報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 終章 「希望」 final

2016-07-26 19:11:12 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月26日10:30.東京都内某所 愛原学探偵事務所]

 霧生市の事件の後、私達はまず病院に入院した。
 霧生市があった県の県庁所在地にある、大きな総合病院だ。
 既にその病院にあっては、霧生市の大惨事が未知のウィルス蔓延によるバイオハザードが原因だと分かっていたらしい。
 私達はすぐに検査され、ゾンビ化の傾向が無いかどうかを何度も確認された。
 だが不思議なことに、感染していた形跡はあったものの、ウィルスが見事に死滅していることに病院関係者は驚愕とした。
 そして、あの研究所から持ち出したワクチンの製造方法を病院に引き渡したのである。
 1週間の検査入院の後で退院できたが、その後、警察やら公安やらの事情聴取がたまらなかった。
 何だ何だ、これじゃゾンビ化しちゃった方が楽だったのかと思うくらい。
 さすがに最後にはマシンガンだのショットガンだの撃ちまくっていたなんて証言しようものなら、間違い無く捕まると思った。
 だけど、嘘はついちゃいけないなと思い、私は正直に話した。
 警察は困ったような顔をしていたが、こういうことも証拠が無いと銃刀法違反とかで逮捕できない。
 何しろ、マシンガンなどは持っていなかったのだから。
 恐らく警察も、丸腰ではあの町からの脱出は不可能だということは知っていたようだ。
 地元の霧生警察が全滅したくらいだからな。
 ただ、あの町からの生存者は私達の他にもいて、そんな彼らは私達のように銃を手に入れ、それでゾンビを倒しながらやっと町を出られた人達ばかりだった。
 多くの生存者がそれで生還したものだから、私達を含めて全員逮捕できるわけがない。
 さすがにここまで来ると、政府も黙ってはいられなくなり、官房長官がテレビで、
「霧生市から脱出してきた者に限り、そこで銃を使ったことに対する罪は問わない」
 なんて言い出した。
 この事件を受けて、せっかくアメリカ本国から生き残ったアンブレラ・ジャパンも新宿の超高層ビルに入居する本社に家宅捜索が入ったり、業務停止命令を受けたりと社会的信用を失い、そこの株券は紙くず同然となった。
 その為、後押しをしていた他の製薬会社も慌てて逃げ出して、アジアで唯一生き残っていたアンブレラはアジアからその存在を消すことになった。

 尚、霧生市は今、自衛隊と米軍が共同作戦で化け物達の掃討作戦に当たっている。
 当然、町への入口である県道は旧道・新道共に封鎖されている。
 実際にバイオハザードの対応に当たったことのある米軍が主導で行っているらしい。
 さすがに核兵器で持って焦土と化させるというようなことは、いくら何でも日本で行われることはない。

 因みに高木巡査長が追い掛けていた事件だが、一家惨殺事件だったらしい。
 忽然と一家全員が行方不明になって、全員が白骨死体となって見つかったそうだから、死後かなり経っているわけだ。
 そして、その一家の娘だけが今でも見つかっていない。
 調べてみると、その一家が行方不明になった日と仮面の少女が拉致された日がほぼ一致する。
 ということは、もしや……。
 因みに仮面の少女も一緒に病院に担ぎ込まれたはずたが、いつの間にか病院からいなくなっていた。
 さすがに彼女にあっては、民間の総合病院ではダメだと判断されたか。
 国家ぐるみで研究対象となったりしてな。
 もちろん、私が関係者に彼女の行方を聞いても教えてくれなかった。
 どこかで生きていてくれれば良いが……。
 曲がりなりにも、人間の少女の姿をしているのだから、政府のモルモットになることだけは避けてもらいたいものだ。

 高野氏は自分が所属する新聞社が消滅してしまったものだから、そこと資本関係のあった一般紙の新聞社に自分が溜めておいた取材内容を持ち込んだ。
 それは瞬く間に大きく取り上げられ、一般紙だけでなく、スポーツ新聞、更にそこと関係のあるテレビ局やネットニュースにまでなった。

 私達もしばらくはマスコミの取材などに追われ、通常営業ができなくなっていた。
 それもようやく一段落し、再び事務所で依頼者が来るのを待っていたのだが……。
「先生、ボスから電話です」
 高橋はあの事件があっても尚、変わる様子は無かった。
 ただ、時折夢の中でゾンビ無双しているような寝言を聞くことはある。
「はい、もしもし。お電話替わりました。愛原です」
{「私だ」}
「仕事の依頼が入りましたか?」
{「うむ。依頼人がまもなくそちらに向かうから、よく話を聞いてやってくれ。以上だ」}
「分かりました」
 どうでもいいけど、別にボスからの電話が無くても、クライアントがそのままうちの事務所に来ればいいだけの話じゃ?
 そう思っていると、ガラス戸の外側に人影が写った。
「こんにちはー」
「あれ!?」
 そこにいたのは高野氏だった。
「お久しぶりー。1ヶ月ぶりかな?」
「それくらいだね」
 私は彼女にソファを進めた。
「どこかの新聞社に転職したの?」
「うーん……それなんだけど、なかなかいい所無くって……」
「産経新聞は?一応、自分の愛読紙なんだけど……」
「いや、ちょっとね……。ってことで、まだ無職なの」
「あらま」
「でね、依頼ってのが……」
 高野氏は鞄の中から書類を出した。
 それは履歴書と職務経歴書。
「お願い!ここで働かせて!事務員でいいからっ!」
「へ!?」
「キサマ……!先生をたらしこんで、骨抜きにするつもりか!そうはイカンぞ!」
 高橋は体を震わせ、持っていた湯呑み茶碗を乱暴にテーブルの上に置いた。
「あら?私なら、立派に先生の秘書を務める自信がありますわよ?」
 確かに高野氏の履歴書の資格欄には、秘書検定の文字が書かれているが……。
 そういう問題じゃない。
 人を雇うほど、うちの事務所は儲かっているわけではないのだ。
 だが、高野氏のコバンザメのような食い付きぶりに、私は追い返すことができなかった。
 そして、それが功を奏した。
 何故なら、8月の予定表に、私や高橋の休みが無くなっていたからだ。
 マスコミの取材に追われたことで、私の元には依頼が殺到した。
 事務所の留守役を雇う必要が出て来て、それに大きく手を挙げたのが高野だった。
 今では立派なうちの事務員だ。

 そうそう。
 そして今、私は大きな依頼を受けている。
 それは仮面の少女の肉親を捜してあげること。
 調査の過程で彼女の本名も明らかになったし、肉親がどうなったかも分かった。
 そして、彼女の居場所についても……。
 私は調査結果を自分の机の引き出しにしまい、依頼人である彼女が来るまで、ずっとここに保管することにした。
 因みに連絡先や事務所の場所については、既に彼女に自分の名刺を渡しているので、それで分かるはずだ。

 彼女はきっと来る。
 私は新たな依頼を受け、再び地方に向かいながらそう確信していた。

 尚、高橋はゾンビ無双する夢を今でも見るそうだが、私は仮面を着けたあの少女が目の前に現れる夢を見る。

                                                            完
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“私立探偵 愛原学” 終章 「希望」 1

2016-07-26 10:18:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日06:40.天候:晴 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター1階裏口→警備室]

 血まみれの男が足を引きずって、建物の周りをゆっくりと歩く。
 その様は、まるでゾンビとはまた違う別の化け物のようだった。
 男はここの研究員で、2階のトイレに隠れていたところを愛原に発見され、一緒に脱出しようとしていた。
 それがタイラントに捕まり、4階の窓から叩き落された。
 本来ならば地面に叩き付けられて即死だっただろう。
 だが幸いにも、男はコンクリートの通路ではなく、更にその外側の芝生部分に落ちた為に即死は免れた。
 先日、強い雨が降ったおかげで、その芝生の土も柔らかくなっていたことも幸いだった。
 それでも重傷は免れず、彼はまるでゾンビのような足取りで、ある場所に向かっている。
「化け物どもめ……!フザけやがって……!全員……ブッ殺してやる……!!」
 男は恨み節を吐きながら、非常口から手持ちのカードキーで館内に戻る。
 そして、警備室に入った。
 もはや死んでもおかしくないほどのケガなのに、彼をそこまでさせるのは、偏に執念であった。
 男はまだ愛原が触っていない別の操作パネルを操作した。

『自爆プログラムの実行、承認待機中です。1度実行してしまうと、このプログラムを停止させることはできません。自爆プログラムを実行しますか?』

「ふっ……ふふふふ……!死にさらせ!化け物ども!!」
 男は半ば殴り付けるように、キーボードのエンターキーを叩いた。
 と、同時に、1階通用口のバリケードが破られる。
 そこに集っていたゾンビやクリムゾンヘッド、リッカーなどがついに突破してきたのだ。
「!!!」
 侵入してきた化け物達は、男の血の匂いをすぐに嗅ぎ付け、警備室になだれ込んだ。
 そして……。

[同日07:07.天候:晴 同場所・4階廊下]

〔……当館は、まもなく自爆します。このプログラムを停止することはできません。在館者の皆様は、速やかに館外へ避難してください。カウントダウンに入った場合、安全の保障はできません。繰り返します。……〕

「キミも来るんだ!」
 私は仮面の少女だった者に声を掛けた。
 彼女は自分を化け物だと言った。
 だがその仮面の下は、普通にかわいらしい10代の女の子の顔があっただけだった。
 彼女は小さく首を振った。
「あなたは仲間と一緒に逃げて。5階の出入口が開いたから、そこから避難できるはずだよ」
「仲間と一緒に?」
 すると階段の上から、
「先生!」
「愛原さん!」
 嘘だろう!?高橋君と高野氏の声がした。
 私は耳を疑ったが、
「先生!どこですか!?」
「愛原さん!生きてたら返事して!」
 明らかに高橋君と高野氏の声だった。
「俺は生きてるぞ!」
 私は階段に向かった。
「先生!良かった!無事で……!」
「それはこっちのセリフだ!つい、死んだとばっかり思ってたぞ!」
「私もそう思ったよ!でもとにかく、説明は後!早いとこ逃げよう!」
 私は後ろを振り向いた。
 すると、もう仮面の少女の姿は無かった。
 ただ、トイレの入口にその仮面が落ちていたが……。

〔カウントダウンに入ります。爆発10分前です〕

「先生!急いで!」
「あ、ああ……!」
 私達は階段を駆け登った。
 すると確かに外へ出るシャッターは開けられており、ドアの鍵も開いていた。
 外へ出ると、化け物達の姿は無かった。
「気が付いたら、あそこの警備ボックスの中にいてね。何が何だか分からなかったよ」
「俺もです」
 確かにこの搬入口の出入口には、駐車場の入口にあるようなプレハブの小屋があった。
 そして警備室のカメラで見た通り、トラックやワンボックスが数台止まっていた。
「鍵が無いのよ!車では逃げられないよ!」
「いや、車の鍵なら警備室で見つけてきた!」
「さすが先生!」
 私は総当たりで車の鍵を合わせてみた。
 鍵にはトヨタのロゴマークが付いていたが、リモコンキーにはなっておらず、それでどの車のドアが開くか知ることができなかった。
 ただ、私はトラックではないかなと思った。
 トラックでリモコンキーって、あんまり聞いたことが無いからだ。
 案の定、2台目で当たった。
 宅配便のトラックによくある2トンの普通サイズであり、それなら私でも運転できる。
 後ろがアルミバンではなく、合成皮革で作られた幌になっていた。
 見ると、荷台には空になった大型のゲージが3個ほど無造作に置かれている。
 実験動物か何かを運んでいたトラックだったのか。
 こういうトラックなら、キャブはベンチシートになっているので3人乗れる。
 私は乗り込んでエンジンを掛けた。
「先生!これでやっと脱出できますね!」
「ああ」
 私はマニュアルシフトのギアを入れて、サイドブレーキを解除した。
 が、
「……ちょっと待っててくれ」
「は?」
「やり残したことがあった。もし間に合わないようなら、先に脱出しててくれ」
「な、何言ってるの!?今さらどうでもいいじゃない!」
「そうですよ、先生!わざわざ地獄に戻る必要はありません!」
 だが、私は再びギアをニュートラルにしてサイドブレーキを引くと、トラックから降りた。
「先生!」
 私は2人が呼び止めるのも聞かず、再び研究所の中に戻った。

〔爆発5分前です〕

 既に館内ではあちこちで、小火や小爆発が起きているのだろう。
 焦げ臭い臭いが立ち込めていた。
 ふと階段から下を見ると、階下では火災が起きていた。
 ゾンビ達が侵入していたが、火災に巻かれて断末魔を上げるゾンビやハンターの声が聞こえた。
 私は4階まで駆け下りると、仮面の落ちていた女子トイレに向かった。
「ウガーッ!?」
 トイレの中には、あのタイラントがいた。
「キサマ、何故戻ってきた!?」
 タイラントの声は呻き声や唸り声だったが、私の頭の中にはそれが訳された言葉が入って来る。
「やっぱり、あのコを連れて行く。あのコは化け物じゃない。どこにいる?」
「…………」
 すると、奥から2番目の個室から仮面の少女が出て来た。
「どうして戻って来たの!?」
「キミはここにいるべきじゃない。外へ出るべきだ!」
「私は……」
 すると、タイラントが仮面の少女を個室の外に出した。
「お嬢様。あなたは脱出してください。どうか、御無事で……」
「…………」
 タイラントに促され、やっと少女は決意したようだ。
 すると、トイレの外からゾンビやハンターの鳴き声が聞こえて来た。
 しまった!ここに気づかれたようだ。
 すると、タイラントが立ち上がった。
「ここは私が食い止めます。あなたは、生きてください」
「ごめんね……。ありがとう……」
 タイラントは外に出ると、ゾンビ達を自慢の腕力で次々と殴り飛ばしていった。
 私は彼女の手を取り、急いで階段を登った。

〔爆発1分前です〕

 そして外に出る。
「先生!」
「待たせたな!」
「そのコは!?」
「後で説明する!早く脱出しよう!」
 私は仮面の少女をトラックの荷台に乗せた。
「しっかり掴まってろ!!」
 私は再び運転席に座ると、急いでトラックを発進させた。
 出口のゲートバーを破壊して、新霧生道路に出る。
 そして加速したと同時に、後ろから物凄い爆発音が聞こえて来た。

 トラックはトンネルに入る。
 町は全方向を山に囲まれている為、この高規格道路は長いトンネルが掘られているのだ。

 トンネルを出ると、今正に自衛隊が町に突入しようとしている最中だった。
 私達は自衛隊に保護された。
 ようやく助かったのだ。
 自衛隊の車両に乗り換える時、青空を見上げてようやく私は生還を実感したのである。
コメント (2)
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