報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 第2章 「異界」 6

2016-07-05 20:46:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日03:30.天候:不明 某県霧生市・霧生電鉄霞台団地駅 プラットホーム]

 私と高橋は生き残りの運転士、阿部氏を助け出すと、早速電車の放置されているホームに向かった。
 相変わらず電車は中途半端な位置で停車したままだったが、その電車の屋根の上に何かがいた。
 それは私達の姿を見ると、ピョンと跳ねてホームの上に降り立った。
「うわっ、何だこいつは!?」
 それは軽自動車くらいのサイズの蜘蛛だった。
「く、来るなっ!」
 私はハンドガンを蜘蛛に撃ち込んだ。
 蜘蛛の妖怪か!?果たして、銃が効くかどうか……。
「先生、お見事です!」
「お、おう……」
 蜘蛛の化け物は銃弾の2発も食らうと、ひっくり返ってのたうち回り、足を丸めて絶命した。
「これが、あの日記を書いた駅員を噛んだ蜘蛛か?」
 しかし日記には30cmほどの大きさだったと書かれていた。
 これは明らかに、その何倍もの大きさだ。
 幸い、ハンドガン2発くらいと人間のゾンビよりは耐久力が弱いらしい。
「こんな大きな蜘蛛が、どこから?」
 私と高橋は当たりを見回した。
 だが、シンと静まり返ったホーム。
 今はゾンビの呻き声すら聞こえて来ない。
「阿部さん、どうですか?」
「ちょっと待ってください」
 阿部運転士は電車の中に入り、半室構造の運転席に入った。
 ワンマン運転が実施できるよう、乗務員室は全室構造にはなっていない。
 運転席横には運賃箱、その真上には運賃表が掲げられている。
 もっとも、4両編成時はツーマン運転になるせいか、運転室にはなっていない方とて完全に開放されているわけではない。
 一応、鉄パイプで仕切りがされていた。
 阿部運転士は運転席の機器を色々と触っていた。
「……何とか行けそうです」
「おおっ、やった!」
「その前に、ポイントを切り替えませんと……」
「ポイント!?」
「ええ」
 霞台団地駅と大山寺駅の間は、全区間中もっとも駅間距離が長い。
 そこで、万が一の為に、この駅で折り返し運転ができるようになっているのだった。
 昔はこの駅が終点駅だったらしい。
 その為、昔は引き上げ線となっていた大山寺駅側の方にポイント(転轍機)が設けられている。
 なので、このホームから大山寺駅方向に逆走運転は可能であるが、ポイントが本来の大山寺駅方面に出る線路側に向いていない為に、入換信号機が『停止』を現示していた。
 このままではATSが作動して出発できないという。
「……じゃ、どうすればポイントが切り替えられるんですか?」
「この駅に信号室があります。そこに行って、ポイントを手動で切り替えます。この状態では、指令センターも機能停止しているでしょうから」
「なるほど。じゃ、一緒に行きましょう」

 再びバックヤードに戻る。
 何だか、様相が一変していた。
 私はつい、またゾンビ達が待ち構えているのだろうと思っていたのだが、そのゾンビに食らい付いている奴等がいた。
「先生!今度はゴキブリの化け物です!」
 さっきの蜘蛛と似たサイズのゴキブリが、ゾンビに食らい付いていたのだった。
「うへぇ……」
「弱肉強食……ですね」
 ゴキブリの他に、蜘蛛もいた。
「隠れて!」
 物陰に隠れると、蜘蛛は私達ではなく、そのゾンビに食らい付いているゴキブリに食らい付いた。
「やはり、長居は無用だな」
「そうですね。ここでは人間は被捕食者のようです」
 生きている人間を捕食するゾンビがゴキブリに食われ、そのゴキブリを蜘蛛が食う。
 どうにか虫の化け物の攻撃を交わしながら、私達は信号管制室に入ることができた。
「よし。やっぱり指令センターからの管制が切れてしまっている」
 阿部運転士は霞台駅構内の配線図が表示されているパネルの前で、端末のキーボードを叩いた。
 指令センターからの管制が切れているということは、運行管理の心臓部もやられてしまったということだな。
「先生、あの蜘蛛ちょっとおかしいですよ」
 阿部運転士がパネルを操作している間、部屋の外を警戒していた高橋が言った。
「そりゃ、サイズの時点でおかしいだろ」
「いえ、そうじゃなくて……。多分、あの蜘蛛にしろゴキブリにしろ、この異変の影響で大きくなったんだと思います」
「人間がゾンビ化したのと同じ理由でか?」
「はい。種類によって、変化の仕方が違うのは先生もお気づきだと思います」
「まあな」
 人類はゾンビになり、鳥類は姿形はほぼそのままで凶暴性と肉食性が増し、犬などの4足歩行哺乳類はゾンビ化しつつも、生前の俊敏性は損なわれていない。
 虫類はどうやら、ただ巨大化しただけか?
「あの蜘蛛、多分、今まではトンネルの中で普通に生きていたヤツだったんじゃないでしょうか?ゴキブリもそうですけど」
「そうだろうな」
 蜘蛛の種類までは分からないが、ゴキブリにあっては、今まで見たことのある種類が巨大化しただけのような気がする。
「で、変だというのは?」
「トンネルの中に、蜘蛛の巣が全く無いんですよ」
「……ああ!」
 あれだけの大きさの蜘蛛になれば、それこそ直径数十メートルの蜘蛛の巣が作れそうだ。
 だが、確かに今までで蜘蛛の巣は全く見かけなかった。
 また、あの蜘蛛の化け物が糸を出している所も見たことが無い。
「徘徊型の蜘蛛だったのかな?正体はアシダカグモかもしれない」
「先生、そんな、暢気に……」
 高橋が私に呆れた顔を仕掛けたが、
「よし!これでOKです!」
 阿部運転士の声が聞こえた。
「後は現場に戻って、連結器を外すだけですよ」
「よーっし!」
 これで助かる!
 私達は急いで、ホームに戻った。

 途中でゴキブリや蜘蛛と交戦せざるを得なかったが、奴等は銃弾に関しては人間のゾンビより弱い。
 また、蜘蛛としては人間の私達よりも大きいゴキブリの方に目が行くらしく、私達がゴキブリと交戦していると、蜘蛛が後ろからゴキブリに噛み付いてくれることがあった。
「アゥ……!」
「アア……!」
 反対側のホームにはゾンビが数体いたが、全員が3匹の蜘蛛達に捕まっていた。
 このまま食われるのだろうと思ったが、何故か蜘蛛達は人間のゾンビを抱えてピョンと線路に下り、トンネルの向こうの方へと走り去っていった。
「先生。トンネルの先に、蜘蛛の巣があるようですよ?」
「大丈夫。この電車で突撃するから」
 私はこの時点ではまだ楽観的だった。
 蜘蛛の巣って、だいたいあの蜘蛛達は糸すら出さないではないか。
 まあ、網ではなくて、本当の棲家としての巣はあるのだろう。
 だが、電車で通過してしまえばそれで終わりではないか。
 幸い、阿部運転士が連結を外す作業をしてくれている。
「先生……」
「ていうか高橋君、何だか、こっちの瓦礫は意外と簡単に退けられそうだぞ」
 電車が突っ込んでいる方ではなくて、反対側の線路。
 よく見ると、こちらはただの土砂が流れ込んだだけのようだった。
「スコップは無いか?もしかしたら、掘り出せるかも……」
「ええっ?」
「それなら、ホームの下にありますよ。保線用のヤツですけど」
 と、阿部運転士。
「ちょっとやってみよう。あ、高橋君はいいよ。むしろ、電車を守っててくれ」
「はあ……」
 私が無駄なことをしているうちに、蜘蛛達が私達の存在に気づいて近づいて来た。
「弾がもったいない!」
 高橋はロッカールームから持ち出した殺虫スプレーを蜘蛛に吹き掛けた。
 すると、それも蜘蛛に効いたらしく、ひっくり返って倒れてしまった。
 あとはライターで点けた火の後ろからそのスプレーを噴射し、火炎放射器のようにする。
 虫もまた火に弱い。
 これでもう一匹の蜘蛛も、火だるまになった。
「どうやら、本当にただ巨大化しただけみたいだな」
「そうですね」
 このまま何事もなく、このトンネルから脱出できるものと思っていた。

 だが、そうは問屋が卸さなかったのである。
コメント
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