報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「白井伝三郎とヴェルトロ」

2021-04-06 20:08:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日10:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 リサ達の卒業旅行が終わってから、特に私達の周囲では何も無かった。
 しかし、どうやら今日、何か進展があるようだ。
 何故なら、これから善場主任が来ることになっているからである。
 私の方がNPO法人デイライトさんから仕事を貰っている側なのだから、本来なら私の方が出向かなければならないところだ。
 しかし、今回にあっては善場主任の方から出向くということだった。
 そういう場合は、何か事が進展したということが多い。

 善場:「おはようございます」

 約束のおよそ5分前に到着した善場主任。
 いつものスーツに、ブリーフケースを持っていた。

 愛原:「これはこれは、ようこそお越し頂きました。どうぞ、こちらへ」

 私は善場主任を出迎えると、すぐに応接室に御案内した。
 大企業の応接室にあるような立派なソファとは劣るものの、それでも一応ソファと言えるものは置いてある。

 愛原:「どうぞ、お掛けになってください」
 善場:「ありがとうございます。失礼します」

 善場主任がソファに座ると、すぐに高橋がお茶を持って来た。
 本来これは高野君がやってくれていたが、今は高橋がやっている。

 善場:「この前のご旅行、お疲れさまでした」
 愛原:「いえいえ。おかげさまで、無事に報酬を頂けることができました」
 善場:「私が余計な提案をしたばかりに、旅行計画に支障を来させてしまいまして、申し訳ございませんでした」
 愛原:「いえ、これは結果論ですから。リサや栗原さん、そして主任の勇猛さに改めて目を見張らせて頂きました」
 善場:「皆さんにお怪我が無くて何よりです。これだけは不幸中の幸いでした」
 愛原:「主任がハンターを使ったあの爆弾、何て言うんですか?」
 善場:「BOWデコイという爆弾です。BSAAが開発したもので、主に知能の低いクリーチャーを一網打尽にする為に開発されました。時限式手榴弾を改造したものなのですが、スイッチを入れると特殊なアラーム音と信号を発します。知能の低いクリーチャーはそれに誘き寄せられ、粗方集まったところで爆発するというものです。2005年のヴェルトロ事件の際、初めて使用されました」
 愛原:「確か、クイーンゼノビアとかいう豪華客船を舞台にした事件でしたね」
 善場:「そうです。この時はまだハンターには効かないものでしたが、それから改良され、今ではハンターも誘き寄せることができるようになりました」
 愛原:「なるほど。でも、リサは誘き寄せられませんでしたね」
 善場:「リサ・トレヴァーなど、人間並みの知能を持つBOWには効かないですね。動物程度の知能までです。ただ、手榴弾の規格のものを改造するに留まってしまった為、詰める火薬量が減ってしまったのです。その為、今でしたらゾンビくらいなら本当に一網打尽にできますが、ハンタークラスとなると、それだけでは倒し切れないのが実情です。ですので、あくまでもサブウェポンとしての用途ですね。私の場合、ショットガンを車から出す時間的間合いが欲しかったので使用しました」

 なるほど。
 確かに爆発に巻き込まれたハンターは、一応それなりの大きなダメージは受けていた。
 だが、完全に殺し切れなかった。
 その為、後でとどめを刺す必要があった。

 愛原:「そうでしたか。でも、便利な爆弾があったものですね。今でもBSAAで使用されてるんですか?」
 善場:「恐らくは……。ただ、あまり最近は聞かないですね。リモコン爆弾の使用例はよく聞きますが……」

 まあ、予め爆弾を仕掛けておき、そこにクリーチャー達を誘き寄せて爆発させた方が効果的か。

 愛原:「それで、ハンター達をあそこに放った犯人は分かりましたか?」
 善場:「未だに謎です。が、さすがに“青いアンブレラ”ではありません。聞き込みによりますと、確かにヘリコプターが飛んでいたそうです。そして、そこから何かを落下させたという目撃証言も多数ありました」
 愛原:「その何かというのは、ハンターの入っていた檻ですね」
 善場:「と、思われます。問題はそのヘリがどこのヘリなのかが分からないということです」
 愛原:「ああいうヘリだって、飛行許可とかを取らないといけないわけでしょう?それを取り扱う機関への問い合わせは?」
 善場:「しましたが、確認できませんでした。つまり、無許可の飛行です」
 愛原:「そんなのすぐにバレるんじゃ?」
 善場:「なので、かなり低空で飛んでいたようです。それだとレーダーに引っ掛かりませんから。ただ、いつまでも低空飛行するわけにはいきませんから、あの檻を投下した後で上昇したようですね」
 愛原:「その後は?」
 善場:「行方不明です。恐らく、どこかに着陸したのだと思われますが」
 愛原:「ハンターを搭載していたヘリだから、大きさもそれなりですよね?それでも見つからないと?」
 善場:「着陸した後で解体したとも言われています」
 愛原:「ええっ?」
 善場:「私達はヴェルトロの関係者ではないかと見ています」
 愛原:「その2005年にBSAAにケンカ売ったテロ組織……」
 善場:「はい。そして今は、白井と組んでいると思われる組織です」
 愛原:「目的は、やはりデイライトさんの施設を狙ったものですか」
 善場:「それ以外には考えられません。仮に実は愛原所長達の行動を知ってて、それを狙ったものであれば、ハンターしか送らないなんてことは無いはずですから。リサがいますから、タイラントでも対応できないことくらいは知っているはずなので」

 日本のタイラントは日本のリサ・トレヴァーの命令を聞くよう、設定されている。
 そしてそれを一番使いこなしていたのは『2番』、つまりうちのリサだ。

 善場:「いずれにせよ、私達はヘリの正体を追及します。もしかすると、所長に協力をお願いすることもあるかと思いますので、その時は何卒よろしくお願い致します」
 愛原:「全幅の信頼、ありがとうございます。その機会がありましたら、是非とも全力でお応えさせて頂きます」
 善場:「それで、次の話に移りたいのですが、先般の旅行の件です。私の余計な提案のせいで、結果的に所長方の旅行計画を台無しにしてしまったのは事実です。何でも本来の計画ですと、温泉に行かれる予定だったとか……」
 愛原:「まあ、あくまでも漠然とした計画ですが……。実際どこの温泉に行くかまでは決めてなかったのです」
 善場:「そうなのですか。しかし、行かれる予定はあったのですね」
 愛原:「まあ、一応……」
 善場:「分かりました。さすがにもう一度静岡県富士宮というわけには参りませんが、私のツテでよろしければ、1つ御紹介させて頂きたいと存じます」
 愛原:「と、仰いますと?」
 善場:「日帰り入浴専用なのですが、ちゃんとした温泉施設を1つ知っていまして、私の顔で所長方をご招待できる所がございます。お詫びに、こちらを御紹介させて頂こうかと……これがむしろ今回の大きな用件です」
 愛原:「そうだったのですか」

 私はとしては全く気にしていない、むしろ無事に帰れたことが大きかった。
 しかし善場主任がわざわざこうしてここまで来てくれたのに、硬く固辞して帰ってもらうのも却って申し訳ない気がする。

 愛原:「私としては特にその件に関して、大きく気にしていることはないのですが……」
 善場:「恐らく、そちらのリサの方がむしろ大きく気にしているのではないでしょうか」
 愛原:「うーん……。そんな感じはしないですけどねぇ……」
 善場:「私も同じリサ・トレヴァーだった者ですから、何となく分かるのですよ」
 愛原:「そうですかね。まあ、せっかくこうしておいで下さったのにお断りするのも何ですから、その温泉施設についてお話を聞かせてください」
 善場:「かしこまりました」

 善場主任はブリーフケースの中から、1枚のパンフレットを取り出した。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「帰京の名探偵」

2021-04-06 16:50:49 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月21日18:18.天候:晴 東京都中央区丸の内 JR東京駅]

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN”イントロ)♪♪。まもなく終点、東京です。【中略】今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 列車が品川駅を出ると、並行する在来線電車が出迎えるかのように並走する。
 東海道新幹線が初めて開通した日、新大阪を出発した上り一番列車にはかなりの余裕時分が取られていた。
 しかしその列車を担当した運転士は、乗客達に少しでも新幹線の速達性をアピールする為、できるだけ常に最高速度で走行してしまい、東京駅にはかなり早着してしまうところだった。
 だが、当時の国鉄当局からは定時到着を厳命されていた為、品川以北ではかなりの徐行運転をして時間を調整した。
 そのあまりのノロノロ運転ぶりは、並走する山手線にも追い抜かれるほどであったという。
 今はそんなことはなく、普通に山手線を追い抜いている。
 旧国鉄時代、山手線や京浜東北線の乗務員達は、そんな夢の超特急の乗務員に昇格することを夢見た人達もいただろう。
 だが、今となってはそれは絶対に叶わぬ夢だ。
 何故なら今は、JRが違うからである。
 もしも山手線などの在来線乗務員が新幹線の乗務員を目指すなら、同じJR東日本の東北新幹線や上越新幹線などの北へ向かう新幹線のそれを目指すことになる。
 JR東海の東海道新幹線は無理だ。

〔「……到着ホームは18番線、お出口は、右側です。お降りの際、電車とホームの間が広く空いている所がございます。お降りの際は足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 リサ:「ん……?」

 その時、疲れて寝ていたリサが目を覚ました。

 愛原:「おはよう、リサ。もうすぐ到着するぞ。降りる準備をしろ」
 リサ:「え……もう?あと5分……」
 愛原:「折り返し“ひかり”になるから、新大阪まで連れて行かれるぞ」

 私はそう言って、高橋に降りる準備をするように言った。

 高橋:「……うっス。次は上越新幹線へ乗り換えっスね」
 愛原:「寝惚けてんじゃねーぞ、下越のヤンキー。誰がオマエの田舎に行くっつった」

 そうこうしているうちに、列車は東京駅のホームに滑り込んだ。

〔東京、東京です。東京、東京です。ご乗車、ありがとうございました〕

 愛原:「ほら、早く降りるぞ」
 高橋:「うっス」

 私達は荷物を抱えて列車を降りた。

 

〔18番線に停車中の電車は、18時33分発、“ひかり”657号、新大阪行きです。停車駅は品川、新横浜、豊橋、名古屋、名古屋からの各駅です。……〕

 愛原:「よし、全員降りたか?忘れ物は無いな?」
 高橋:「はい!」

 私は高橋とJC・JK4人を確認した。

 愛原:「それじゃ、改札口まで行こう」

 私達は八重洲北口改札まで歩いた。

 愛原:「ん?栗原さん達はバスに乗り換えるって?」
 栗原蓮華:「はい。八重洲南口から浅草方面に行くバスが出ているので、それで帰ろうかと」
 愛原:「なるほど」

 東武浅草駅前経由、南千住車庫(または南千住駅)行きの都営バスが出ている。
 浅草駅からなら、本所吾妻橋まで歩いて帰れる。

 愛原:「それじや、気をつけてな」
 蓮華:「はい。楽しい旅行でした。ありがとうございました」
 愛原:「来月からリサのこと、よろしく頼むな?」
 蓮華:「分かりました」

 4月からリサ達の通う高校の先輩になる蓮華さん。

 愛原:「さて、俺達はどうしようか?」
 リサ:「お腹空いた」
 愛原:「だよな。何か食べてから帰るか」
 リサ:「おー!戦いの後だからお腹空いてた」
 愛原:「だ、だよな」

 まさかのハンター3匹との戦闘だもんな。
 あの戦いにおけるリサの活躍は称賛に値する。

 愛原:「じゃあリサの功績を称えて、リサの好きな物を食べさせてやる」
 リサ:「おー!」

 私達は八重洲北口に程近いキッチンストリートに向かった。

 リサ:「……うん。肉の香ばしい匂い。ここ!ここがいい!」
 高橋:「初見なのに肉の匂いだけでステーキ屋を当てるとは……。オマエは犬か」
 リサ:「BOWだよ!」
 斉藤絵恋:「栗原先輩からは『鬼』と呼ばれてたけどね」
 リサ:「あぁ?」

 リサ、一瞬目の色を赤く光らせて斉藤さんを睨み付ける。

 斉藤:「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 愛原:「ままま、まあまあまあ。とにかく、ここに入ろう、うん」

 私達はステーキとハンバーグが売りの飲食店に入った。

 高橋:「先生、祝杯で一杯やりますか?」
 愛原:「そ、そうだな。ジョッキ一杯くらい、いいだろ」
 リサ:「おー!私もジョッキ一杯!」
 愛原&高橋:「オマエはあと5年待て」
 リサ:「ぶー!」

[同日20:00.同地区内 同駅]

 最後の夕食会を終えた私達。
 帰りは……。

 愛原:「えっ?大宮の実家に帰るの?」
 斉藤:「はい。春休みなので、帰って来るように両親に言われまして……」
 愛原:「それじゃあ、俺達も大宮まで行かないとダメか」
 斉藤:「いえ、大丈夫です。あくまで父との契約は、東京駅までのはずです。なので愛原先生は、ここで契約満了となるはずですよ」
 愛原:「それもそうか」
 リサ:「何で帰るの?」
 斉藤:「新幹線。大宮駅では新庄が迎えに来てくれるの」
 高橋:「東京から大宮まで新幹線とは、贅沢だな」
 愛原:「そりゃ大企業家の令嬢だもんよ。しかもグリーン車だったり?」
 斉藤:「いえ、さすがに自由席です。父はそうかもしれませんが、私にはさすがにそこまでは……」
 愛原:「だよな」

 でもせめて、改札口までは見送ることにした。
 もしも万が一、絵恋さんに何かあったとしても、東京駅八重洲北口から改札口を通ったという所は確実に証言できるからだ。
 嫌だね。
 こんな仕事をしていると、そういう万が一とか、不吉なことを考えてしまう。
 そして、それで商売ができてしまうと考える自分がいてしまう。
 絵恋さんは自動券売機で新幹線のキップを買った。
 緑色の券売機で購入したものだから、先ほど乗った新幹線とは違う意匠のキップが出て来た。

 リサ:「何か色が違う」
 愛原:「『赤券』ってヤツだよ。この券売機で普通のキップを買っても、こういう色のキップが出てくるだろ?『当日券』はこの色なんだよ」
 高橋:「でも先生、さっきの新幹線のキップは『当日』に買ってましたが?」
 愛原:「あれは『前売券』を当日買ったという扱いなんだ」

 指定席券売機や“みどりの窓口”などで購入するキップは青いので、『青券』という。
 乗車券や特急券が同じ区間であれば、1枚に纏めて発券されるのだが、『赤券』の方は、それでも乗車券と特急券が1枚ずつ発券される。
 青券を発券する有人出札口の事を“みどりの窓口”と言うのは、御記憶の方もいらっしゃると思うが、かつて青券はもっと緑色をしていた。
 東京で言えば、今は京浜東北線のような色をしているが、かつては山手線のような色をしていた。
 そんな緑色のキップを発券する出札口だから、“みどりの窓口”と呼ぶようになったそうである。

 高橋:「マジっスか?」
 愛原:「いや、俺も詳しいことは分かんないんだけど、多分そういうことだろう?」
 リサ:「それじゃサイトー、気をつけて」
 斉藤:「リサさんも。入学前にまた会いましょうね」
 リサ:「ん」

 絵恋さんは2枚のキップのうち、乗車券だけを改札機に投入した。
 東海道新幹線と違って、JR東日本の新幹線は、まず乗車券のみの在来線改札口を通らなくてはならないからである(日本橋口改札を除く)。

 愛原:「じゃあ、俺達も帰ろうか」
 高橋:「はい」

 絵恋さんを見送った後、私達は丸の内北口へ出る自由通路を通り、そこから出る都営バスの乗り場に向かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする