報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 9

2016-07-23 22:40:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月28日04:58.天候:不明 アンブレラコーポレーション・ジャパン 霧生開発センター]

「う……」
 私はふと目が覚めた。
 気が付くと、ベッドの上で寝かされていた。
 辺りを見回すが、まるでそこは診療所のようだった。
 実際、室内にはそのような薬の匂いが漂っている。
 どうして私は……?
 直前の記憶を思い返してみる。
 確か私は……研究所の地下の洞窟みたいな所に誘き寄せられて……?そこで、タイラントと……あっ!そうだ!そこで、成す術も無く倒れた私の頭の上に、仮面の少女……確か、リサ・トレヴァーという名の女の子が現れたんだっけ。
 で、その後……?
 死んだと思っていたのに、どうして私は助かったのだろう?
 誰かが助けてくれた?
 都合良くあの後、誰かが助けてくれたというのか。
 私はベッドから起き上がると、床に足を着けた。
「ん?」
 すると、足が何やら空き缶を蹴っ飛ばしてしまった。
 見ると、ベッドの周りには救急スプレーの空き缶がそこら中に転がっている。
 何でこんな所に?
 おかげ様で私の体力は今『Fine』状態ではあるが、ここは病院ではないのか。
 よく見ると、診療所というよりは学校の保健室をもっと広くしたような感じの……。
 ……そうか!ここは病院ではない。
 まだアンブレラの研究所にいるのだ。
 こういう所にだって医務室くらいあるだろう。
 きっとそれだ。
 私が靴を履いて医務室の外に出ようとした時、
「そうだ!銃は!?」
 上着は室内の事務机の椅子に掛けてあった。
 普段はここで産業医が診察に当たっていたのだろう。
 しかし、肝心の銃は無かった。
 完全に丸腰の状態だ。
「参ったなぁ……」
 幸いにして、化け物と同室していたということは無いが……。
 しかも診察机の上には、一冊の古いノートが置かれていた。
 気になったので開いてみると、誰かの研究ノートのようだった。

『1984年11月20日。被験者が運ばれてくる。アメリカの本社研究所では、既に始祖ウィルスを用いた研究を始めたと聞く。日本法人もようやく東京に本社を立ち上げ、この辺境である霧生村に研究所を構えることができた。アメリカ本社では密かに人体実験を行っていると聞く。こちらも負けてはいられない』
『1985年6月2日。アメリカ本社では14歳の少女リサ・トレヴァーを被験者とした実験に失敗したと聞く。しかし、あれは失敗と言えるのだろうか。申し訳無いが、アメリカ人ならではのイエスかノーかの二者択一が生んだ悲劇としか思えない。こちら側のリサ・トレヴァーは良い結果を出してくれている。本社には悪いが、先に行かせてもらおう』
『1986年3月12日。また金をタカりに来た在日朝鮮人達をハンター製造の実験台にする。確かに彼らに頼んで、被験者達を連れて来てもらったのは事実だ。しかし、あそこまで金に汚い連中だったとは……。自業自得とは、このことを言うのだ。一応、彼らは隠蔽用として、1度は日本海に出てもらったから、捜査機関も手が出せない朝鮮半島に連れて行かれたとでも思っているだろう』

 ……日本のリサ・トレヴァーは拉致被害者だったのか?
 いや、違うな。このノートの内容が事実だとすれば、北朝鮮拉致被害者を装った拉致被害か。
 その後もどんどん観察記録を読んで行く。
 1990年代になると、事態が一変した。
 アメリカ本社直轄の研究所で事故が相次ぎ、そしてそれは地元の町1つを壊滅させる事態にまで陥ってしまったことだった。
 アメリカ本社はそれが元で倒産してしまったが、それを知ってか、日本法人は直前に独立。
 他の製薬企業の後押しを受けて、その名を残したまま事業を継続させた。
 2000年代に入ると、アメリカやヨーロッパに退避させていたクリーチャーやウィルスなどを日本でも保管するようになる。
 2010年代に入ると、リサ・トレヴァーなどのクリーチャーが廃棄処分にされることが決定した。
 最後の数ページによれば、制御の効かなくなったリサ・トレヴァーがタイラントと組んで、この町にウィルスをばら撒いたことが書いてあった。
「こんなことが……」
 私は手が震え、ノートを落としてしまった。
 だが、最後のページには赤い文字で、『4階のトイレまで来い』と書かれていた。
 これを書いたのが誰だかすぐに分かった。
 リサ・トレヴァーだ。
 彼女は私を万全な状態にしてから殺すつもりなのだ。
 恐らく、このノートの内容が本当なのであれば、彼女は『飼い犬』だったのだろう。
 だが、彼女は元々人間だ。犬ではない。
 自我もあるだろうし、自分が拉致されて数十年もここにいさせられたとあらばどう思うか……。
「数十年!?」
 写真や本人を見る限り、彼女は15歳前後の女の子だ。
 実験体にされていたから、歳を取らなかったのだろうか。
 全く、恐ろしいことだ……。
 私は深呼吸をして、医務室への外に出るドアを開けた。

 医務室は2階にあった。
 エレベーターは止まっていたが、しかし代わりに階段の防火シャッターが開いていた。
 私が階段を上ろうとした時だった。
「ん?」
 階段の近くにあるトイレ。
 2階は関係無いはずなのだが、そこから人の気配がした。
「何だろう?」
 確かめたいが、私には武器が無い。
 もし下手に確かめでもして、実は化け物が潜んでいたとなると、命は無いかもしれない。
 どうする?

 1:確かめに行く
 2:確かめに行かない

 もしかしたら、まだ安否不明の高野氏かもしれない。
 私は消火器を手に、男子トイレの中に入った。
「……誰か、いるのか?」
 私は恐る恐る声を掛けてみた。
 後ろからも襲われないように、後ろも警戒しながら。
 すると、
「そ、その声は……生きてる人間か?」
 1番奥の個室から震える男性の声がした。
 あいにくと、高橋ではない。
「そうだ。今のところ、私はまだゾンビ化していない。もしあなたも生きてる人間なんだとしたら、出て来てほしい」
 私がそう言うと、恐る恐るといった感じて、引き戸のドアが開けられた。
 中にいたのは、白衣を着た男。
 どうやら、研究員らしい。
「あ、あんた1人か?」
「そうだ。あなたはここの研究員か?」
「あ、ああ……。ここは危険だ。キミはどこから来た?」
「トンネルの電車乗り場からだよ。でも、そこも危険だ。5階の搬入口から出れば大丈夫だと思うんだけど……。そこから、町の外に出られるか?」
「バイパスと繋がってるから、そこから車に乗れば可能だ。だけど、肝心のシャッターの鍵が無いんだ」
「……だろうな。でも、もしかしたら、2人でこじ開ければ何とかなるかもしれない。こっちだ。来てくれ」
「分かった」
 私は名も知らぬ研究員という、思わぬ生存者を連れてトイレを出た。
 そして、階段を駆け登って5階へ向かう。
 そういえばノートには、4階のトイレに行くように書いてあったな。
「ちょっと待った」
「何だ?」
「実は4階のトイレに寄ってこようと思うんだ」
 私が言うと、研究員は目を丸くした。
「どうしてだ!?」
「いや、まあ、大したことじゃないんだけど……」
「だったら急がないと!ここは危険だ!」
 研究員が私の服の裾を引っ張る。

 1:4階の女子トイレに向かう。
 2:5階へ向かう。

「いや、4階に行けと言われてるんだ。そこに行って何も無かったら、5階に行くよ」
「勝手にしろ!俺は先に5階に行くからな!」
 研究員は私が止めるのも聞かず、階段を駆け登って行った。
 私は1人、4階の女子トイレに向かう。
 まあ、恐らくあのリサ・トレヴァーが待ち受けているんだろう。
 だけど、私はそれを無視して5階に行ってはいけないような気がした。

「うぎぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 案の定、5階からあの研究員の叫び声が聞こえて来た。
 だが、自分でも不思議なくらいに私はそれを確認に行こうとも思わなかった。
 どうしても、今は何があっても4階の女子トイレに行かなければならない。
 その思いに取り憑かれていたのだ。

 結局は私も、リサ・トレヴァーに殺されるのだろうか。
 いや、“トイレの花子さん”とも言うか……。
コメント
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