報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 2

2016-07-01 23:46:45 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日01:30.天候:曇 某県霧生市・霧生電鉄霞台団地駅]

 私と高橋は避難用のヘリコプターが離着陸するという、大山寺と言う名のお寺に向かう途中だ。
 霧生電鉄線の西の終点駅が正にそこだということで、線路を通って行けないかと、私達は駅に来た。
 しかし駅のシャッターは固く閉ざされており、何とか構内に入り込めたものの、生きている人間の気配は感じられなかった。
 異変が起きる前は、団地住民が市街地への通勤・通学の足として欠かせなかったであろう駅だが……。
 まず入ると、目の前に自動改札機があった。
 左手には出札窓口。
 つまり、定期券売り場だ。
 電車の定期券だけでなく、霧生電鉄バスの定期券なども販売していたようだ。
 右手には自動券売機が並んでいる。
 駅構内は照明が灯っているものの、そんなに明るくは無かった。
 気のせいだろうか?それとも、元々こんなものか?
「一応、入場券でも買った方がいいのか?」
 と、私は高橋に振った。
「冗談でしょう、先生!だいいち、券売機ぶっ壊されてますけど?」
 その通り、ここでもゾンビだか暴徒だかが暴れたのか、自動券売機は全て破壊されていた。
 ついでに公衆電話も。
 何とか無事そうな公衆電話の受話器を上げて110番してみたが、うんともすんとも言わなかった。
 駅事務室となっているであろう、定期券販売窓口は衝立のようなものが内側から立てられ、中の様子を窺い知ることができない。
「……開かないか」
 事務室入口のドアは鍵が掛かっていた。
 仕方が無いので、有人改札口からコンコースに入った。
 有人改札口の方も窓が閉められ、内側から色々と物が置かれている。
 ここの駅員達も、ゾンビの侵入に対して抵抗を試みたのか。
 改札口から中に入ると、通路は下へと向かっている。
 すなわち、下へ降りる階段があった。
 左右にはエスカレーターが、恐らく上りと下りで1基ずつあるが、電源が落ちていて動いていない。
 エレベーターは動いているようだが、あえて私達は階段で下へ降りた。
 いや、その……何と言うか……。
 微かに下から呻き声が聞こえる。
 恐らく、ホームにはゾンビが待ち構えているのだろう。
 エレベーターで下りて、ドアが開いた瞬間襲って来られたら怖い。

「アァア……!」
 案の定、階段を上がって来るゾンビがいた。
 私達の気配に気づいたのだろう。
 こういう時、階段の上にいると有利だ。
 下からだと、飛び掛かって襲っては来れないからだ。
 歩く腐乱死体であるが、腐った足でも、階段の上り下りはできるようだ。
「先生!ここは1つ、俺が!」
 高橋がハンドガンを構えて、ゾンビを撃った。
「ゥアアァッ!」
 ゾンビは撃たれた衝撃で階段を転げ落ちていった。
「やったか!?」
 着ていたボロボロの服は私服であったから、乗客か避難民のゾンビであろう。
 階段を落ちて、最後に頭を強く打ち付けたゾンビは起き上がってくることは無かった。
「簡単です!」
「さすがだな、高橋君」
 私達は階段を下りて、ホームへと向かった。

 ホームは2面2線。
 即ちトンネルの壁際にホームが作られ、それが線路を挟んで反対側にも作られている。
 私達が降りたホームは1番線、つまり市街地を通って東側の終点駅に向かう電車が来る所だった。
「あ、ホーム、間違えた。反対側だった」
「でも、電車が止まってますよ?」
「そうだな……」

 
(トンネル駅に作られた2面2線のホーム。写真は東京メトロ銀座線の末広町駅。霞台団地駅も、イメージとしてはこんな感じ。作中では片方のホームに、電車が中途半端な位置で停車している)

 電車は比較的新しく、まるでJRの電車のようだった。
「ゥアァア……!」
「ゥウゥウ……!」
 半開きになったドアから、乗客のゾンビが降りて来た。
 私はショットガン、高橋はハンドガンでゾンビ達を屠った。
 これは避難電車だったのだろうか?
 だとしたら、何でこんな中途半端な位置で停車しているのだろう?
 電車の進行方向に向かって進むが、ホームの先端からではよく見えなかった。
 ただ、2両編成の電車の先に、もう1台が連結されているのが分かった。
 少なくとも、停電とかではないようだ。
 何故なら、薄暗いながらも駅はちゃんと明かりが点いているし、電車内も照明が点いている。
「ん!?」
 ホームに掛かっている後ろ2両は照明が点いていたが、前2両は消えていた。
「先生、線路に下りてみましょう!」
 と、高橋。
「おう!」
 私達は線路に下りてみた。
 どうせこんな状況では、電車が来るはずもない。
 線路に下りて、この電車に何があったか確かめてみようと思った。
「あ、何だ!?」
 トンネルが崩れていた。
 崩れた所に先頭車が突っ込んで止まっていたのだ。
 或いは、駅を出た所でトンネルが崩れてしまったのか。
 こんな状態だというのに、停電していないなんて奇跡だ。
 よく見ると、電車に電気を供給する電線(架線)は切れていない。
「何でトンネルが崩れたんだ?」
「いや、違います、先生!これ……」
 高橋が天井を指さした。
 暗くてよく分からないので、私は電車の運転席から懐中電灯を持ってきた。
 それで天井を照らす。
「あれ?崩れてないな……」
「そうなんです」
「じゃあ、この瓦礫はどこから来たんだ!?」
「どうやら、この先頭車の先がトンネルの出口のようです」
「すると……!?」
「トンネルの上……山の上から、瓦礫が落ちて来たんですよ」
 確か、駅の裏手も住宅街になっていたはずだ。
「マジか……!」
 少なくとも、トンネルを出て街の方へ線路を歩いて行くことはできないことが分かった。
 これは言い換えれば、ゾンビ達が線路を伝って、こちら側に来ることもできないということだが。

 ガッシャーン!
 パリーン!

「!!!」
「!?」
「ワアアアッ!!」
「オオオオッ!」
「アァァァァ!!」
 衝突して停電している先頭車と2両目の窓ガラスをぶち破って、ゾンビ達が飛び降りて来た。
 私と高橋はすぐに応戦体勢に入った。
 瓦礫の所で、彼らを迎え撃つ!
 で、線路に下りることができたゾンビ達は私達が倒したものの……。
「アゥゥゥッ!アアアアアッ!!」
「……こいつ、何やってんだ?」
 最近の電車の窓は、開口部が小さい。
 肥満体のゾンビもいるようなのだが、それが電車の窓の開口部を通ることができず、体が挟まってバタバタやっていた。
「この恐怖の中、笑わせてくれる」
 いや、ほんと、コメディリリーフ的なゾンビもいるものだと思った。
 だが、さすがにそのままにしておくわけにもいかないので、私はその肥満BBAゾンビをショットガンで楽にさせてやった。
「先生、どうします?」
「トンネルの反対側はどうだ?大山寺駅はあっちの方だろう?いっそのこと、このままトンネルの中を進むってのもアリだぞ?」
「でも先生、意外と次の駅までは距離があるみたいです」
「何だって?」
「あれを見てください」
「?」
 ホームの壁には、この駅からの所要時間が表示されていた。
 それによると、市街地方面に向かった次の駅までは3分ほど。
 それ以外の駅でも、次の駅まではほんの2〜3分ずつで行ける駅間距離らしい。
 ところが、ここから大山寺駅までにあっては5分と書かれていた。
「どのくらいのスピードで走って、5分なんだろうなぁ?で、高橋君としては、どうしたい?」
「あの無事な、半分2両を動かして行けないものかと……」
「えっ?」
 確かにホームに掛かっている2両分は、ほぼ無傷であった。
 停電もしていない。
「トンネルの中には、何が待ち受けているか分かりません。電車で移動できたら、その方が安全かもしれませんよ?」
「つったって、俺達、電車なんか運転できないぞ?」
「もしかしたら、立て籠もっている職員とかいるかもしれません。この駅を探索してからでも、遅くはないかと……」
「それは一理あるな。だけど、駅員室は入れなかったぞ?」
「さっき、この電車の運転席付近に鍵が落ちていました。もしかしたら、これが駅員室の鍵かもしれません」

 
(高橋が拾った鍵)

「それを早く言えよ。よし、行くぞ、今すぐに!」
 私と高橋は電車内で入手した鍵で、駅員室に向かった。
コメント (2)
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