報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 8

2016-07-12 21:47:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日09:15.天候:雨 新日蓮宗大本山・興雲山大山寺 壱之坊]

 大山寺の北部にある大講堂から、私達は南部の壱之坊へと向かった。
 お寺の南北は霧生川によって分断されている。
 異変前は多くの参拝者達が往来したであろう立派な木橋も、今では参拝者だった者の成れの果てが呻き声を上げて往来するだけだった。
 川と言っても上流部であるから、その川幅は狭いが、しかしその流れは急である。
「高橋君がハンターαと遭遇したのはどこだ?」
「建物が見えて来た辺りです」
「なるほど」
「キィィィィッ!」
「おっと!噂をすれば!」
 お寺の南部に行くと、ゾンビの姿は殆ど無く、代わりにハンターαが闊歩していた。
 ここにもゾンビ達が往来していたのであろうが、ここまで探索してきた高橋や、ハンターαにほぼ全員倒されてしまったらしい。
 中には首がもがれた“赤鬼”もいた。
 あのレストランの屋上などで脅威的な力を見せてくれた“赤鬼”も、ハンターの前では形無しであったか。
 私はショットガンを構えて、ハンターに発砲した。
「先生!こいつは飛び掛かってきますよ!」
「そうなのか!……で!?」
「着地した時に隙ができるので、その時がチャンスです!」
「なるほど!」
 ハンターはすばしっこい。
 確かに銃を構えると、ピョンピョン跳ねて、照準を合わせにくいようにしてきやがる。
 どうやらゾンビと違って、それなりの知性はあるようだ。
 ゾンビの場合、銃を構えても、闇雲に向かってくるだけだったのだが……。
 一匹が高橋に飛び掛かった。
「飛び掛かった時の攻撃をまともに受けると、首を取られます!上手く避けて!」
「お、おう!」
 さすが1人で戦った経験があるだけあるな。
 高橋はハンターが飛び掛かって来ると、サッと避けた。
 着地すると、確かに少し動きが鈍くなる。
 高橋がそいつの背中に回って、Lホークを数発放った。
 どうやら振り向くのが苦手なのか、それとも背後に視線を感じる能力が無いのか、ほぼ高橋の集中砲火である。
 ハンターの1匹はそれで血だまりを作って動かなくなった。
「キィィィィィッ!」
「あっ、しまった!」
 一匹が高野氏に飛び掛かって来る。
 狙いやすい女性を狙うとは、やはり少しは頭が良いのか?
「はーっ!」
 ゴッ……!(ハンターの頭からニブい音がする)
「!!!」
 だが、そのハンターは大きな誤算を起こした。
 高野氏は空手2段だという。
 また、それ以外にも色々と、射撃を含むスポーツを齧りついているようである。
 頭をボコッとやられたハンターは……。
「(@_@;)……〜✩」(←ピヨッてフラフラしている)
「うらぁッ!!」
 高橋に今度はコルトパイソンを食らって絶命した。
「さすがだな、2人とも」
「お安い御用です。先生」
「久しぶりのナマモノの感触ッ!やっぱ、こうでなくっちゃねー!」
 と、久しぶりに本気で武術を使えたことが嬉しいのか、喜ぶ高野氏。
「……オマエ、ハンターにはずっと空手技だけで戦えよ?」
 ジト目で見る高橋。
「頼もしい姉さんで」
 私も別の意味で感心した。
 少なくとも、化け物を目の前にして恐怖におののくことは無さそうだ。
「と、とにかく入ろう」
 私は手持ちのマスターキーを手に、下ろされている壱之坊正面入口のシャッターを開けた。
 そして、今度はカードキーで開錠した。

 

「……何か、聞こえないか?」
「うん、そうだね」
「上から聞こえます。お経の声」
「ナンミョォォォォ……ゲホッゲホッ!……ホォォォォレェェェ……ガハッ!ゲヘッ!……キョォォォォォォ!」
「やっぱり、あの浅井御主管だよ。上でひたすら助けが来るのを待ってるんだ」
「それなら早く行きましょう。大本堂の鍵を手に入れるんです!」
「……それもあるけど、そのお坊さんも助けてあげないとダメでしょ」
 高野氏は苦笑した。
 エレベーターで上がろうとしたが、どうやら電源が落ちているか故障しているらしく、ボタンを押しても全く反応は無かった。
「階段で行こう!」
 階段を駆け登る私達。
「アァア……!」
「ウゥア……!」
 ここにもゾンビ達は複数いた。
「しゃらぁっ!!」
 高橋はゾンビの1人を階段の上から突き飛ばした。
「アゥゥゥッ!!」
「オォォォォッ!」
 その後ろにいたゾンビ達も一緒に階段を転げ落ちてしまった。
 そして高橋、オイルライターのオイルが入ったボトルを折り重なって倒れているゾンビ達に振り掛けると、
「バーニンッ!!」
 どこで拾って来たのか、マッチ棒を擦って火を点けると、それをゾンビ達に放り投げた。
「ギャアアアアアッ!!」
 火に包まれるゾンビ達。
「火葬だ!死にぞこないども!!」
「高橋君……。ヘタすりゃ建物が火事になるから……」
 さすがの私も呆れて、近くから消火器を持って来た。
 そして、火に包まれたゾンビ達が倒れて起き上がって来なくなったのを確認してから、消火器を吹き掛けて火を消した。
 火葬場における火葬とは程遠いが、ゾンビ達が腐乱死体から焼死体に変わったのは事実であろう。

 3階に到着すると、ますます御題目を苦しそうに唱える声は大きくなってきた。
 やはり、このフロアのどこかに浅井主管が隠れているのだろうか。
 階段を上った先には、防火シャッターが途中まで下りて止まっていた。
「高橋君、ちょっと手を貸してくれ」
「はい」
 私と高橋でシャッターを押し上げてみる。
 すると、何とか潜れるくらいの高さまで上がった。
 高野氏がしゃがんでシャッターの中に入る。
 パンツスーツだったからあれだが、短いスカートだったら中が見えていたかも……って、こんな時に私は何を考えているんだ!
「先生?」
「何でもない。行こう」
 私と高橋もシャッターを通過すると、それはガッシャーンと下まで落ちてしまった。
「あれ?もしかして、閉じ込められた?」
「まあ、どうせ3階ですし、いざとなったら窓から飛び降りましょう」
 さらっと言う高橋。
「いや、3階から飛び降りたら、無傷では済まんだろ!?」
「まあまあ。それより、早くお坊さんを助けてあげないと」
「おっと、そうだった!」
 相変わらず、南無妙法蓮華経を唱える声は苦しそうだったが、かなりの大声であった。
 声は増田氏のようにしわがれているのだが……。
「せ、先生?これ、本当に浅井の坊さんなんでしょうか?」
 高橋が訝し気な顔をした。
 私達は声のする所を突き止めたのだが、それは『大集会所』と書かれた部屋。
 ホールのドアのような、重そうな観音扉を向こうから乱暴にドンドンと叩かれている。
「……何か、違う気がしてきた」
 隠れているのだったら、むしろ声を出さずに息を潜めるのが筋であろう。
 もしお経を唱えて仏に救いを求めていたのならば、何故こんなにドアを叩く?
「もしかして、とんでもない化け物がいるってオチ?」
「……か、かもしれない」

 ドォーン!バタン!(ついに観音扉がブチ破られる音)

「!!!」
「な、な、何だこいつは!?」
「気持ち悪い!!」
 大集会所から現れたのは、確かに化け物であった。
 しかしその姿は、今まで見たゾンビや“赤鬼”(クリムゾンヘッド)、そしてハンターαとは明らかに違っていた。

 こ、これを退治しろと!?
コメント (3)
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