報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「白井伝三郎の行方」

2021-04-16 15:42:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月2日13:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの入学式があり、私は保護者として参加していた。

 斉藤秀樹:「愛原さん」
 愛原:「あっ、斉藤社長。お疲れ様です」

 斉藤絵恋さんの父親で国内大手製薬会社の社長であり、私の事務所の大口顧客でもある斉藤社長が話し掛けて来た。

 秀樹:「今日から私の娘もここに通います。よろしくお願いしますよ」
 愛原:「社長こそ、高等部でもPTA会長ですね。よろしくお願いします」
 秀樹:「他に会長職をやりたい人がいないだけですよ。それよりどうですか?日本アンブレラの件、何か進展していますか?」
 愛原:「ようやく白井伝三郎の兄弟に会うことができましたよ。川口市内で歯医者さんをやっている方です」
 秀樹:「そうですね。そして白井伝一郎氏は、都内の医大教授です」
 愛原:「そうなんですか。医療従事者一族なんですね。どうして伝三郎だけ道を外れたのか……」
 秀樹:「それは本人に聞かないと分かりませんね。私も仕事柄、医療従事者と接する機会は多いです。しかし、いわゆるマッドサイエンティストはなかなかいないですよ」
 愛原:「でしょうね」

 私はふと思った。

 愛原:「社長。何か、私より白井一族のことは御存知のようですね」
 秀樹:「業務上知り得た情報程度ですよ。私も薬屋さんですから、医師や薬剤師の方達と接する機会は多いので」
 愛原:「社長はもうどこに伝三郎が隠れているのか、おおよその見当は付いてらっしゃるんじゃないですか?」
 秀樹:「愛原さんのその推理力に敬意を表します。それを見込んで、早速仕事を依頼したいのです。これから事務所にお邪魔しても?」
 愛原:「あ、はい。是非どうぞ」

 どうやら社長、今日は娘の為に1日休みを取っているようだ。

[同日14:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「ええっ!?白井の実家って、都内じゃないんですか!?」
 秀樹:「はい。少なくとも白井伝一郎氏や伝二郎氏のプロフィールを見ると、そうなっています」
 愛原:「すると、どこなんですか?」
 秀樹:「秋田県ですね。今は無いのですが、かつて東京中央学園には学生寮がありました。白井伝三郎は中学までは地元で、高校からそこに入っていたようです。既に上京している兄達から庇護を受けながら、ね」
 愛原:「地元の高校ではなく、あえて都内の高校ですか」
 秀樹:「兄達もそういうルートだったらしいですよ。どちらも東京医科歯科大学卒ですから」

 伝一郎氏は医学部を卒業し、伝二郎氏は歯学部を卒業したのだろう。
 しかし、この大学では薬学部は無い。
 伝三郎だけ、別の大学に行ったのだろう。
 医学部や歯学部では一流の大学だから、薬学部にも一流の大学があって、伝三郎はそこに行ったに違いない。

 秀樹:「そこで愛原さん達にお願いしたいのは、実家が今どうなっているかを見てきて欲しいのです。もう既に白井兄弟の両親は死亡していまして、普通に考えれば長男である伝一郎氏が相続していると思われますが、伝一郎氏は世田谷区に住居を構えています」
 愛原:「なるほど。そこに潜んでいる可能性もあるということですな?」
 秀樹:「伝三郎は海外へは逃亡していないようなので、国内に潜伏している可能性は高いのです」

 外国に行けば日本国内での活動の制約を受けない“青いアンブレラ”なんかも動きそうだからな。
 ヴェルトロはどうするのだろう?
 コロナ禍で国際線もロクに飛んでいない中、どうやって入国するつもりなのか。
 まあ、東京オリンピック絡みか。
 いくら海外客は無観客にするとはいえ、関係者に成り済まして入国は可能だからな。
 それとも、カルロス・ゴーンみたいなやり方で国外脱出するか?

 愛原:「でも、そう簡単に行くかなぁ……」
 斉藤:「都合が良すぎるとは思いますが……」

 白井の本籍地など、恐らくデイライト側でも調べているだろう。
 それが例え東北の片田舎で会ったにせよ、そこに伝三郎が潜んでいるかどうかなんて、自分達で調べるはずだ。
 私に依頼してくる時は、公務員が表立って行動できない時とかだ。

 愛原:「デイライトさんでも調べが付いているかもしれません。私はデイライトさんの指示を待ちたいと思います」
 斉藤:「分かりました」
 愛原:「むしろ、私がもう1つ気になることがあるんですよ」
 斉藤:「何ですか?」
 愛原:「リサの本当の親って何をしてるんだろうなって……」
 斉藤:「日本アンブレラが『養子縁組先を紹介する』として、宗教団体が運営していた児童福祉施設から子供を『買っていた』事件ですね」
 愛原:「最近は本当に孤児だから入所する子供ってのは、意外と少ないんだそうですね」
 斉藤:「そのようですね。最近多いのが虐待から逃れる為ということらしいです」
 愛原:「リサは人間だった頃、どうだったんだろうって思うんです。いえ、今日の入学式に行ってみて思ったんですけどね」
 斉藤:「あの福祉施設は強制的に閉鎖されましたからね。かつての関係者達も逮捕されたりしています」

 私はリサの両親は、既にこの世の人達ではないものと思っていた。
 だが、どうだろうと思う。
 この辺は善場主任に聞けば分かるだろうか。
 斉藤社長には仕事を受けるかどうかは保留にして、善場主任に連絡を取ってみた。
 するとやはり、デイライトでは把握していたようだ。

 善場:「リサの両親ですか?行方不明です。あの福祉施設に家宅捜索が入って、色々と書類が押収されました。その時、リサのことについて書かれた書類もあったんですが、行方不明ということになっていました」
 斉藤:「行方不明?じゃ、今は警察が捜索しているんですか?」
 善場:「捜索願が出されていないですし、事件に巻き込まれたという証拠も無いので警察は動いていません。一応、保護責任者遺棄の疑いで捜査はしていたようですが……」

 結局見つからないまま捜査は打ち切りとなった。

 善場:「施設側の書類によると、リサが5歳か6歳くらいの頃、施設前に放置されていたのを施設側が保護したのが始まりのようです。この時点で、物凄く怪しいですけどね」

 つまり施設側が書類を偽造していた可能性もあるということだ。

 愛原:「なるほど。分かりました。ありがとうございます」
 善場:「愛原所長、斉藤社長の件ですが、依頼を受けてみてはいかがでしょうか?私は、斉藤社長は何かを知っているのだと思います。しかし、それを直接証言したくはない。だから愛原所長を使って、何かをしようとしているのだと思われます」
 愛原:「分かりました。そういうことなら、引き受けてみます」

 私は電話を切ると、今度は斉藤社長に電話をした。
 そして仕事を受ける旨を伝えると、すぐに依頼書がファックスされて来たのだった。

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