報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「都営地下鉄の旅」

2021-04-16 19:47:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月3日07:19.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

〔まもなく1番線に、各駅停車、橋本行きが、短い8両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。この電車は、京王線内、区間急行となります〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 仕事とはいえ、急な出張だ。
 まさか、斉藤社長からの依頼が今日出発だったとは。
 よほど何か急ぎであると見える。

〔1番線の電車は、各駅停車、橋本行きです。きくかわ~、菊川~〕

 8両編成の都営車両に乗り込む。
 京王電車と違い、ラインカラーの黄緑色の塗装がされている。
 それの先頭車に乗り込んだ。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 電車のドアとホームドアが閉まる。
 先頭車は、平日ダイヤのこの時間帯だと女性専用車両となるが、土休日は適用外である。
 運転室から発車合図のブザー音と、ハンドルを操作する音が聞こえると電車が走り出した。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

 この仕事には助手の高橋だけでなく、リサも来ていた。
 仕事内容が日本アンブレラの白井絡みなだけに、BOWの襲撃を想定すると、リサのような上級BOWが護衛に付いていると心強い。
 何しろ今日の出張は飛行機に乗るのだ。
 とても機内に銃など持ち込めないからな。
 なので、BOWと遭遇した場合、リサが頼りだ。
 私がリサにそれを頼むと、リサは大きく頷いて快諾した。
 何より、仕事とはいえ、私と旅行に行けることが嬉しいようだ。

 愛原:「これから大空を飛ぶというのに、今はその逆だ。地べたどころか、地下に潜っている」
 高橋:「俺達は地下も上空もコンプするんですから凄いっスね」
 愛原:「まあな」

 入学式が終わった後、リサ達は土日は授業が無かった。
 リサが所属する1年5組の担任教師からは、『高校生になれば勉強に部活と毎日が忙しくなる。せめて最初の土日くらいはゆっくり過ごすように』とのことだった。
 実際は土日も行われる部活動の見学会が行われるそうだが、参加は任意であるし、リサとしてはあまり部活動には興味を示さなかった。
 リサが憧れたのは学校生活そのものであって、その中の何かを集中的にやりたいというわけではなかったようだ。
 そこはスポーツ特待生で入学した者とは、対照的と言えよう。
 斉藤絵恋さんは女子空手部一択であるようだが……。

[同日07:23.天候:晴 東京都中央区日本橋横山町 都営地下鉄馬喰横山駅→同区東日本橋三丁目 都営地下鉄東日本橋駅]

〔1番線の電車は、各駅停車、橋本行きです。ばくろよこやま~、馬喰横山~〕

 乗換駅に着いた私達は、ここで電車を降りた。
 そして、すぐに乗り換え通路に向かう。
 都営地下鉄から都営地下鉄に乗り換えるだけなのだが、東京の地下鉄あるあるで、何故か1つ改札口を挟まなくてはならないのだ。
 事実上の同一駅であるにも関わらず、駅名が違う理由はこれだろうか。

 愛原:「こっちの改札口を通るんだ」

 私達は大きく浅草線と書かれた改札口を通った。
 尚、ICカードで乗る場合は、別に乗換改札機でなくても良いという。
 あくまで、キップで乗る場合だ。

 愛原:「次の乗り換えで、羽田空港行きに乗れば大丈夫だ」

 地下通路を通って、今度は都営浅草線のホームに行く。

 リサ:「ゾンビが出て来そう……」
 愛原:「こら」

 アメリカのラクーン市やトールオークス市でも、地下鉄はゾンビパラダイスと化していたらしいが、全駅がそうだったというわけではないようだ(ラクーン市のレッドストーン・ストリート駅は、ゾンビの進入を拒むことができていた)。

〔まもなく1番線に、各駅停車、羽田空港第1・第2ターミナル行きが到着します。黄色いブロックの内側で、お待ちください。この電車は、京急線内、“エアポート急行”となります〕

 都営新宿線と違って、様々な鉄道事業者の様々な車両が走行しているからか、都営浅草線はあまりホームドアが普及していない。
 但し、やってきた電車は、東京都のイチョウマークを車両の前面はもちろん側面や内装にも着けた、都営の車両だった。
 新宿線用と違って軌間は異なり、外装も内装も異なる。

〔1番線の電車は、各駅停車、羽田空港第1・第2ターミナル行きです。ひがしにほんばし~、東日本橋~、問屋街です〕

 新宿線用の車内はシックな感じであるが、こちらは明るい感じである。
 因みに旧型車両である。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 ドアチャイムは都営大江戸線の物と同じ音色。
 ピンポーンピンポーンと2回鳴る。
 ピンク色の座席に腰かけた。
 土曜日なので、あまり混んでいない。
 この路線もツーマン運転なので、車掌の発車合図のブザーが鳴ってから発車する。
 先頭車に乗っていると、だいたい聞こえてくる。

〔次は人形町、人形町。日比谷線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Ningyocho.A14.Please change here for the Hibiya line.〕

 リサ:「先生、いつ地上に出るの?」
 愛原:「泉岳寺まで地下だね。泉岳寺から京急線に入って、品川駅から地上だよ。ただ、京急空港線内はまた地下になる」

 地上区間もあるにはあるが、京急空港線は殆ど地下区間だったはずだ。
 あまり地下が好きではないリサにとって、せっかく研究所から出れたのに地下にいるというのは好きではないようだ。

 高橋:「先生。これから行く白井の実家のあった場所、住所まで割れてるもんだから、そこまで分かったらネットで調べれるじゃないスか」
 愛原:「そうだな」

 今やグーグルマップのストリートビューで大体分かる時代だ。
 それで調べてみたところ、ストリートビューには空き家の廃屋と思しき物が写っていた。
 廃屋ならこっそり中に入って調べることができる。
 画像は2年前のものであったから、大して変わっていないはずだ。

 愛原:「だからこそ、中に何かあるかもしれない。最悪、BOWが眠っていて、俺達が入った途端、襲って来るかもしれない」
 リサ:「その時は任せて。ハンターくらいなら、軽くあの世に送ってやるから」

 リサはニッと笑った。
 緑色のマスクをしているので口元は見えなかったが、恐らく牙が覗いたはずだ。
 そして何より、一瞬だがリサの爪が尖ったような気がした。

 リサ:「それよりお腹空いた」
 高橋:「先生。飛行機の時間より、少し早く着く計算スか?」
 愛原:「そうだよ。いくら地下鉄が渋滞無しとはいえ、人身事故とか車両故障とかでダイヤが乱れる恐れがあるだろ?早めに行くに越したことはない。着いたら、空港のレストランで何か食べよう」
 リサ:「おー!」

 地下区間はいいのだが、京急線内って踏切あったよな?
 そんな所で事故らなければ良いのだが。
 いや、電車ならその程度の事故でも、中の乗客は意外と無事だったりする。
 因みに京急本線で、時速120キロで走行中の快特電車が踏切で立ち往生していたトラックと大激突したというものがあったが、快特はそのスピードで走っても、急行はそんなに速く走らないだろうからな。
 いや、私はリサに期待を持たせてしまった。
 それが裏切られるダイヤ乱れが起きたりすると、たちまちリサの機嫌が悪くなってしまう。
 BOWの常で、暴走直前は何も喋らなくなることが多いらしい。
 私は、この電車がダイヤ通りに着くことを祈った。
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「白井伝三郎の行方」

2021-04-16 15:42:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月2日13:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの入学式があり、私は保護者として参加していた。

 斉藤秀樹:「愛原さん」
 愛原:「あっ、斉藤社長。お疲れ様です」

 斉藤絵恋さんの父親で国内大手製薬会社の社長であり、私の事務所の大口顧客でもある斉藤社長が話し掛けて来た。

 秀樹:「今日から私の娘もここに通います。よろしくお願いしますよ」
 愛原:「社長こそ、高等部でもPTA会長ですね。よろしくお願いします」
 秀樹:「他に会長職をやりたい人がいないだけですよ。それよりどうですか?日本アンブレラの件、何か進展していますか?」
 愛原:「ようやく白井伝三郎の兄弟に会うことができましたよ。川口市内で歯医者さんをやっている方です」
 秀樹:「そうですね。そして白井伝一郎氏は、都内の医大教授です」
 愛原:「そうなんですか。医療従事者一族なんですね。どうして伝三郎だけ道を外れたのか……」
 秀樹:「それは本人に聞かないと分かりませんね。私も仕事柄、医療従事者と接する機会は多いです。しかし、いわゆるマッドサイエンティストはなかなかいないですよ」
 愛原:「でしょうね」

 私はふと思った。

 愛原:「社長。何か、私より白井一族のことは御存知のようですね」
 秀樹:「業務上知り得た情報程度ですよ。私も薬屋さんですから、医師や薬剤師の方達と接する機会は多いので」
 愛原:「社長はもうどこに伝三郎が隠れているのか、おおよその見当は付いてらっしゃるんじゃないですか?」
 秀樹:「愛原さんのその推理力に敬意を表します。それを見込んで、早速仕事を依頼したいのです。これから事務所にお邪魔しても?」
 愛原:「あ、はい。是非どうぞ」

 どうやら社長、今日は娘の為に1日休みを取っているようだ。

[同日14:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「ええっ!?白井の実家って、都内じゃないんですか!?」
 秀樹:「はい。少なくとも白井伝一郎氏や伝二郎氏のプロフィールを見ると、そうなっています」
 愛原:「すると、どこなんですか?」
 秀樹:「秋田県ですね。今は無いのですが、かつて東京中央学園には学生寮がありました。白井伝三郎は中学までは地元で、高校からそこに入っていたようです。既に上京している兄達から庇護を受けながら、ね」
 愛原:「地元の高校ではなく、あえて都内の高校ですか」
 秀樹:「兄達もそういうルートだったらしいですよ。どちらも東京医科歯科大学卒ですから」

 伝一郎氏は医学部を卒業し、伝二郎氏は歯学部を卒業したのだろう。
 しかし、この大学では薬学部は無い。
 伝三郎だけ、別の大学に行ったのだろう。
 医学部や歯学部では一流の大学だから、薬学部にも一流の大学があって、伝三郎はそこに行ったに違いない。

 秀樹:「そこで愛原さん達にお願いしたいのは、実家が今どうなっているかを見てきて欲しいのです。もう既に白井兄弟の両親は死亡していまして、普通に考えれば長男である伝一郎氏が相続していると思われますが、伝一郎氏は世田谷区に住居を構えています」
 愛原:「なるほど。そこに潜んでいる可能性もあるということですな?」
 秀樹:「伝三郎は海外へは逃亡していないようなので、国内に潜伏している可能性は高いのです」

 外国に行けば日本国内での活動の制約を受けない“青いアンブレラ”なんかも動きそうだからな。
 ヴェルトロはどうするのだろう?
 コロナ禍で国際線もロクに飛んでいない中、どうやって入国するつもりなのか。
 まあ、東京オリンピック絡みか。
 いくら海外客は無観客にするとはいえ、関係者に成り済まして入国は可能だからな。
 それとも、カルロス・ゴーンみたいなやり方で国外脱出するか?

 愛原:「でも、そう簡単に行くかなぁ……」
 斉藤:「都合が良すぎるとは思いますが……」

 白井の本籍地など、恐らくデイライト側でも調べているだろう。
 それが例え東北の片田舎で会ったにせよ、そこに伝三郎が潜んでいるかどうかなんて、自分達で調べるはずだ。
 私に依頼してくる時は、公務員が表立って行動できない時とかだ。

 愛原:「デイライトさんでも調べが付いているかもしれません。私はデイライトさんの指示を待ちたいと思います」
 斉藤:「分かりました」
 愛原:「むしろ、私がもう1つ気になることがあるんですよ」
 斉藤:「何ですか?」
 愛原:「リサの本当の親って何をしてるんだろうなって……」
 斉藤:「日本アンブレラが『養子縁組先を紹介する』として、宗教団体が運営していた児童福祉施設から子供を『買っていた』事件ですね」
 愛原:「最近は本当に孤児だから入所する子供ってのは、意外と少ないんだそうですね」
 斉藤:「そのようですね。最近多いのが虐待から逃れる為ということらしいです」
 愛原:「リサは人間だった頃、どうだったんだろうって思うんです。いえ、今日の入学式に行ってみて思ったんですけどね」
 斉藤:「あの福祉施設は強制的に閉鎖されましたからね。かつての関係者達も逮捕されたりしています」

 私はリサの両親は、既にこの世の人達ではないものと思っていた。
 だが、どうだろうと思う。
 この辺は善場主任に聞けば分かるだろうか。
 斉藤社長には仕事を受けるかどうかは保留にして、善場主任に連絡を取ってみた。
 するとやはり、デイライトでは把握していたようだ。

 善場:「リサの両親ですか?行方不明です。あの福祉施設に家宅捜索が入って、色々と書類が押収されました。その時、リサのことについて書かれた書類もあったんですが、行方不明ということになっていました」
 斉藤:「行方不明?じゃ、今は警察が捜索しているんですか?」
 善場:「捜索願が出されていないですし、事件に巻き込まれたという証拠も無いので警察は動いていません。一応、保護責任者遺棄の疑いで捜査はしていたようですが……」

 結局見つからないまま捜査は打ち切りとなった。

 善場:「施設側の書類によると、リサが5歳か6歳くらいの頃、施設前に放置されていたのを施設側が保護したのが始まりのようです。この時点で、物凄く怪しいですけどね」

 つまり施設側が書類を偽造していた可能性もあるということだ。

 愛原:「なるほど。分かりました。ありがとうございます」
 善場:「愛原所長、斉藤社長の件ですが、依頼を受けてみてはいかがでしょうか?私は、斉藤社長は何かを知っているのだと思います。しかし、それを直接証言したくはない。だから愛原所長を使って、何かをしようとしているのだと思われます」
 愛原:「分かりました。そういうことなら、引き受けてみます」

 私は電話を切ると、今度は斉藤社長に電話をした。
 そして仕事を受ける旨を伝えると、すぐに依頼書がファックスされて来たのだった。
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