報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「逃亡の魔道師たち」

2016-04-06 17:25:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日06:00.天候:曇 魔界高速電鉄環状線・回送電車内 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 サウスエンド駅に向かったマリアは、たまたまやってきた回送電車に乗り込んだ。
 魔界高速電鉄では始発電車の前に、露払い電車を走らせる習慣があり、正にそれだった。
 露払い電車の走った後には始発電車が走り出す為、既にもう営業電車が走っている時間帯でもある。
「しまった。逆方向の電車だったか」
 マリアはホウキで上空から捜索する魔女達に見つからぬよう、連結器のドアの前にしゃがみ込んで隠れている。
 チラッと窓の外を見た時、インフェルノタウン駅を通過して行くのが見えた。
 東京の山手線で言えば、新宿駅に相当する場所である。
 サウスエンド駅が大崎駅に相当する場所であり、本来は東京駅に相当する1番街駅に向かわなければならないわけだから、内回り電車に乗らなければならない。
 しかしマリアは、外回り電車に乗ってしまったようだ。
 地下鉄道が外国と同じ右側通行なのに対し、高架鉄道は日本の鉄道のように左側通行なのでややこしい。
 稲生の話では山手線の池袋駅の北側に車両基地があり(東京総合車両センター池袋派出所)、環状線のデビル・ピーターズバーグ駅(東京の池袋駅に相当)の北側にも車両基地があるのだという。
 恐らくこの回送電車は、デビル・ピーターズバーグ駅まで露払いした後、そのままその車両基地まで引き上げると思われる。
 その際、一旦駅に停車するだろうから、その時に飛び降りるつもりでいた。
 デビル・ピーターズバーグ駅からは地下鉄1号線が出ており、それでも1番街駅へ行ける。
 地下鉄なら、上空からの捜索に引っ掛かることはない。
 と、そこへ電車が止まった。
 回送電車なので、途中の駅に止まることもあるのだろうか。

 いや、違った!

「な、何ですか、あなた達は!?」
 人間の運転士が驚いた顔をした。
「ダンテ一門の魔道師です!この電車に裏切り者がいるので!」
「御用改めだ、マリアンナ!降りてこい!」
「この電車に乗っているのは分かっている!」
 露払い電車は2両編成である。
 環状線の電車は通常、4両から6両編成で運転されるので、本当に露払いの回送電車として運転されていることが分かる。
 因みに車両外側の下部には、クモハ105と書かれていた。
 水色で貫通扉の無い、東日本仕様の中古車であろうか。
 一斉に乗り込んだ魔女達だったが、隠れる場所の無い通勤電車にも関わらず、マリアの姿は発見できなかった。
「あ、あれ?あれれれ?」
「いないじゃん!?」
「どういうこと!?」
「ジュディ!後ろの車両の窓が開いてるわ!」
「くそっ、逃げられたか!」
 ジュディと呼ばれた魔女はホウキに跨った。
「まだ遠くへ行ってないはず!もう1度、環状線沿いを捜すぞ!」
「おー!」
 バタバタと電車を降りて、ホウキで飛び立つ魔女達。
「何なんだ、一体……」
 何も事情を知らぬ運転士は首を傾げつつ、再び電車を走らせた。

「ナチスから逃げ回るフランスのレジスタンスじゃあるまいし……」
 JR東日本に在籍していた105系には、連結器横の切妻にも窓がある。
 その窓は開閉可能で、マリアはそこから急いで連結器横の取っ手に掴まっていたのだった。
「何の因果で、こんなジャッキー・チェンみたいなマネを……」
 マリアは再び車内に戻った。
 走り出した汽車に飛び乗るシーンがよくある映画をマリアは思い出した。
(魔王城に行けば、何とかなるかもしれない。ユウタ、無事でいてよ……)

[同日07:15.天候:晴 東京都23区内某所 日蓮正宗・正証寺 稲生勇太&藤谷春人]

 朝の勤行が終了した正証寺本堂。
「おはようございます」
 導師の御住職が信徒達に向かって挨拶する。
「おはようございます!」
 稲生は退転したつもりだったが、脱講願が正式に受理されておらず、除籍にはなっていない為、藤谷の勧めもあって朝の勤行に参加していた。
「じゃあ稲生君、朝飯食いに行くか」
「はい、ありがとうございます。でも、僕はもう行かないと……」
「ん?」
「マリアさんが無事に見つかったそうです」
「おおー!昨夜、うちで丑寅勤行をやった甲斐があったな!」
「おかげさまで……」
「稲生君の信心なら、魔女さん達も見つけられんだろうよ」
「そ、そうですかね」
「いざとなったら、“魔女狩り連合”呼んでやる!」
 キリスト教のことを言ってるのだろうか?
「稲生君に危害を加える者は、全て怨嫉者と見なされ、手痛い罰が下ることになるだろう」
「退転状態だった僕ですから、そんなに……」
「いやいや。信心の血脈が切れていないんだから大丈夫だ。きっと、魔女達は火あぶりの刑になるだろう」
「昔の魔女裁判じゃあるまいし……」
「俺が聞いた話じゃ、未だに魔女の存在を信じていて、魔女狩りを行うキリスト系カルト教団があるみたいだぞ」
「誰か折伏しに行ったんですか、それ?」
「だから、そいつらに通報して魔女狩りさせてもいいわけだ。大丈夫だ。キリストさんに拝むわけじゃないんだから、謗法にはならん」
「そうですね……」
 正証寺の近くの定食屋で朝食を取る稲生達。
「班長は仕事なんですよね?」
「これから出勤だ。稲生君は正証寺の中に避難していればいい。本堂の掃除でもして、身の供養でもすれば、今までの罪障も消滅できるだろう。魔女さん達はキリスト教会に限らず、全ての宗教施設が嫌いみたいだから、お寺にも入って来れないしな」
 ダンテ一門に入門するに辺り、イリーナ達から日蓮正宗の信仰を中止するよう申し入れられたのはその為である。
「勝手に正証寺を避難先にして、申し訳無いです」
「だから、御供養してチャラにしてもらおうって話だ。何も御供養は財の供養だけとは限らないんだから」
「分かりました」

 定食屋で朝食を取った後、2人は再び正証寺に向かって歩き出した。
 朝ラッシュの始まっている東京都心。
 正証寺周辺も、人通りが激しくなった。
 とある大通から1本入った路地は、嘘みたいに静かである。
 正証寺はその大通りから1本入った所に、三門があった。
 定食屋自体は大通り沿いにある。
「あっ!」
 だが、2人は待ち構えていた魔女達に取り囲まれてしまった。
「見つけたぞ、稲生勇太」
「裏切り者の弟弟子!」
「おとなしくしなさい!」
「し、しまったーっ!」
 稲生は頭を抱えて飛び上がらんばかりだった。
「何だ、アンタ達は?」
 藤谷は凄むように魔女達を見据えた。
「クソゴリラに用は無い」
「裏切り者の弟弟子に用があるだけ」
「邪魔するなら痛い目見るよ?」
「ほお……。教化親として、教化子のピンチを放ってはおけないな」
 藤谷にセリフに、バッと魔法の杖を構える魔女達。
 藤谷はスマホを取り出して、どこかに電話した。
「あー、もしもし。聖ジャンジョン・カトリック教会さんですかぁ?この前、法論させて頂いた藤谷と申します。いや、今日は折伏じゃなくて、あなた達にお仕事を紹介しようと思いましてね?実はアッシらの所に、魔女さん達が来ているんですが、ちょっと確認に来て頂けませんかねー?もしあなた達の追う魔女さん達でしたら、そのまましょっ引いて頂いて結構なんで。……ええ、あなた達の教義については破折させてもらいますが、お仕事に関しましては、アッシらは何も言いませんよ。場所は東京都豊島区【以下略】です。んじゃ、よろしくオナシャス!」
 ピッと電話を切る。
 藤谷の電話を唖然として聞く魔女達(稲生を含む)。
「と、いうわけだ。火あぶりにされたくなければ、とっととこの場から去るんだな?あ?」
「ふ、藤谷班長……!?」
「く、くそっ!覚えてろ!」
 慌てて逃げ出す魔女達だった。
「だーっはっはっはっはっ!日蓮正宗ナメんなよ!」
「何ちゅうコネですか!」
「大丈夫だって。マリアさん達のことは内緒にするからよ。さ、早いとこお寺に戻ろう」
 藤谷はポンと稲生の肩を叩いた。
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“大魔道師の弟子” 「ダンテ一門の大混乱」

2016-04-06 10:54:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日05:00.天候:晴 魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ南部サウスエンド地区(南端村またはリトル・ジャパン) マリアンナ・ベルフェ・スカーレット&威吹邪甲]

 まるで明治時代の東京を思い浮かべるような街並み。
 アルカディアシティの中心街も、中近世から近代のヨーロッパの街並みのようであるが、こちらはもう少し日本風であった。
 魔界に“神隠し”や軽い地獄の罪などで流れ付いた日本人達が形成した町である為、正式にはサウスエンドという名前の地区だが、その日本人達は南の端に作った村だからということで、“南端村”と呼び、外国から流れ着いた人間からは“リトル・ジャパン”と呼ばれている。
 安倍春明が魔王討伐(当時、女王ルーシーがラスボスだと安倍は思っていた。実際のラスボスは王権を強奪し、強引な共和制を敷いた魔界民主党)の拠点とした村でもあり、安倍は魔界高速電鉄の高架鉄道と地下鉄道に討伐隊を分散させて魔王城へ向かったという武勇伝が残っている。

 威吹はこの村の外れに建てられた神社に、江戸時代の巫女だったさくらと共に暮らしている。
 昭和時代の駄菓子屋のような店もあり、さすがに時間が時間だから閉まっているが、公衆電話は残っている。
 そこから威吹がどこかへ電話していた。
「……ああ、ボクだよ。心配無い。首尾はちゃんと確保した。だが、さすがに無傷とまでは言えない。ボクは妖術は使えるが、傷を回復させる系のものは無い。村の診療所で手当てはさせた。……さくらまで、魔女共のケンカに巻き込ませるわけにはいかないからな。……ああ、まあそこは気にしないでくれ。キミとは長い付き合いだったからな。そうだな。もしまたボクが人間界に行く機会があったら、その時に助けてくれればいい。……ああ、それじゃ」
 江戸時代の妖怪、公衆電話を使うの図。
 しかし威吹は人間界で稲生と行動していた時、ガラケーを使う描写があった。
「高い電話料金だ。あっという間に小銭が無くなった。これくらい、ユタ(※)に請求してもいいかな」
 威吹はボヤきながら、神社ではない方向に向かった。

(※稲生勇太の妖怪達からの呼び名。作者のHNはここから取っている。当時はまだ小説をプログにアップするとは思いもしなかったので)

 威吹が村の外れにある小屋に戻ると、バンッとそのドアが開けられた。
 そこにいたのはマリア。
 ブレザーを羽織って、外に出ようとしていたようだ。
「よぉ、お出かけか?魔女さんよ」
「……!!」
 マリアは威吹の脇をすり抜けようとした。
 が、首根っこを掴まれ、再び小屋の中に連れ込まれた。
 そのまま、首を押さえられたまま壁に押し付けられる。
「う……ぐぐ……!」
「助けてやった礼も無しか?え?本当に魔女というのは非礼千万な連中だ。自分達が世界を動かしていると言うだけのことはあるぜ」
「・・・……・……!」
 マリアは英語で何か言った。
「あぁ?オレは南蛮の言葉なんざ分かんねーよ。ちゃんと日の本の言葉で喋れ、魔女が」
「ハ……ハナセ……!」
 マリアが片言の日本語で言うと、やっと威吹は手を放した。
「ハァ……ハァ……!ランボウモノノ、ヨーカイガ……!」
「魔法を暴力に使う魔女達に言われたくはないな。お前を助けてやったのは事実だぞ。まあ、オレが自主的に助けたわけではないがな」
「……!」
「しかし仲間割れとは、呆れるほど薄っぺらい結束なのだな」
「イブキ……」
「何だ?」
「オマエハ……アル者ノ依頼デ来タ……言ウッテイタ」
「そうだ」
「ソレハ……。!?」
 マリアは何とか覚え立ての日本語で、ある者の名前を言おうとしたが、威吹に口を塞がれた。
「それは言えぬとあの魔女達にも言った。お前にもな」
「!?」
「……状況は好転していないということさ。お前の所の門流も終わりだな。ハハハハハッ!……俺は魔法のことに詳しくない。だが、名前を言うとヤバい魔法があるらしいな?」
「!」
「つまりそれだよ。お前は弱いが、オレより魔法は詳しいんだろう?だったらもう分かったはずだ」
「……私ヲ助ケテ……ココカラドウスルツモリダ?」
「ここは魔界だ。人間界は色々と制約があるが、ここはあったり無かったりだ。良く言えばド派手にできるし、悪く言えばタガが無い。オレがお前の仲間だった者達を殺ったせいで、ちょっと大騒ぎになっちまってよー?なかなか動けねーんだ。まあ、南端村はアルカディアシティでも片田舎にある場所だし、王都内は王都内だからド派手にはできねぇ。つまり、魔女達にとっては不利な場所って所だ。1番良いのはここで、ほとぼりが冷めるのを待つことだな」
「私ハ早ク、ユウ……アノ人、会イタイ」
「……っ!1つ聞きたい」
「?」
「お前は門内……他の魔女達を仲間だと思うか?」
「何、言イタイ?」
「ユ……あの者も、お前達のせいで逃げ回っている有り様だ。オレはお前なんかより、あの者を助けたい。その為には、お前の仲間を何人か屠る必要がある。それでも良いかと聞いている」
「オ、オマエノ……日本語ワカラナイ……。ナニ言ッテル……?」
 だがマリアは、威吹の目つきと話す言葉の雰囲気からして、とんでもないことをこれからするつもりだと気づいた。
「もちろん、全員ではない。敵対してくる者だけ、だ。……とにかく、お前は寝てろ。ここにいるうちは安全だ」
「……私モ行ク」
「あぁっ!?」
 マリアの『魔法を封じる魔法』が解けたのか、マリアの英語が日本語に自動変換される。
「もしお前が今起きている事態を『魔女達のせい』だと言うのなら、私にもその責任があるということだ」
「そうだな」
「ならば、私もその責任を負う。私も連れて行け」
「お前、仲間内じゃ弱いんだろう?そんなのが行っても……。ん?お前、いきなり日の本言葉が……」
 その時、小屋の外に何かが落ちてくる音がした。
「何だ?」
 バンッと小屋のドアを突き破って、何かが飛び込んで来た。
 それはマリアの魔法の杖とローブ。
「……私に戦えということだ」
「そうなのか?」
 マリアはローブを羽織り、魔法の杖を持つと、小屋の外へ出た。
「あっ!?」
 上空を見上げると、そこをホウキで飛び去る1人の魔女。
 こちらを見下ろしていたが、すぐに去って行った。
「くそっ!見つかったか!」
「あれはエレーナ……」
「知り合いか。敵か?」
「味方だ!……と思う。だが、エレーナが私の杖とローブを持って来てくれたとしたら味方……」
 だが、ローブの中に手紙が挟まっていた。
 それを見ると、
『私も立場上、あなたの敵にならなくてはならなくなった!積極的には戦わないけど、今のあなたの居場所は伝えなければならない』
 と、書かれていた。
「威吹!助けてくれてありがとう!私はもう行く!」
「ちっ、やっぱり敵だったか!総理官邸か魔王城に逃げ込め!何が原因かは知らんが、所詮は魔女達の私闘!奴らも政治の中枢機関で、ド派手にはできんだろう」
「その通りだなっ!」
 マリアはサウスエンド駅に向かった。
コメント (4)
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