[8月3日14:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション・ジャパン埼玉研究所 敷島孝夫、アリス・シキシマ、8号機のアルエット]
「どう?歩いてみて」
アルエットの修理が完了し、彼女は研究室の中をゆっくり歩いてみた。
バージョン4.0によって左足をもぎ取られたアルエットだったが、敷島が何とか左足を回収したことが功を奏していた。
「数値に異常は出ていません」
アリスの部下の研究員が、アルエットの状態を監視する端末のモニタを見ながら言った。
「OK.アルエットは?何か違和感ある?」
「いえ、特に何もありません」
最初は歩いていたアルエットだったが、最後は小走りになった。
研究室内では小走りでちょこっとだけ、というのが精一杯だ。
幸いアリスが普段使用している研究室は被害は無かったものの、レイチェル達の襲撃により、研究所は半壊した。
今現在復旧作業中であるが、DCJは埼玉研究所を、研究所としての機能を今月一杯で終了させることを急きょ決定した。
相次いでテロが起きた研究所というイメージダウンは避けられないとの判断である。
代わりに立ち上がったのが、この埼玉研究所を“ロボット科学館”に一般公開してイメージアップを行う案であった。
前々から社内であった案らしいのだが、ついに正式決定したという。
代わりに秩父営業所(という名の秘密研究所)に、研究所としての機能を集約させるらしい。
アリスも秩父に転勤かと思ったら、そうではなく、せっかく無事だった研究室はそのままにして、アリスにはここに残ってもらう。
で、イメージアップとしてのマスコットキャラクターを作って欲しいとのことだったが……。
「良かった。来月からあなた、ここのマスコットガールよろしくね」
「えっ?」
「おいおい……」
マルチタイプの研究と実用化を目指すデイライト・コーポレーション。
所有者を無くしたアルエットを引き取り、マスコットに器用するつもりでいるようだ。
「うちで引き取る手筈だったんだぞ」
「何よ?このコはボーカロイドじゃないんだから、ボカロ専門芸能プロダクションは黙っててくれない?」
「アルエットは歌は歌えないが、芸能界の仕事はそれだけじゃないからな。歌以外の仕事だけでも、相当稼いでくれそうだ」
「だからダメだって。オーナー登録、アタシにするからねっ」
「アホか!だいたい、ログインパスワード、俺達知らないだろ!」
「う……」
そうなのだ。
マルチタイプにはユーザー登録とオーナー登録の2つができるが、それの登録・変更には当然ながらパスワードと生体認証が必要だ。
その全てをクリアするにはセキュリティトークンが必要になるわけだが、それは見つかっていない。
セキュリティトークンを使用すれば、その2つの入力はカットできる可能性がある。
「もう1度、ドクター達夫の家を調べて来てちょうだい」
「まだ、サツが張ってるからなぁ……。鷲田警視の話では、USBメモリーなどはいくつか見つかっているらしいんだが、捜査資料だから持ち出しはダメだって言われてるんだ」
「捜査に有益でないと分かったら、ポリスでも必要無くなるわけでしょう?その時、セキュリティトークンらしい物を探しましょう」
「そうだな。少なくともアルエットのトークンが捜査資料として役に立つとも思えないし……」
「あとは、身体能力の検査ね」
「要は飛んだり跳ねたりってところだろ?」
「そうよ」
「そういうのは俺がやっておくから、早いとこシンディも直してくれよ。あれの方が直すの大変だろう?」
「まあね」
アルエットを先に直したのは、アルエットの方がまだ損壊状態がヒドくなかったからだ。
因みに結月ゆかりに関しては、電子頭脳内部に盗聴・盗撮用のカメラが別に取り付けられていた。
もちろん即座に取り外され、警察に引き渡した。
ゆかりの自己診断に引っ掛かることもなく、見たり聞いたりした内容がリアルタイムで送信される仕組みになっていた。
警察でその電波の送信先を捜索中である。
もちろん、すぐに見つかることであろう。
ていうか、既にもう犯人の目星が付いたそうである。
KR団の関係者と思われるが、十条伝助とは特に繋がりが見受けられない犯人だそうだ。
「その前にアル、着替えろよ。その恰好じゃ、動きにくいだろう?」
「はい」
アルエットは、よく入院患者が手術の時に着る手術着のようなものを着ていた。
裸でなければ良い、みたいな感じだ。
敷島から新しい服の入ったペーパーバッグを受け取る。
「……あ、あの……」
「ああ、ハイハイ。あっちの部屋で着替えなさい。タカオ、いくらロイドでも、感情レイヤーは正常に作動しているんだからね。『女の子』扱いしてあげなさい。ここで着替えさせないの」
「わ、分かってるよ。それより、アルが着替えてる間、シンディの様子を見てみたいんだが……」
「部外者は立ち入り禁止だから、映像だけ見せるわよ。……てか、ここも本来は立ち入り禁止なんだからね」
「分かった分かった。口外しないよ」
「シンディの様子を映して」
「はい、主査」
アリスが部下に言うと、部下の研究員がキーボードを叩いた。
室内の大きなモニタに、シンディが修理・保管されている部屋の画像が映し出される。
「こりゃヒドいな……」
レイチェル戦が終結した時、シンディは上半身と下半身が辛うじて繋がっているというくらいに損傷していた。
大岩でレイチェルに潰された時に受けた傷らしい。
しかし、それでも彼女は“生きていた”。
メモリーなどソフトウェア関係も無事で、さすがは軍事国家が核兵器や宇宙開発を隠れ蓑にして製造しただけのことはある。
「直せそうか?」
「天才のアタシをナメるんじゃないよ。こう見えても、あれを作ったじー様の孫なんだからね」
「それもそうだな」
「問題は修理費用なんだけど……」
「ん?アルの修理費用はDCも出したんだろ?シンディは?」
「シンディをくれるんなら、修理費用全額負担するってよ?」
「アホか!いいよ。南里所長の遺産使うから」
「ドクター平賀が全額持ってったんじゃ?」
「銀行にプールするから、いざという時に使ってくれってさ。財団の時に使うかと思っていたけど、意外とそうでもなかったんでね」
「何か、赤字になりそうね」
「KR団ぶっ潰せば関係各局から色々と収入があるから、その時だな」
「ほほー……」
敷島は肩を竦めた。
「特撮モノみたいに、正義感だけで正義のヒーローができるほど、甘っちょろい世の中じゃないんだよ」
アルエットが修理前と同じく、女子中高生の制服ファッションに着替えてきたので、
「どこで、実験できる?」
と、敷島が聞くと、
「屋上で」
とのことだった。
「暑そうだな……」
「それの耐久テストもあるから、しっかり立ち会いお願いね、社長さん?」
「くそ……。引き取ったら、絶対にアルで稼いだる!」
「どう?歩いてみて」
アルエットの修理が完了し、彼女は研究室の中をゆっくり歩いてみた。
バージョン4.0によって左足をもぎ取られたアルエットだったが、敷島が何とか左足を回収したことが功を奏していた。
「数値に異常は出ていません」
アリスの部下の研究員が、アルエットの状態を監視する端末のモニタを見ながら言った。
「OK.アルエットは?何か違和感ある?」
「いえ、特に何もありません」
最初は歩いていたアルエットだったが、最後は小走りになった。
研究室内では小走りでちょこっとだけ、というのが精一杯だ。
幸いアリスが普段使用している研究室は被害は無かったものの、レイチェル達の襲撃により、研究所は半壊した。
今現在復旧作業中であるが、DCJは埼玉研究所を、研究所としての機能を今月一杯で終了させることを急きょ決定した。
相次いでテロが起きた研究所というイメージダウンは避けられないとの判断である。
代わりに立ち上がったのが、この埼玉研究所を“ロボット科学館”に一般公開してイメージアップを行う案であった。
前々から社内であった案らしいのだが、ついに正式決定したという。
代わりに秩父営業所(という名の秘密研究所)に、研究所としての機能を集約させるらしい。
アリスも秩父に転勤かと思ったら、そうではなく、せっかく無事だった研究室はそのままにして、アリスにはここに残ってもらう。
で、イメージアップとしてのマスコットキャラクターを作って欲しいとのことだったが……。
「良かった。来月からあなた、ここのマスコットガールよろしくね」
「えっ?」
「おいおい……」
マルチタイプの研究と実用化を目指すデイライト・コーポレーション。
所有者を無くしたアルエットを引き取り、マスコットに器用するつもりでいるようだ。
「うちで引き取る手筈だったんだぞ」
「何よ?このコはボーカロイドじゃないんだから、ボカロ専門芸能プロダクションは黙っててくれない?」
「アルエットは歌は歌えないが、芸能界の仕事はそれだけじゃないからな。歌以外の仕事だけでも、相当稼いでくれそうだ」
「だからダメだって。オーナー登録、アタシにするからねっ」
「アホか!だいたい、ログインパスワード、俺達知らないだろ!」
「う……」
そうなのだ。
マルチタイプにはユーザー登録とオーナー登録の2つができるが、それの登録・変更には当然ながらパスワードと生体認証が必要だ。
その全てをクリアするにはセキュリティトークンが必要になるわけだが、それは見つかっていない。
セキュリティトークンを使用すれば、その2つの入力はカットできる可能性がある。
「もう1度、ドクター達夫の家を調べて来てちょうだい」
「まだ、サツが張ってるからなぁ……。鷲田警視の話では、USBメモリーなどはいくつか見つかっているらしいんだが、捜査資料だから持ち出しはダメだって言われてるんだ」
「捜査に有益でないと分かったら、ポリスでも必要無くなるわけでしょう?その時、セキュリティトークンらしい物を探しましょう」
「そうだな。少なくともアルエットのトークンが捜査資料として役に立つとも思えないし……」
「あとは、身体能力の検査ね」
「要は飛んだり跳ねたりってところだろ?」
「そうよ」
「そういうのは俺がやっておくから、早いとこシンディも直してくれよ。あれの方が直すの大変だろう?」
「まあね」
アルエットを先に直したのは、アルエットの方がまだ損壊状態がヒドくなかったからだ。
因みに結月ゆかりに関しては、電子頭脳内部に盗聴・盗撮用のカメラが別に取り付けられていた。
もちろん即座に取り外され、警察に引き渡した。
ゆかりの自己診断に引っ掛かることもなく、見たり聞いたりした内容がリアルタイムで送信される仕組みになっていた。
警察でその電波の送信先を捜索中である。
もちろん、すぐに見つかることであろう。
ていうか、既にもう犯人の目星が付いたそうである。
KR団の関係者と思われるが、十条伝助とは特に繋がりが見受けられない犯人だそうだ。
「その前にアル、着替えろよ。その恰好じゃ、動きにくいだろう?」
「はい」
アルエットは、よく入院患者が手術の時に着る手術着のようなものを着ていた。
裸でなければ良い、みたいな感じだ。
敷島から新しい服の入ったペーパーバッグを受け取る。
「……あ、あの……」
「ああ、ハイハイ。あっちの部屋で着替えなさい。タカオ、いくらロイドでも、感情レイヤーは正常に作動しているんだからね。『女の子』扱いしてあげなさい。ここで着替えさせないの」
「わ、分かってるよ。それより、アルが着替えてる間、シンディの様子を見てみたいんだが……」
「部外者は立ち入り禁止だから、映像だけ見せるわよ。……てか、ここも本来は立ち入り禁止なんだからね」
「分かった分かった。口外しないよ」
「シンディの様子を映して」
「はい、主査」
アリスが部下に言うと、部下の研究員がキーボードを叩いた。
室内の大きなモニタに、シンディが修理・保管されている部屋の画像が映し出される。
「こりゃヒドいな……」
レイチェル戦が終結した時、シンディは上半身と下半身が辛うじて繋がっているというくらいに損傷していた。
大岩でレイチェルに潰された時に受けた傷らしい。
しかし、それでも彼女は“生きていた”。
メモリーなどソフトウェア関係も無事で、さすがは軍事国家が核兵器や宇宙開発を隠れ蓑にして製造しただけのことはある。
「直せそうか?」
「天才のアタシをナメるんじゃないよ。こう見えても、あれを作ったじー様の孫なんだからね」
「それもそうだな」
「問題は修理費用なんだけど……」
「ん?アルの修理費用はDCも出したんだろ?シンディは?」
「シンディをくれるんなら、修理費用全額負担するってよ?」
「アホか!いいよ。南里所長の遺産使うから」
「ドクター平賀が全額持ってったんじゃ?」
「銀行にプールするから、いざという時に使ってくれってさ。財団の時に使うかと思っていたけど、意外とそうでもなかったんでね」
「何か、赤字になりそうね」
「KR団ぶっ潰せば関係各局から色々と収入があるから、その時だな」
「ほほー……」
敷島は肩を竦めた。
「特撮モノみたいに、正義感だけで正義のヒーローができるほど、甘っちょろい世の中じゃないんだよ」
アルエットが修理前と同じく、女子中高生の制服ファッションに着替えてきたので、
「どこで、実験できる?」
と、敷島が聞くと、
「屋上で」
とのことだった。
「暑そうだな……」
「それの耐久テストもあるから、しっかり立ち会いお願いね、社長さん?」
「くそ……。引き取ったら、絶対にアルで稼いだる!」