報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アナスタシアの登場」

2016-04-08 22:34:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日09:00.天候:晴 アルカディアメトロ1号線・地下鉄トンネル内 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 地下鉄構内への進入を果たしたマリア。
 しかしどういうわけだが、彼女はそこを走る電車には乗っていなかった。
 日本なら大問題の、トンネル内を自力で進んでいたのである。
「ちくしょう!アヤのヤツ!」
 マリアを裏切り者と断罪し、上空からホウキで追う魔女達。
 それが全く利かなくなる地下鉄内へ逃げ込めないよう、ちゃんと駅で見張っていた。
 マリアは作業員用通路から地下鉄内に進入し、追っ手を振り切ろうとしたのである。
 前から轟音と強風を立ててやってくる電車。
 その度にマリアは、横坑へ退避しなければならなかった。
「次の駅から電車に乗ってしまおう!それで……」
 マリアの読み通りに行くか!?

 マリアが逃亡に使用している地下鉄は、東京で言えば丸ノ内線に相当する区間である。
 デビル・ピーターズバーグ駅が池袋駅だとしたら、マリアが逃げ込んだ次の駅は差し詰め、新大塚駅といったところか。
 新大塚駅と同じく、2面2線の対向式ホームの1番街駅方面ホームに駆け上がる。
 すると、やってきた電車はあいにくと反対方向。
 開業して間もない頃の東京メトロ銀座線で、渋谷側からトンネルを掘って来た東京高速鉄道100形電車にそっくりな車両がやってくる。
「ああっ!?」
「見つけたぞ、マリアンナ!」
「覚悟なさい!」
 魔女達は上空からだけでマリアを捜索していたのではなかった。
 電車に乗って捜索するチームもちゃんと用意されていた。
 慌ててホームの階段を駆け上がるマリア。
 魔女達は電車から飛び降りて、マリアを追い掛ける。

「しつこい連中が!」
 駅を飛び出ると、そこは住宅街になっていた。
 狭い路地を魔女達やその使い魔達が追い掛けてくる。
 マリアも逃げ足は速いのだろうか?
 取りあえずRPGで言うなら、『素早さ』の数値を上昇させる魔法は使ったようだ。
 路地を抜けて、やっと開けた所に出た。
 どうやそこは、何かの工場か倉庫の入口になっているようだった。
 そして、そこにいたのは……。
「げっ!?」
「ん?」
 黒いドレスコートに身を包んだ長身の女性。
 髪は黒のショートで、瞳の色は緑という典型的なロシア女性である。
「あ、アナスタシア先生!?」
「あなたは確か……イリーナ組のマリアンナとか言ったわね?何してるの、ここで?」
「な、何って……!?」
 アナスタシアは怪訝な顔をしていたが、マリアを捕まえに来ようとはしなかった。
 ロシア人であるが、魔法を使わず、流暢な英語をマリアに投げてくる。
 アナスタシアは、マリアや稲生の身に起きていることを知らないのだろうか。
 イリーナが連絡して来ないことといい、実は師匠クラスはこの騒ぎを知らないのかもしれない。
「わ、私は……」
「マリアンナ!逃げられると思うな!」
「裏切り者は大人しく死ね!」
 バタバタと路地から魔女達が追い掛けてくる。
「あ、アナスタシア先生……」
 マリアは泣きそうな顔になった。
 するとアナスタシア、マリアを追い掛けてきた魔女達を睨みつけた。
「何やってんの、あなた達!?こんな町中で大騒ぎして!」
「げぇっ?!あ、あなたは……!」
「アナスタシア先生?!」
「アナスタシア先生が、どうしてここに……!?」
「ここは私達、アナスタシア組の拠点の1つよ?知らなかったの?」
「ええっ!?」
「で、何を騒いでたの?このことは、あなた達の先生も知ってるんでしょうね?」
「そ、それは……その……」
「ま、マリアンナがぁ……」
「ん?マリアンナがどうしたの?」
「マリアンナが私達を裏切って……」
「はあ?何言ってんの?何か文句あるんだったら、イリーナを通して言いなさい。そういう節目があるって教わったでしょ?」
「そ、そうなんですけど……」
「で、でも……」
「何と言うかぁ……」
「分かったの!?分からないの!?どっちかハッキリしなさい!」
「わ、分かりました……」
「分かったらさっさとこの場から消えなさい!私だって忙しいんだから!」
「ま、マリアンナに用があるのでぇ……」
「私の方こそ、マリアンナに用があるんだけどね?」
「ええっ!?」
「優先順位的には、私の方が先よね?私は師匠クラスだから」
「で、ですけど……」
「とにかく、今は帰りなさい。さもないと、私の方からあなた達の師匠にこのことを連絡しなきゃいけなくなるわよ?」
「ひぃっ!そ、それだけは……!」
 慌てて逃げるように立ち去る魔女達だった。
「あ、アナスタシア先生……!?あ、ありがとうございます……」
「いいのよ。私から見たら、ただのイジメにしか見えなかったから」
「イジメ……」
「で、何があったの?悪いけど、話は本当に聞かせてもらうわよ?」
「は、はあ……。実は……」
 マリアは自分の身に起きたことを話した。
「……つまり、あなたが1番、人間時代にオトコから酷いレイプをされていたのにも関わらず、1番先に立ち直って、稲生勇太君と仲良く付き合っているのが気に入らないと……」
「そういうことらしいです」
「くだらないわねぇ……。でもまあ、皆して色々事情抱えて魔道師やってるわけだからね。ふとした拍子に、今回の場合は妬みだけど、トラブルって起きるものよ。あなたもその辺、よく勉強しておく必要があったわね」
「は、はあ……」
「てか、そういこともイリーナは教えてなかったのか」
「あ、あの……。私、ユウタと合流しなきゃ!」
「ん?」
「ユウタは人間界で逃げ回っているんです!早く助けに行かないと!」
「待ちなさい。稲生君が今どこにいるのか分かってるの?」
「最後の通信があった時、『東京に逃げる』と、それだけしか無くて……」
「東京ね。ちょうど東京は、私の弟子が拠点にしているわ」
「そうなんですか?」
 マリアは少しホッとしたが、すぐにそれを打ち消した。
 何故か嫌な予感がした。
「ええ。ちょっと照会すれば、すぐに彼は見つかりそうね」
「あの……その弟子の名前って……?」
「フレデリカ」
「!!!」
 直後、マリアの体に電流が走った。
 そして、マリアはその場で意識を失った。
 アナスタシアの手には魔法の杖が握られており、それがマリアに対して、まるでスタンガンのように電流を放ったのである。
「お見事です!アナスタシア先生!」
 先ほど、アナスタシアの警告に恐れをなして逃げ出した魔女達が戻ってくる。
「他人のとはいえ、弟子を騙すなんて、私もとんでもないわね」
「いいえ!ご協力感謝します!」
「じゃあ、約束は守ってね。マリアンナのことはあなた達の好きにしていいけど、稲生君の方は全てアナスタシア組に任せてくれるって」
「はい!」
「もちろんです!」
「ちゃんと全員に伝えてね?もし間違いがあったら……分かってるね?」
「も、もちろんですとも!」
「じゃ、よろしく」
「はい!失礼します!」
 魔女達はマリアを縛り上げると、ホウキに乗せて飛び去って行った。
(フン……。イリーナ、あなたが悪いのよ。素直に稲生君をこちらに引き渡さないから。稲生君みたいな類稀なる才能を持った人材は、絶対私の所で育成した方がいいんだって!)
 アナスタシアは、心の中で悪態をついた。
 そして、拠点となっている建物の中へと入っていった。

 数時間後、東京で稲生の捕獲に当たる弟子達がピンチになることなど、彼女の予知能力を持ってしても想定できなかったという。
コメント (16)
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