[11月8日10:20.静岡県富士宮市下条・吉塚家 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ]
再び吉塚家を訪れた敷島達。
仏間には吉塚広美の遺影があった。
仏壇を見ると、仏像ではなく御本尊があった。
「なるほど。確かに、十条達夫博士が持っていたものと似ている」
無宗教の敷島にとって、仏壇に鎮座しているのは仏像というイメージが強いだけに、小さな掛け軸が掛かっていて、これに拝む宗教があるというのは意外であった。
それは平賀も同じだろうが、知り合いに宗教学者がいるらしく、ある程度の情報は得ているようだ。
「それで、お母様が私達に渡したいものとは?」
「これなんです」
吉塚広美の娘が持って来たのは、縦長の小箱。
いかにも掛け軸とかが入っていそうな感じだったが、開けてみると本当に掛け軸が入っていた。
「何ですかね、これ?本当に値打ち物ではないんですか?」
「少なくとも、私達にとっては」
開けてみると、そこには何も書かれていなかった。
「白紙の掛け軸!?」
「炙り出し……ですかね?」
「炙ってみます?」
敷島の言葉に平賀がオイルライターを出したが、
「いや、やめておきましょう」
と、止めた。
「お母様が渡したいものというのは、これだけですか?」
「ええ、そうです」
「???」
「やっぱり、炙り出しかなぁ……?」
敷島は目を丸くし、平賀も首を傾げた。
「そうだ。マルチタイプにスキャンさせてみると、何か出て来るかもしれません」
「そうですね」
平賀は通信機を出して、
「あー、エミリー。ちょっと家の中まで上がってきてくれ」
{「イエス。ドクター平賀」}
「シンディも呼びますか?」
「シンディは……やめておきましょう。少なくとも、命令とはいえ、南里先生の葬儀に御霊前ではなく、御祝儀を持ってきたというイメージが払しょくされていない」
「確かに」
因みにマルチタイプはちゃんと家の中に上がる時は、ブーツを脱ぐのでご安心を。
但し、素足の状態になる上、超小型ジェットエンジンは使用できない。
「それでは・スキャン・致します」
んでもって、ちゃんと正座もできる。
人間と違って、痺れることは絶対に無い。
エミリーは右目を光らせた。
「筒に・何か・あります」
「筒に?」
「何か……メモリースティックの・ような・もの……」
「まさか、これ……!」
敷島は掛け軸を掛けると、下側になる筒の部分を見た。
両脇から紫色の丸い出っ張りがある。
キャップになっていた。
クルクルと回して出っ張りを外す。
そしてトントンと床に向けて、外していない方を叩いてみると、スルリと何かが落ちて来た。
「これはセキュリティ・トークンですね」
平賀はそれを拾い上げ、眼鏡を押し上げながら言った。
「何の?」
「えっと……それは……」
「! ということは、上の方は!?」
今度は掛け軸を掛けたら、上になる筒の部分を調べてみることにした。
そこにも左右に同じ出っ張りがある。
「!?」
小さな木製の筒が出て来た。
それで、エミリーのスキャンには掛からなかったのだ。
エミリーのスキャナーで検出されるのは、金属反応と生物反応だからだ。
開けてみると、
『トークンをエミリーちゃんに飲ませてください』
と、書かれていた。
「エミリー、飲み込め!」
敷島がセキュリティトークンを持った。
「イエス!」
エミリーが口を開けた。
そこに敷島がセキュリティトークンを飲み込ませる。
「……ペンを・貸して・頂けませんか?」
トークンから何かを読み取ったのだろうか。
「よ、よし!」
平賀がエミリーに万年筆を渡す。
エミリーは正座したまま白紙の掛け軸の上に何かを書き始めた。
それはまるで、本当に機械が製図しているかのようだ。
時々筆が遅くなったり、或いは速くなったりする。
敷島と平賀は固唾を飲んで見守っていたが、最初に平賀が気づいた。
「これは……何かのロボットの設計図ですね?」
「そうですか」
30分後。
「終了・しました」
エミリーが最後に、この製図のタイトルを書いて上体を起こした。
人間なら腰痛になるような体勢だったが、ロイドは平気である。
明らかにこれはロボットの設計図だった。
そしてタイトルを見ると、『Barsion1000』と書かれていた(因みに、Versionではない)。
「バージョン1000だ!」
「い、いや、しかしこれは……」
敷島は驚愕し、平賀は困惑した。
普段はあまり表情を変えぬエミリーも、口を開けてフリーズし掛かっていた。
いかにも、2足歩行のロボット。
しかし、その用途は軍事用……というよりテロリズム用。
最新モデルで、ようやっと人間の安全を守る用途に漕ぎ付けることができたが、先代モデルまでが大暴れしてくれたせいで、やっぱりテロ・ロボットというイメージが強い。
最新モデルでさえ、人間そっくりに造られることはなかった。
それまでの4.0と比べれば、だいぶ人間臭い所も出るようにはなったが。
因みにバージョン400とは、バージョン4.0を巨大化させたもの。
ただ単に、通常サイズの100倍強いという意味のナンバリングらしい。
実際はそんなことはないが。
で、1000と言うからには、もっとデカくて強いのだろうかと思うが、そんなことはなさそうだ。
何故なら今、敷島達が目にしている設計図でもって造られたロイドは現存どころか、元気に稼働しているからだ。
「あ、アルエットぉ!?」
「そ、そんなバカな!?バージョン・シリーズが人間そっくりのロイドで造られるなんて、そんな規格聞いたことないぞ!?」
そう、それはアルエットという名前を名乗るマルチタイプ。
十条達夫博士が製作したマルチタイプの後継モデルということで、続き番号の『8』を与えられた。
エミリーやシンディにとっては実妹というより従妹といった感じだが、それでも新しくできた妹をかわいがっている。
「十条兄弟が吉塚広美さんと繋がっているのは知っています。本人の口から聞きましたから」
実際、佐野に頼んでその時の写真を見せてもらった。
白黒写真だが、若かりし頃の十条兄弟と写る吉塚広美の姿があった。
「これは一体、どういうことなんだ?」
「製作したのは十条達夫博士だが、設計したのは吉塚広美さん?」
「何か、聞いてますか?」
敷島は広美の娘に聞いた。
「いいえ。母がロボット研究に携わっていたことは知っていましたが、『この研究は発表するまで、色々と秘密事項が多いから』という理由で教えてくれませんでしたから……」
「KR団が欲しがってたアルエット……」
「最終兵器としたバージョン1000……。ちょっと敷島さん、これはアルエットを調べた方がいいかもしれませんね?」
「そうなんですか」
「もしかしたら敷島エージェンシーは、とんでもない爆弾を抱えてしまったかもしれません」
「マジですか!?」
「設計図が手に入った以上、アルエットを徹底的に調べることが可能になりました。急ぎましょう」
「は、はい!」
敷島達は吉塚家をあとにすると、急いで東京に取って返した。
今までアルエットに関しては設計図が無かったため、そう容易くバラして調べることができなかったのだ。
変にバラして、元に戻せなくなったら大変だからだ。
しかし今、明らかにアルエットのものと思われる設計図が出て来た。
これなら解体して調べても、元に戻すことができる。
「あ、でも、アルエット、今週一杯仕事が入ってるんですけど……」
「そんなこと言ってる場合ですか!あのテロ組織が最終兵器と称したロイドですよ!?」
土壇場でも商売っ気が抜けなかった敷島だった。
再び吉塚家を訪れた敷島達。
仏間には吉塚広美の遺影があった。
仏壇を見ると、仏像ではなく御本尊があった。
「なるほど。確かに、十条達夫博士が持っていたものと似ている」
無宗教の敷島にとって、仏壇に鎮座しているのは仏像というイメージが強いだけに、小さな掛け軸が掛かっていて、これに拝む宗教があるというのは意外であった。
それは平賀も同じだろうが、知り合いに宗教学者がいるらしく、ある程度の情報は得ているようだ。
「それで、お母様が私達に渡したいものとは?」
「これなんです」
吉塚広美の娘が持って来たのは、縦長の小箱。
いかにも掛け軸とかが入っていそうな感じだったが、開けてみると本当に掛け軸が入っていた。
「何ですかね、これ?本当に値打ち物ではないんですか?」
「少なくとも、私達にとっては」
開けてみると、そこには何も書かれていなかった。
「白紙の掛け軸!?」
「炙り出し……ですかね?」
「炙ってみます?」
敷島の言葉に平賀がオイルライターを出したが、
「いや、やめておきましょう」
と、止めた。
「お母様が渡したいものというのは、これだけですか?」
「ええ、そうです」
「???」
「やっぱり、炙り出しかなぁ……?」
敷島は目を丸くし、平賀も首を傾げた。
「そうだ。マルチタイプにスキャンさせてみると、何か出て来るかもしれません」
「そうですね」
平賀は通信機を出して、
「あー、エミリー。ちょっと家の中まで上がってきてくれ」
{「イエス。ドクター平賀」}
「シンディも呼びますか?」
「シンディは……やめておきましょう。少なくとも、命令とはいえ、南里先生の葬儀に御霊前ではなく、御祝儀を持ってきたというイメージが払しょくされていない」
「確かに」
因みにマルチタイプはちゃんと家の中に上がる時は、ブーツを脱ぐのでご安心を。
但し、素足の状態になる上、超小型ジェットエンジンは使用できない。
「それでは・スキャン・致します」
んでもって、ちゃんと正座もできる。
人間と違って、痺れることは絶対に無い。
エミリーは右目を光らせた。
「筒に・何か・あります」
「筒に?」
「何か……メモリースティックの・ような・もの……」
「まさか、これ……!」
敷島は掛け軸を掛けると、下側になる筒の部分を見た。
両脇から紫色の丸い出っ張りがある。
キャップになっていた。
クルクルと回して出っ張りを外す。
そしてトントンと床に向けて、外していない方を叩いてみると、スルリと何かが落ちて来た。
「これはセキュリティ・トークンですね」
平賀はそれを拾い上げ、眼鏡を押し上げながら言った。
「何の?」
「えっと……それは……」
「! ということは、上の方は!?」
今度は掛け軸を掛けたら、上になる筒の部分を調べてみることにした。
そこにも左右に同じ出っ張りがある。
「!?」
小さな木製の筒が出て来た。
それで、エミリーのスキャンには掛からなかったのだ。
エミリーのスキャナーで検出されるのは、金属反応と生物反応だからだ。
開けてみると、
『トークンをエミリーちゃんに飲ませてください』
と、書かれていた。
「エミリー、飲み込め!」
敷島がセキュリティトークンを持った。
「イエス!」
エミリーが口を開けた。
そこに敷島がセキュリティトークンを飲み込ませる。
「……ペンを・貸して・頂けませんか?」
トークンから何かを読み取ったのだろうか。
「よ、よし!」
平賀がエミリーに万年筆を渡す。
エミリーは正座したまま白紙の掛け軸の上に何かを書き始めた。
それはまるで、本当に機械が製図しているかのようだ。
時々筆が遅くなったり、或いは速くなったりする。
敷島と平賀は固唾を飲んで見守っていたが、最初に平賀が気づいた。
「これは……何かのロボットの設計図ですね?」
「そうですか」
30分後。
「終了・しました」
エミリーが最後に、この製図のタイトルを書いて上体を起こした。
人間なら腰痛になるような体勢だったが、ロイドは平気である。
明らかにこれはロボットの設計図だった。
そしてタイトルを見ると、『Barsion1000』と書かれていた(因みに、Versionではない)。
「バージョン1000だ!」
「い、いや、しかしこれは……」
敷島は驚愕し、平賀は困惑した。
普段はあまり表情を変えぬエミリーも、口を開けてフリーズし掛かっていた。
いかにも、2足歩行のロボット。
しかし、その用途は軍事用……というよりテロリズム用。
最新モデルで、ようやっと人間の安全を守る用途に漕ぎ付けることができたが、先代モデルまでが大暴れしてくれたせいで、やっぱりテロ・ロボットというイメージが強い。
最新モデルでさえ、人間そっくりに造られることはなかった。
それまでの4.0と比べれば、だいぶ人間臭い所も出るようにはなったが。
因みにバージョン400とは、バージョン4.0を巨大化させたもの。
ただ単に、通常サイズの100倍強いという意味のナンバリングらしい。
実際はそんなことはないが。
で、1000と言うからには、もっとデカくて強いのだろうかと思うが、そんなことはなさそうだ。
何故なら今、敷島達が目にしている設計図でもって造られたロイドは現存どころか、元気に稼働しているからだ。
「あ、アルエットぉ!?」
「そ、そんなバカな!?バージョン・シリーズが人間そっくりのロイドで造られるなんて、そんな規格聞いたことないぞ!?」
そう、それはアルエットという名前を名乗るマルチタイプ。
十条達夫博士が製作したマルチタイプの後継モデルということで、続き番号の『8』を与えられた。
エミリーやシンディにとっては実妹というより従妹といった感じだが、それでも新しくできた妹をかわいがっている。
「十条兄弟が吉塚広美さんと繋がっているのは知っています。本人の口から聞きましたから」
実際、佐野に頼んでその時の写真を見せてもらった。
白黒写真だが、若かりし頃の十条兄弟と写る吉塚広美の姿があった。
「これは一体、どういうことなんだ?」
「製作したのは十条達夫博士だが、設計したのは吉塚広美さん?」
「何か、聞いてますか?」
敷島は広美の娘に聞いた。
「いいえ。母がロボット研究に携わっていたことは知っていましたが、『この研究は発表するまで、色々と秘密事項が多いから』という理由で教えてくれませんでしたから……」
「KR団が欲しがってたアルエット……」
「最終兵器としたバージョン1000……。ちょっと敷島さん、これはアルエットを調べた方がいいかもしれませんね?」
「そうなんですか」
「もしかしたら敷島エージェンシーは、とんでもない爆弾を抱えてしまったかもしれません」
「マジですか!?」
「設計図が手に入った以上、アルエットを徹底的に調べることが可能になりました。急ぎましょう」
「は、はい!」
敷島達は吉塚家をあとにすると、急いで東京に取って返した。
今までアルエットに関しては設計図が無かったため、そう容易くバラして調べることができなかったのだ。
変にバラして、元に戻せなくなったら大変だからだ。
しかし今、明らかにアルエットのものと思われる設計図が出て来た。
これなら解体して調べても、元に戻すことができる。
「あ、でも、アルエット、今週一杯仕事が入ってるんですけど……」
「そんなこと言ってる場合ですか!あのテロ組織が最終兵器と称したロイドですよ!?」
土壇場でも商売っ気が抜けなかった敷島だった。