報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰って来た人間界」

2016-04-13 20:39:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月26日19時台 天候:晴 大宮ソニックシティ大ホール 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 顕正会の総幹部会が行われている大宮ソニックシティ。
 壇上を浅井会長が演説を行っていた。
「……阿部日顕もそうです。このような大謗法をした者が、総本山に蟠踞して、戒壇の大御本尊様のおそばに居ることは許されない。私は追放しようと思う。どうですか?」(顕正新聞1372号より)
 拍手の起きる会場内。
「どうよ?どうよ、城衛?これだけカマせば、随分と潰しが効くじゃろう?」
 すぐ近くに控えていた息子の理事長に振る。
「先生、ここでもう1つ大獅子吼をカマせば完璧です」
 理事長、会長にそのように囁いた。
「うむ。そうじゃな」
 浅井会長、更にマイクに向かって喋る。
「私は思う。このような事態を大聖人様がお許しになるはずがない。必ずや、諸天の鉄槌が下らん事を私は確信しているのであります。大謗法を犯している者には、今すぐにでも鉄槌が下るほどの……」
 と、その時だった。
「わあーっ!?」
「!!!」
 突然、ステージの上から稲生とマリアが現れ、浅井会長の上に落ちた。
「あてててて……。な、何だここは?」
 静まり返る場内。
「何か、どこかで見た風景だぞ?」
「私は眠っていたから、きっとユウタと所縁のある場所に飛ばされたんだと思う……」
「あ、あれ?何か、顕正会の総幹部会会場みたい……え?」
「な、何なんだキミ達は!?」
「先生から降りろ!」
「先生の上に落ちるとは、何たる……!」
「や、ヤバッ!ま、マリアさん、逃げましょう!」
 稲生はマリアの手を掴んで、慌ててステージの奥へ逃げ出した。
「ま、待たんか、こらーっ!」
「捕まえろーっ!」
 騒然となる総幹部会会場。
 しかし後方の観客席に座っている、仕方なく来た会員は、
「え……?浅井先生の上に鉄槌が落ちた……?ということは……???」
 と、『正義に目覚め』たという。

 稲生達はソニックシティ外のタクシー乗り場に止まっているタクシーに乗り込んだ。
「すいません、乗りです!マリアさん、乗って!」
「分かった!」
 2人して飛び乗る。
「とにかく、出してください!」
「は、はい!」
 運転手は急いでタクシーを出した。
「こ、ここはソニックシティ!?ということは、大宮!?」
「そ、そのようだな……。どうする?」
「えーと……取りあえず……。すいません、中央区の【中略】までお願いします」
「かしこまりました」
「大宮ってことは、僕の実家の所です。取りあえず何か夜みたいなんで、僕の実家に行きましょう」
「大丈夫なのか?御両親は……」
「まあ、家にいるでしょう。取りあえず、今のうちに電話くらいしておきます」
「ああ、頼む」
 稲生はスマホを出した。
「そろそろバッテリーも切れる所だったから、ちょうど良かった」
 それで家に電話を掛ける。
「……あ、もしもし、母さん?勇太だけど……。うん。実は今、大宮にいるんだ。……いや、ほんとほんと。……ううん、僕1人じゃない。マリアさんも一緒……マリアさんだって。イリーナ先生の弟子で、僕の先輩のイギリス人……。で、今からそっちに行くから。うーん……話せば長いんだけど……」
 稲生は汗を拭きながら、実家の母親と話している。
 マリアはその様子を見ながら、
(家族か……。いいな……)
 と、思った。
 しばらくして、稲生が電話を切る。
「半信半疑だけど、何とか話は付きました。大丈夫です」
「手土産無しで行くのが、何だか申し訳無いな」
「まあ、まさか大宮に飛ばされるとは思いもしませんでしたし……」
「まあな」
「てか、総幹部会やってたってことは、何月の下旬だろう?」
 稲生は改めてスマホを見た。
 すると、約1週間後の人間界に飛ばされたらしい。
 人間界と魔界では流れる時間が違う。
 この2つの世界を行き来する際には、それらの流れに上手く乗らないととんでもない時差が発生する恐れがある。
 浦島太郎が過ごした竜宮城は、魔界にあったと噂されるほどだ。
 大魔道師クラスでさえ、このように1週間〜1ヶ月ほどの時差を発生させてしまうほどに、その調整は難しい。
「3月か。そんなに経っていないな」

 尚、3月度総幹部会のもようを報じた顕正新聞にあっては、何事も無く幹部会が進んだように書かれていたという。

[同日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区・稲生家 稲生&マリア]

 無事に稲生の実家に着いた2人は、そこで夕食やら入浴やらを済ませた。
「何カラ何まデ、申シ訳ありマせン」
 マリアは稲生の両親に挨拶した。
 どういうわけだか、自前の日本語であるため、イントネーション等に不自然さがある。
「何か、海外旅行に行ってたって感じでもないねぇ……」
 稲生の母親は不審がっていた。
「でも、魔界で威吹と会ったよ」
「威吹君と!?元気だった?」
「ああ、元気元気。新婚生活、楽しんでるみたいだったよ」
「威吹君、しっかり者だからねぇ……」

 稲生はマリアを家の奥の部屋に案内した。
「この部屋を使ってください」
 和室であるが、畳の上にカーペットを敷き、更にその上にベッドを置いている。
「来客用の部屋なんです」
「もしかして、威吹が使っていた部屋か?」
「威吹はベッドの上じゃなくて、そのまま畳の上に寝てましたね」
「なるほど」
「すぐ休みますか?」
「ああ、そうしたい。何か、色々あって疲れた」
「ですよねぇ……」
「それと、実は今、魔法が使えない」
「えっ?」
「エレーナの眠り薬、ご丁寧にも、魔法封じの効能まで入ってた」
「マジですか。あ、だからさっきから英語で喋っていて、母さん達には自前の日本語で話していたんですね」
「まあ、一晩眠れば切れるだろうけどね」
「それならまあ……」
「魔法が使えれば、師匠とも連絡が取れる。さすがにあの騒ぎでは、そろそろ師匠の耳にも届いているはずだ」
「ですよねぇ……。まあ、ここからなら長野に戻ることも比較的簡単です。明日、イリーナ先生と是非連絡を取ってもらって、その指示に従うってことでいいですかね?」
「そうしよう。まあ、『適当に帰って来て』という答えが返って来る確率が95%ってところだな」
「どんだけ適当な先生なんだ……」
 稲生は呆れた。

 しかし、何とか無事に人間界に帰ってこれた稲生達。
 特に稲生の場合は、人間界どころか、実家にまで帰ってきてしまったという有り様だった。
 これでもう嫉妬に駆られた魔女達が襲って来ることは無いと思われるが、果たしてこれだけの大騒動で、総師範のダンテがどのように動くのか心配なマリアでもあった。
コメント (4)
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