[5月12日13:38.天候:晴 JR北与野駅]
稲生達を乗せた埼京線各駅停車が、北与野駅に到着した。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
各駅停車しか止まらない小さな駅だ。
それでも、スーパーアリーナでイベントがある場合は、混雑するさいたま新都心駅のガス抜きの役割を果たす。
これでも埼京線側における、さいたまスーパーアリーナの最寄り駅だからだ。
稲生達が電車を降りて、改札口への階段に向かうまでにはもう発車している。
威吹:「キミの師匠と姉弟子は、どこにいるんだ?」
稲生:「北与野駅で待つって話だけど、どうにもいそうにない。おおかた、けやき広場にでもいるんだろうな」
威吹:「時間管理に杜撰な連中だな」
稲生:「まあ、しょうがない。マリアさんはともかく、イリーナ先生は……何でもない」
とにかく、さいたま新都心に向かって歩くことにした2人。
そこへ向かう高架歩道に上がると、右手に神社が見える。
『上落合鎮守 神明神社』という。
祭神は天照大神とのこと。
威吹の稲荷大明神とは違うので、威吹もそんなに関心は示さない。
威吹:「あ、そうそう。マリアのことなんだけど……」
稲生:「マリアさんがどうしたの?」
威吹:「ユタも、もう少し匂いを気にした方が良い」
稲生:「えっ!?僕、臭う!?」
威吹:「あー、いやいや。ユタのことではない。今言ったマリアのことだ」
稲生:「えっ、マリアさん、匂った?」
威吹:「うむ。ボクの鼻は誤魔化せない」
稲生:「そりゃ、威吹の鼻はな。白人は日本人より体臭が強いというし……」
威吹:「それは噂通りのようだ。しかし、問題はそこじゃない」
稲生:「ん?」
威吹:「女の匂い、だよ」
稲生:「? どういうこと?」
威吹:「イリーナ師からは、特に何も匂わない。師は『この体の耐用年数が迫っている』と言っていたが、それが体臭にも表れているのだろう。恐らく、体臭すら発さない程にな」
稲生:「そうなんだ。普通、歳を取れば取るほど臭うイメージがあるけどね」
威吹:「それは肉などの臭いだろう?骨は臭うか?」
稲生:「いやー……。骨の臭いなんて、そうそう嗅ぐ機会は……」
威吹:「ボクくらいの鼻になると、骨の匂いも嗅ぎ分けることはできるけど、人間にはできないよね」
稲生:「多分ね」
威吹:「イリーナ師からは、もう骨の臭いしかしないんだよ」
稲生:「ええーっ?あんなにモデルみたいな体型してるのに?」
魔法で30代ほどの年齢を維持しているらしい。
それは稲生も知っている。
本来は、長年修行を積んだ老魔女がその正体であることも知っている。
イリーナとほぼ同期で若干先輩のポーリンは、逆に普段は老婆の姿をしている。
それを見れば分かる。
威吹:「『魔法で若かりし頃の姿を再現している』とのことだが、確かにその頃はあのような姿だったのだろう」
稲生:「……マリアさんは?」
威吹:「そこでさっきの話だ。マリアからは、ちゃんと女の匂いがした。しかも、今朝はその匂いが一段と強くなっていた。どういう意味か分かるかい?」
稲生:「あれ?でも、今朝はシャワー浴びてたよ?」
威吹:「そういうことじゃない。女ってのは毎月、『具合の悪くなる時期』があるだろう?」
稲生:「生理だね」
威吹:「それが来る直前が1番ムラムラしてるんだってさ。具体的には1日か2日前ってところらしい」
稲生:「よく知ってるねぇ?」
稲生は目を丸くした。
威吹がまだ稲生家に逗留していた頃は、そんな話は殆どしなかったというのに……。
威吹:「さくらが教えてくれたよ。あいつも、そろそろその時期に差し掛かる。その前に、帰ってやらんとな」
稲生:「お疲れさまです」
威吹:「いや、ボクのことはいいんだ。つまり、ボクが言いたいのはだな……」
威吹はコホンと咳払いをした。
イリーナ:「『ユタとマリアの仲をより進展させるには、性欲が旺盛になっている今のマリアを押し倒しちゃって、あとは【お察しください】』ってところかしら?」
威吹:「……って、うお!?」
稲生:「イリーナ先生!」
けやき広場で、イベントが行われている場所が2階部分にある。
そこまでやってきた時、突然背後にイリーナが現れた。
あの威吹でも気づかなかったくらいだ。
イリーナ:「ゴメンねぇ。男の子同士の話に割っちゃってぇ……」
威吹:「分かってるなら、師匠として何か手伝ってやったらどうだ?」
稲生:「威吹、失礼なこと言うな!」
イリーナ:「まあまあ。うちの組の方針は、『何でものんびりやる』だからね。恋の進展も、のんびりなのよ」
威吹:「しかしだな……」
イリーナ:「威吹君も妖狐の先生として、お弟子さんにもう少し目を掛けてあげたらいかが?」
威吹:「なに?」
稲生:「あの、先生。それより、マリアさんは?」
イリーナ:「ああ、そうだったね。今、お手洗いに行ってるよ」
稲生:「何だ……」
稲生はホッとしたが、威吹はハッとした。
威吹:「イリーナ師よ、さっきの話の続きだ。もしかして、遅かったか?」
イリーナ:「うん。残念だったね、勇太君」
稲生:「えっ、僕が残念ですか!?」
そこへマリアが戻って来た。
マリア:「お待たせしました……」
イリーナ:「よし。それじゃ、次へ行こう。勇太君、バス乗り場へ連れてって」
稲生:「あ、はい」
稲生は戻って来たマリアを含めて、1階のバス乗り場に向かった。
イリーナ:「正証寺はどうだった?」
稲生:「あ、はい。藤谷班長が、先生によろしくとのことでした」
イリーナ:「おー!藤谷さんかぁ〜。元気にしてるみたいだね」
稲生:「そうなんです。今度、是非ご挨拶をと……」
イリーナ:「なるほど。それじゃ明日、伺おうかねぇ……」
稲生:「あ、いや。それが先生、そのことなんですが……」
イリーナ:「?」
稲生達を乗せた埼京線各駅停車が、北与野駅に到着した。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
各駅停車しか止まらない小さな駅だ。
それでも、スーパーアリーナでイベントがある場合は、混雑するさいたま新都心駅のガス抜きの役割を果たす。
これでも埼京線側における、さいたまスーパーアリーナの最寄り駅だからだ。
稲生達が電車を降りて、改札口への階段に向かうまでにはもう発車している。
威吹:「キミの師匠と姉弟子は、どこにいるんだ?」
稲生:「北与野駅で待つって話だけど、どうにもいそうにない。おおかた、けやき広場にでもいるんだろうな」
威吹:「時間管理に杜撰な連中だな」
稲生:「まあ、しょうがない。マリアさんはともかく、イリーナ先生は……何でもない」
とにかく、さいたま新都心に向かって歩くことにした2人。
そこへ向かう高架歩道に上がると、右手に神社が見える。
『上落合鎮守 神明神社』という。
祭神は天照大神とのこと。
威吹の稲荷大明神とは違うので、威吹もそんなに関心は示さない。
威吹:「あ、そうそう。マリアのことなんだけど……」
稲生:「マリアさんがどうしたの?」
威吹:「ユタも、もう少し匂いを気にした方が良い」
稲生:「えっ!?僕、臭う!?」
威吹:「あー、いやいや。ユタのことではない。今言ったマリアのことだ」
稲生:「えっ、マリアさん、匂った?」
威吹:「うむ。ボクの鼻は誤魔化せない」
稲生:「そりゃ、威吹の鼻はな。白人は日本人より体臭が強いというし……」
威吹:「それは噂通りのようだ。しかし、問題はそこじゃない」
稲生:「ん?」
威吹:「女の匂い、だよ」
稲生:「? どういうこと?」
威吹:「イリーナ師からは、特に何も匂わない。師は『この体の耐用年数が迫っている』と言っていたが、それが体臭にも表れているのだろう。恐らく、体臭すら発さない程にな」
稲生:「そうなんだ。普通、歳を取れば取るほど臭うイメージがあるけどね」
威吹:「それは肉などの臭いだろう?骨は臭うか?」
稲生:「いやー……。骨の臭いなんて、そうそう嗅ぐ機会は……」
威吹:「ボクくらいの鼻になると、骨の匂いも嗅ぎ分けることはできるけど、人間にはできないよね」
稲生:「多分ね」
威吹:「イリーナ師からは、もう骨の臭いしかしないんだよ」
稲生:「ええーっ?あんなにモデルみたいな体型してるのに?」
魔法で30代ほどの年齢を維持しているらしい。
それは稲生も知っている。
本来は、長年修行を積んだ老魔女がその正体であることも知っている。
イリーナとほぼ同期で若干先輩のポーリンは、逆に普段は老婆の姿をしている。
それを見れば分かる。
威吹:「『魔法で若かりし頃の姿を再現している』とのことだが、確かにその頃はあのような姿だったのだろう」
稲生:「……マリアさんは?」
威吹:「そこでさっきの話だ。マリアからは、ちゃんと女の匂いがした。しかも、今朝はその匂いが一段と強くなっていた。どういう意味か分かるかい?」
稲生:「あれ?でも、今朝はシャワー浴びてたよ?」
威吹:「そういうことじゃない。女ってのは毎月、『具合の悪くなる時期』があるだろう?」
稲生:「生理だね」
威吹:「それが来る直前が1番ムラムラしてるんだってさ。具体的には1日か2日前ってところらしい」
稲生:「よく知ってるねぇ?」
稲生は目を丸くした。
威吹がまだ稲生家に逗留していた頃は、そんな話は殆どしなかったというのに……。
威吹:「さくらが教えてくれたよ。あいつも、そろそろその時期に差し掛かる。その前に、帰ってやらんとな」
稲生:「お疲れさまです」
威吹:「いや、ボクのことはいいんだ。つまり、ボクが言いたいのはだな……」
威吹はコホンと咳払いをした。
イリーナ:「『ユタとマリアの仲をより進展させるには、性欲が旺盛になっている今のマリアを押し倒しちゃって、あとは【お察しください】』ってところかしら?」
威吹:「……って、うお!?」
稲生:「イリーナ先生!」
けやき広場で、イベントが行われている場所が2階部分にある。
そこまでやってきた時、突然背後にイリーナが現れた。
あの威吹でも気づかなかったくらいだ。
イリーナ:「ゴメンねぇ。男の子同士の話に割っちゃってぇ……」
威吹:「分かってるなら、師匠として何か手伝ってやったらどうだ?」
稲生:「威吹、失礼なこと言うな!」
イリーナ:「まあまあ。うちの組の方針は、『何でものんびりやる』だからね。恋の進展も、のんびりなのよ」
威吹:「しかしだな……」
イリーナ:「威吹君も妖狐の先生として、お弟子さんにもう少し目を掛けてあげたらいかが?」
威吹:「なに?」
稲生:「あの、先生。それより、マリアさんは?」
イリーナ:「ああ、そうだったね。今、お手洗いに行ってるよ」
稲生:「何だ……」
稲生はホッとしたが、威吹はハッとした。
威吹:「イリーナ師よ、さっきの話の続きだ。もしかして、遅かったか?」
イリーナ:「うん。残念だったね、勇太君」
稲生:「えっ、僕が残念ですか!?」
そこへマリアが戻って来た。
マリア:「お待たせしました……」
イリーナ:「よし。それじゃ、次へ行こう。勇太君、バス乗り場へ連れてって」
稲生:「あ、はい」
稲生は戻って来たマリアを含めて、1階のバス乗り場に向かった。
イリーナ:「正証寺はどうだった?」
稲生:「あ、はい。藤谷班長が、先生によろしくとのことでした」
イリーナ:「おー!藤谷さんかぁ〜。元気にしてるみたいだね」
稲生:「そうなんです。今度、是非ご挨拶をと……」
イリーナ:「なるほど。それじゃ明日、伺おうかねぇ……」
稲生:「あ、いや。それが先生、そのことなんですが……」
イリーナ:「?」
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