報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生とマリア、逃亡中」

2016-04-07 21:09:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日07:00.天候:晴 魔界高速電鉄デビル・ピーターズバーグ駅前 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 何とか回送電車でデビル・ピーターズバーグ駅に到着したマリア。
 ここから地下鉄に乗り換えれば、少なくとも上空からの魔女達の捜索の目からは逃れられるはずだ。
 だが、その前にマリアはやることがあった。
 魔界高速電鉄は法人名で、地元での愛称はアルカディア・メトロとされるのだが、あまり浸透していない。
 高架鉄道の環状線(東京の山手線に相当)と支線の魔ノ森線(東京の赤羽線に相当)、それに地下鉄1号線(東京メトロ丸ノ内線の一部に相当)が発着し、駅前には路面電車のターミナルもある。
 それだけアルカディアシティ内では、発達した地区ということだ。
 マリアは駅の外に出ると、駅前のコンビニに立ち寄った。
 もっとも、コンビニといっても、店先にその看板があるだけで、実態はただの雑貨屋である。
 それでも品揃えはまあまあで、マリアはある物をそこで買った。
「申し訳無いが、トイレを貸してもらえないか?」
「はい、どうぞ」
 買った後で、マリアは魔族の店員にトイレの使用を申し出た。
 そこで、マリアは買ったばかりの商品を開けた。
 それは黒いストッキングとショーツ。
 昨夜、クリスティーナ達に召喚された強姦魔達に破られたままだった。
 クリスティーナ達とて、人間時代は性暴力の被害に遭った者達である。
 その経験を、見解の相違の相手をねじ伏せる為に悪用するとは……。
(多分、妖狐の妖術くらいでは、あいつらは死なない。大ケガはしたかもしれないけど)
 威吹が軽く殺すつもりで妖術を放ったことには驚いたが。
 着替えと用足しが終わって、マリアはトイレの外に出ようとした。
 だが、慌ててまたトイレの中に戻った。
 何故なら……。

「いらっしゃいませ〜」
 店内に魔女が3人入って来たからだった。
 もちろんマリア捜索隊の、見覚えのある顔ぶれである。
「ここにもいないねー?」
「ねぇ、本当にマリアンナはこの町にいるの?」
「ベッキー達が乗り込んだ時、まだマリアンナは電車の近くにいたのかもしれない。で、立ち去った後にまた電車に飛び乗って逃げたとしたら?」
「おー!」
(く、くそ!アヤのヤツ、鋭い……)
「あの電車はデビル・ピーターズバーグ駅止まりだから、ここで降りた可能性はあるね」
「まあ、駅の方はリリィ達が押さえてるから、マリアンナが電車に乗ろうとしたらすぐ捕まえることができるけどねー」
(どんだけヒマなんだ!お前ら!)
 マリアはトイレの中から、アヤという名の魔女達の会話を聞いていた。
「男の方はどうなの?」
「人間界の方は複雑だからねー。ま、そこは人間界に詳しい方に任せるよ」
(あの様子じゃ、まだユウタは無事みたいだな……)
「じゃあ、男を捕まえるのも時間の問題だね」
「うん。てか、フレデリカのヤツらが見つけたって」
(フレデリカだぁ?あいつ、フランスにいたんじゃないのかよ。全く!ヒマな魔女共め!)
 ほぼブーメランを心の中で叫ぶマリアだった。
「そしたらさー、何か一緒にした別の人間の男がカトリック教会に通じてるヤツでー?その教会にフレデリカ達を魔女狩りさせようとしたんだって!」
「ヒドい!」
(あー……藤谷氏か?あれならやりかねない……な。てか、まだ魔女狩りやってるキリスト教会があるんだな。気をつけよう)
 イギリスで魔女狩りが行われなかったのは、そもそもイギリスや魔女狩りが横行していたフランスやイタリア等とは宗派が違うから。

 魔女達はついでに色々と買い物した後、店を出て行った。
 会話の内容を除けば、普通に通学途中の女子高生達がコンビニに立ち寄って買い物して行ったかのような雰囲気だった。
(とにかく、駅の方は危険って……のは、ただの見せかけで……)
「悪い、裏口から出させてもらう!」
「ありがとうございましたー」
 マリアは店の正面ではなく、裏口から出て行った。

[同日08:00.天候:晴 東京都豊島区某所・日蓮正宗正証寺 稲生勇太]

 率先して本堂の掃除を行う稲生。
「それにしても、藤谷班長がキリスト教会の電話番号知ってるとは……」
「藤谷さんは最近、色々な邪教団に直接乗り込んで折伏を実施しているみたいよ」
 と、一緒に清掃作業をしている婦人部のオバちゃん。
「マジですか。何か、“慧妙”の人達みたいだな……」
「稲生君、本堂の掃除が終わったら、今度は三門の履き掃除を頼む」
 と、今度は壮年部のオジさんに言われる。
「はい!」
 稲生はホウキとチリトリを手に持つと、三門に向かった。
「ん?」

〔「こちらは、聖ジャンジョン教会である。陰険なる魔女達に告ぐ。無駄な抵抗並びに逃亡はやめて、おとなしく神の元へ投降しなさい。……」〕

 通りを街宣車が通行していた。
 藤谷が通報したのは本当だったらしい。

〔「ご町内の皆様、大変お騒がせを致しております。こらちは、聖ジャンジョン教会です。ただいま、この近辺を陰険な魔女が逃亡並びに隠避しております。発見された方は、当教会まで、ご一報のほどをよろしくお願い致します」〕

 唖然と街宣車の通過を見つめる稲生。
(ぼ、僕も通報される側なのかなぁ……?)
 日本語にすると勘違いされやすいが、中世ヨーロッパにおける魔女狩りは、何も女性だけがその対象となったわけではない。
 男性も魔女扱いされて、魔女裁判に掛けられていたのである。
「あら、やだ。朝っぱらから、邪教の布教活動じゃない」
 境内から婦人部員が不快そうな顔をして出て来た。
「今日って、キリスト教の行事か何かあるの?」
「いや、多分無いと思いますけど、まあ、何かあるみたいです、はい……」

〔「魔女達は直ち神の元へ投降せよ。その汚らわしき肉体を神の御前に捧げ……」〕

(つまり、火あぶりにされろってことか……!)
 稲生は冷や汗を流した。
「妙観講さんに教えて、あの邪教団折伏してもらおうかしら?」
「おおっ!それならちょうど今、大沢克日子さんが来られてるから教えてあげよう。稲生君、ちょっと呼んできてくれないか?」
「は、はい」
 稲生は急いで境内に戻った。
(まあ、少なくともあの教会の人達がこの辺をうろついている間、他の魔女さん達は僕を追うことはできないってことでもあるか……)

 稲生は妙観講員を呼びに行っている間、何とかマリアと連絡を取る手段を考えていた。
 どうやら人間界の、それも正証寺の中は安全なので、ここへ避難させることができればベストである。
(一体、どうすれば……)
コメント (7)
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