報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「謎の豪華客船」

2015-11-23 20:35:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月26日14:45.マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 稲生勇太]

 邸内2階の東西には、ゲストルームがいくつかある。
 そのうちの西側1室をイリーナが使い、東側1室を稲生が使っている。
 西側は1階にマリアの部屋があることから、イリーナの部屋も稲生の部屋より広い。
 広いというか、二間続きと言った方が良い。
「失礼します」
 入るとまず最初に執務室のような部屋になっていて、もう1つ奥がベッドルームがある。
 トイレとシャワーは備え付きだが、なるべくならバスタブに浸かりたいイリーナは共用のバスルームを使用することが多い。
 マリアの部屋には洗面台以外の水回りが無い為、実質的に師弟コンビ専用といったところか。
 東側にも共用バスルームはあるが、東側に住んでいるのは稲生だけであるため、実質的に稲生専用だったりする。
 尚、来客がある場合はこの限りではない。
 一応、稲生は挨拶して入ったが、当然今はイリーナが留守中の為、誰もいない。
 荷物の伝票を見ると、備考欄にベッドルームに入れておくように書かれていた。
「一体、中身は何だろう?」
 品名には『小物類』と書いてあったので、魔法具か何かが入っているのだろうか。
 もちろん、勝手に開けたりはしない。
 ベッドルームに入ると、元々イリーナがきれいに使っているのか、それともメイドの人形達がしっかり手入れをしているのか、とても整っている。
「ここに置いとけばいいかな」
 稲生はベッドの横に荷物を置いた。
 そして、ふと顔を上げた時、稲生は目を見開くことになる。
「!? あれは……」
 室内に飾られている絵画。
 ごく普通の油絵だ。
 大きさもA1版サイズを縦向きにした感じ。
 しかし、その絵は大きな船が描かれていた。
 船首部分が手前にあるのだが、それをこちらから向かって、右斜めに見ている感じ。
 つまり、船首部分が向かって右斜めに突き出て来る感じの描き方だ。
 その為、船首の横に描かれた船の名前が読み取れた。
「クイーン……アットア?……いや、アッツァ?アッツァーかな?」
 ユタが首を傾げ、絵に触ろうと手を伸ばした時だった。
「うっ……!」
 突然足に力が入らなくなり、まるで引力が逆転したような感じになる。
 そして、目は開けているはずなのに、閉じたかのように視界が無くなる。
 この感じ、まさに貧血だった。

 昔は……威吹と出会った頃は……よく……倒れ………。

[日付不明 時刻不明 天候:晴 クイーン・アッツァー号(船橋区画) 稲生勇太]

「……っと!……もしもし?大丈夫か?」
「う……」
 稲生は誰かに肩を叩かれて目を覚ました。
「ここで……寝てたら……いけない」
「あ、すいません……。あれ?」
 稲生は上半身だけ起こすと、周りを見渡した。
 確か、マリアの屋敷のイリーナの部屋にいたはずだが……?
「ここで……何をしている……?」
 中年の男の声がした。
「あ、いえ、すいません!僕も何が何だか、さっぱり!気が付いたらここに……!って、ここはどこですか?」
「……クルーズ船、クイーン・アッツァー号のブリッジ付近だ。ここは……乗客の立ち入りは……禁止だ」
「そ、そうですよね!」
 稲生はさっきから辺りを見回している。
 何故なら、声の主の姿が見えないからだ。
 さっき、肩を叩かれた感触はあったのだが……。
「……もうすぐ、日が暮れる。ここは……危険だ。安全な場所へ……案内しよう」
「は、はい」
 稲生は立ち上がった。
 しかし、相変わらず声の主の姿は見えない。
 稲生が倒れていた場所は、船橋区画の廊下。
 丸い窓から外を見ると、確かに夕方であった。
(僕は2〜3時間は倒れていたのかな?でも、何でいきなり船?)
 確かに時折、足元から揺れを感じる。
 それは確かに船の揺れだ。
「……申し遅れた。私は……この船の副船長だ」
「副船長さん……です、か?でも、姿が……。!?」
 その時、夕日が丸い窓を通して薄暗い廊下に差し込んで来た。
 そして稲生が見たのは、影だけの姿になっている副船長の姿だった。
 斜めに見ると、頭の海員帽の形が見えるので、少なくとも船員なのだと分かった。
「姿が見えない……か。そうか。やはり、私も死んで……」
「えっ?」
 副船長を名乗る人影は、とある部屋の中にスッと入った。
 ドアを開けずに、ドアの中を通って。
「ゆ、幽霊!?」
 そうかもしれない。
 だが、その副船長を名乗る幽霊らしき影からは、少なくとも敵意や殺意らしきもの……つまり、怨念のようなものは感じない。
 ドアには、船長室と書かれていた。
「し、失礼します!」
 稲生はもちろん生きている人間なので、普通にドアノブを回して中に入った。
 そこは豪華客船の船長室らしく、豪勢な造りになっている。
 入ると、室内は明るい執務室になっていた。
「あの、副船長さん……ですよね?」
「そうだが……?」
「船長室に勝手に入ってもいいんですか?」
「船長は……いない」
「いない?」
「この船が……化け物に襲われてから……いなくなってしまった。今……この船の中を彷徨う者の中で……1番の責任者は……私だけだと思う……」
「化け物に襲われた?何ですか、それは?」
 稲生が質問すると、副船長は窓の外を見た。
 稲生のその質問に答える気は無いようだ。
「日が暮れた。今……とても、危険な時間だ」
「危険な時間?」
 嵐が来るのだろうか?
 しかしその割には船は大きく揺れることはないし、窓の外を見ても、嵐どころか、きれいな月明かりである。
「……ここから……出ては……ならない。キミも……死んでしまう」
「えっ!?」
「いいな……?ここから……出ては……ならない」
 それだけ言うと、副船長は先ほどの廊下にドアを開けずに出て行ってしまった。
「一体、何なんだろう?」
 稲生は船長室を見渡した。
 先述したように、豪華客船(クルーズ船と呼ばれる船は、ほとんどイコール豪華客船である)の船長室というだけあって、恐らく客室のそれと負けず劣らずの広さなのではないだろうか。
 例え豪華客船であっても、下級船員は2段ベッドで大部屋だという話を稲生は聞いたことがある。
 執務室内は、特に何も無さそうだった。
 そして、この部屋には、先ほど稲生達が出入りしたドアとは別に、もう1つドアがあった。
 このドアのことについては、副船長は何も言っていなかった。
 開けてみると、何かの部屋のようだが、暗かった。
 ドアのすぐ横にスイッチがあったので、入れてみると照明が点灯した。
 そこは、ベッドルームになっていた。
 やはり下級船員の2段ベッドと比べて、船長室は寝る所も個室であるらしい。
 そのベッドはきれいに整えられていた。
 そして、部屋には緑色に塗装された木製のクロゼットが置かれている。
「?」
 だが、そのクロゼットの観音扉には、針金がギチギチに巻いてあって、開けられるのを拒んでいるかのようだ。
 そしてベッドルームには、更にもう1つドアがある。
 何となく予想は付いていたが、このドアを開けて中に入って電気を点けると、バスルームになっていた。
「……何も無いか」
 結局、船長室の中を探してみたところ、見つかったのは体力回復薬と称する瓶入りの飲み物だけ。
 しかしその薬は、稲生も見たことがある。
 確か、ポーリンが作っていたものだ。
 それがどうして、謎の豪華客船の船長室にあるのだろう?

 待てど暮らせど、状況が変わる見込みが無い。
 副船長が迎えに来る様子も無い。
「しょうがない」
 副船長からは外に出るなと言われたが、稲生は意を決して船長室の外に出ることにした。
 明かりの点かない真っ暗な廊下。
 そこに出た稲生を待ち構えていた者がいた。
 それは……!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする