報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「一度帰宅」

2019-08-04 08:59:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月3日15:30.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅東口→西武バス大38系統車内]

 同時刻発車の自治医大医療センター行きのバスが発車すると、すぐ西武バスがやってきた。

〔「15時30分発、大宮市内循環です」〕

 前者が1人席や窓側を全て埋めて発車して行ったのに対し、こちらは稲生達の他に2〜3人しか乗車しなかった。
 2人は1番後ろの席に座る。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 バス停で待っていた乗客全員を乗せると、バスはすぐに発車した。
 先ほどのスクランブル交差点まで、同時発車の国際興業バスを追う形になる。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 大変お待たせ致しました。ご乗車、ありがとうございます。このバスは住宅前、中並木、上小町経由、大宮駅西口行きです。次は仲町、仲町。……〕

 バスがロータリー前の横断歩道を通過し、スクランブル交差点の赤信号で止まる。
 交通量の多さに比べて明らかに道が狭い、都市計画の遅れが露呈されている場所の1つである。

 マリア:「ん、師匠からの着信だ」

 マリアはローブの中から携帯用の水晶球を取り出した。
 大きさは野球ボールないしはソフトボールくらい。
 それがスッポリ無理なく入るのだから、やはりローブのポケットは四○元ポケットなのかもしれない。

 稲生:「何ですって?」
 マリア:「勇太のダディの容態についての問い合わせだ。さすがに現在進行形までは占えないらしい」
 稲生:「そうなんですか」
 マリア:「相手の過去進行形と未来進行形は占えるのに、現在進行形は占えない。自分で確かめろってことさ。だから、必ず対面して客の話を聞くんだ」
 稲生:「! なるほど。そういうことでしたか」
 マリア:「えーと……『勇太のダディは狭心症で入院中です。今までそういった兆候は無かったということです。容態は落ち着いていますが、これから手術を行うので、数日間の入院が必要とのことです』。これでいいか?」
 稲生:「そうですね。『“魔の者”のせいかもしれない』というのは入れない方がいいでしょう」

 報告に憶測は入れないのが鉄則だ。
 報告先から、『この内容に対して、キミはどう思う?』と聞かれた時に答えれば良い。

[同日15:40.天候:晴 同区桜木町 上落合八丁目バス停→ファミリーマート大宮桜木町店]

〔ピン♪ポン♪パーン♪ 次は上落合八丁目、上落合八丁目でございます〕

 稲生:「あっ、ここだ」

 稲生は降車ボタンを押した。

〔♪♪♪♪。次、止まります。お降りの方は、バスが停車してから席をお立ちください〕

 バスはすぐに下車停留所に止まる。
 土休日ダイヤに一本しか運転しない免許維持路線である為か、バス停の前は雑草が伸び放題だった。

 稲生:「降りたくないくらいの暑さですね」
 マリア:「全く」

 ここでバスを降りたのは稲生達だけ。
 2人を降ろすと、バスはグライドスライドドアを閉めて発車して行った。

 マリア:「ちょっと、あのコンビニに寄って行きたい」
 稲生:「分かりました。行きましょう」

 2人はエネオスのセルフスタンドが併設されたコンビニに入った。
 もちろん、ここも別世界のように涼しい。
 尚、マリアが正月早々『ジュースみたいなお酒』を間違えて購入し、酔っ払い魔法で人助けを悉く行ったのもこの店である。
 この時ばかりは年賀状の抽選を全て当てた為、酔っ払った方が魔力が高まることを証明したりもしたが、こんな法を下げる魔法の使い方が許可されるわけもなく、当然ながら禁止された

 マリア:(急いでたんで、持って来るの忘れた……)

 マリアが購入していたのは生理用品など。

 稲生:(リチウム充電器、そろそろ買い替え時なんだよなぁ……。でもここで買うよりは、家電量販店の方がいいか?でも、今回行くとは限らないしなぁ……。ついでにミニSDも買い足ししたいし……)

 結局稲生が買ったのは飲み物と菓子だった。
 他に0.02とか書いてある箱を買っていたとのことだが、多摩準急名誉監督の証言なので【お察しください】。

[同日16:00.天候:晴 さいたま市中央区 稲生家]

 稲生勇太:「コンビニから家まで大した距離じゃないのに、もう熱中症寸前ですよ」
 マリア:「魔道士は体力に欠けるからねぇ……」

 玄関の鍵を開けようとした時、機械警備は既に解除されていた。
 中に入ると……。

 佳子:「お帰りなさい。……マリアさんは、いらっしゃい」
 勇太:「ただいま。ってか、母さん早いね!?」
 佳子:「あなたが遅いの。病院からタクシーに乗って、直帰したんだから」
 勇太:「僕達はバスで大宮乗り換えで、しかもさっきファミマに寄ってたからなぁ……」
 佳子:「ファミマなら病院にもあったのに」
 マリア:「バスで降りて、たまたま見つけたものですから……」
 佳子:「あら、そう。今夜は出前を取るから、何がいいか決めてちょうだい。……ああ、お寿司はお父さんが退院した快気祝いにするからね」
 勇太:「先越されたか。てか、マリアさんは生魚苦手だよ?」
 佳子:「お寿司だけとは言ってないでしょ?」
 勇太:「僕、肉系統がいい。夏バテ対策にね」
 マリア:「私もそう思う」
 佳子:「夏バテ対策にお肉なら、豚肉かしらね」
 勇太:「僕がネットで注文しておくよ。心当たりがある」

 リビングには家族共用のデスクトップPCがある。
 稲生はそれを立ち上げた。

 勇太:「とんかつ弁当頼めるんですよ」
 佳子:「私はヒレカツにしといてね」
 勇太:「えー、母さんはヒレカツ弁当と……。僕はロースカツにエビフライ付いた弁当にしようかな。マリアさんは?」
 マリア:「私もロースがいいけど、エビフライじゃなくてカキフライがいい」
 勇太:「分かりました。……よし、これで注文完了っと」

 勇太は慣れた手つきでキーボードを操作した。

 佳子:「今日は先生は来られないの?」
 勇太:「多分今日は来られないと思うよ。何の連絡も無いし」
 佳子:「そう。でも一応、先生のお布団も用意しておくからね」
 勇太:「分かった」

 家の外からは蝉の鳴き声がミンミン聞こえて来る。

 マリア:「師匠が来るのは、何かもかも終わった後だろうね。色んな意味で」
 稲生:「そうですか。それがいい意味だといいですね」
コメント
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