報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「信仰は儚き人間の為に」

2019-08-11 22:56:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月5日04:00.天候:晴 静岡県富士宮市 日蓮正宗・大石寺]

 稲生は客殿で行われた丑寅勤行に参加した。
 宗一郎の病気の治癒を御祈念する為に参加したものだが、本来はそんな簡単なものではないらしい。

 荒木:「丑寅勤行とは、仏様が悟りを開くといわれる丑寅の時刻に御法主上人猊下が一切衆生を成仏へと導くためになさる勤行だよ。我々は、その御法主上人猊下の御衣にすがる想いで、共に勤行をさせて頂くところに大功徳があるんだよ」(慧妙編集室編“となりの沖田くん”2巻91ページより)

 とのことである。

 沖田:「いやァ、念願の丑寅勤行にお供できて良かったァ……。思い残すことはアリマセン」
 荒木:「おいおい、物騒だなァ」
 飯沼:「おや?また猊下様の読経の声が……」

 そんなことを話すスーツ姿の男性3人の後ろを歩く稲生。

 稲生:(妙観講の人達だ。この暑いのに黒スーツに黒ネクタイで、ビッシリ決めてるなぁ……)

 稲生は稲生でワイシャツにネクタイはしていたが、上着までは着ていない。
 ネクタイは途中、大石寺境内のトイレで着けてきた。

 荒木:「あれは猊下が六壺で勤行をされているんだよ」
 飯沼:「六壺で……」
 荒木:「猊下様は客殿での五座の勤行並びに遥拝勤行の後、大石寺発祥の堂宇ともいうべき六壺において、方便・自我偈・唱題をされるんだよ」
 飯沼:「へえ、なるほどォ……」
 稲生:(へぇ、なるほどォ……)

 稲生は前方を歩く妙観講員達の話を後ろで聞きながら、タクシー乗り場へと向かった。
 尚、宿坊に宿泊している際、丑寅勤行に参加した後で、改めて宿坊の朝勤行に参加することが多々ある。
 これで誤解されやすいのだが、もしも丑寅勤行の後で稲生のように宿坊に泊まらない者は朝勤行を改めて行う必要は無い。
 何故なら、普段から朝の勤行をやっている者は、丑寅勤行に参加すればすぐに気づく。
 朝勤行基本そのままであると。
 それは何故かというと……おっ、ちょうど荒木氏が説明するところである。

 荒木:「丑寅勤行は猊下様の朝の勤行なんだよ。そこへ我々もお供させて頂き、猊下様の大導師で既に済ませたんだから、改めて勤行をし直す、というのはむしろ僭越というものだよ」
 沖田:「えーっ、そうなんですか……」

 では、どうして宿坊宿泊者は宿坊の朝勤行に改めて参加するのかというと……。

 法道院某信徒:「だって御住職様が朝の勤行をされておられるのに、信徒の我々がグースカ寝てるわけにはいかないじゃん……」

 とのことである。
 もしも顕正会員がその様子を見たなら、如何に顕正会の勤行がいい加減なものかが分かるというものだ。

[同日04:20.天候:晴 同市内 富嶽温泉花の湯]

 再びタクシーに乗り込んだ稲生は、それでマリアを置いて来た温泉施設へと向かった。
 夜中でも営業しているので助かる。
 マリアと合流すると、既に彼女は温泉を堪能し、休憩コーナーでマターリしていた。

 稲生:「丑寅勤行終わりました」
 マリア:「ご苦労さん。ちゃんと戻って来たね」
 稲生:「当たり前ですよ」
 マリア:「車が道を外れる度にミカエラやクラリスが『脱走、脱走』と騒いでたぞ?」
 稲生:「タクシーの運転手さんが、結構裏道を行ったりしていたんですよ。おかげで料金は思ったより安かったですけど……」

 それでも深夜割増は掛かっている。
 裏道を行く度に正規ルートから外れているということで、人形達が騒いでいたらしい。
 当然タクシーのルートなど、地元の人間でもない限り知るわけがない。
 せいぜい、路線バスのルートくらいだ。
 要は路線バスの走っていない小道とかにタクシーが入ると、人形達が騒いだというわけである。

 稲生:「あとは御開扉に参加するので、朝まで滞在ですね」
 マリア:「私は少し寝てる。勇太もお風呂入って来たら、少し寝た方がいい」
 稲生:「ええ。さすがに今度はバスで行きますから。バスの時間になったら出発します」
 マリア:「分かった」

 マリアは人形達に勇太の制限する行動範囲を伝えた。
 この際、『敷地内』と言わないとダメ。
 以前、稲生が庭掃除の手伝いの為に屋敷の外に出た所、人形達に脱走扱いされて追い回されたことがある。
 これは勇太の行動範囲をマリアが『館内』とした為。
 この温泉施設なら『館内』でも良いのではないかと思うが、やはり要注意だ。
 露天風呂がある為、見方によっては屋外に出ることになる。
 ので、『敷地内』と言った方が無難なのである。

 稲生:(えーっと……大聖人様。これから温泉でマターリさせて頂きますが、あくまでこれは体を清める為のものであり、けして御開扉はこの温泉のついでというわけではありませんので、どうか悪しからず……)

 多分こんなこと気にするのは元顕正会員くらいだろう。

 稲生:(昔、この温泉に来たはいいものの、何だか事件に巻き込まれて入れなかったような気がする)

 稲生は欠伸をしながら大浴場に入った。
 さすがに真夜中と早朝の間の時間帯ということもあり、脱衣場も大浴場内も空いていた。

 稲生:(そういえばこういう御風呂に入っていると、どこからともなくケンショーグリーンが現れたものだけど、ここ最近は見ないなぁ……)

 内湯から露天風呂まで楽しんだ後、勇太は再び休憩コーナーに戻った。

 稲生:「マリアさん……」
 マリア:「んん……。入って来たの?」
 稲生:「はい」

 マリアは館内着として浴衣を着ている。

 稲生:「浴衣、似合うなぁ……」
 マリア:「ありがとう。それより、朝食はどうする?ここのレストランは開いてないみたいだけど……」
 稲生:「ああ……朝食はホテル宿泊者専用かな。まあ、どうせ1度、富士宮駅に出ないといけないんです。そこで何か食べましょう」
 マリア:「分かった。……ちょっと寝る」
 稲生:「ええ、僕も……」

 稲生はマリアの横に座ると目を閉じた。
 浅い眠りの中、見た夢はフランツ・カフカの“流刑地にて”の主人公・旅人になったもの。
 処刑用の台に寝かされたケンショーレンジャーズがいて、トチロ〜さんが看守長の役。

 稲生:「あの人達は自分の罪状を知らずに処刑されるのですか?」
 トチロ〜看守長:「教えてやる必要は無いでしょう。何故なら、これから自分の体に刻み込まれるのですから」
コメント (1)
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