[9月24日10:00.埼玉県内にある総合病院の精神科病棟 鷲田警視、村中課長、ケンショーイエロー]
『やはり顕正会の根本改革は、浅井先生の死を待つしかないのでしょうか?』(厳虎独白“ズブノシロウト”より、大沢克日子氏のコメントを一部抜粋)
「なあ、アサイさん、そろそろ話してもらえませんかね?」
村中はベッドに座る太った老人に向かって話し掛けた。
「あなた方、ケンショーレンジャーをサイボーグ化することを持ち掛けたのは十条伝助博士と、KR団のエリオット・フォン・スミスじゃないんですか?」
「この写真の男に見覚えは?」
「お前はバカだのう!ほんと、バカだ!」
「あなたは自分の寿命がまもなく尽きることを予感していた。若返りは今さら無理だとしても、サイボーグ化すれば永遠の命が得られるとエリオット達に持ち掛けられた。そうすれば、顕正会もまた永遠に不滅でいられると。それであんた達は話に乗ったんだろ?」
「いいですかー?私は細井管長の訓諭を2回も訂正せしめたんですね。これ偏に諸天の守護であります!」
「……警視、こりゃダメですよ、この爺さん」
「うーむ……。埼玉県警が会員を5人ほど逮捕したというので、いい切り口になると思ったのだが」
「しかし、押収した記憶媒体には、しっかり入ってましたからね。KR団と、このアサイ会長のやり取り」
「うむ」
「あとは、行方不明のケンショーセピアを捜して事情を聞く他は無いですね」
「そうだな」
「さあ!男子部諸君!今こそ、広宣流布の時は近い!来年までに男子1万人のを結集を実現したいと思いまするが、どうか!?」
軽く拍手をする鷲田。
「是非やってくれ。公共の福祉に反した時点で、俺達も別の意味で参加することになるがな」
鷲田と村中はイエローの病室をあとにした。
「警視、あれは精神病というか、普通に認知症のような気がしますが?」
「認知症は加齢によるものだが、それとは別に色々とあるらしい。俺達も医者じゃないから分からんが、ホトケさんになるまでこの病院を出ることは無いんじゃないか?」
「哀れですね」
「新興宗教の教祖なんてそんなもんさ」
「ところで、敷島社長らの動きはどうします?」
「泳がせておけ。奴らも警察のやることは分かっているし、少なくともそれなりの正義感は持ち合わせてるからな」
「はい」
「永遠の命を手に入れる為に人間の体を捨て、機械化する。まるで、昔のSFみたいだな」
「人が長生きをしたいというのは人情ですが、さすがに永遠の命までは欲しくないですねぇ……。少なからずその半面、自殺をしたがる人間もいるわけですから」
「うむ」
[9月26日07:30.JR大宮駅・宇都宮線ホーム 敷島孝夫&3号機のシンディ]
〔まもなく4番線に、普通、小田原行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は4つドア、15両です。グリーン車が付いております。……〕
敷島とシンディは地元の駅にいた。
週末は家に帰るのだが、帰った後で今日はこれから“出張”だ。
ようやくよちよち歩きとなった息子に別れを告げ、ホームで電車を待っている。
「二海のヤツ、ようやく子守りが板に付いたみたいだね」
「そうか?前から上手くやってくれていると思うが……」
「ううん。先月なんか、ミルクをあげるのに、『お茶が美味しい温度』設定になっていたしね」
「おぉい!」
赤ん坊に哺乳瓶であげるミルクの温度は一肌、つまり35度前後だったと思うが……。
独り身・子無しの作者でも分かるのに、ロイドにやらせるとちょっと危険らしい。
「まあ、アタシがすぐ温度設定変えといたけど」
「35度だな」
「ええ。……」
パァァァン!(E231系の電子警笛)
「……だけど」
「あ?何か言ったか?」
「別に」
シンディはニッと笑った。
2人は5号車に乗り込んだ。
ロイドを連れて行こうとすると大きな荷物(キャリーバッグ1個分)になるのは、ロイドが使用する機器が入っている為。
「アタシ、デッキにいる?」
「いや、俺の隣に座ってくれ」
敷島はそう言って、Suicaを座席上の読取機に翳した。
ランプが緑から赤へ変わる。
平屋部分に乗り、そこには網棚があるので、シンディは重いパーツが入っているはずのバッグをヒョイと持ち上げて網棚に乗せた。
そうしているうちに電車が走り出す。
〔この電車は宇都宮線、東海道線直通、普通、小田原行きです。【中略】次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕
「どうせ姉さん達は新幹線で来るんだから、そのまま大宮から乗っちゃえば良かったんじゃない?」
「平賀先生達の乗ってくる“はやぶさ”は全車指定で、大宮〜東京間の指定席は売らないから、乗れないんだよ。しょうがないから、俺達は在来線で向かう。分かったか?」
「はいはい。でもこっちのグリーン車も、そこそこ乗ってるね。アタシは立って、席を空けた方がいいんじゃない?」
「お前は俺の護衛役でもあるんだから、隣に座っといてくれよ。でないと、後で行動履歴チェックしたアリスに、ぶっ飛ばされる」
「そうかしら?」
「アリスに俺をぶっ飛ばせって命令されたら聞くだろ?」
「もちろん!」
「躊躇無く頷くな!」
「オーナーの命令は絶対、ユーザーの命令は相対」
つまり、オーナーの出す命令とユーザーの出す命令に相違があった場合、ロイドはオーナーの命令を優先するというシステムだ。
「全く……」
[同日08:03.天候:晴 JR東京駅 敷島孝夫、シンディ、平賀太一、1号機のエミリー]
〔まもなく東京、東京。お出口は、左側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです〕
〔「到着ホームは9番線、お出口は同じく左側です。この電車は東海道本線、普通列車、小田原行きとなります。新橋、品川、川崎、横浜の順に終点小田原まで、各駅に止まります。……」〕
上野東京ラインも、だいぶ利用者に浸透してきただろうか。
東海道線の利用者からは、東京駅始発が少なくなって、着座帰宅ができなくなったと嘆いているらしいが。
ドアが開いて、そこから多くの乗客が吐き出されるのを見ると、とてもそのようには見えないのだが……。
秋葉原を通過しているのは大きいと思う。
「待ち合わせ場所は、東海道新幹線の改札内だな。平賀先生達、東北新幹線から乗り換え改札を通って、そのまま東海道新幹線のコンコースに行くみたいだから」
「了解」
「平賀先生達の“はやぶさ”は8時7分着だから、移動している最中に会えそうなものだ」
しかし、その前に遭遇した者達がいた。
「あっ、たかお……社長、おはようございます!」
売れっ子故に帽子と眼鏡で変装した初音ミクとMEIKO、巡音ルカだった。
「よう。……そうか。今日は関西でのイベントだったな」
「今日中に行って帰って来るから大変よ」
MEIKOが肩を竦めた。
「新曲CDの発売週は、そんなもんだよ。いいじゃないか。確かイベント会場は大阪の理系大学だろ?平賀先生が紹介してくれた仕事なんだから、悪いようにはならないはずだが……」
「向こうの学長と自分は南里先生を通しての知り合いなので、向こうの学生会……大学祭実行委員会とも話が付いてますからね。整備も心配無いですよ」
「おっ、平賀先生!」
「おはようございます!」
ボーカロイド達は一斉に挨拶した。
平賀がいる時は、よく平賀が整備するからだろう。
「さすがに皆が集まっていると、賑やかですね」
「急がないと・新幹線に・乗り遅れる・では・ないか?」
エミリーがボカロ達に指摘した。
「あっ、そうだった!」
「それじゃ社長、行ってきます!」
「ああ、気をつけて」
バタバタと“のぞみ”の発車するホームに向かうボカロ3機。
「私達は“こだま”ですね」
「それしか止まらない駅ですか」
「そうなんです。ま、私らはもう少し余裕があるので。私は弁当でも買って行きますよ」
「じゃあ、自分は喫煙所で煙草でも吸ってきます」
週末の旅行客で賑わう新幹線乗り場。
さて、敷島達の目的地とは何処に?
『やはり顕正会の根本改革は、浅井先生の死を待つしかないのでしょうか?』(厳虎独白“ズブノシロウト”より、大沢克日子氏のコメントを一部抜粋)
「なあ、アサイさん、そろそろ話してもらえませんかね?」
村中はベッドに座る太った老人に向かって話し掛けた。
「あなた方、ケンショーレンジャーをサイボーグ化することを持ち掛けたのは十条伝助博士と、KR団のエリオット・フォン・スミスじゃないんですか?」
「この写真の男に見覚えは?」
「お前はバカだのう!ほんと、バカだ!」
「あなたは自分の寿命がまもなく尽きることを予感していた。若返りは今さら無理だとしても、サイボーグ化すれば永遠の命が得られるとエリオット達に持ち掛けられた。そうすれば、顕正会もまた永遠に不滅でいられると。それであんた達は話に乗ったんだろ?」
「いいですかー?私は細井管長の訓諭を2回も訂正せしめたんですね。これ偏に諸天の守護であります!」
「……警視、こりゃダメですよ、この爺さん」
「うーむ……。埼玉県警が会員を5人ほど逮捕したというので、いい切り口になると思ったのだが」
「しかし、押収した記憶媒体には、しっかり入ってましたからね。KR団と、このアサイ会長のやり取り」
「うむ」
「あとは、行方不明のケンショーセピアを捜して事情を聞く他は無いですね」
「そうだな」
「さあ!男子部諸君!今こそ、広宣流布の時は近い!来年までに男子1万人のを結集を実現したいと思いまするが、どうか!?」
軽く拍手をする鷲田。
「是非やってくれ。公共の福祉に反した時点で、俺達も別の意味で参加することになるがな」
鷲田と村中はイエローの病室をあとにした。
「警視、あれは精神病というか、普通に認知症のような気がしますが?」
「認知症は加齢によるものだが、それとは別に色々とあるらしい。俺達も医者じゃないから分からんが、ホトケさんになるまでこの病院を出ることは無いんじゃないか?」
「哀れですね」
「新興宗教の教祖なんてそんなもんさ」
「ところで、敷島社長らの動きはどうします?」
「泳がせておけ。奴らも警察のやることは分かっているし、少なくともそれなりの正義感は持ち合わせてるからな」
「はい」
「永遠の命を手に入れる為に人間の体を捨て、機械化する。まるで、昔のSFみたいだな」
「人が長生きをしたいというのは人情ですが、さすがに永遠の命までは欲しくないですねぇ……。少なからずその半面、自殺をしたがる人間もいるわけですから」
「うむ」
[9月26日07:30.JR大宮駅・宇都宮線ホーム 敷島孝夫&3号機のシンディ]
〔まもなく4番線に、普通、小田原行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は4つドア、15両です。グリーン車が付いております。……〕
敷島とシンディは地元の駅にいた。
週末は家に帰るのだが、帰った後で今日はこれから“出張”だ。
ようやくよちよち歩きとなった息子に別れを告げ、ホームで電車を待っている。
「二海のヤツ、ようやく子守りが板に付いたみたいだね」
「そうか?前から上手くやってくれていると思うが……」
「ううん。先月なんか、ミルクをあげるのに、『お茶が美味しい温度』設定になっていたしね」
「おぉい!」
赤ん坊に哺乳瓶であげるミルクの温度は一肌、つまり35度前後だったと思うが……。
独り身・子無しの作者でも分かるのに、ロイドにやらせるとちょっと危険らしい。
「まあ、アタシがすぐ温度設定変えといたけど」
「35度だな」
「ええ。……」
パァァァン!(E231系の電子警笛)
「……だけど」
「あ?何か言ったか?」
「別に」
シンディはニッと笑った。
2人は5号車に乗り込んだ。
ロイドを連れて行こうとすると大きな荷物(キャリーバッグ1個分)になるのは、ロイドが使用する機器が入っている為。
「アタシ、デッキにいる?」
「いや、俺の隣に座ってくれ」
敷島はそう言って、Suicaを座席上の読取機に翳した。
ランプが緑から赤へ変わる。
平屋部分に乗り、そこには網棚があるので、シンディは重いパーツが入っているはずのバッグをヒョイと持ち上げて網棚に乗せた。
そうしているうちに電車が走り出す。
〔この電車は宇都宮線、東海道線直通、普通、小田原行きです。【中略】次はさいたま新都心、さいたま新都心。お出口は、右側です〕
「どうせ姉さん達は新幹線で来るんだから、そのまま大宮から乗っちゃえば良かったんじゃない?」
「平賀先生達の乗ってくる“はやぶさ”は全車指定で、大宮〜東京間の指定席は売らないから、乗れないんだよ。しょうがないから、俺達は在来線で向かう。分かったか?」
「はいはい。でもこっちのグリーン車も、そこそこ乗ってるね。アタシは立って、席を空けた方がいいんじゃない?」
「お前は俺の護衛役でもあるんだから、隣に座っといてくれよ。でないと、後で行動履歴チェックしたアリスに、ぶっ飛ばされる」
「そうかしら?」
「アリスに俺をぶっ飛ばせって命令されたら聞くだろ?」
「もちろん!」
「躊躇無く頷くな!」
「オーナーの命令は絶対、ユーザーの命令は相対」
つまり、オーナーの出す命令とユーザーの出す命令に相違があった場合、ロイドはオーナーの命令を優先するというシステムだ。
「全く……」
[同日08:03.天候:晴 JR東京駅 敷島孝夫、シンディ、平賀太一、1号機のエミリー]
〔まもなく東京、東京。お出口は、左側です。新幹線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです〕
〔「到着ホームは9番線、お出口は同じく左側です。この電車は東海道本線、普通列車、小田原行きとなります。新橋、品川、川崎、横浜の順に終点小田原まで、各駅に止まります。……」〕
上野東京ラインも、だいぶ利用者に浸透してきただろうか。
東海道線の利用者からは、東京駅始発が少なくなって、着座帰宅ができなくなったと嘆いているらしいが。
ドアが開いて、そこから多くの乗客が吐き出されるのを見ると、とてもそのようには見えないのだが……。
秋葉原を通過しているのは大きいと思う。
「待ち合わせ場所は、東海道新幹線の改札内だな。平賀先生達、東北新幹線から乗り換え改札を通って、そのまま東海道新幹線のコンコースに行くみたいだから」
「了解」
「平賀先生達の“はやぶさ”は8時7分着だから、移動している最中に会えそうなものだ」
しかし、その前に遭遇した者達がいた。
「あっ、たかお……社長、おはようございます!」
売れっ子故に帽子と眼鏡で変装した初音ミクとMEIKO、巡音ルカだった。
「よう。……そうか。今日は関西でのイベントだったな」
「今日中に行って帰って来るから大変よ」
MEIKOが肩を竦めた。
「新曲CDの発売週は、そんなもんだよ。いいじゃないか。確かイベント会場は大阪の理系大学だろ?平賀先生が紹介してくれた仕事なんだから、悪いようにはならないはずだが……」
「向こうの学長と自分は南里先生を通しての知り合いなので、向こうの学生会……大学祭実行委員会とも話が付いてますからね。整備も心配無いですよ」
「おっ、平賀先生!」
「おはようございます!」
ボーカロイド達は一斉に挨拶した。
平賀がいる時は、よく平賀が整備するからだろう。
「さすがに皆が集まっていると、賑やかですね」
「急がないと・新幹線に・乗り遅れる・では・ないか?」
エミリーがボカロ達に指摘した。
「あっ、そうだった!」
「それじゃ社長、行ってきます!」
「ああ、気をつけて」
バタバタと“のぞみ”の発車するホームに向かうボカロ3機。
「私達は“こだま”ですね」
「それしか止まらない駅ですか」
「そうなんです。ま、私らはもう少し余裕があるので。私は弁当でも買って行きますよ」
「じゃあ、自分は喫煙所で煙草でも吸ってきます」
週末の旅行客で賑わう新幹線乗り場。
さて、敷島達の目的地とは何処に?