報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「きりたんぽ物語」

2021-04-28 20:18:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月4日17:00~17:35.天候:雨 秋田県大館市 JR大館駅]

 大館駅のNEWDAYSに行くには、駅舎の構造上、一旦駅舎の外に出なくてはならない。
 外から見ると、確かに先ほど車で来た時には気づかなかった『お土産』の文字が見える。
 助手席の後ろに座っていた高橋が気づきやすかったのだ。
 店の中に入り、そこでまずお土産を物色する。
 駅のコンビニということもあって、そんなに数は多くなかったが、挨拶代わりの物としては十分だ。

 高橋:「ボスに買って行くんですか?」
 愛原:「今回の件はボスからの紹介じゃないからいいだろう。むしろ、斉藤社長に買って行くべきだ」
 高橋:「なるほど」

 するとリサ、目ざとく駅弁を見つける。

 リサ:「! おー!」

 地元の駅弁業者“花善”が卸している『鶏めし弁当』である。
 名前の通り、鶏肉を使ったものだろう。

 愛原:「ん?それにするのか?確かに美味そうだな。俺もこれにするか」
 リサ:「他にも買っていい!?」
 愛原:「お菓子か?まあ、いいよ」

 駅構内には他に売店は無いみたいだし、ここで調達するしか無さそうだ。

 高橋:「先生。ちょっと吸い溜めしてきます」
 愛原:「ああ、分かった」

 先に買い物を済ませ、店の外の喫煙所に行く高橋。

 愛原:「列車に乗ったら、もう帰ることしかできないからな」
 リサ:「そうなの?」
 愛原:「ここから乗る列車は盛岡行き。そして、盛岡駅では本当にすぐ新幹線に乗り換えることになる」
 リサ:「新幹線に乗ったら、あっという間だね」
 愛原:「そうだとも」

 私は斉藤社長へのお土産の他、駅弁とお茶を買った。
 この他にもビールやおつまみも欲しいところだが、嵩張ってしまう。
 できれば花輪線では夕食、晩酌は乗り換え先の新幹線でやりたい。
 盛岡駅で調達できればいいのだが……。

 店員:「ありがとうございましたー」

 買い物を済ませて店の外に出る。
 喫煙所では高橋がタバコを咥えていた。

 愛原:「列車内にもトイレはあるが、駅のトイレの方が広いだろう。ということで行ってくる」
 リサ:「行ってらっしゃい」

 私はその後、トイレを済ませた。
 そして、急いで駅の中に戻る。
 というのは、ついに雨が降ってきたからだ。
 NEWDAYSも改札外トイレも、駅舎の構造上、建物の外側からしか出入りできない。

〔まもなく3番線に、列車が入ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 駅の中に戻ると、改札口の向こう側から接近放送が聞こえた。
 しばらくすると、ディーゼルエンジンのアイドリング音を立てて、2両編成の気動車が入線したのが分かった。

 愛原:「列車が来たようだ。発車の時間はまだ少しあるが、どうする?改札の中に入ったら、もうトイレと自販機くらいしか利用できなくなるぞ?やり残したことがあるなら、今のうちにな」
 高橋:「俺は無いです」
 リサ:「私も」
 愛原:「そうか?じゃあ、もうホームに行くぞ」
 高橋:「はい」

 私達はキップを取り出した。

 愛原:「リサ、ここでは乗車券だけを通すんだ」
 リサ:「分かった」

 見た目は首都圏の駅にある物と変わらないのだが、Suicaを読み取る部分が無い。
 本当に乗車券の投入口しか無い。
 恐らくここで定期券を買おうとすると、従来通りの磁気定期券になるのだろう。
 その為か、この駅でもNEWDAYSや自販機ではSuicaが使えるのだが、実際に他の客が使用しているのを見ることは無かった。
 NEWDAYSで買い物した時には、Suicaを使ったのだが。

 駅員:「ありがとうございます」
 愛原:「盛岡行きはあの列車ですか?」
 駅員:「そうです。17時35分の発車です」
 愛原:「どうも」

 改札機にキップを通し、私達は中に入った。
 地方駅の特徴として、改札口を通ったらすぐに1番線がある(つまり改札内コンコースが無い)。
 目当ての列車は隣のホームの3番線から出るので、跨線橋を渡る必要がある。
 本数が少ないから、バリアフリーの観点から構内踏切でもいいんじゃないかと思うだろうが、それはあくまでも旅客列車の本数だけを見ての意見。
 実際は貨物列車の本数も多いので、やはりそこは跨線橋の方がいいのである。
 実際私達が跨線橋の階段を登っていると、中線を貨物列車が通過していったし。
 日曜日は貨物列車の本数が激減する傾向があるのだが、それでも本線系統では運転されているのである。

〔「3番線に停車中の列車は17時35分発、“十和田八幡平四季彩ライン”花輪線普通列車、盛岡行きです。発車までご乗車になり、お待ちください。終点の盛岡まで、各駅に停車致します」〕

 2番線と3番線の島式ホームに着くと、2両編成の気動車が停車していた。
 平日だと夕方のラッシュでそこそこの利用があるのだろうが、日曜日の今はガラガラである。
 それとも、コロナ禍も影響があるのだろうか。
 2両編成なので、どちらの車両に乗ってもBSAAとの取り決め違反にはならない。

 愛原:「もっとも、途中の駅で進行方向が変わるんだけどな」
 高橋:「そうなんですか?」
 愛原:「そうなんだよ」

 花輪線の十和田南駅。
 ここがスイッチバックの駅である。
 なので今は後ろの車両に乗り込んだが、十和田南駅からはこれが先頭車になるわけである。
 4人用ボックスシートにリサが進行方向窓側、私がその向かい、高橋がリサの隣に座るが、足の長い彼は、私の隣の空いている席の下に足を伸ばした方が楽だろう。
 別に、満席になるほど混むわけではなさそうだし。
 ドアは本来、半自動ドアで運用していたのだろうが、コロナ対策としてか、自動ドアでホーム側全てのドアが開いていた。
 窓が開くのであれば、窓は開けた上でドアは半自動ということもできるだろうが、あいにくとキハ110系は窓が乗務員室扉の物以外は開かない構造になっている。
 なので、ドアの方を全開して換気せざるを得ないわけだ。

 愛原:「おいおい。リサ、もう食べるのか?」

 リサは座席に座ると、ビニール袋の中から駅弁を取り出した。

 リサ:「お腹空いたもん」
 愛原:「呆れたな」
 リサ:「先生は食べないの?」
 愛原:「まだ17時台じゃな。どうせ盛岡に着くまで3時間掛かるから、ゆっくり食べるよ」

 しばらくして、発車の時間になる。

〔「お待たせ致しました。17時35分発、“十和田八幡平四季彩ライン”花輪線、普通列車の盛岡行き、まもなく発車致します。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 ホームに発車メロディが流れる。
 曲名は“きりたんぽ物語”。

〔まもなく3番線から、列車が発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕

 2両編成のローカル列車ながら、花輪線ではワンマン運転は行っていないという。
 その為、車掌の笛の音がホームに響き渡った。
 それからドアが閉まる。
 これが電車ならそのまま発車するところだが、気動車では何故か車掌がブザーを鳴らしてから発車する。
 アイドリング音を上げて、列車はゆっくりと発車した。

 愛原:「ここから3時間掛かるから」
 高橋:「速さで言うなら飛行機なんスね」
 愛原:「まあ、そうだな」

 大館能代空港から出る最終便が運休しなければ、それを選択したのだが……。
 まあ、このルートでも今日中には帰京できるんだから良しとしよう。
 斉藤社長には後日、報告書を出す時に説明すれば良い。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「ハチ公物語」

2021-04-28 15:57:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月4日15:30~16:30.天候:晴 秋田県大館市 大館市立総合病院→日産レンタカー大館店]

 病院の検査が終わった。
 検査の結果が出るまで、またしばらく待たされた。
 最終的な結果まで待っていると、東京に帰れなくなるので、簡易的な結果だけ聞いた。
 あくまでも簡易的なものであるが、私達には感染の疑いは無いという。
 恐らくあのBOWが放っていたウィルスも旧来のタイプであり、私達には既に抗体ができていたのだろうということだった。
 確かに2005年のTアビスや2013年のCウィルス程度なら、既に私達もワクチンを打っている。
 あと……リサから感染させられたGウィルスが強力のようだ。
 新型コロナウィルスですら跳ね返せるくらいの。
 但し、強過ぎて化け物と化しても知らん。
 病院を出る前、善場主任に今後のことを聞いた。
 取りあえず私達は、帰京に専念して欲しいということだった。
 詳しい話は後日ということだ。
 因みに善場主任は更なる調査の為、市内に残るらしい。
 何かあると出動しないといけないから、善場主任も大変だ。
 休み返上だものな。
 車で病院を出る。
 あとは帰る前にこの車を返しに行かなくてはならない。
 大館能代空港まで返しに行くのは大変なので、乗捨てサービスを利用する。
 だが、まずその前にガソリンを満タンにして返さないといけない。

 高橋:「先生、ポイントカード使っていいですか?」
 愛原:「いいよ。こういう時、使うものだな」
 高橋:「はい」

 高橋はしっかり店員にポイントカードを渡している。
 こういう所はしっかりしているな。
 ガソリンを満タンにした後、レンタカーショップに向かう。

 リサ:「何かジメっとしてる……」

 車の状態を店員に見てもらっている間、外に出ていたリサが空を見上げてボソッと言った。

 愛原:「夜は天気が下り坂らしいな。もっとも、東京は降らないみたいだが」

 東北にいる間は雨に当たるだろうか。
 それまでには駅にいたいものだ。

 愛原:「ここから大館駅までは遠いですか?」
 店員:「そうですね……。車で10分ちょっとくらいです」

 すると、駅まで送ってくれるという。
 願ってもない話だ。
 元々、駅からの送迎サービスはやっているらしい。
 レンタカーのうちの1台、バネット・ワゴンに乗り込む。
 横っ腹にレンタカーショップの名前と連絡先がデカデカと書かれているので、送迎用かもしれない。
 ナンバーのひらがなはレンタカーの『わ』になっていたが。
 因みにこれ、タクシーでも使われるタイプである。
 後ろに荷物が多く載せられるので、インバウンド向けに導入したタクシー会社も多々存在する。
 また、私達が東京でレンタカーを借りる際の車でもある。
 料金も安いし、調査に使うので、あまり目立たない商用バン的な車種の方が都合が良いのだ。
 リアシートに3人並んで乗車する。
 いつもは運転席にいる高橋が、今日は助手席の後ろにいるのが何だか……。

 店員:「では出発します」
 愛原:「よろしくお願いします」

 車が走り出す。
 まずは国道7号線に出て市街地を走行する。
 因みに市役所や市立病院のある本当の中心街は、駅から少し距離がある。
 こちらも鉄道忌避伝説でもあったのかと思うくらいだ。
 レンタカーショップも比較的そんな中心部に近い場所にある為に、駅から離れているのである。
 このまま国道7号線だけを行くと遠回りになるので、途中で左折する。
 それは秋田自動車道の側道的な役割を果たす道であった。
 これで直接駅まで行けるわけではなく、また途中で左折する必要があるが、だいぶアクセスは楽である。

[同日16:45.天候:曇 同市内 JR大館駅]

 店員:「駅の真ん前でよろしいですか?」
 愛原:「あ、はい。そこでお願いします」

 車を駅前に止めてもらう。

 店員:「ご利用ありがとうございました」
 愛原:「お世話さまでした」

 さすがに駅前に、これと同じ車種のタクシーが客待ちしているということはなかった。
 首都圏では廃れつつあるプリウスのタクシーが、ワンテンポ、ツーテンポ遅れてまだ地方には配備されている。
 実はプリウスのタクシーは、タクシー会社にとってはそんなに使い勝手の良い車種ではなかったそうだ。
 私達は礼を言って、車から降りた。
 ますます空はどんよりと曇っている。

 愛原:「こりゃ列車が出発する前に、雨が降るかもな」

 私も空を見上げながら駅の中に入った。

 愛原:「まずは帰りのキップだ」

 駅の改札口は自動化されているが、Suicaなどはエリア外で対応していない。
 指定席券売機が1台あったので、私はそれで帰りのキップを購入した。
 “みどりの窓口”でも購入できるし、駅員に言えば指名買いもできるだろうが、それならこの券売機でもできる。
 空いているかどうか少し不安だったが、接続先の東北新幹線の席は空いていた。
 日曜日夜の上り、尚且つコロナ禍とあっては空いているらしい。
 そろそろツアー客も戻りつつあるようだが、長距離となるとなかなか……ということだろうか。
 それでも窓側席はそれなりに埋まっており、3人並んで乗れる座席を探すのが大変だったが……。

 愛原:「あ、1号車空いてた」

 BSAAとの取り決めでは、リサを列車に乗せる場合は先頭車または最後尾ということになっている。
 但し、列車の構造・編成や指定席の都合上、止むを得ない場合は除く。
 その際は申告しなければならない。
 この場合、善場主任に申告ということになるか。
 無事、1号車の座席が取れたのだから問題無し。

〔発券しています。しばらくお待ちください〕

 乗車券が1枚と、新幹線指定席特急券が1枚ってことになるか。
 乗り換え先は“はやぶさ”なので、自由席は無い。

〔キップとお釣りをお取りください。お取り忘れにご注意ください。ありがとうございました〕

 3人分の長距離キップなので、なかなかの値段になった。
 もちろん、交通費は後で精算するのだが……。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「ありがとうございます」
 リサ:「新幹線、窓側がいい」
 愛原:「はいよ、A席」
 リサ:「ありがとう!」

 新幹線に乗る頃は夜なので、あまり車窓から夜景は望めないと思うが……。

 高橋:「先生、どうします?まだ発車まで少し時間ありますけど……」

 高橋は改札口の上の発車標を指さした。
 17時35分発の盛岡行きは3番線から出るようだが、確かにまだ30分以上も時間がある。

 リサ:「夕食は?」
 愛原:「そうだな……。立ち食いソバとかは無さそうだし、駅弁でもあるかな……。あっ、あとお土産も買わないと!」

 これが秋田駅とか新幹線の止まるような駅なら、少なからず土産物店なんかも併設されているだろうが、ここはどうだろう?
 発車標を見るに、特急列車が停車する駅ではあるようだが……。

 愛原:「すいません。この駅で駅弁とかお土産を売っている場所はありますか?」

 仕方ないので、私は有人改札口にいる駅員に尋ねた。
 “みどりの窓口”もあるだけあって、無人駅ではない。

 駅員:「あちらのNEWDAYSで売ってますよ」
 愛原:「ありがとうございます」

 そう、NEWDAYSもある。
 首都圏の店舗のように、そんなに夜遅くまで営業しているわけではないようだが、少なくとも今は営業している。

 愛原:「NEWDAYSだ。そこで完結できるぞ」
 高橋:「そういえば『お土産』って書いてありましたね」
 愛原:「それを早く言えよ」
 高橋:「サーセン」

 確かに首都圏でも、JR系のコンビニで土産を売っていることは何も珍しいことではない。
 JR東日本系のNEWDAYSはもちろん、JR東海系のベルマートでもそうである。
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