[3月29日19:00.天候:雨 埼玉県川口市内某所 白井歯科医院]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
私は見落としていた。
五十嵐元社長親子の本籍地は埼玉県川口市。
この町は、白井伝三郎とも繋がっていたのだと。
しかもその情報をリサの百合ップル親友、斉藤絵恋さんからもたらされるとは。
私は実際に調査するべく、わざと患者のフリして白井伝二郎院長の治療を受けた。
どちらも歯石取りだ。
一応、ちゃんと歯磨きはしているのだが、まともに歯科検診は受けていなかったせいか、意外と多く歯石がこびりついていたようだ。
喫煙者の高橋に至っては、ヤニ取りも行われた。
因みに白井伝二郎院長はマスクをしていたが、確かに兄弟というだけあって、何となく伝三郎の面影はあった。
初診の患者がわざわざ県外から来ることに、院長は不思議に思ったらしい。
こんな時間に来たのは、診療時間ギリギリに行けば、後の患者がおらず、話が聞けると思ったからだ。
白井伝二郎:「わざわざ都内から、うちのクリニックに来られるとは……。どなたかの御紹介でもありましたかな?」
治療が終わって診察椅子が起こされ、最後にうがいをしていると、院長が計画通り話し掛けて来た。
因みにクリニック自体はどこにでもある普通の歯科医院で何の変哲も無く、院長自身、何かネットやマスコミに取り上げられるほど有名というわけでもない。
実際に受けた治療も、ごくごく普通な感じであった。
愛原:「そうなんですよ。昨日、院長先生は休日当番医でしたね?」
伝二郎:「そうですが……」
愛原:「その時、斉藤絵恋という女子中学生のコが急患で来られたでしょう?そのコにです」
伝二郎:「あのコはだいぶ進行した虫歯でした。しかし、治療内容そのものは特に変わったことはしていませんよ。もっとも、インプラントを望まれましたがね」
さすがは斉藤家。
保険適用外のインプラントを希望したか。
保険適用外だから高いぞ。
愛原:「その時、御兄弟のことについて聞かれましたでしょう?」
伝二郎:「!……あなた方の差し金でしたか」
さすがの院長も眉を潜めた。
愛原:「すいません。実は私共、都内で探偵業をやっている者でして、愛原と申します。こちらは助手の高橋です」
高橋:「ちゃス」
私は院長に名刺を渡した。
伝二郎:「弟のことなら、もう縁を切っています。それは兄もです」
愛原:「恐らく伝一郎さんと仰るのですね?」
伝二郎:「そうですよ。兄は外科医師です」
愛原:「おお!御兄弟して医療従事者とはっ!素晴らしいですな」
もっとも、医師と歯科医師では免許が違う。
伝二郎:「弟は薬剤師を目指していましたが、随分と薬の勉強にのめり込んでしまったようで、普通の薬剤師になるのでは満足できないようでした。ついにその道で博士号まで取った後、海外のアンブレラ社に入社したのです」
愛原:「そのアンブレラがまともな会社だったら、多少マッドでも結果オーライだったろうにねぇ……」
伝二郎:「その後、設立された日本法人の研究開発責任者になったまではいいものの、アメリカ本社の不祥事はもちろん、日本でも不祥事は明らかになりましたからね。私達にとっても迷惑な話ですよ。病院勤務の薬剤師になっていれば良かったんだ」
愛原:「その弟さんがどこにいらっしゃるか分かりませんか?」
伝二郎:「もう一度申し上げるが、私も兄も、弟とは縁を切っています。どこにいようが、私の関知するところではございません」
愛原:「せめて見当だけでも……」
伝二郎:「愛原さんは弟を見つけて、どうなさるおつもりですか?」
愛原:「もちろん、公的機関に通報または捕まえて突き出しますよ。現行犯逮捕なら、一般人でも認められていますから」
あくまでも、現行犯に限る。
例え指名手配犯を見つけても、現行犯では無い以上、一般人に逮捕権限は無い。
だから、『速やかに110番』と呼び掛けているのだ。
もっとも、例え捕まえたにせよ、それが本物の指名手配犯の場合、逮捕した一般人が逮捕監禁罪に問われることは無いようだ。
なので実際は私達が捕まえるのではなく、善場主任達かBSAAとなるだろう。
伝二郎:「警察は民間の探偵も使って捜索しているのですか?」
愛原:「というか、警察の手にも負えないみたいですよ。いや、警察が逮捕できるならするでしょうけど。もはや、もっと上の国家機関とか国連機関が動いている有り様ですよ?」
伝二郎:「あいつはそんなことをやらかしたのですか!何たる外道だ!」
愛原:「ヨーロッパの武装テロ組織と組んでいるという噂もありますし、ですから御存知の情報はどうか教えて頂きたいのです」
伝二郎:「……弟は縁を切っているので、何も知りませんよ。これ以上は、お話しできません」
院長はそう言って、私達を診察室から追い出した。
高橋:「先生、あれはきっと何かを隠している感じっスよ」
愛原:「だろうな。まあ、これでやっと伝三郎には2人の兄がいることが分かったよ」
長男の伝一郎氏なら話してくれるだろうか。
外科医師ということなので、開業医の伝二郎氏よりも忙しそうだ。
いや、待て。
外科医師というと、つい大病院に勤務する医師をイメージしてしまうが、開業医だって存在する。
美容外科なんか、その典型例だ。
伝二郎氏のように開業医なら、今みたいな感じで話を聞かせてくれるだろうか?
それとも……。
愛原:「一応、ここまでの情報を善場主任に報告しよう」
私は治療費を払うと、クリニックの外に出た。
一応、名刺は渡してあるから、伝二郎氏の気が変わって連絡してくれることを願った。
そして、今のやり取りを電話で善場主任に報告した。
善場:「ありがとうございます、愛原所長。報酬は弾ませて頂きます。あとのことは私共にお任せください」
愛原:「伝一郎氏のことについても調べましょうか?」
善場:「そうですね……。その必要があれば、またお願いします。取りあえず所長は、今のことを報告書に纏めて、私に提出してください」
愛原:「分かりました」
白井伝一郎氏が開業医なのであれば、ネットで検索すればクリニックの公式サイトがヒットするだろうし、病院勤務なのであれば、公的機関なら簡単に調べられるだろう。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
私は見落としていた。
五十嵐元社長親子の本籍地は埼玉県川口市。
この町は、白井伝三郎とも繋がっていたのだと。
しかもその情報をリサの
私は実際に調査するべく、わざと患者のフリして白井伝二郎院長の治療を受けた。
どちらも歯石取りだ。
一応、ちゃんと歯磨きはしているのだが、まともに歯科検診は受けていなかったせいか、意外と多く歯石がこびりついていたようだ。
喫煙者の高橋に至っては、ヤニ取りも行われた。
因みに白井伝二郎院長はマスクをしていたが、確かに兄弟というだけあって、何となく伝三郎の面影はあった。
初診の患者がわざわざ県外から来ることに、院長は不思議に思ったらしい。
こんな時間に来たのは、診療時間ギリギリに行けば、後の患者がおらず、話が聞けると思ったからだ。
白井伝二郎:「わざわざ都内から、うちのクリニックに来られるとは……。どなたかの御紹介でもありましたかな?」
治療が終わって診察椅子が起こされ、最後にうがいをしていると、院長が計画通り話し掛けて来た。
因みにクリニック自体はどこにでもある普通の歯科医院で何の変哲も無く、院長自身、何かネットやマスコミに取り上げられるほど有名というわけでもない。
実際に受けた治療も、ごくごく普通な感じであった。
愛原:「そうなんですよ。昨日、院長先生は休日当番医でしたね?」
伝二郎:「そうですが……」
愛原:「その時、斉藤絵恋という女子中学生のコが急患で来られたでしょう?そのコにです」
伝二郎:「あのコはだいぶ進行した虫歯でした。しかし、治療内容そのものは特に変わったことはしていませんよ。もっとも、インプラントを望まれましたがね」
さすがは斉藤家。
保険適用外のインプラントを希望したか。
保険適用外だから高いぞ。
愛原:「その時、御兄弟のことについて聞かれましたでしょう?」
伝二郎:「!……あなた方の差し金でしたか」
さすがの院長も眉を潜めた。
愛原:「すいません。実は私共、都内で探偵業をやっている者でして、愛原と申します。こちらは助手の高橋です」
高橋:「ちゃス」
私は院長に名刺を渡した。
伝二郎:「弟のことなら、もう縁を切っています。それは兄もです」
愛原:「恐らく伝一郎さんと仰るのですね?」
伝二郎:「そうですよ。兄は外科医師です」
愛原:「おお!御兄弟して医療従事者とはっ!素晴らしいですな」
もっとも、医師と歯科医師では免許が違う。
伝二郎:「弟は薬剤師を目指していましたが、随分と薬の勉強にのめり込んでしまったようで、普通の薬剤師になるのでは満足できないようでした。ついにその道で博士号まで取った後、海外のアンブレラ社に入社したのです」
愛原:「そのアンブレラがまともな会社だったら、多少マッドでも結果オーライだったろうにねぇ……」
伝二郎:「その後、設立された日本法人の研究開発責任者になったまではいいものの、アメリカ本社の不祥事はもちろん、日本でも不祥事は明らかになりましたからね。私達にとっても迷惑な話ですよ。病院勤務の薬剤師になっていれば良かったんだ」
愛原:「その弟さんがどこにいらっしゃるか分かりませんか?」
伝二郎:「もう一度申し上げるが、私も兄も、弟とは縁を切っています。どこにいようが、私の関知するところではございません」
愛原:「せめて見当だけでも……」
伝二郎:「愛原さんは弟を見つけて、どうなさるおつもりですか?」
愛原:「もちろん、公的機関に通報または捕まえて突き出しますよ。現行犯逮捕なら、一般人でも認められていますから」
あくまでも、現行犯に限る。
例え指名手配犯を見つけても、現行犯では無い以上、一般人に逮捕権限は無い。
だから、『速やかに110番』と呼び掛けているのだ。
なので実際は私達が捕まえるのではなく、善場主任達かBSAAとなるだろう。
伝二郎:「警察は民間の探偵も使って捜索しているのですか?」
愛原:「というか、警察の手にも負えないみたいですよ。いや、警察が逮捕できるならするでしょうけど。もはや、もっと上の国家機関とか国連機関が動いている有り様ですよ?」
伝二郎:「あいつはそんなことをやらかしたのですか!何たる外道だ!」
愛原:「ヨーロッパの武装テロ組織と組んでいるという噂もありますし、ですから御存知の情報はどうか教えて頂きたいのです」
伝二郎:「……弟は縁を切っているので、何も知りませんよ。これ以上は、お話しできません」
院長はそう言って、私達を診察室から追い出した。
高橋:「先生、あれはきっと何かを隠している感じっスよ」
愛原:「だろうな。まあ、これでやっと伝三郎には2人の兄がいることが分かったよ」
長男の伝一郎氏なら話してくれるだろうか。
外科医師ということなので、開業医の伝二郎氏よりも忙しそうだ。
いや、待て。
外科医師というと、つい大病院に勤務する医師をイメージしてしまうが、開業医だって存在する。
美容外科なんか、その典型例だ。
伝二郎氏のように開業医なら、今みたいな感じで話を聞かせてくれるだろうか?
それとも……。
愛原:「一応、ここまでの情報を善場主任に報告しよう」
私は治療費を払うと、クリニックの外に出た。
一応、名刺は渡してあるから、伝二郎氏の気が変わって連絡してくれることを願った。
そして、今のやり取りを電話で善場主任に報告した。
善場:「ありがとうございます、愛原所長。報酬は弾ませて頂きます。あとのことは私共にお任せください」
愛原:「伝一郎氏のことについても調べましょうか?」
善場:「そうですね……。その必要があれば、またお願いします。取りあえず所長は、今のことを報告書に纏めて、私に提出してください」
愛原:「分かりました」
白井伝一郎氏が開業医なのであれば、ネットで検索すればクリニックの公式サイトがヒットするだろうし、病院勤務なのであれば、公的機関なら簡単に調べられるだろう。