップバス(いすゞ・エルガ)がやってきて、私達は前扉からバスに乗り込んだ。
 後ろの席に行って、高橋と隣同士で座る。

 愛原:「今から帰れば、リサ達が待っているかな?」
 高橋:「そうっスね」

 私はリサにLINEを送ってみた。
 どうやら、まだ学校らしい。
 私達の方が先に帰り着くことになりそうだ。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスはほぼ満席の状態で、定刻に発車した。
 この路線は本数も多く、それはつまり、それだけ利用者が多い路線だということだ。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは勝どき橋南詰、豊洲駅前、東京都現代美術館前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗本行寺と常泉寺へおいでの方は、とうきょうスカイツリー駅前が御便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 愛原:「聖クラリス女学院か。都営大江戸線で、『1番』にやられた思い出があるな」
 高橋:「リサが出し抜かれた瞬間でしたね」
 愛原:「それが一緒だとすると、何かあるかな?」
 高橋:「もしかして斉藤社長が俺達に委託して逃げたの、このせいなんじゃないスかね?」
 愛原:「……あの社長なら有り得るな」
 高橋:「俺のマグナム、よく点検しておきます」
 愛原:「そうしてくれ。さすがに、ショットガンは持っていけないよなぁ……」
 高橋:「バラして持って行くというのは?」
 愛原:「まあ、その手もあるんだが………」

 ハンドガンなら持ち運びしやすいが、相手がタイラントとなると、さっぱり効かないだろう。
 コルトパイソンなどの大型拳銃で、ようやく動きを止められるといった感じだ。
 そう、コルトパイソンですらタイラントは倒せない。
 そして、それを使役する権限を持つリサ・トレヴァーも同じである。
 だからリサにマグナムを突き付けても、全く動じない。
 日本版リサ・トレヴァーの弱点は首。
 首を刎ね飛ばすこと。
 しかし、銃で首を刎ね飛ばすことは不可能である。
 だからリサは怖がらない。
 その力を持つ刀を振るえる栗原蓮華さんを、リサは人間の中では恐れている。
 銃では動じないのに、刀では動じるのだ。
 面白いものだ。

 愛原:「俺はマグナムは扱えない。もしかしたら、お前に任せることになるかもしれん」
 高橋:「もちろんです!俺にお任せください!」

 高橋は胸を張って答えた。
コメント
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