報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第3章 「叫喚」 2

2016-07-08 22:42:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月25日05:30.天候:霧雨 某県霧生市 新日蓮宗大本山・大山寺三門→大講堂]

 私と高橋は、ついに霧生市の郊外へやってきた。
 大山寺というお寺の境内の裏手。
 そこにはヘリポートがあり、警察や自衛隊のヘリが生存者の救助に当たっているという。
 今のところ、ヘリコプターが飛来している様子は無い。
「新日蓮宗?日蓮宗ではないんですね?」
「まあ、日蓮宗は色々と分派しているから。あまりも分派が多過ぎてワケ分からんよ。……あまり書くと、作者が攻撃される」
「は?」
「いや、何でもない。それより早く中に入ろう。ゾンビ達が押し寄せてくる」
「拝観料とかはいくらなんでしょう?」
「いや、清水寺や薬師寺じゃないんだから、取らんだろ!」
 私と高橋は三門から境内の中に入った。
「何だか、大きそうな寺だ。さすがは大本山を名乗るだけのことはある」
「そうですね。何か……建物がいくつもあるみたいです」
 参道の途中に境内案内図があった。
 いくつも堂宇があり、果たして境内裏手といっても、どこに行けば良いのか分からなかった。
 ヘリポートは非常用で、普段使いをしていないのか、この案内図には書かれていない。
「生存者を探してみよう。特に、このお寺のお坊さんとか、関係者がいたら、ヘリポートのことが分かるかもしれない」
「はい」
 私達は色々な堂宇に入ろうとして、できなかった。
 どれもが入口が固く閉ざされ、窓にもシャッターや雨戸が閉められていたからである。
 “宗務院”と書かれた建物には、
『市内の暴動により、当寺の関係者は全員避難しました。後から参られた避難者の方々は、大講堂警備室までお越しください』
 という貼り紙がしてあった。
「先生、どうやら逃げた後みたいですよ?」
「てことは、やっぱりヘリコプターが飛んでいるみたいだな。大講堂警備室?ヘリポートの情報を知ってるということか?」
「多分、そうですよ」
「よし。大講堂を探すぞ」
「はい!」
 それはすぐに見つかった。
 同じ参道沿いにあったからだ。
 だが、その途中で気になるものがあった。
「先生、誰か死んでます」
「ああ」
 うつ伏せに倒れている者を起こしてみた。
 恰好からして、どこかの特殊部隊のような服装をしていた。
 警察の機動隊とも、自衛隊とも違う……ような?
「自衛隊でしょうか?」
「いや、自衛隊ってこんな恰好してるか?」
 バイク用とは違うフルフェイスのヘルメットを被っている。
 体を何かで串刺しにされたらしく、それで死んでしまったようだ。
「おっ、こいつの銃は強そうだ!」
 高橋は特殊部隊員の死体から、大型の拳銃を取り出した。
「弾の予備もありますよ」
「ああ。多分その拳銃は、マグナム系の何かだ。その弾もマグナム弾だな」
「ありがたい。使わせてもらいます」
「大丈夫なのか?ハンドガンったって、これだけ大きいと両手でしっかり固定して発砲するヤツだと思うぞ。映画で見たけど」
「分かってますって」
 高橋はマグナムに弾をリロードすると、早速腰のベルトに差した。
「ショットガンの弾も持ってますよ、こいつ」
「ああ」
 狩猟用の散弾銃では、何だか不安だ。
 あの全身鱗の緑の化け物。
 高橋が猛攻してくれたおかげで助かったが、ああいう化け物を簡単に倒せるもっと強い武器が欲しいところだ。
 あいにくとこの男は、そういうものは持っていなかった。
 途中で落としてしまったのだろうか。
 とにかく、ショットガンの弾だけ頂いて行くことにした。

 大講堂の前に到着する。
「ここは開いてるんだろうな?」
「閉まってたら嫌ですね」
 正面入口には何枚ものガラス扉があり、1つだけ鍵が開いていた。
「おっ、開いてる」
 私と高橋は大講堂に入った。
 そこは2階吹き抜けのエントランスホールになっていた。
「警備室ってどこでしょうか?」
「待て。そこに……」
 吹き抜け階段の手前に、移動式のホワイトボードが置いてあった。
『避難者の方へ。警備室へお越しください』
 と書かれ、大きく左の矢印も書かれていた。
 矢印の方向を見ると、鉄扉があった。
「『地下1階警備室』と書かれています」
「おっ、そうか。あそこに行けばいいんだな?」
 しかし建物は古めかしく、鉄扉もそれに負けない重厚な感じのものであったが、電子ロックになっている所は新しい。
 私達が見る限り、赤ランプが点いている。
 これって、施錠中という意味なのでは?
「開いているのでしょうか?」
「分からん」
 だが、私達がドアに近づくと、カチッと鍵の開く音がして、ランプが緑に変わった。
「高橋君、どうやらこのホールには監視カメラがあって、それで私達のことを監視してるみたいだぞ?」
「と、言いますと……」
「警備室から今、遠隔で開けてくれたのかもしれない」
 私がドアを開けると、下へと下る階段があった。
 照明は点いていたが、何だかちょっと薄暗い。
 1階側のドアを閉めると、また鍵が自動で掛かったようだ。
 階段側からは、フリーで開けられるらしい。
 階段を下り切ると、また鉄扉があった。
 こちらは普通のドアらしい。
「どうする?開けた途端、モンスターがいるなんてことは……」
「その時は俺が蜂の巣にしてやりますよ。こいつの試し撃ちだ」
 高橋は手に入れたばかりのマグナム銃を取り出した。
 だが、ドアの向こうから声がした。
「鍵なら開いとるよ。安心して入ってきなさい」
「!?」
 声からして、老齢の男性の声だった。
 やっぱり、生きている人間がいるのか。
「失礼します!」
 私はドアノブを回して、ドアを開けた。

 ドアの先は監視カメラのモニタが並び、火災受信盤などもある、確かに警備室だった。
 広さは……小さな末寺の本堂くらいか。
「おっと!入ったら、戸締りを頼むよ。いつ、奴等が入り込んでくるか分からん」
「は、はい」
 私はドアを閉めると、内鍵を閉めた。
 警備室には、紺色の半袖のシャツに同じ色のズボン、そして白いベルトを着けた警備員がいた。
 ワッペンには、『大山寺警備 Temple Security』と書かれている。
 にこやかに迎え入れてくれたのは、齢60代後半から70歳くらいの老翁だった。
「久しぶりに、元気な人間を見たような気がするなぁ……」
 老警備員はしみじみと語った。
「それより爺さん、あんたは誰だ?」
 と、高橋。
 手には銃を持ったままだ。
 警備員もそれに気づいたのか、右手を挙げて、
「私は怪しい者ではない。この大山寺の守衛を任されている、増田春彦という者だ。もっとも、今年で定年だったがな……」
「私は東京から参りました、私立探偵の愛原学と申します。彼は助手の高橋正義です」
「……ちわ」
「愛原さんに、高橋さんか。なるほどなるほど……。東京の探偵さんが、何故ここに?」
「仕事で来たんですよ。で、その仕事が終わって、ゆっくりしていた時に、この異変に巻き込まれてしまって……。ここに来れば、裏手のヘリポートから救助されるという話を聞きまして……」
「何だと?それは大本堂裏手のヘリポートのことを言っているのかね?」
「大山寺境内裏手のヘリポートとは、そこのことなんですか?」
「そこ以外にヘリポートは無い。……から、間違い無いだろう」
「場所は大本堂の裏ですね!?どうやって行けばいいんですか?」
「あいにくだが、今はもうそこへは行けん状態なんだ。残念だのぅ……」
「ええっ!?」
「おい、どういうことだ、爺さん!?」

 ヘリポートはあるが、行けない?
 一体どういうことだ?
 まさか、あの緑の化け物が占拠しているとか、そういうことじゃないだろうな?
コメント (1)
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