報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女狩り」

2016-04-10 22:50:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日11:30.天候:晴 東京都豊島区・日蓮正宗正証寺 稲生勇太]

「今身より仏身に至るまで、爾前迹門の謗法を捨てて、法華本門の本尊と戒壇と題目を保ち奉るや否や?」
「保ち奉るべし。南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
 所属寺院にて匿ってもらっている稲生。
 身の供養として堂宇の掃除を行っていたが、本堂で御受誡が行われることになり、一緒に参加していた。
(僕が御受誡した時も、こんな感じだったかな……)
 稲生はほっこりした顔で、新願者達と御受誡を執り行った御住職とを見比べていた。
(本堂の掃除、しておいて良かった)

 尚、曹洞宗では葬儀の際に故人に授戒させる為、文言は以下の通り。
『今身より仏身に至りて、相如何なる仏道修行を懈怠することなく、三宝を保ち奉るべし』
 日蓮正宗では入信の際に誡を授けられる為、授ける側と授けられる側とでキャッチボールが行われる形になる。
 しかし曹洞宗では故人に誡を授けるため、会話のキャッチボールが成立しない。
 そこで僧侶が一方的に喋る形になるのだろう。

(少し早いけど、お腹が空いたからお昼でも食べてこよう。マリアさん、無事かなぁ……?さっきから、ずっとマリアさんの無事を御祈念してるんだけど、そもそも会えなければなぁ……)
 稲生はそう思いながら、三門を出た。
 魔女達が稲生を捕獲せんと動いていると思うが、少なくとも、

〔「こちらは、聖ジャンジョン教会である。魔女達に告ぐ。直ちに無駄な抵抗をやめ、神の御前に投降せよ。……」〕

 魔女狩りや魔女裁判を未だに是とするキリスト教会の街宣車が回っている間は安全が確保されていると思われた。
(い、今の僕は、魔道師見習というかぁ……日蓮正宗信徒ですからぁ……)
 そう思いつつ、冷や汗を流す稲生だった。
 大通りに出る人けの少ない路地を歩いていると、後ろからワゴン車が迫って来た。
 狭い交差点のカーブミラーには、あのキリスト教会の名前が車体に書かれていた。
 それが稲生を追い越すと、すぐにその進路を阻むようにして止まる。
「!?」
 スライドドアが開いて、中から降りてきたのは黒い服を着た男が3人。
 中には藤谷のように屈強な男もいる。
「な、何ですか、あなた達は!?」
 稲生は自分が襲われると思って慌てた。
「見つけたぞ、魔女め!」
「神に抗う悪魔の手先が!」
「おとなしく神の裁きを受けろ!」
 男達は稲生に向かってきた……が、狙ったのは稲生のすぐ後ろだった。
「うぎゃあああああっ!!」
「ええっ!?」
 稲生のすぐ後ろには誰もいなかったはずだ。
 だが、男の1人が柄の長い十字架を突き付けると、その空間の中から魔女の叫び声が聞こえた。
「捕まえろ!」
「はい!」
(まさか、“姿隠し”の魔法を使って僕をつけていたのか!?)
 男達は手際よく、見た目は10代と思しき赤毛の魔女を捕縛した。
 そして、気絶している魔女を車に乗せる。
「あー、ちょっとそこのキミ」
「は、はい!?」
 男達の1人がにこやかな顔をして稲生に話し掛けた。
「驚かせて申し訳無い。俄かには信じ難いだろうが、あれは魔女だ。人間ではない。私達は敬虔なカトリック教徒として、神に抗う悪魔を捕まえに来ただけだ。だからどうか、この事は内密に……」
 リーダーと思しき男が稲生に何かを握らせた。
 それは諭吉先生が3人分。
「よーし!撤収するぞ!」
「はい!」
 男達は車を急発進させて、大通の方に向かった。
 茫然とする稲生。
(“姿隠し”の魔法を使ってて、どうしてあのクリスチャン達は気づいたんだろう?魔の通力???い、いや……。てか、僕は魔道師だと気づかなかったか……)
 と、そこへ別の車が稲生の前で急停車した。
 それは白塗りの個人タクシー。

 

「稲生君、何やってるんだ!?」
 運転席から顔を覗かせた運転手は、正証寺の信徒で、稲生と同じ地区に所属する別の班長であった。
「大原班長!?」
「今の見たぞ!邪教徒から金を受け取るなんて、何考えてるんだ!邪教からの布施は謗法だぞ!!」
「し、しまったーっ!!」
「早く返しに行こう!車に乗って!」
「は、はい!」
 稲生は普通にタクシーに乗るかのように、リアシートに乗り込んだ。
 同じくほぼ急発進のように走り出すタクシー。
「しかもあいつら、人さらいみたいなことをやってなかったか!?」
「え、ええ。でも、まあ、本物の魔女さんですから、人さらいではない……」
「は!?」
「あ、いえ!何でも無いです!」
 本物の魔女であっても、やっていたことは、どう見ても人さらいです。本当に、ありがとうございました。
「しっかり掴まっていろよ!」
 タクシーは大通りに出ると、速度を上げた。

[同日12:00.天候:晴 東京都都区内某所 聖ジャンジョン教会の魔女狩り部隊&正証寺のアポ無し折伏タクシー]

 大通りを突っ走るワゴン車。
「……はい。というわけで、昼過ぎには教会に戻れる予定です。……はい、失礼します」
 車内ではメンバーの1人が教会本部に電話していたようである。
「隊長、教会への連絡OKです」
「ご苦労」
 助手席に座るメンバーの1人がケータイをポケットにしまいながら、後ろに座る隊長に言った。
 そして運転席の若い男に、
「おい、太郎。ちんたら走ってんじゃねぇよ。もっとガーッと飛ばせ!」
「えっ?でも先輩、この道は制限速度40キロで……」
「バカ野郎!教習車じゃねぇんだぞ!」
「おい!」
 車内にいた別の男が前の2人を注意する。
「せっかく魔女狩りが成功したというのに、事故を起こしたり、スピード違反で捕まったりしちゃ元も子も無いだろ。ゆっくりでいいから、確実に着けるようにしろ。分かったか?」
「……はい、すいません。支隊長」
 助手席の男はおとなしく従った。
「それで隊長、その女、“確認”はしなくていいんスか?」
「そうだな。してみるか?」
「お、俺ヤります!σ(゜∀゜ )オレ」
「いいから!お前は太郎に道教えてろ。……じゃあ、脱がしますよ、隊長」
「いきなりまっぱにするのもあれだから、まずは下着を脱がせろ」
「へい!」
 黒いスカートを捲り上げる。
 黒い服で統一しているアナスタシア組だが、下着の色までは指定されていないようで、この魔女は白いショーツをはいていた。
 脱がすと、赤い髪と同じような色の陰毛が生えていた。
「あー、こりゃ魔女決定ですな。生えてます」
「だろうな」
 魔女狩りに遭った女性に対し、本当に魔女かどうかの判断は理不尽なものが多い。
 中には、陰毛が生えているか否かで判断したこともあったという。
 だからなのか、今でも欧米人の間では男女問わず陰毛を剃る者は多い。
 表向きには衛生の為だとか、運動をやっている人なら、激しい運動で陰毛が引っ掛かるからという理由で剃る人もいる。
 ところが、魔女狩りや魔女裁判が行われたことのある地域では、風習として陰毛を剃る所があるそうだ。
 これは魔女と疑われないようにする為の防衛策だと言われている。
「隊長、どうせ火あぶりにするんでしょ?途中でヤっちゃいませんか?」
「アホ。教会にも急いで帰ると電話した手前、そんなヒマなど無い。下着の匂いでも嗅いで我慢しろ」
 隊長は魔女のショーツを完全に脱がして、助手席の男に渡した。
「いやいや、アッシはケンショーグリーンじゃないんでねぇ……」
「何言ってんだ、お前?」
「……てか太郎、さっきからミラー見てどうした?」
「はあ、それが……何か、さっきからタクシーが後ろを付いてくるんですよ」
「は?別にタクシーくらい、後ろを走ってて当然だろ?」
「それが、全く同じタクシーなんです。ほら、こうして車線変更しても、同じように車線変更してきて……」
「……何か怪しいな。太郎、ちょっとそのタクシー引き離せ」
「は、はい!」

 ワゴン車の後ろを走っていた大原タクシー。
「あっ、いきなり加速しだした!?」
「気づかれましたか!?多分このまま教会本部に帰ると思って、そこに着いたところでお金返そうと思ってたのに……」
「それと折伏ね!」
「ええっ!?」
「こっちも藤谷班には負けないぞ。未だに魔女狩りを行うような邪教中の邪教は、撲滅させないとな」
「は、はあ……」
「というわけで掴まってくれ!」
 大原もまたアクセルを吹かして、教会のワゴン車を追い掛けた。

 さあ、カーチェイスの始まりだ!
コメント
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