報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ダンテの訓諭」

2016-04-21 21:57:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月30日07:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区・稲生家 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 実家に滞在する最後の日がやってきた。
「ん?何だこれ?」
 稲生は朝起きて、ポストの中に入っている朝刊を取りに行った。
 因みに稲生家で取っている新聞は、埼玉新聞と日本経済新聞。
 このうち、日経新聞は父親の宗一郎が通勤に持って行ってしまう。
 この他、稲生が顕正会員時代は顕正新聞、日蓮正宗法華講員だった頃は大白法も定期購読していた。
 尚、現在も信徒としての籍は残っているが、大白法の定期購読はしていない。
 稲生が首を傾げたのは、『アルカディア・タイムス号外』が入っていたことだ。
 普通、号外というのは何か緊急に重大なニュースを伝える時、街角で配られるものだと思っていた。
 しかしこうして、郵送されてくるとは……。
 稲生が家に戻りながら、その魔界の新聞の号外を見ると、それはダンテ一門で不祥事を起こした魔女達への処分がついに下ったというものだった。
 朝食を食べてからゆっくり見たのだが、その内容はほぼ予想通りなのが8割、意外なのが2割といったところだった。
 以下、枕詞を除いた処分内容である。

『此度の不祥事について、処分内容は以下の通りとする。尚、敬称並びにミドルネームは省略とする。

 破門(除名):クリスティーナ・オーランド(一時の妬みに駆られ、同志に対し、傷害を負わせた廉並びに門内破和を首謀的に行った廉)
 同上:ジルコニア・ブラックマン(同上)
 同上:ウェンディ・オズモンド(同上)

 無期謹慎:フレデリカ・ゴール(首謀者達の企みに積極的に参加した廉。全ての魔法使用を無期限禁止する)

 【中略】

 戒告:アナスタシア・スロネフ(首謀者達の企みに便乗し、自身の野望を叶えようとした廉。弟子への危険を排除できなかった廉。尚、首謀者達への捕縛の功績は認め、処分内容はそれら功罪を相殺したものとす)
 訓告:同上(上記処分に伴い、イリーナ組からの引き抜き画策を禁止する)
 戒告:エレーナ・マーロン(「敵を欺くには味方から」作戦については非は無いものの、掛かった犠牲に対してそれに見合った成果を出せなかった為、処分するものとする。尚、4月1日よりの免許皆伝については無期延期とする)
 訓告:イリーナ・ブリジッド(立場上、騒乱を鎮静させるに至らなかったことについては不問とするが、弟子への警鐘を鳴らさなかったことに対して処分とする)
 訓告:エイミー・ローズ(魔女狩り部隊の接近に気づいていながら、適切な処置を取らなかったことに対し、処分とする)』

 戒告と訓告の違いだが、前者は実質的なお咎めのあるもので、後者は厳重注意とほぼ同じ。
 なので戒告は経歴にも記載されるが、訓告はそれが無い。
 処分内容は、それだけではなかった。

表彰:稲生勇太(同志の救出に尽力し、その成果を挙げ且つ門内の騒乱の鎮静化を率先して図ったことに対し、表彰するものとする)』

「ええーっ!?僕が表彰!?」
「良かったな」
 驚く稲生に、マリアが微笑を浮かべた。
「僕は大したことはしてませんよ?」
「いや、しただろ!」
「僕はただ……マリアさんを助けたかっただけで……」
「そして、そのおかげで私は助かった。だから、表彰されるんだよ。堂々と受けなさい」
「は、はあ……」
 もっともマリアは、
(師匠が訓告処分受けたもんだし、ダンテ一門も処分ばかりでは対外的に問題だというので、表彰者も出すことにしたってことか……)
 と、裏事情を読んだ。
 号外の最後には、

『ダンテ・アリギエーリ門流は今後、門内の建て直しを図る為、抜本的な見直しが迫られるであろう』

 と、記事に書かれていた。
 因みに中略の部分には他にも無期限謹慎処分とか、有期の謹慎処分を食らった魔女達がいたのだが、その殆どがアナスタシア組という……。
「表彰って、何をされるんですか?」
「ユウタは日本人だから、賞状の他に金杯とか金一封とかもらえるんじゃない?」
「なるほど」
「これでユウタ、もうクリス達みたいな奴らから文句言われる筋合いは無くなったね」
「そうですか?」
「当然だ。これで、ダンテ一門にも男の弟子は必要だということが分かっただろう」
「僕がお役に立てられたとしたら、それはとても嬉しいですね」

[同日21:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区・湯快爽快おおみや店 稲生&マリア]

 夜になって家を出発した稲生達は、駅には行かずに、郊外の温泉施設へ向かった。
 こういう所へよく行くのは、稲生自身が好きだからという他に、マリアの体の傷痕を少しでも癒す目的がある。
 人間時代に暴行を受けた痕が未だに残る体。
 気休め程度なのかもしれないが、しかし心なしか少しずつ痣が消えている感じがしないでもない。
 マリアは天然温泉が出ている露天風呂に浸かりながら、夜空を仰ぎ見た。
(バカな奴らだ。嫌っていないで、少しは受け入れてみればいいものを……。ユウタがいなかったら、体の痣も全くそのまま残っていただろう)
 温泉に入って、少しでも痣や傷痕を消そうという発想は稲生という日本人ならではのものだろう。
 イリーナが目をつけ、ダンテが承認したのだから、ユウタはただの人間ではないことくらい分かるはずだ。
 何しろ、後からアナスタシアも狙ってきたくらいなのだから。
 もっとも、しっかり訓諭の中に、2度とイリーナ組には手を出さないようにとの釘が刺されている。
 プライドの塊であったアナスタシアも、その高い鼻が根元から折れた形となった。
 哀れとしか言いようが無いが、しかし自業自得だとも言える。
 これでもう、アナスタシア組がイリーナ組の前に現れることはないだろう。

 大浴場から上がって、脱衣場で体を拭いている時、手持ちの水晶球が光っていた。
 稲生からの『メッセージ』で、最後の送迎バスで駅に向かおうという内容のものだった。
 最後に師匠イリーナが好きなマッサージチェアでも体験してみたいと思っていたが、時間があるだろうかと思いつつ、脱いだ服を着るマリアだった。
コメント
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