報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 第4章 「記憶」 2

2016-07-18 20:56:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月27日21:00.天候:晴 霧生電鉄・大山寺駅]

 結局、救助ヘリは来なかった。
 私達は大山寺に立て籠もるのをやめ、別の方法で町を脱出することにした。
 高野氏のアイディアによると、霧生電鉄線の大山寺駅と霞台団地駅の間の引き込み線が、世界的な製薬企業アンブレラ・コーポレーションの日本法人が運営する研究所に通じているという。
 秘密の研究所なだけに、非常時の場合に備えて、町の外までの脱出経路が確保されているのではないかというのが高野氏の予想だ。
 他に方法が無い。
 ……いや、あるのかもしれないが、恐らく彼女はジャーナリストとして、この町に起きた異変を暴いてやろうという気持ちの方が大きいのだろう。
 どうする?
 私達はこの賭けに賭けてみるか?

 1:賭けてみる
 2:賭けてみない

 他に方法が思いつかないし、私も是非この町の異変の原因を暴いてやりたくなった。
 可能性があるとしたら、賭けてみたい。
 私達は準備を整えてから、大山寺駅に向かった。
 夜になったのは、何もホラー演出をしたい為ではない。
 高橋の体調が万全になるまで待ったのと、どうもカメラで見ていたのだが、ゾンビにせよ、ハンターにせよ、彼らは夜は寝るらしい。
 確かに彼らは魔力で生み出されたものではない。
 アンブレラの狂った研究の一環で生み出されたものだとするならば、確かに彼らも夜は寝るだろう。
 もちろん、夜でも起きて歩いている者はいた。
 だが、真っ暗闇だと向こうも見えないらしく、直前でライトを消してやると、慌てて私達を探し回るのだった。
 そして、リッカー。
 大本堂から逃げ出した連中もまた境内を徘徊していたが、よくよく見たら、奴等には目というものが無い。
 脳が剥き出しにはなっているが。
 だから、頭を撃たれると弱かったのか。
 “逆さ女”はまだ目が残っていたが、かなり視力は悪かったようで、それで私のすり抜けに気づくことができなかったらしい。
 その代わり、そいつらは聴力は良かったので、私達の足音を聞きつけてやってくるといった感じだった。
 だから、そーっと通り抜けると、奴等はやってこない。

 そんなこんなで大山寺駅の前までやってくると、様相が一変した。
 ここらのゾンビは弱り切っていた。
 駅前のタクシー乗り場やバスプールには、恐らく餌にあり付けなかったが為に餓死したと思われるゾンビ達が大勢いた。
「ウゥウ……」
 生き残っていたゾンビも立つことができず、這いずって私達に向かってくる有り様だった。
 この方が却ってゾンビらしく、不気味ではあるのだが、脅威ではなくなった。
 頭を何度か踏みつけてやっただけで、哀れな生涯を終えるほどだった。
「中に入ろう」
 私達は霞台団地駅と似た構造の大山寺駅に入った。

 

 誰もいない大山寺駅。
 ここもハンターに殺されたと思われる阿部運転士の死体が……って、あれ?
「おい、高橋君」
「何でしょうか?」
「阿部さんの死体、何でこんな所にあるんだ?確か、電車の中で殺されたはずだよな?」
 ホームと改札口を結ぶ階段の途中に、阿部運転士の死体があった。
 高橋がひっくり返すと、
「ああ……先生、こういうことですよ」
 阿部運転士は腐乱死体となっていた。
 もちろん、ただの腐乱死体ではない。
「ゾンビになっちゃったんだね」
 と、高野氏。
 ハンターに攻撃されても、ウィルスには感染するのか。
 それとも、阿部運転士自身がウィルスに感染していただけだったのか。
 私達がこの駅をあとにした後、どうやらゾンビ化したらしい。
 そして駅構内を徘徊しているうちに、駅に侵入してきたハンターに殺されたようである。
 大山寺駅は霞台団地駅と違い、停電してしまっている。
 ホームは相変わらず真っ暗であり、ライトでホームの先を照らすと、辛うじてトンネル内やその先の信号機が点灯しているのが見えただけである。
 ライトで見る限り、この先にゾンビやハンターなどの気配は無い。
 霞台団地駅になだれ込んで来たゾンビ達だが、ここまで歩いては来れなかったのか。
 外は梅雨晴れで蒸し暑かったが、トンネルの中はヒンヤリしていた。
 これは山の中を水脈が通っており、それでトンネル内が冷やされているのだと高野氏が説明した。
 薄暗いトンネルを私達は進む。

「高橋君、右だ!」
「了解です!」
 でもやっぱり、トンネルの中にハンターはいた。
 私達がお寺で手に入れた強いランプを当ててやると、ハンターはそれで目が眩み、私達に狙いを定めて鋭い爪を的確に振り下ろすことができなかった。
 それでも中には、飛び掛かって即死攻撃を出してくる奴もいたが、動きが大ざっぱ過ぎるし、何より……。
「ギャアアアアッ!」
「はい、一丁あがり!」
 高野氏がスコープ付きのライフルで、ハンターを遠くから狙撃する為に、そもそも近接戦になること自体が少なかったという。
「おお〜、さすが!」
 私が感心するのを高橋は面白くないようで、鼻を鳴らしただけだった。

 
(件の分岐点。左が霞台団地方面の本線、右が引き込み線である)

 ようやく引き込み線にやってきた。
 まるでトンネルの中の信号場(単線で電車が行き違いを行える設備)のように偽装されているが、よく見ると、右奥にも線路が続いているのが分かった。
 使わない時は車止めまで設置して、いかにもこちらは行き止まりのようにしてやがる。
 もちろん電鉄関係者は知っているのだろうが、それ以外の利用者には単なる電留線程度にしか認識させていないのだろう。
 トンネルの照明まで消せば、電車の中からだと確かに分からない。
「こっちだ!」
「はい!」
 私達は引き込み線の奥に向かった。
 すると、線路は本線より下に下っている。
 地下深く……あ、いや、待て。
 元々ここは山岳トンネルの中で、大山寺は山寺だし、霞台団地も高台の住宅街なわけだから、むしろ地上に向かっているといった感じか?
 地下鉄が地上区間から地下区間へ入ろうとする所は結構な急坂みたいなイメージがあるが、ここもそれくらいの急坂だった。

「あー……何か、明かりが見えて来たぞ」
 線路を下った先に、ポツンと一面一線のホームがあった。
 トンネルは真っ暗なのだが、こちらの駅は通電しているようだ。
 駅員の日記にあった貨物電車が止まっていれば面白かったのだが、ホームに電車自体がいなかった。
 私達はホームに上がった。
「なるほど……」
 ホームは他の駅よりも殺風景で、ベンチも無ければ何駅かの看板も無い。
 明らかに、関係者専用のホームといった感じだった。
 コンコースに向かう階段やエレベーターが見受けられなかったが、ホーム中央の壁にある鉄扉。
 これが駅の出口……そしてそれは、アンブレラの研究所の入口であると思われた。
「……鍵は掛かってなさそうだな。ここまで来たら、もう後には引けないぞ。準備はいいか?」
「もちろんです!」
「OKだよ」
「じゃ、開けるぞ」

 私は重厚な観音開きの鉄扉を開けた。
 その先にあったものとは……。
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