[3月18日06:00.天候:曇 魔界高速電鉄環状線・回送電車内 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
サウスエンド駅に向かったマリアは、たまたまやってきた回送電車に乗り込んだ。
魔界高速電鉄では始発電車の前に、露払い電車を走らせる習慣があり、正にそれだった。
露払い電車の走った後には始発電車が走り出す為、既にもう営業電車が走っている時間帯でもある。
「しまった。逆方向の電車だったか」
マリアはホウキで上空から捜索する魔女達に見つからぬよう、連結器のドアの前にしゃがみ込んで隠れている。
チラッと窓の外を見た時、インフェルノタウン駅を通過して行くのが見えた。
東京の山手線で言えば、新宿駅に相当する場所である。
サウスエンド駅が大崎駅に相当する場所であり、本来は東京駅に相当する1番街駅に向かわなければならないわけだから、内回り電車に乗らなければならない。
しかしマリアは、外回り電車に乗ってしまったようだ。
地下鉄道が外国と同じ右側通行なのに対し、高架鉄道は日本の鉄道のように左側通行なのでややこしい。
稲生の話では山手線の池袋駅の北側に車両基地があり(東京総合車両センター池袋派出所)、環状線のデビル・ピーターズバーグ駅(東京の池袋駅に相当)の北側にも車両基地があるのだという。
恐らくこの回送電車は、デビル・ピーターズバーグ駅まで露払いした後、そのままその車両基地まで引き上げると思われる。
その際、一旦駅に停車するだろうから、その時に飛び降りるつもりでいた。
デビル・ピーターズバーグ駅からは地下鉄1号線が出ており、それでも1番街駅へ行ける。
地下鉄なら、上空からの捜索に引っ掛かることはない。
と、そこへ電車が止まった。
回送電車なので、途中の駅に止まることもあるのだろうか。
いや、違った!
「な、何ですか、あなた達は!?」
人間の運転士が驚いた顔をした。
「ダンテ一門の魔道師です!この電車に裏切り者がいるので!」
「御用改めだ、マリアンナ!降りてこい!」
「この電車に乗っているのは分かっている!」
露払い電車は2両編成である。
環状線の電車は通常、4両から6両編成で運転されるので、本当に露払いの回送電車として運転されていることが分かる。
因みに車両外側の下部には、クモハ105と書かれていた。
水色で貫通扉の無い、東日本仕様の中古車であろうか。
一斉に乗り込んだ魔女達だったが、隠れる場所の無い通勤電車にも関わらず、マリアの姿は発見できなかった。
「あ、あれ?あれれれ?」
「いないじゃん!?」
「どういうこと!?」
「ジュディ!後ろの車両の窓が開いてるわ!」
「くそっ、逃げられたか!」
ジュディと呼ばれた魔女はホウキに跨った。
「まだ遠くへ行ってないはず!もう1度、環状線沿いを捜すぞ!」
「おー!」
バタバタと電車を降りて、ホウキで飛び立つ魔女達。
「何なんだ、一体……」
何も事情を知らぬ運転士は首を傾げつつ、再び電車を走らせた。
「ナチスから逃げ回るフランスのレジスタンスじゃあるまいし……」
JR東日本に在籍していた105系には、連結器横の切妻にも窓がある。
その窓は開閉可能で、マリアはそこから急いで連結器横の取っ手に掴まっていたのだった。
「何の因果で、こんなジャッキー・チェンみたいなマネを……」
マリアは再び車内に戻った。
走り出した汽車に飛び乗るシーンがよくある映画をマリアは思い出した。
(魔王城に行けば、何とかなるかもしれない。ユウタ、無事でいてよ……)
[同日07:15.天候:晴 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生勇太&藤谷春人]
朝の勤行が終了した正証寺本堂。
「おはようございます」
導師の御住職が信徒達に向かって挨拶する。
「おはようございます!」
稲生は退転したつもりだったが、脱講願が正式に受理されておらず、除籍にはなっていない為、藤谷の勧めもあって朝の勤行に参加していた。
「じゃあ稲生君、朝飯食いに行くか」
「はい、ありがとうございます。でも、僕はもう行かないと……」
「ん?」
「マリアさんが無事に見つかったそうです」
「おおー!昨夜、うちで丑寅勤行をやった甲斐があったな!」
「おかげさまで……」
「稲生君の信心なら、魔女さん達も見つけられんだろうよ」
「そ、そうですかね」
「いざとなったら、“魔女狩り連合”呼んでやる!」
キリスト教のことを言ってるのだろうか?
「稲生君に危害を加える者は、全て怨嫉者と見なされ、手痛い罰が下ることになるだろう」
「退転状態だった僕ですから、そんなに……」
「いやいや。信心の血脈が切れていないんだから大丈夫だ。きっと、魔女達は火あぶりの刑になるだろう」
「昔の魔女裁判じゃあるまいし……」
「俺が聞いた話じゃ、未だに魔女の存在を信じていて、魔女狩りを行うキリスト系カルト教団があるみたいだぞ」
「誰か折伏しに行ったんですか、それ?」
「だから、そいつらに通報して魔女狩りさせてもいいわけだ。大丈夫だ。キリストさんに拝むわけじゃないんだから、謗法にはならん」
「そうですね……」
正証寺の近くの定食屋で朝食を取る稲生達。
「班長は仕事なんですよね?」
「これから出勤だ。稲生君は正証寺の中に避難していればいい。本堂の掃除でもして、身の供養でもすれば、今までの罪障も消滅できるだろう。魔女さん達はキリスト教会に限らず、全ての宗教施設が嫌いみたいだから、お寺にも入って来れないしな」
ダンテ一門に入門するに辺り、イリーナ達から日蓮正宗の信仰を中止するよう申し入れられたのはその為である。
「勝手に正証寺を避難先にして、申し訳無いです」
「だから、御供養してチャラにしてもらおうって話だ。何も御供養は財の供養だけとは限らないんだから」
「分かりました」
定食屋で朝食を取った後、2人は再び正証寺に向かって歩き出した。
朝ラッシュの始まっている東京都心。
正証寺周辺も、人通りが激しくなった。
とある大通から1本入った路地は、嘘みたいに静かである。
正証寺はその大通りから1本入った所に、三門があった。
定食屋自体は大通り沿いにある。
「あっ!」
だが、2人は待ち構えていた魔女達に取り囲まれてしまった。
「見つけたぞ、稲生勇太」
「裏切り者の弟弟子!」
「おとなしくしなさい!」
「し、しまったーっ!」
稲生は頭を抱えて飛び上がらんばかりだった。
「何だ、アンタ達は?」
藤谷は凄むように魔女達を見据えた。
「クソゴリラに用は無い」
「裏切り者の弟弟子に用があるだけ」
「邪魔するなら痛い目見るよ?」
「ほお……。教化親として、教化子のピンチを放ってはおけないな」
藤谷にセリフに、バッと魔法の杖を構える魔女達。
藤谷はスマホを取り出して、どこかに電話した。
「あー、もしもし。聖ジャンジョン・カトリック教会さんですかぁ?この前、法論させて頂いた藤谷と申します。いや、今日は折伏じゃなくて、あなた達にお仕事を紹介しようと思いましてね?実はアッシらの所に、魔女さん達が来ているんですが、ちょっと確認に来て頂けませんかねー?もしあなた達の追う魔女さん達でしたら、そのまましょっ引いて頂いて結構なんで。……ええ、あなた達の教義については破折させてもらいますが、お仕事に関しましては、アッシらは何も言いませんよ。場所は東京都豊島区【以下略】です。んじゃ、よろしくオナシャス!」
ピッと電話を切る。
藤谷の電話を唖然として聞く魔女達(稲生を含む)。
「と、いうわけだ。火あぶりにされたくなければ、とっととこの場から去るんだな?あ?」
「ふ、藤谷班長……!?」
「く、くそっ!覚えてろ!」
慌てて逃げ出す魔女達だった。
「だーっはっはっはっはっ!日蓮正宗ナメんなよ!」
「何ちゅうコネですか!」
「大丈夫だって。マリアさん達のことは内緒にするからよ。さ、早いとこお寺に戻ろう」
藤谷はポンと稲生の肩を叩いた。
サウスエンド駅に向かったマリアは、たまたまやってきた回送電車に乗り込んだ。
魔界高速電鉄では始発電車の前に、露払い電車を走らせる習慣があり、正にそれだった。
露払い電車の走った後には始発電車が走り出す為、既にもう営業電車が走っている時間帯でもある。
「しまった。逆方向の電車だったか」
マリアはホウキで上空から捜索する魔女達に見つからぬよう、連結器のドアの前にしゃがみ込んで隠れている。
チラッと窓の外を見た時、インフェルノタウン駅を通過して行くのが見えた。
東京の山手線で言えば、新宿駅に相当する場所である。
サウスエンド駅が大崎駅に相当する場所であり、本来は東京駅に相当する1番街駅に向かわなければならないわけだから、内回り電車に乗らなければならない。
しかしマリアは、外回り電車に乗ってしまったようだ。
地下鉄道が外国と同じ右側通行なのに対し、高架鉄道は日本の鉄道のように左側通行なのでややこしい。
稲生の話では山手線の池袋駅の北側に車両基地があり(東京総合車両センター池袋派出所)、環状線のデビル・ピーターズバーグ駅(東京の池袋駅に相当)の北側にも車両基地があるのだという。
恐らくこの回送電車は、デビル・ピーターズバーグ駅まで露払いした後、そのままその車両基地まで引き上げると思われる。
その際、一旦駅に停車するだろうから、その時に飛び降りるつもりでいた。
デビル・ピーターズバーグ駅からは地下鉄1号線が出ており、それでも1番街駅へ行ける。
地下鉄なら、上空からの捜索に引っ掛かることはない。
と、そこへ電車が止まった。
回送電車なので、途中の駅に止まることもあるのだろうか。
いや、違った!
「な、何ですか、あなた達は!?」
人間の運転士が驚いた顔をした。
「ダンテ一門の魔道師です!この電車に裏切り者がいるので!」
「御用改めだ、マリアンナ!降りてこい!」
「この電車に乗っているのは分かっている!」
露払い電車は2両編成である。
環状線の電車は通常、4両から6両編成で運転されるので、本当に露払いの回送電車として運転されていることが分かる。
因みに車両外側の下部には、クモハ105と書かれていた。
水色で貫通扉の無い、東日本仕様の中古車であろうか。
一斉に乗り込んだ魔女達だったが、隠れる場所の無い通勤電車にも関わらず、マリアの姿は発見できなかった。
「あ、あれ?あれれれ?」
「いないじゃん!?」
「どういうこと!?」
「ジュディ!後ろの車両の窓が開いてるわ!」
「くそっ、逃げられたか!」
ジュディと呼ばれた魔女はホウキに跨った。
「まだ遠くへ行ってないはず!もう1度、環状線沿いを捜すぞ!」
「おー!」
バタバタと電車を降りて、ホウキで飛び立つ魔女達。
「何なんだ、一体……」
何も事情を知らぬ運転士は首を傾げつつ、再び電車を走らせた。
「ナチスから逃げ回るフランスのレジスタンスじゃあるまいし……」
JR東日本に在籍していた105系には、連結器横の切妻にも窓がある。
その窓は開閉可能で、マリアはそこから急いで連結器横の取っ手に掴まっていたのだった。
「何の因果で、こんなジャッキー・チェンみたいなマネを……」
マリアは再び車内に戻った。
走り出した汽車に飛び乗るシーンがよくある映画をマリアは思い出した。
(魔王城に行けば、何とかなるかもしれない。ユウタ、無事でいてよ……)
[同日07:15.天候:晴 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生勇太&藤谷春人]
朝の勤行が終了した正証寺本堂。
「おはようございます」
導師の御住職が信徒達に向かって挨拶する。
「おはようございます!」
稲生は退転したつもりだったが、脱講願が正式に受理されておらず、除籍にはなっていない為、藤谷の勧めもあって朝の勤行に参加していた。
「じゃあ稲生君、朝飯食いに行くか」
「はい、ありがとうございます。でも、僕はもう行かないと……」
「ん?」
「マリアさんが無事に見つかったそうです」
「おおー!昨夜、うちで丑寅勤行をやった甲斐があったな!」
「おかげさまで……」
「稲生君の信心なら、魔女さん達も見つけられんだろうよ」
「そ、そうですかね」
「いざとなったら、“魔女狩り連合”呼んでやる!」
キリスト教のことを言ってるのだろうか?
「稲生君に危害を加える者は、全て怨嫉者と見なされ、手痛い罰が下ることになるだろう」
「退転状態だった僕ですから、そんなに……」
「いやいや。信心の血脈が切れていないんだから大丈夫だ。きっと、魔女達は火あぶりの刑になるだろう」
「昔の魔女裁判じゃあるまいし……」
「俺が聞いた話じゃ、未だに魔女の存在を信じていて、魔女狩りを行うキリスト系カルト教団があるみたいだぞ」
「誰か折伏しに行ったんですか、それ?」
「だから、そいつらに通報して魔女狩りさせてもいいわけだ。大丈夫だ。キリストさんに拝むわけじゃないんだから、謗法にはならん」
「そうですね……」
正証寺の近くの定食屋で朝食を取る稲生達。
「班長は仕事なんですよね?」
「これから出勤だ。稲生君は正証寺の中に避難していればいい。本堂の掃除でもして、身の供養でもすれば、今までの罪障も消滅できるだろう。魔女さん達はキリスト教会に限らず、全ての宗教施設が嫌いみたいだから、お寺にも入って来れないしな」
ダンテ一門に入門するに辺り、イリーナ達から日蓮正宗の信仰を中止するよう申し入れられたのはその為である。
「勝手に正証寺を避難先にして、申し訳無いです」
「だから、御供養してチャラにしてもらおうって話だ。何も御供養は財の供養だけとは限らないんだから」
「分かりました」
定食屋で朝食を取った後、2人は再び正証寺に向かって歩き出した。
朝ラッシュの始まっている東京都心。
正証寺周辺も、人通りが激しくなった。
とある大通から1本入った路地は、嘘みたいに静かである。
正証寺はその大通りから1本入った所に、三門があった。
定食屋自体は大通り沿いにある。
「あっ!」
だが、2人は待ち構えていた魔女達に取り囲まれてしまった。
「見つけたぞ、稲生勇太」
「裏切り者の弟弟子!」
「おとなしくしなさい!」
「し、しまったーっ!」
稲生は頭を抱えて飛び上がらんばかりだった。
「何だ、アンタ達は?」
藤谷は凄むように魔女達を見据えた。
「クソゴリラに用は無い」
「裏切り者の弟弟子に用があるだけ」
「邪魔するなら痛い目見るよ?」
「ほお……。教化親として、教化子のピンチを放ってはおけないな」
藤谷にセリフに、バッと魔法の杖を構える魔女達。
藤谷はスマホを取り出して、どこかに電話した。
「あー、もしもし。聖ジャンジョン・カトリック教会さんですかぁ?この前、法論させて頂いた藤谷と申します。いや、今日は折伏じゃなくて、あなた達にお仕事を紹介しようと思いましてね?実はアッシらの所に、魔女さん達が来ているんですが、ちょっと確認に来て頂けませんかねー?もしあなた達の追う魔女さん達でしたら、そのまましょっ引いて頂いて結構なんで。……ええ、あなた達の教義については破折させてもらいますが、お仕事に関しましては、アッシらは何も言いませんよ。場所は東京都豊島区【以下略】です。んじゃ、よろしくオナシャス!」
ピッと電話を切る。
藤谷の電話を唖然として聞く魔女達(稲生を含む)。
「と、いうわけだ。火あぶりにされたくなければ、とっととこの場から去るんだな?あ?」
「ふ、藤谷班長……!?」
「く、くそっ!覚えてろ!」
慌てて逃げ出す魔女達だった。
「だーっはっはっはっはっ!日蓮正宗ナメんなよ!」
「何ちゅうコネですか!」
「大丈夫だって。マリアさん達のことは内緒にするからよ。さ、早いとこお寺に戻ろう」
藤谷はポンと稲生の肩を叩いた。