報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「都営地下鉄新宿線」

2016-04-16 21:36:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月27日13:08.天候:晴 都営地下鉄森下駅・新宿線ホーム 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 昼食を終えた稲生達は、再び地下鉄の駅へと下りた。
「昼食、松屋は手ェ抜いちゃいましたかね?」
「いや、そんなことは無い。イギリスには、ああいう店は無いし」
 と、マリア。
 まあ、それはそうだろう。
 日本から見て、イギリスはあまり美味い料理は無いというイメージだ。
 人によっては、ローストビーフ以外美味い物は無いと言うほどだ。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが、短い8両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください。急行の通過待ちは、ありません〕

 電車が轟音を立ててやってくる。
 都営新宿線は乗り入れ先の京王線も含め、1372mmという特殊な軌間を使用している。
 これは都電荒川線もなのだが、魔界高速電鉄にこの手の電車が走っていないのは、ひとえにこの軌間の路線が無いからである。
 但し、人間界において、第二種鉄道事業者として人間界を縦横無尽に走る冥界鉄道公社(幽霊電車または幽霊列車を運行)にあってはこの限りではない。
 もちろんこんな真っ昼間から幽霊電車が走っているわけがなく、ちゃんとした都営地下鉄の車両がやってきた。

〔1番線の電車は、各駅停車、新宿行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕

 昼間ということもあってか、8両編成でも車内は空いていた。
 2人は最後尾に乗り込む。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 都営新宿線はワンマン運転をしていない為、最後尾に車掌が乗っている。
 いちいち停止位置の良し悪しを確認してドアを開け、乗客の乗り降りに際して最後まで安全確認をするのは日本では当然のことだが、先進国であっても、あまり外国ではそこまで拘っていないらしい。
 電車が走り出す。

〔この電車は各駅停車、新宿行きです。次は浜町、浜町。お出口は、右側です〕
〔This is the local train,bound for Shinjyuku.The next station is Hamacho.〕

「マリアさんの出身国はハンガリーでしたよね?」
「ええ」
 生まれてすぐに移民としてイギリスに渡った。
 なのでマリアとしては、ハンガリー人という自覚は無い。
 民族的にはマジャル民族であり、スコットランド人とは全く違う。
 日本人から見れば、同じ白人にしか見えないのだが。
 白人は白人同士で、何やら色々な民族差別があるらしい。
 マリアがイギリスで迫害を受けたのはその為。
「ネットでブダベストの地下鉄の映像を見たんですが、駅は新しくてきれいなのに、やってきた電車が旧ソ連製の古い車両だったのにはびっくりしましたよ」
「ああ。まあ、元々はソビエト連邦の国だったからな……」
 マリアは苦笑した。
 その古さたるや、魔界高速電鉄地下鉄線でも運用されているほど。
 日本の銀座線や丸ノ内線などと同じく、軌間が標準軌であり、第3軌条方式であることから、一緒になって運用されているのだろう。
「乗務員がただ運転してるだけ、ドアを開け閉めしているだけなのにも驚きました」
「そんなもんさ」
 車掌は前部運転室に、運転士と一緒に乗る。
 駅に到着すると客用のドアを開け、ついでに乗務員室のドアも開けるのだが、ホームに降りて安全確認などしない。
 駅の発車サイン音と自動放送が鳴ったら、適当にドアを閉める。
 恐らく乗客が挟まれても、再開閉しないのだろう。
 だからなのか、誰も駆け込み乗車はしない。
「ところで、これからどこへ行くの?」
「新宿です、新宿」
「新宿……」
「帰りの交通手段のメドが付いたので、これからちょっと行ってみようかと」
「ふーん……?」
「帰りは夜行バスでもいいですか?」
「いいよ。ユウタに任せる」
「ありがとうございます」

[同日13:35.天候:晴 新宿高速バスターミナル 稲生&マリア]

 ※この時点ではまだバスタ新宿は開業していないので、稲生達が行ったのは新宿西口ヨドバシカメラ前の方である。

「では3月30日の23時ちょうど発で、白馬八方まで大人2名様ですね?」
「はい」
「中央高速バス、アルピコ交通便で9Aと9Bです。お会計が……」
 バスターミナルの発券カウンターで、稲生は夜行バスの乗車券を買った。
「ユウタ」
 マリアは自分のローブの中から財布を出すと、クレジットカードを出した。
 アメリカンエクスプレスのゴールドカードからして、イリーナから貸与されているものだろう。
 イリーナ本人はプラチナカードやブラックカード(プラチナカードの更に上を行く、最高ランクのカード)を持っている。
「あ、すいません。支払い、カードでお願いします」
「はい」
 乗車券を買って、2人はバスターミナルをあとにした。
「帰りは、このバスターミナルから乗るの?」
「そうですね」
 座席表からして4列シートであるようだが、マリアと一緒ならむしろ稲生的には大歓迎であった。
「じゃあ、帰りましょう」
 2人は再び新宿駅に向かった。
「それにしても30日出発とは……」
「やっとそこが2人分空いている日でしたからね。助かりました。……あ、それまで僕の家に泊まっていけばいいですよ」
「何だか、申し訳無いな」
「いやいや、いいんですよ」
「ところでユウタ」
「何ですか?」
「まだ、時間はあるか?」
「ええ、ありますけど……」
「ちょっと、寄って行きたい所があるんだけど、いいかな?」
「あ、はい。いいですよ。どこですか?」
 マリアはローブの中から、英語版の地図を出した。
「ここ」
「えー……錦糸町?」
「そう」
「それなら、中央・総武緩行線で1本ですね。これはまたどうして?」
「ワンスターホテルのオーナーみたいに、魔道師に色々と縁のある人間がいる。それに会いに行くだけだ」
「なるほど。それじゃ、行ってみましょう」

 稲生達はJR新宿駅に移動し、そこから中央・総武緩行線に乗った。
 こういうルートも、稲生みたいな鉄ヲタだからパッと出たわけで、特に外国人には分かりにくいだろう。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする