報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 4

2016-07-10 22:19:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日06:30.天候:雨 某県霧生市 新日蓮宗大本山・大山寺]

 さっきまで霧雨だった空模様も、本格的な雨になった。
 空はどんよりとした黒い雲に覆われており、今日1日は雨のようだ。
 このままずぶ濡れになるのはあれだったので、私と高橋は増田氏より、警備用のレインコートを借りた。
 よく駐車場などで、雨の時に警備員が着ている、あの白いレインコートだ。
 それを着込んで外に飛び出す。
「アァア……!」
「オォオ……!」
 大講堂の外に出ると、早速ゾンビが待ち受けていた。
 大講堂に入り込まれたらヤバいので、私達はその近くにいたゾンビ達は倒しておいた。
 そして、残酷なことだが、とどめに頭も撃ち抜いておく。
 最近になって気づいたのだが、頭を撃ち抜かれたゾンビは、“赤鬼”(クリムゾンヘッド)に変化することはなかったからである。
 他に生存者がいないのなら、まあいいのだが、今は増田氏という生存者がいる。
 せっかくの生存者を危険に晒したくはなかった。
 尚、頭を撃ち抜かれなくても、倒されたゾンビが全員“赤鬼”になるというわけではない。
 どのゾンビがそうなるのかは、今のところ、見分けがつかない。
「高橋君、私はあっちを探す。キミは向こうを探してくれ」
「分かりました」
 私と高橋は大講堂の前で一旦別れた。

 私は大本堂方面に向かってみることにした。
 増田氏はああ言っていたが、もしかしたら土砂崩れの衝撃で、大本堂への侵入経路が確保されているかもしれない。
 途中の参道にも避難者なのか信徒なのか分からない、一般人の恰好をしたゾンビや、ボロボロになった僧衣を来たゾンビもいた。
 せっかく出家したのに、生きたままゾンビになるとは……。
 因みに“赤鬼”は、普通(?)のゾンビがそのままそれに変化することは無いようで、あえて倒さずやり過ごすことで、その出現を抑えるという方法もある。
 高齢者のゾンビは若年者のそれよりも更に動きが遅い為、あえて倒さない方針にしていた。
 弾薬にも限りがあるので、あまりバンバン撃って、必要な時に無いと困るからな。
 いくつかの宿坊の前を通り過ぎ、大山寺の北端に大本堂はある。
 なるほど。
 寺宝を保管しているというだけあって、どの堂宇よりも荘厳で立派な造りだ。
 よく拝観料を取らないものだと思ったが、『御内拝は事前に内拝券をお持ちの御信徒のみとなり、それ以外の方の立ち入りは一切できません』と書かれていた。
 なるほどなぁ……。
 入口の門扉は固く閉ざされていたが、横の通用口はカードキーで開いた。
 どうやら、手持ちの鍵で開けられないのはその先の扉らしい。
 建物を回り込んでみると、『↑ヘリポート』という看板が見えた。
 そして、その看板の通りに行ってみると、砂利道があったのだが、確かに途中で道が塞がれていた。
「何たるちゃあ……」
 土砂は大本堂を囲む塀の上にまで達しており、それはつまりその敷地内にまで流れ込んでいるというわけだから……。
「かー……なるほど」
 こりゃ確かに、大本堂の中を通らないとダメっぽい。
 私は一旦諦めて、他の建物を探すことにした。

 再び宿坊の連なる参道を歩いていると、警備室から無線が入った。
{「あー、こちら、警備室。愛原さん、応答できるかの?」}
「あ、はい。愛原です」
 私はすぐに応答した。
{「実はちょっと確かめてもらいたいことがあるのだが……」}
「確かめてもらいたいこと?」
{「愛原さんが今いる所の近くに、『大恩坊』という名の宿坊がある。さっきカメラで見ていたら、人影が見えたのだ。ちょっと確認してもらえますかのぅ?」}
「分かりました」
 一瞬どうせゾンビではないかと思ったのだが、いやいや予断は禁物だ。
 私は詳しい場所を増田氏から聞いて、その大恩坊なる宿坊に向かった。

「! これは……!」
 大恩坊の入口の門には、ゾンビが3人ほどたむしていた。
 中に入ろうとしていたのだが、私の姿を見ると、呻き声を上げて向かって来た。
 こういう時、ショットガンだと弾が分散して飛んでくれるので、まとめてゾンビを倒すことができる。
 弾なら、途中にまた特殊部隊員と思しき恰好をした者が倒れていたので、そこから弾薬を頂戴することができた。
 あいにくと、既に死んでいたが。
 それにしても、身分を証明するようなものを持ち合わせていなかった。
 一体、彼らは何なのだろう?
 ……おっと!こうしている場合ではない。
 ゾンビ達が侵入しようとしていたということは、やっぱりこの中に生存者がいるということだ。
 門の中から入ってみると、左手にその本堂と思しき建物があり、そのまま真っ直ぐ向かうと玄関がある。
 その玄関の引き戸がブチ破られていた。
 まさか、ここからゾンビが侵入したのか?
 私は手持ちのショットガンに弾薬をリロードし、薄暗い建物の中へと入った。
 ゾンビが待ち受けているかもしれないので、私は銃を構えながら慎重に奥へと進む。
 すると!
「!?」
 若い女性の叫び声が聞こえて来た。
 それと同時に、ゾンビ達の喚く声。
 女子トイレから聞こえて来た。
「大丈夫ですか!?」
 私が飛び込むと、そこにはゾンビが4人もいた。
 トイレの奥の窓際に追い詰められている女性が1人。
「こっちだ!ゾンビども!!」
 私は1番後ろにいたゾンビにショットガンを発砲した。
「ゥオオオ……!」
 ゾンビ達は私の侵入に気づき、後ろにいた者とその前にいた2人が私の所に向かって来た。
 だが、残りの2人は相変わらず女性の方に目が行っている。
 このままではまずい!
 ところが、
「ふんっ!!」
 ゾンビの1人が、ついに女性に掴みかかった。
 だが、その女性は武道の心得があるのか、そのゾンビを振り払った。
「ねぇ、ちょっと!もし銃が余ってたら貸して!」
「はあっ!?」
「早く!」
「は、はい!」
 私は使用していないハンドガンを取り出すと、女性に向かって投げた。
「安全装置は外してませんよ!」
「分かってる!」
「アオオオ!」
「掴むな、このやろ!!」
 私は再びショットガンを発砲し、何とか2人は屠った。
 残る2人のうち、1人は女性によって頭を撃ち抜かれたし、もう1人は、
「ふんっ!」
 やはり女性の掴み技で、ゾンビはトイレの窓ガラスに頭から突っ込まされ、動かなくなった。
「はー、危なかった……」
「お、お見事な腕前で……」
 女性は20代後半から30歳くらいといったところ。
 ゾンビ達を倒すと、その場にへたり込んだ。
 いやいや、ハンドガンの使い方といい、掴み技といい、私より強そうだ。
「もしかして、警察の方だったりします?」
 と、私は女性に手を貸しながら聞いた。
「まさか。ただの新聞記者ですよ。そういうあなたも警察?」
「いや、東京から来た探偵事務所の者です」
「ふーん……」
「アァア……!」
「ウゥウ……!」

 すると、玄関の方で、またゾンビの呻き声が聞こえて来た。
「しまった!もう新手が!?」
「安全な場所を探してるの!どこか目ぼしい所、無い!?」
 と、女性が聞いて来た。
「それなら、大講堂の警備室ですよ!一緒に行きましょう!」
「お願い」
 私はゾンビが頭から血を流しているトイレの窓を開け、そこから外に出た。
 そして裏口を回って、何とか参道に出ることができ、そこから大講堂へと向かった。
コメント
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