報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富士参詣深夜便」 2

2019-08-10 23:20:10 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月5日00:15.天候:晴 静岡県駿東郡小山町 東名高速道路下り線・足柄サービスエリア]

 稲生とマリアを乗せた深夜便は東京駅を出発した時、激しいゲリラ豪雨に見舞われていた。
 幸い首都高速は通行止めではなく、3号線をひたすら西進すると雨が弱まっていった。
 それが東名高速に入ると、フロントガラスの上を規則正しい動きで動いていたワイパーも止まった。
 東名高速ではトラックを追い抜いたり、逆に走り屋に追い抜かれたりを繰り返し、だいたいダイヤ通りに休憩箇所に到着した。

〔「足柄サービスエリアです。こちらで10分ほどの休憩を取らせて頂きます。発車は0時25分です。お時間厳守でお願い致します」〕

 夏休みの時期ということもあり、サービスエリア内は深夜であっても混雑していた。
 一般車というよりは、何だかバスで混んでいる。
 夜行バスが増便されている為、それだけで大型駐車場がトラックを押し退けるくらいの勢いで賑わっていた。
 ましてやそれにプラスして、稲生達の深夜便も運行されているので尚更だ。
 路線バス用のスペースは既に他のバスで満車で、本来は貸切観光バスなどが停車するであろうバス専用駐車帯に停車した。

 稲生:「マリアさん、降りてみますか?」
 マリア:「うん」

 降りてみる乗客は他にも多く、稲生達も後から続いて降りた。
 山あいなので東京よりは気温が低いのだろうが、それでも蒸し暑さがサービスエリアの利用者達を襲っている。
 東京でのゲリラ豪雨が嘘みたいに、こちらはほぼ快晴である。
 富士山の上に昇る月が輝いていた。
 但し、路面が濡れていることから、ここでもそれなりの雨が降ったらしい。
 よく見ると、富士山の向こうに雲が掛かっているから、あれがこの辺に雨を降らせた犯人か。

 マリア:「きれい……」
 稲生:「雨が降った後だから、空気が澄んでいるのかもしれませんね」

 稲生はスマホで富士山に昇る月を撮影した。

 ミク人形:「空をー鳳凰が往くー♪昇るぅ不死の煙ぃ〜♪堕ちる芥が飽和して♪欠けた月は嗤う〜♪」
 ハク人形:「今宵謀が♪夜明けを捻じ伏せたー♪月光は永遠の光ぃ♪会え無き彼の人の〜♪」

 マリアの使役人形の2体が月に向かって歌い出す。
 人間形態だと屋敷のメイド長や副メイド長を務めるのだが、人形形態だとコミカルな動きをしてくれる。

 稲生:「眠いのに人形達は元気ですね」
 マリア:「寝ていても魔力が途切れるわけじゃないからね。ちょっとトイレ行って来る」
 稲生:「あ、はい。……あ、僕も行こう」

 昼間のピーク時、女子トイレも混雑しているものだが、夜間はそこまでではない。

 稲生:(この調子で行けば、大石寺の丑寅勤行には間に合うな)

 用を足して洗面台で手を洗っている時にふと考える。

 稲生:(それにしても東京駅で見たケンショーセピア。多分あれは本物だ。だけど一体、どこへ行くつもりなんだろう?顕正会員にも行方不明ってことになっているはずだから……)

[同日01:17.天候:晴 静岡県富士市 富士急静岡バス鷹岡営業所]

 再び出発したバスは東名高速を西に進んだ。
 そして、最初の降車停留所である東名富士に停車する。
 そこで数人の乗客を降ろした。
 更に新富士駅、富士駅南口と停車していく。
 駅前で半分以上の乗客を降ろした。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。皆様、本日は富士急行の高速バスをご利用頂きまして、真にありがとうございました。まもなく終点、鷹岡車庫、鷹岡車庫に到着致します。……」〕

 終点の鷹岡車庫(鷹岡営業所)にも、だいたいダイヤ通りに到着した。
 ここまで乗ったのは稲生達を入れても、数えるほどしかいない。

 稲生:「こんな真夜中にバスを降りるのは初めてだ」
 マリア:「夜行便で休憩で降りたことはあったけどね」

 バスを降りる時、運転手に乗車券を渡す。

 稲生:「あ、あのタクシーですね」

 バスの営業所内で待機していたタクシーに乗り換える。
 稲生がバスの運転手に頼んで予約したタクシーだ。
 運転手から営業所に連絡し、手配してもらったもの。

 運転手:「稲生様ですね?」
 稲生:「はい、稲生です」
 運転手:「どうぞ」

 2人はタクシーの後部座席に乗った。

 稲生:「まずは“花の湯”までお願いします」
 運転手:「はい、“花の湯”ですね」

 タクシーはバスの営業所を出発した。

 稲生:「マリアさんは途中の温泉施設で待っててください」
 マリア:「そうさせてもらう」

[同日01:37.天候:晴 静岡県富士宮市ひばりヶ丘 富嶽温泉花の湯]

 タクシーが温泉施設の前に到着する。

 稲生:「すいません、ちょっと待っててもらえますか?」
 運転手:「はい」

 稲生は鞄だけを車内に置いて、マリアと一緒に施設内に入る。
 要は靴を脱いで券売機でチケットを買い、それをフロントに提出する方式なのだが、それを稲生が代行したということだ。

 マリア:「本来、私は勇太を大石寺まで監視しないといけない。でも勇太は監視が無いのをいいことに勝手なことをするようなヤツじゃないと信じている。分かってるね?」
 稲生:「分かってます。大石寺の丑寅勤行が終わったら、すぐ戻って来ますから」
 マリア:「うん」

 稲生はここでマリアと別れると施設を出て、再びタクシーに乗り込んだ。

 稲生:「すいません、今度は大石寺までお願いします」
 運転手:「大石寺ですね。ありがとうございます」

 タクシーは再び国道139号線に出た。
 深夜の国道は空いていたので、タクシーも快調に飛ばして行く。

 運転手:「こんな時間に参拝ですか?」
 稲生:「そうなんです。丑寅勤行に」
 運転手:「そうですか。大変ですねぇ……」
 稲生:「これも願い事を叶えて頂く為ですよ」
 運転手:「願い事ですか。こんな夜中に参拝しないといけないとは、そう簡単に叶えてもらえないんですね」
 稲生:「それが信心というものです」

 稲生は大きく頷きながら言った。
 顕正会では数字をこなさないと願い事は叶わないと指導される。
 いや、数字に追われ過ぎて願い事を持つ余裕すら無いかもしれない。
 何しろ「願い事を叶える為に」というポジティブな気持ちで信心するのが宗門や創価学会なのであれば、「堕獄しない為に」「不幸にならない為に」というネガティブな気持ちで信心するのが顕正会なのである。
コメント (2)
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