報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤絵恋からの情報」

2021-04-12 19:48:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月28日19:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 日帰り温泉旅行からの帰り、私達は東京駅構内にあるキッチンストリートにて夕食を取った。
 私は天ぷらが食べたかったので、そこの店に入った。

 高橋:「サーセン、先生。俺、天ぷらは作れなくて……」
 愛原:「いや、いいんだよ」

 だから天ぷらは、高橋が近所のスーパーで売っているお惣菜を買って来る。
 しかし作り置きされているものだと、なかなかサクサク感が無い。
 出来立てを食べるには、やはり店でないとダメなのだ。
 夕食を楽しんでいると、リサが言った。

 リサ:「サイトーからのLINE。どうしても歯が痛くてガマンできないから、急患で市外の歯医者まで行くって」
 高橋:「けっ、軟弱者めが」
 愛原:「こらこら、高橋。痛いもんは痛いだろ。空手で鍛えられた精神力でもってさえ痛みに耐えられないなんて、虫歯も進行すると凄いよな」
 高橋:「そうなんですよ。俺も少年刑務所時代、虫歯になったことがあるんですが、申請してもなかなか診てもらえなくて大変でしたよ」
 愛原:「そうなのか」
 高橋:「少年院だった頃はまだマシなんですけどね」

 恐らくこれは少年院は『懲罰』よりも『更生』に重きを置いているが故であり、少年刑務所はどちらかというと『懲罰』に重きを置いているからかもしれない。
 少年刑務所ではないが、実際に収監中の記録を書いた安部譲二氏の『塀の中の懲りない面々』で、受刑者が治療を申請してもなかなか看てもらえない描写がある。

 愛原:「ふむふむ」
 高橋:「そういった意味では、シャバの方が全然マシですよ」
 愛原:「そりゃそうだろう」
 高橋:「俺は先生に拾って頂けて幸せ者です」
 リサ:「あ、それは私も」
 愛原:「そうなのか。それは嬉しいな。それなら、保護司でもやるか」
 高橋:「あ、それはダメです。俺以外のヤツの面倒なんて看てもらっては困ります」
 リサ:「私以外のBOWなんか見ないで!」
 愛原:「……頭痛ェ」

 なんてやりとりのあったのが、先ほどの夕食会。
 それが終わった後、私達は駅の外に移動してバスを待っている。
 丸の内北口バス停でバスを待っていると、藤野の時とは違い、大型の路線バスがやってきた。
 というか、都営バスで大型車以外のバスを見たことがない。
 バス会社や乗る場所で、まず前から乗るのか後ろから乗るのかが違うという所が面白い。
 同じバス会社でも、都区内なのか都下なのかでも乗り方や運賃体系が違ったりする。
 まあ、多くの路線バスが後ろから乗って前から降り、運賃は距離制で後払いってのが多数だろうから、この東京都区内方式が珍しいのかもしれない。
 バスに乗り込んで、私は中扉後ろの1人席に座り、リサと高橋がその後ろの2人席に座った。

〔「19時ちょうど発、東20系統、菊川駅前経由、錦糸町駅行き、発車致します」〕

 発車の時間になって、バスが走り出した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは日本橋、門前仲町、東京都現代美術館前経由、錦糸町駅行きでございます。次は呉服橋、呉服橋でございます。東京駅日本橋口へおいでのお客様は、こちらが便利です。次は、呉服橋でございます〕

 リサ:「ねえ、先生。これ……」
 愛原:「ん?」

 2人席の窓側に座っているリサが、スマホを前に座っている私の所に突き出してきた。
 私が振り向くと……。

 リサ:「サイトーが向かった歯医者さん、『白井歯科医院』って言うらしいよ」
 愛原:「白井……偶然だな。まあ、白井っていう名字もそんなに珍しくはないからな」

 多分、アメリカ人辺りにいる色系の名字の人。
 ○○・ホワイトさんとかなど、日本の名字にすると、まんま『白井さん』になるんだろうな。

 リサ:「サイトーに、『その歯医者さんに、白井伝三郎って知ってるか聞いて』って返信しておくね」
 愛原:「そんな余裕あるかなぁ……。明日まで我慢できない痛みの状態でさ」
 リサ:「無くても聞かせる。サイトーは私の言う事、何でも聞くから」
 愛原:「!」

 私はリサのドSぶりに口をあんぐり上げた。
 マスクをしているせいで、その様子は周りには見えなかっただろうか。

 高橋:「先生、こいつ本当に単独で高校に行かせて大丈夫っスかね?世が世なら、リアル『スケ番刑事』ですよ?」
 愛原:「若いのに『スケ番刑事』よく知ってるなぁと思ったらお前、俺と会う前、『CRびっくりぱちんこスケバン刑事』で有り金全部取られたんだって?」
 高橋:「そーなんスよ。それでムカついて台ぶん殴ってやったら、いきなりサツが来やがりましてねぇ……」
 愛原:「今時負けたくらいで、台ぶん殴るヤツなんてそうそういねーだろ。店員に八つ当たりするヤツはいてもさ」

 店員さん、いつも御苦労様です。
 昭和時代から平成初期の頃なら、逆に店員に店の裏に連れ込まれて【お察しください】。

 愛原:「とにかく、俺の許可無しに1人でパチは禁止。分かったか?」
 高橋:「はい。先生やパールと一緒に行きます」
 愛原:「霧崎さんもパチンコやるのかよ……」
 高橋:「はい。あ、さすがにメイド服ではやらないですよ」
 愛原:「当たり前だ!シュール過ぎるわ!」

[同日19:31.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停]

〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線、都営バス、とうきょうスカイツリー、築地方面はお乗り換えでございます。次は、菊川駅前でございます〕

 私は降車ボタンを押した。

〔次、止まります。バスが止まるまで、そのままお待ちください〕
〔「お待たせ致しました。菊川駅前です」〕

 バスが停留所に停車し、中扉が開いた。
 外国のバスだと、中扉もグライドスライドドアであることが多いが、日本のバスだと引き戸が多い。
 前扉も最近になって、グライドスライドドアから従来の折り戸に戻る車種が出て来た。
 バスを降りてから、まずは実際に地下鉄の出入口のある交差点の方に向かって歩く。
 そして交差点に着くと、リサがまたスマホを見て言った。

 リサ:「サイトーからのLINE。『白井伝三郎を知っている』って」
 愛原:「はあ!?」
 高橋:「マジか!?」
 リサ:「歯医者さんの名前は白井伝二郎。伝三郎は歯医者さんの弟さんだって」
 愛原:「何だそりゃ!?だ、大丈夫なのか、その歯医者さん?」
 リサ:「一生懸命治療してくれたらしいけど……」
 愛原:「すぐに善場主任に報告だ!一旦、事務所に行くぞ!」
 高橋:「はい!」

 私達はマンションに帰らず、一旦事務所に行くことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「温泉から帰ろう」 2

2021-04-12 16:06:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月28日16:11.天候:晴 東京都八王子市高尾町 JR高尾駅→中央線1646T電車10号車内]

 藤野駅から私達を乗せた中央線快速電車は、高尾駅に到着した。
 ここで列車番号の末尾のアルファベットがMからTに変わる。
 利用客には関係無いが、ダイヤ設定上、『列車』から『電車』へと変わる瞬間だ。
 首都圏にお住まいの方なら、こんな言い回しを聞いたことがないだろうか。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の3番線の電車は、16時11分発、快速、東京行きです。次は、西八王子に止まります〕
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、16時27分発、普通、小淵沢行きです。……〕

 なんて。
 乗客にとっては何がどうなるというわけでもない言い回しの違いだが、これはダイヤ設定上の違いによる。
 今は『電車』も『列車』も、自車にモーターを積んで走る車両が多くなったから見分けが付かないが、『電車』とはいわゆる国電のこと。
 かつては焦げ茶色をして走っていた通勤電車のこと。
 『列車』とは汽車ポッポのこと。
 最近のJR東日本は、そんなかつての汽車ポッポも通勤電車みたいにロングシートを増やしてきているが、要はそういうことなのである。
 なので、ダイヤの作り方が違うらしい。
 電車は加減速共に俊敏で、汽車は鈍い。
 だから同じダイヤの作り方では、運行管理に失敗する。
 それで、内部では厳密に『電車』と『列車』を区別しているらしい。
 もちろん、乗客にはそんなこと知ったこっちゃないが。
 新幹線はどうなのかというと、そもそも考え方が在来線と違う。
 厳密に言えば『列車』なのであるが、そもそも開業時からして『電車』であり、旧国鉄内部でも0系のことを『新幹線電車』と呼んでいたので、何とも言えない(実際に新幹線ホームの放送でも、『列車』ではなく、『電車』と言うことが多い)。

〔「この電車は16時11分発、中央線快速電車、東京行きです。途中駅におきます特別快速の通過待ち、接続はございません。まもなく発車致します」〕

 乗務員交替もここで行われる。
 ここでJR東日本の支社が変わるのだろう。
 旧国鉄時代で言えば、管理局が変わるといったところか。
 ホームから発車メロディが流れて来た。

〔3番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 高尾駅にはホームドアが無く、車両のドアが閉まるとすぐに発車する。
 これは高尾駅に停車する車両の規格がバラバラで、それに合わせたホームドアが造れないからだろう。

〔この電車は中央快速線、快速、東京行きです。停車駅は吉祥寺までの各駅と、荻窪、中野、新宿、四ツ谷、御茶ノ水、神田、終点東京です。次は、西八王子です〕

 中央線の快速電車は、平日と休日とでは停車パターンが違う。
 平日はこれよりもっと多くなる。
 その分、特快の本数は増えるのだが。
 せっかくの直線区間なのに、停車駅が多いせいでスピードダウンしている問題が発生している。
 休日ダイヤの快速くらいがちょうど良いだろうに、ここで『杉並三駅問題』が出て来る。
 気になる方はネットで検索。

 リサ:「もうトンネルは無いね」

 リサが話し掛けて来た。

 愛原:「高尾から東はもう無いよ。いきなり景色が変わるからびっくりするな」

 高尾から東はまだまだ通勤路線って感じなのに、そこから西はいきなりガラリと景色がローカル線に変わる。

 リサ:「トンネルの中は、どうも研究所に連れて行かれるような気がして不安なの」
 愛原:「そうなのか。じゃあ、行きはずっと地下鉄だったから辛かったろう。悪かったな」
 リサ:「今は大丈夫。笹塚まで我慢すれば良かったから」

 京王新線は名前の通り、京王電鉄の路線なのだが、笹塚駅以外は地下区間ということもあり、まるで都営地下鉄新宿線の延長線のような感じになる。

 愛原:「帰りはこのまま東京駅まで行こう。そしてこの前みたいに夕食を食べて、それからバスで帰ればいい。それなら、トンネルを通らずに済むぞ」
 リサ:「うん、そうだね。それがいい」
 高橋:「先生のお計らいだ。先生の大慈大悲に感謝しろよ?」
 リサ:「分かった」
 愛原:「……いや、高橋。飯代奢るんだから、そこはオマエにも感謝してもらわないと」
 高橋:「あっ、サーセン!」
 リサ:「お兄ちゃん、アウト~」

[同日17:24.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

〔次は終点、東京、東京。お出口は、左側です。新幹線、山手線、京浜東北線、東海道線、上野東京ライン、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私達を乗せた電車は、まもなく中距離の旅を終えて終着駅に着こうとしている。
 この頃リサは、私に寄り掛かってウトウトしていた。
 高橋は他の乗客達と同様、スマホを弄っている。
 どうもまた霧崎さんからの束縛が強くなっているらしい。
 LINEが来たら既読してすぐに返信しないと怒るのだそうだ。
 私が大丈夫かと心配すると、高橋は苦笑して言った。

 高橋:「あいつ、生理前でムラムラすると、いつもこんな感じなんです」

 とのことだ。

 愛原:「生理前になるとヤらせてくれるなんて幸せ者じゃないか」
 高橋:「雌蜘蛛に食われると分かってて、ヤりに行かなくてはならない雄蜘蛛の気持ちが分かりますよ」

 との返しに、私は何も反論できなかった。
 この事から、蜘蛛という生き物はきっと創造神から何か睨まれるようなことでもしたのかと思われる。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく東京、東京、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線に入ります。お出口は左側です。今日もJR中央線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 電車がホームに滑り込む。
 東京駅中央線ホームも、たまに規格外の特急車両が発着することもあるからか、ホームドアは無い。

〔とうきょう~、東京~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ドアが開いて、私達は電車から降りた。
 リサはマスクに隠れた口を大きく開いて欠伸をしている。

 高橋:「先生、夕食はどこにしましょう?」
 愛原:「この前行ったキッチンストリートにしよう。この前はステーキ屋だったが、今度は俺の行きたい所でいいか?」
 高橋:「お供します!」
 リサ:「お供します」

 尚、この時点でリサは肉ではないと思って、少しがっかりしたらしい。
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