報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 1 

2016-07-17 23:22:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月26日18:00.天候:雨 新日蓮宗大本山・興雲山大山寺 大講堂]

 あれから1日が過ぎた。
 あれ以来、ヘリコプターがやってくることはない。
 生存者のゾンビ化に怯えてヘリを出さないのか、あるいはもう飛び立てるヘリが無いのか……。
 でも、私達はまだ生きている。
 ゾンビ化することなく……。

 私達は寺院内で最も安全だと思われる大講堂に引き上げた。
 増田氏の遺体は、まだ正面入口近くにある。
 頭を完全に引きちぎられていた為、知っている人しか増田氏だと分からないだろう。
 増田氏は正面入口のシャッターは故障しているとのことだが、試しに引っ張ってみたら、どうやら単に引っ掛かっているだけのようだ。
 エントランスのドアが破られている為、私達の存在を知ったクリーチャー達が襲ってこないように、バリケードを作る必要があった。
 幸いあの後、クリーチャー達が侵入していたことは無かったようで、警備室の監視カメラを見ても、大講堂内にゾンビなどの姿は無かった。
 一定の安全は確保できたわけだが、はてさて、これからどうしよう?
 実は今、決めたところで、すぐには行動できない理由があるのだ。
 それは何故だと思う?

 1:高橋が倒れた。
 2:高野が倒れた。
 3:愛原が倒れた。

 そう。
 警備室に逃げ込んでから、高橋の様子がおかしいと思った。
 彼は高熱を出していた。
 私は更に絶望に駆られた。
 高橋までゾンビ化してしまうのか。
 ということは、やはりいずれは私も……。
 生きてこの町から出ることは叶わないのか……。

「くそぅ……!くそぅ……!俺が……こんな町に滞在しようとさえしなれば……!」
「先生……」
 高橋は仮眠室のベッドに横になっている。
「高橋君!今、望むことは無いか!?」
「それなら、やっぱり……。先生の手で、楽にしてもらえますか?」
「……分かった。苦しまないよう、頭を撃ち込んでやるからな!」
「お願いします」

 1:マシンガンを使う。
 2:ショットガンを使う。
 3:ハンドガンを使う。
 4:ナイフを使う。

 私はハンドガンを取り出し、高橋の額に銃口を押し当てた。
「こんな……情けない探偵でごめんな……」
「いえ……。俺は、先生と一緒にいられて良かったです。……何だか、意識が朦朧としてきました……。もう、ゾンビ化するのかもしれません……。腐った体で徘徊したくはないので……どうか、お早くお願いします」
「分かった。……さようなら」

 カチッ!

「……?あれ?」
 私は何度か引き金を引いた。
 だが、何故か弾が出て来ない。
「……あ!悪ィ!この銃、弾入ってなかった!」

 ズコーッ!

「いやあ、ハンドガンなんて最近使ってなかったからさぁ……」
「……先生のショットガンでお願いします」
「分かった。ちょっと取ってくる」
 私は席を立ってショットガンを取りに行った。
「おわっ!?」
「きゃっ!?」
 仮眠室と警備室を繋ぐドアが内外から同時に開けられた。
 警備室側に高野氏がいたのだ。
「あっと!これは失礼!」
「びっくりさせないでよね!……ほら、解熱剤。救護所に行って、取って来たから」
「えっ?」
「警備室の救急箱にあるヤツじゃ弱いでしょ?救護所はお寺の診療所も兼ねてるみたいだから、そこに行ったら強い薬が置いてあるんじゃないかと思って、行ってみたらビンゴだったよ」
「さすが高野さん」
「途中にまだハンターが2〜3匹くらいいたからね、ライフルでフッ飛ばしてやったわ」
「スナイパーだな。……だけど、高橋がゾンビ化しそうなんだ。今さら、解熱剤飲んだところで、どうにもならないよ」
「? あれ?言わなかったっけ?」
「何が?」
「多分、この中で高橋君が1番ゾンビ化が進んでいたんだろうね。まだ症状は出ていなかったけど。ある程度、ウィルスの侵食が進むと、副作用として発熱があるんだって。要は発熱することにより、体内のウィルスを倒すようにするんだろうね」
「……マジ?」
「おい、聞いてねーぞ……!」
 ベッドから高橋の怒号が聞こえて来た。
 だがそこは病人。
 いつもの覇気のある声では無い。
「逆を言えば、抗ウィルス剤が効いてるってことね」
「そうなのか?」
「そうでしょ。高橋君、体が痒いなんてことはない?」
「……無い」
「ほら?」
「そうだったのか!」
 危ねぇ!危ねぇ!危うく高橋を殺すところだった!
 ショットガンとマシンガンは、まだ弾が入っていたからな……。
「……高橋君、気を取り直して、これを飲め」
「はい」
「起きれるか?」
 高橋は上半身を起こして、私から解熱剤を受け取った。
 額には冷却シートが貼られている。
 水はペットボトルの水を飲ませた。
「……救助は来ましたか?」
「いや、まだだ。明日になって、何の状況も変わらなかったら、別の策を考えようと思う。キミはとにかく、元気になることを考えろ」
「……はい」

 私は高橋をベッドに寝かせると、仮眠室から警備室に戻った。
「どうだい?何か救助らしきものは?」
「全然ダメだね。カメラ見てるけど、時々映るのはゾンビとかハンターだけだよ」
「ここの場所はばれてないかな?」
「大講堂の前にゾンビが歩いてるけど、シャッターを閉めたおかげで、入れないみたいだね」
「……そうか。でも油断はできないから、交代で休もう。高野さんから先に休んでいいよ」
「そう?じゃあ、そうさせてもらおうかな?」
「その方がいい。シャワー室もあるしね」
「うん」
 因みに警備室には、非常備蓄用としてか、缶詰や水のペットボトルがロッカーの中に保管されていた。
 これを夕食にする。
 明日の朝も缶詰か。
 本当にまるで、避難民そのものだな。
 避難すら満足にできていないというのに。
「あのさ……」
「ん?」
 高野氏が口を開いた。
「もし明日、高橋君が元気になって、でも救助が全く来ないようだったらどうする?」
「……まだ考えてない。どうしようか?山を徒歩で越える?でもなぁ……」
「実は私に1つ考えがあるの」
「何だい?」
「霧生電鉄の大山寺駅と霞台団地駅の間に、貨物の引き込み線があるのは知ってる?」
「ああ。何か、あったな」
「あの先に、何があるか知ってる?」
「いや……?」
「私の調査だと、あそこにあるのはアンブレラの研究所の入口だってよ」
「はあ!?」
「ハンターはあの研究所で、実験の産物として作られた。ところが、そこの研究所で事故があったことで制御不能になったハンターが脱走し、そしてそこで開発されていた……というか、恐らく、もう既にアメリカ本体で開発されていたウィルスが町中にばら撒かれたと私は見ている」
「何だって!?」
「それを確かめたいと思う」
「でもそんなことしたって、町の脱出は……!」
「ああいう秘密の研究所で何か災害が起きた場合、町の外まで脱出できる手段を確保しておくものだよ。あいにくと、霧生電鉄は違ったみたいだけどね。他にもそれがあって、そこの職員達はそれを使って脱出したかもしれない。それを私達も使わせてもらうの」
「うーん……」
「明日までに考えておいて。救助が来てくれたり、高橋君が明日までに元気になってくれなかったら、そもそもできないことではあるんだから」
「分かった」
 私が頷くと、高野氏は満足そうに笑みを浮かべて、自分が食べた缶詰の空き缶やら保存食やらを片付けた。

 私は牛肉大和荷の缶詰を開け、サトーのごはんを電子レンジで温めながらモニタを見たが、ヘリポートにも三門にも救助隊らしき姿は見受けられなかった。
コメント (5)
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