報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鳴子温泉」

2019-08-30 19:10:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日14:41.天候:曇 宮城県大崎市 JR鳴子温泉駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は大日本製薬(愛称ダイニチ。ロゴマークは大日如来を象ったもの)の経営者、斉藤秀樹社長から娘さんのお守りを頼まれ、鳴子温泉までやってきた。
 そういえばこの製薬会社の温泉の素も大人気だが、その中に『鳴子の湯』なんてのもあったなぁ……。

〔まもなく終点、鳴子温泉、鳴子温泉に到着致します。鳴子温泉駅では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 ワンマン運転用の自動放送が車内に流れると、車内の客層の半分以上を占める観光客達が降りる仕度をし始めた。
 この路線で運転されているという臨時快速は完全に観光客向けの列車である為、こういう定期列車は地元客用なのだろうと思いきや、それらしい乗客は散見されるに留まる。
 隣を通る国道47号線では車がバンバン走っていることから、この辺りも地元の人間は列車には乗らず、車で移動するのだろう。
 従ってこの路線も(鳴子温泉駅より西はどうだか知らないが)観光路線にカテゴライズされると思われる。
 幸いにもこの鳴子温泉は温泉通の中でもメジャーな所だから、ある程度の観光客は見込まれているようだ。
 通勤路線でも観光路線でもウハウハの小田急電鉄と東武鉄道は良い商売だと思う。

 斉藤:「それにしても、凄い臭い……」
 愛原:「硫黄の臭いだよ。鳴子温泉には色々な成分の温泉があるが、第一にはやはり硫黄泉だからね」

 慣れるまでは少し大変かな。
 これぞ温泉という匂いではあるのだが。
 列車はゆっくりと鳴子温泉駅の1番線に入線した。

〔「ご乗車ありがとうございました。鳴子温泉、鳴子温泉、終点です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。中山平温泉、赤倉温泉、瀬見温泉方面、普通列車の新庄行きをご利用のお客様は、3番線から15時ちょうどの発車です」〕

 

 私達は運転席後ろのドアから列車を降りた。

 駅員:「はい、ありがとうございましたー」

 改札口は自動ではなく、1つだけのブースに駅員が立ってキップを回収していた。
 尚、こういう駅でもSuicaは使えるようで、出入口に読取機が設置されていた。
 途中の無人駅であっても、こういうSuicaの読取機だけは設置されているという所もあるらしい。
 駅から外に出る。

 

 そろそろ周辺のホテルや旅館ではチェックインの時間だからか、駅前にはタクシーだけでなく、それぞれのホテルや旅館の送迎車が待っていた。

 斉藤:「愛原先生、ここからどうするんですか?」
 愛原:「歩いて行くよ。もうホテルはすぐ目の前だから」

 私はこれから宿泊するホテルを指さした。
 それは山の斜面に沿うように建っており、駅前から徒歩でアクセスしようとすると、少々キツい坂を登らなくてはならない。
 しかし、部屋からの眺めは抜群であろう。

 愛原:「チェックインは15時だから、少し早い。先に足湯でも入って行くか」
 高橋:「おっ、いいっスねぇ!」
 高野:「でも、タオルが必要ですよね?タオルを持って来てませんよ?」
 愛原:「おっと!俺としたことが!」
 高野:「……という観光客の為に、近くの土産物屋さんでタオルとか売ってたりするんですよねぇ……」
 愛原:「それだ!どうせフェイスタオルなんて安いものだろう。それを買ってこよう!」

 というわけで、私達は近くの土産物屋に入って行った。

 愛原:「んー、これこれ。シンプルに『鳴子温泉』と入っているだけで安上がりなんだよなぁ」

 とはいうものの、JC達はもっとかわいいデザインの入ったタオルを所望したが。
 ま、これくらいの出費はどうでもいいか。
 早速タオルを持参して、駅前の足湯に向かう。

 

 高橋:「デヘヘ……!せ、先生の水虫が俺の足を侵食するぅ〜!」
 愛原:「人聞きの悪いこと言うな!ってか、俺は水虫じゃねぇ!読者が誤解するだろうが!」
 高野:「硫黄泉は水虫にも効きますから、水虫の人が入ったところで、お湯の中で感染はしないと思いますよ」
 高橋:「リサのウィルスも殲滅できるのか?」
 リサ:「望むところ。私のウィルス、侵食させる」
 高野:「大騒ぎになるからやめなさい」
 リサ:「はーい……」

 いや、でも最近のバイオテロ組織はウィルスではなく、新種のカビを使うことがブームになっているそうだ。
 カビキラーでも倒せるのかな?
 そもそも水虫菌だってカビの一種なわけだから、こういう硫黄泉に効くわけだが、カビのBOWには効くのだろうか?

 愛原:「足湯を楽しんでからホテルに行くのもオツなもんだろう。向こうに着いたら、本格的に温泉を楽しむぞ」
 リサ:「愛原さん、ゲームコーナーある?」
 愛原:「あるらしいぞ」
 リサ:「おー!またサイトーとエアホッケーやるー!」
 斉藤:「も、もえへへへ!モチロンよ!」
 高橋:「何でそこで悶絶するんだよ、あぁ?」
 愛原:「あれ?高橋は俺とはやりたくないの?」
 高橋:「地獄の果てまでも、お供致します!」
 愛原:「だから何で地獄に堕ちる前提なんだよ?」

 足湯を楽しんだ私達は足をタオルで拭くと、今度は宿泊先のホテルへと向かった。
 
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「奥の細道湯けむりライン」

2019-08-30 15:27:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月23日13:46.天候:晴 宮城県大崎市 JR古川駅・在来線ホーム]

〔ピンポン♪ まもなく2番線に、下り列車が参ります。危ないですから、黄色い線まで下がって、お待ちください〕

 昼食を終えた私達は在来線に乗り換える為、地上のホームに向かった。
 新幹線の時は気がつかなかったが、結構風が強い。
 それも、東京では熱風とも言える全然涼しくない風が吹いているのに対し、こちらの風は涼しかった。
 この涼しさが、東北まで来たことを実感させてくれる。
 それでも日に当たれば暑いもので、手元の温度計では30度を差していた。
 東京では35度を記録する中、こっちの30度は涼しいか。

 リサ:「電車来たー」
 高野:「本来は電車じゃないのよ」

 それもそのはず。
 JR陸羽東線は全区間電化されていない為、そこを走る列車は電気で走る電車ではなく、軽油で走るディーゼルカーである。
 貨物列車も走っている路線のせいなのか分からないが、在来線ホームも結構長い。
 8両編成は止まれそうなくらいの有効長である。
 にも関わらず、やってきた列車はたったの2両編成。
 屋根のある部分にしか停車しない。

〔「ご乗車ありがとうございました。古川、古川です。お忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。2番線の列車は13時58分発、普通列車の鳴子温泉行きです」〕

 昼間の2両編成にしては随分賑わっている状態でやって来たなと思ったが、この駅でぞろぞろと降りて行く。
 で、この駅から乗り込む乗客はそんなに多くない。
 まだ発車まで時間があるからだろうか。
 キハ110系と呼ばれる気動車の前の車両に乗り込むと、ドア付近は通勤電車にありがちなロングシート。
 そこ以外は1人用の座席が向かい合わせになったボックスシートと、2人用の座席が向かい合わせになったボックスシートが並んでいた。
 車両の窓は固定式で開かないようになっているが、冷房がガンガン入っている。

〔「ご乗車の列車は13時58分発、陸羽東線下り、普通列車の鳴子温泉行きです。発車までしばらくお待ちください」〕

 ワンマン運転の為か、車内放送は車掌ではなく運転士が行っている。
 私と高橋、高野君は4人用のボックスシートに座り、リサと斉藤さんは2人用のボックスシートに座った。

 斉藤:「愛原先生、リサさんと外に出てもいいですか?」
 愛原:「いいけど、改札の外には出られないよ?」
 斉藤:「大丈夫です。ホームに出るだけですから」
 愛原:「それならいいよ。あ、降りる時はボタンを押してね」

 この列車は半自動ドアであり、停車時間中のドアの開け閉めは乗客が行う。
 ドアの横に開閉ボタンがある。
 こうすることで、このように停車時間の長い駅に停車しても、ドア開放による空調効果の犠牲を防いでいるのである。
 私は2人のJCをホームに降ろすと、内側からドアを閉めた。
 もちろん、2人が座っている席は荷物を置いて確保しておく。

 愛原:「この辺は風が強いのか、それともゲリラ豪雨のフラグでも立っているのかね?」
 高野:「あー、天気予報だと真夜中に雨マークが付いてますねぇ……」
 愛原:「それでも真夜中なのか。何か、今にも降ってきそうな天気だけど……」
 高野:「先生の行いが良いので、何とか持ってくれているんですよ」
 愛原:「お、そうなのか。上手いこと言うな」
 高橋:「けっ、アネゴも先生に媚び売りやがって!」
 高野:「その先生の良い行いを踏みにじって、雨を降らさないようにね?」
 高橋:「あぁっ!?」
 愛原:「はは、そりゃそうだ」
 高橋:「先生、ヒドイ!」

 風が常にビュービュー吹いているというよりは、時折突風が吹くといった感じ。
 もちろん常に吹いている風自体は、そよ風なんかよりずっと強いものだが。
 リサはTシャツにショートパンツだからいいが、斉藤さんはもっと高い服を着ているから動きにくいのではないだろうか。
 もっとも、あの恰好が富豪の娘であることを示唆しているが。

[同日13:58.天候:晴 JR陸羽東線1731D列車内]

 高野:「2人とも、早く戻って来なさい」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「はーい」

 発車の時間が迫り、高野君が2人を呼びに行く。
 こういう時は女性がやってくれると良い。
 斉藤さんのスカートが時折吹く突風で捲れそうになるが、さすがに下にオーバーパンツくらいはいているようだ。

〔「お待たせ致しました。13時58分発、普通列車の鳴子温泉行き、まもなく発車致します」〕

 車掌ではなく、運転士が乗務員室窓から顔を出し、ピイッと笛を吹く。
 そして車掌スイッチを扱うと、それで閉扉操作を行った。
 元々ドアが閉まっているので、内側から見ればドアボタン操作可能を示すランプが消灯するだけである。
 外側だと赤い側灯が消えるわけだ。
 運転士はそれを確認すると、車掌スイッチのキーを抜いて乗務員室窓を閉め、運転席に座った。
 ガチャッ!とハンドルを操作する音が客席まで聞こえて来る。
 そして、電車ならモーターの音が響いて来るところだが、これは気動車。
 ディーゼルエンジンの甲高い音が聞こえて来る。
 昔のキハ58系とかのそれは随分と重々しく、発車も汽車並みに重々しく発車するものだっだが、今では随分と軽快なものになった。
 さっき運転席をチラッと覗いてみたが、運転機器とかも最近の電車と大差無いものになっている。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は“奥の細道湯けむりライン”陸羽東線下り、各駅停車の鳴子温泉行き、ワンマンカーです。これから先、塚目、西古川、東大崎、西大崎の順に止まります。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、塚目です〕

 愛原:「斉藤さん、その服はとても似合っていて、よそ行きには十分だと思うんだけど、ちょっと動きにくいかね?」
 斉藤:「そうなんですよぉ。私もリサさんみたいな動きやすい服の方がいいんですけど、お父さんとかが許してくれなくて……。これでも、まだいい方なんですよ」
 愛原:「というと?」
 斉藤:「もっとスカートが長い服を着せられそうになって、それだともっと動きにくいじゃないですかー。リサさんなんか、私服は動きやすいものを着られて羨ましいと思ってるんです」

 ま、あまり高い服を買ってあげられないという事情もあるのだが。

 愛原:「外、風強かったから尚更だろう?」
 斉藤:「そうですね。だからこそ、私もリサさんみたいな服がいいって言ったんですけど……」
 リサ:「風でよくスカートが捲れてた」
 高野:「無理して外に出なくていいのよ?」
 斉藤:「いえ。たまにはリサさんと2人っきりになりたくて……」
 高野:「あらあら」
 高橋:「先生!俺達も是非2人っきりの時間を!」
 愛原:「仕事はいつも2人でやってるだろ。何を今更……」

 私は斉藤さんに向き直した。

 愛原:「でも大丈夫かい?さすがにスカートの下は見せパンくらいはいてるんだろうね?」
 斉藤:「はい、それは大丈夫です。ちゃんとペチパンツはいてます」
 リサ:「さすがサイトー。そこはガード固い」
 斉藤:「も、もへへ……ま、まぁね……。で、でも、向こうに着いたら浴衣に着替えましょうね」
 高橋:「浴衣の方がもっと動きにくいと思うけどな」
 愛原:「まあまあ。今のはあくまで移動中限定の話だから。ホテルに着いたら、着替えてナンボだと思うぞ?」
 高橋:「先生がそう仰るのでしたら絶対です」

 もちろん、部屋は2つ取られている。
 男女別に分かれるわけだから……高橋のヤツ、何も心配せんでも、結局は部屋で俺と2人じゃないか。
 ……まさか、襲ってきたりはしないよな?
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